表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

129/140

現れ 第百二十九話




 語り終えた女王は、見た目だけは悔しそうな顔を作る。


「馬鹿馬鹿しいと笑うがいい。二度の過ちを繰り返し、大事な駒を取り逃したこの私を」


「はっ! お望み通り笑ってやるぜハハハハ! てめぇの思い通りには何一つならねぇってことを教えてやるよおらあああ!!」


「「「きゃああああああ!?」」」


 半身に作り出した狼煙を飛ばし、眼前に立ちふさがる少年少女をまとめて薙ぎ払う椿さん。話している間も、一瞬とて彼らは手を止めることはない。


「だが、得るものは得られた。彼らを育成するうえで何が必要か。どのように接するべきかをな。みろ、彼らはこの私のために戦っている。誰かに必要とされたいと願う心を植え付ければ、私のために進んで命を投げ出す優秀な兵に育つのさ」


「洗脳で与えられた感情が何になる。貴様はココに何を学んだのだ!!」


「レンもココも、貴女に運命を狂わされたということですのね。私の大事な二人を、よくも!!」


 守ることを優先し、盾や鎧を具現化した少女たち。彼らは母親のような存在である女王を守りたい一心で、私たちに立ち向かってきている。それを捨て駒だとか、優秀などと言う女王のことが、私は心の底から憎い。

 ココさんの思いを踏みにじり、レンさんをいいように利用したあの女が!


「「「はぁぁぁぁぁぁあ!」」」


「っ!!」


 ――体内に貯めておいた釘を射出し、迫りくる少年らに盾で身を守らせる。


「「「なっ!?」」」


「……ごめん」


「「「ゴッ!?」」」


 ――盾で塞がった視界から奇襲を仕掛け、手薄になった個所にそれぞれ一撃ずつ攻撃を加えれば、幼い彼らはそれだけで動けなくなるほどのダメージを負う。

 キリエさんをはじめ、それぞれに対処法を確立した私たちは、一人の犠牲も出さず全員の無力化に成功する。


「さぁ、前衛はすべて片付きましたわよ。次は何をするのかしら?」


「申し訳……ございません……」


「なかなかやるではないか。だが――少し時間を掛けすぎたな」


「なにっ!?」


 女王は片腕を掲げ、側に控える少年らに合図を送る。先ほど私たちと戦っていた少年たちはあくまでも先兵。

 次に続くこれこそが、女王の本命だったのだ!!


「この光、一体何を!?」


「ふははははは! こいつらの教育は少し趣向を変えてな。同じ実験体同士を戦わせ、生き残ったもののみを育て上げたのだ。殺傷を嫌がる性格故時間はかかるが、間違いなく人一人を殺す威力を持っている。準備は整った、放つがよい!!」


「「「すべては女王様のために」」」


「っ! みんな! 私の後ろに集まって!! スライムちゃん、お願いっ!!」


「影縫!!!!」


「鉄纏ッッ!!」


「無駄だ! その程度で相殺できるものか!!」


 私たちを覆う巨大なスライムの壁を、キリエさんが影で補強し、サクヤさんが鉄纏で強度を底上げする。大量の光を放ち膨大なエネルギーの塊となった彼らの能力が、次の瞬間、私たち目掛けて放射される。


「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」


「クッ!! なんてっ、威力ッ!!!」


「持ちこたえろ!」


 三人の苦しい声を聞いていても、私たちにはどうすることもできなかった。視界いっぱいに広がる光を目にしていながら、私たちは何も……!!



「――協力いたします、お嬢様」


 

