身嗜みとお仕事 第二十一話
〜数分後〜
「特に問題はないようで安心しました」
「うぅっ、テトちゃんに身ぐるみ剥がされたわぁ〜……よよよ……」
「人聞きの悪いことを言わないでください」
待っている間、収納の確認や窓の開閉方法、あと一番大事なベットの柔らかさ等々の確認を行う。そうして時間を潰していると、やりきった!という表情のテトさんと、鳴き真似をしているシルクさんが帰ってきた。
……この短時間で一体何が?
「た、大変でしたね?」
「ココちゃぁん、慰めてぇ〜」
「ココさん、シルク様の話は半分嘘だと思って聞き流してくださいね」
「ひどいわっ!?」
「事実ですし」
テトさんは意外とシルクさんに冷たい? でも様付けで呼んでるし、親しいからこそ遠慮がないのか。
そう思うと、テトさんの可愛い部分が見えてきたような気がする。
「第一、体が弱いというのに外出したいと駄々をこねたのはシルク様ではないですか。私言いましたよね? 外出は許しますが、私への報告と外出後の身体検査は絶対にすると」
「うぅ」
「し ま し た よ ね?」
「はい……しました……」
「それが酷いというのであれば、外どころか部屋から一生出しませんよ」
「ひぃぃーー! ココちゃん助けて! ヤンデレよ、ヤンデレがいるわーー!」
「て、テトさん! お、落ち着いてくださいっ!?」
訂正、これは遠慮がないどころではない。
テトさんの部屋から一生出さない発言を聞いた時は思わずシルクさんと同じポーズで怯えてしまった。
「大丈夫ですよココさん、ただの戯れですから。シルク様も、新しい人が入って興奮するのはわかりますが、嘘偽りの情報を流すのはやめていただけませんか。主に私の人相について」
「は〜い、ごめんなさ〜い♪」
「まったく。私がそんなことをするわけないじゃないですか」
「そ、そうですよね。私の早とちりですよね」
「そうよね〜♪ テトちゃんは私に甘いものね〜♪ なんだかんだで、私が一人で外に出ることも許してくれたし〜」
「"一生"は流石に保証できませんから」
「監禁はするの〜!?」
「監禁はするんですか!?」
そこからは、シルクさんがボケてテトさんがツッコミ、私が反応するというやりとりを繰り返した。
孤児院で子供達を相手にするのとは違う、この歳の近い相手と悪ふざけをする感覚。私、大好きなんだよね。
……そういえば、結局取り立ての男たちはどうなっただろうか。あの荷車、ガタイのいい男性が複数人で押さなきゃいけない代物だったけれど。
一度冷静になって考えれば、流石に一言くらい言っておいた方がよかったよね。ここでの暮らしが落ち着いたら、一度謝りに行こう。
「さて。ココさんともある程度親しくなれたようなので、そろそろお店を開けなければ」
「もうそんな時間なの〜? 今日は一日お休みにしちゃう!?」
「しません。ココさんには早速今日からお仕事に入ってもらいたいのですが、大丈夫ですか?」
「はいっ! よろしくお願いします!」
「いい返事です。ではシルク様、ココさんは私がお預かりします。ですからお仕事の方、どうかよろしくお願いいたしますね?」
「え〜、ココちゃんのはじめてのお仕事見学しちゃダメ〜?」
「ダメです。さ、早くお部屋にお入りください」
「ぶぅ〜、テトちゃんのケチ。じゃあココちゃん? お仕事、気楽に頑張ってね? あまり無理しちゃダメよ?」
「了解ですっ!」
お部屋を出て行くシルクさんを見送ってから、テトさんの後ろをついて行く。といっても最初に向かったのはテトさんのお部屋、つまり私の部屋の隣だ。
「ココさんは私よりも体格が小さいので、しばらくの間は私のお古で我慢してください。申し訳ありませんが」
「急でしたもんね……」
「えぇ、あの人はいつも急なんです。……ありました、こちらをどうぞ」
「あ、はい」
そういってテトさんから受け取った制服は、私の身長でも合いそうな制服。だが今テトさんが着ている服とは、デザインが全く違うものだ。
「これ、テトさんが来ている服とはデザインが違うんですね?」
「これは、つい最近できたお店に仕立ててもらったものです。デザインの一部に私も口添えをしましたが、それ以外は全てお店の方のデザインですよ」
「へぇ……ん?」
ふと、テトさんの服にどこか既視感を感じてしまった。確かにその制服を見るのは二回目だが、それとは別に何処かで見たような気がする……んんー?