「「「「「「「「「!!??」」」」」」」」」



 一体、いつ現れたのか。この場にいる誰一人として気づかなかった。けど、確かに彼女は私たちの前に立ち、強烈な光を受け止めるスライムの壁に触れた。


「!! 勢いが弱まった!」


「このまま押し切るの! シルク、やれるわよね!!」


「やってみせるわ!」


「押し返せッ!!」


 威力が大幅に落ちた彼らの能力を押し切り、スライムの壁はじりじりと女王との距離を詰めていく。


「……なに?」


「うっ!! くぅぅ!!」


「も、もう!! 限界!」


「申し訳ございませんっ! 女王様っ!」


「「「あああああああああ!!??」」」


 能力発動のために蓄えたエネルギーが押し返され、その余波で少年らは弾き飛ばされる。残りは女王と、側に控える盾の少年のみだ。


「やったぁぁ!」


「お疲れ様でございます、シルク様!」


「はぁ、はぁ」


「ありがとうキリエ。大丈夫?」


「助かったぜサクヤ!」


「俺が優しく労ってやろうか」


「いらん」



「――レン」


「……はい、お嬢様」


 他の皆がそれぞれに親しいものをねぎらう間、私はエリさんとレンさんの様子を見つめていた。二人の間には険悪な雰囲気はなく、ただ静寂が広がっている。


「貴女のこと、すべて女王から聞きました。ココが貴女の姉であり、どのような経緯で女王に仕えているのかも」


「……」


「一つだけ聞かせなさい。どうして、貴女は女王の側にいるのですか。貴女の力があれば、いつでも女王の元を離れられたはずなのに」


「……初めは、ただの復讐心でした。いつか姉さまを殺した女王に復讐するために、お姉さまと同じ訓練を耐え抜いた。時に時間を見つけては、姉様が帰ってくることを夢見て水路に立ち寄り曲を奏でもしました。お嬢様にお会いするまでは、それだけが私の生きる意味だったのです」


「私に?」


「はい。お嬢様は女王のために、毎日毎日血の滲む努力をしておられました。その姿に、幼いころの姉様の姿を見たのです」


 私はもちろん、他のみなもエリさんの様子を遠目で見守る。約一名女王に殴りかかろうとする者がいたが、彼女は椿さんの狼煙によって捕まえられている。


「同時に思いました。このままではお嬢様は、姉様と同じ末路を辿ると。女王に利用され、使いつぶされ最後は捨てられる道を。お嬢様にお姉さまと同じ道は辿らせない。そのために微力ながら、お嬢様のお側付きとなり陰ながら見守っておりました」


「……そう」


 二人の会話が途切れた。レンはじっと主を見つめ、エリさんは視線を落とし何事かを考えている。主と従者が互いの立場を理解する大事な話。そこに水を差す人間が、この場にたった一人存在する。


「レンか。私に容易く意識を刈り取られた用済みの貴様が、一体何をしに来たのだ」


「私が来た理由、貴女ならよくご存じでしょう」


「はて? 皆目見当もつかぬがなぁ」


「白々しいことを。私から奪った姉様の体、返してもらいます!!」


「「「「!?」」」」


「なに?」


「奪われた!?」


「ココさんが!?」


 奪われた。その事実に私たちは何度目かもわからない驚愕をあらわにする。

 初めはとぼけていた女王も、レンさんが口にした瞬間納得がいったと手を叩く。


「なるほど、そのことか」


「これ以上ココの体に何をする気なの! もしも何か企んでいるとしたら、今すぐやめなさい!!」


「そう邪険にするな。むしろ感謝してほしいくらいなのだぞ?」


「感謝、ですって!?」


「あぁ。これを見ればお前たちも納得するだろうさ」


 パチンッ という指の音に続き、城全体が揺れていると錯覚するほどに巨大な音が天井から聞こえてくる。初めにエリさんが話していたように、この広間の上に女王の仕事場と自室の二つの空間が存在している。

 この音はもっと上の、最上階から広間までを突き抜ける音……!


 ドゴォォォォォォォォッ!!


 天井を突き破り、何かが私たちの目の前に降り注いだ。女王にかかる瓦礫は少年が防ぎ、私たちはキリエさんの影縫の力で事なきを得た。


「ようやくお目覚めか。待ちわびたぞ?」


「ゲホッ! コホッ! 今度は何が起きたのよ! ――ッ!!!!」


「キリエ? ――えっ」


「「「「「「!?」」」」」




「噓」


「貴女は!」





「はい、女王様」




「「「「「「「「「「ココ!!」」」」」」」」」」」



 あの時、お腹を撃たれ息絶えたはずのココさんが、自分の足で、私たちの前に立っている!! 無事だった、良かったとすぐにでも彼女の元に向かおうとしたその時、私は、ココさん(?)に違和感を覚える。


「……」


 ――あれは本当に、ココさんなのか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