「では、部屋でそれを着た後で一階に来てください。そこから今日の仕事に移ります」
「あ、はい! 了解です!」
とりあえずその事は後でじっくり考えるとして。今は部屋に戻って服を着よう。
どうやらこの服はボタンで留めるタイプの脱ぎ着しやすい服らしく、あっという間に着替えることができた。やはり上下で同じデザインをしていると、私が今まで来ていたあり合わせの何倍も見れたものになっている。
私の短剣を押し入れに隠し、私は一階に早歩きで向かった。
「お待たせしました、テトさん」
「大丈夫ですよ。それではまず朝のルーティーンを説明します」
それから、テトさんとの一対一の研修が始まった。
「掃除はお客様が帰られた夜に行います。朝にやることは、使用前のテーブルの空拭きだけです」
「ふむっ」
「新しい本、それから破損している本の確認と取り替えも行ってもらいます。一日分の本の仕分けは終わっていますので、それを持ってそれぞれの場所に入れてください」
「わかりました」
「受付では、お客様のご案内及び本の貸し借りと硬貨の受け渡しを行います。貸し出しを証明するための書類はここ、リルが入った袋はここに入ってます」
「なるほど」
「たまにお客様が本の場所を聞かれるので、この紙の通りに案内してさしあげてください」
「ほぅ」
「朝は開店を知らせるため、入り口に置いているこの看板を回収します」
「了解です」
「以上です」
「えぇっ!?」
テトさんの仕事振りを見逃さないように張り切って見つめていれば、テトさんはこれでお仕事の説明は終わりだという。
「こ、これだけですか!?」
「お客様を相手にする場合の仕事は、これで全部です。あとは数日に一度の本の仕入れと、シルク様のご希望の本の配達でしょうか。それらは不定期ですから、またその時に説明しましょう」
「わかりました、けど」
「後は細々とした掃除くらいですかね。お客様がいない場所をこまめに掃除していただければ、その分夜の掃除時間も減りますが」
「本当に、これで時給千リルなんて貰ってもいいんでしょうか」
「はい。私はシルク様と共同生活ですのでお給料はありませんが、千リルは妥当なところかと」
「そ、そうなんですか」
その当たり厳しそうなテトさんがいうなら、多分大丈夫なのだろう。私が過去回った場所じゃ、ここより重労働でもっと給料の安い場所なんてざらにあったというのに。
「おや、早速一人目のお客様がいらっしゃいました。ココさん、何か困ったことがあれば遠慮せず聞いてください。私は常に受付にいますので」
「了解しました」
朝に一人目のお客さんが来てから、瞬く間に館内にはお客で溢れかえった。
最初はこれだけ? と軽く考えていたが、お客様に同時に場所を聞かれたり、お年寄りの方の階段の登り下りを手伝ったり。館内が広いこともあって、なかなかにやりがいのある仕事だった。
一方のテトさんは、基本は受付で案内や貸し出しを行なっているが、時々席を立って三階に上がることもある。その間は私が代わりに受付を担当するが、多分あれはシルクさんに本を渡しにいっているのだろう。
途中でいくつかの本を手に取って持っていくのが見えた。
「ありがとうございましたー……はぁ、少し疲れたなぁ」
「お疲れ様です、ココさん。私がいない間の受付をしていただいて」
「いえいえ、まだまだテトさんほど上手くできませんから」
「そうですか? 私には、とても初めてのようには思えませんでしたけど」
「テトさんの仕事をしっかり見て覚えましたから!」
「たった一回見ただけで……?」
「そういうのは結構得意なんです! えっへん」
テトさんの驚く顔を見た頃で、時間はちょうどお昼時になった。




