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作り 第百二十五話



 ―― 神殿を思わせるほどに広大かつ潔白な一室。それに反するように、長く敷かれた赤いカーペットと絢爛に飾られた玉座が存在していた ――


 その椅子に座するは、白銀の髪を靡かせるとても麗しい美女。


「待ちくたびれたぞ。王を前にして道草とは、なかなか肝が据わってるではないか」


 とても愉快気に、口角を吊り上げ女王は私達を迎え入れる。部屋中に飾られた豪華絢爛な嗜好品やら装飾やらに負けないほどの輝きをその笑みより放っている。

 ……私たちとは正反対だ。


「お母様! ……いいえ、女王セレス! 我々の目的はただ一つ。私たちから奪ったココの亡骸を、いますぐ返しなさい!!」


「あと! 私と戦え」


「……ふふっ、もうお母様とはいってくれないのか? 寂しいなぁ」


 セレス。それが女王の名前。私もみんなも、彼女の本名は初めて知った。女王は座ったまま、眼前に突き立てた剣に手を乗せこちらの様子を伺っている。なおも表情から笑顔を絶やさぬままに。


「人を人として扱うという最低限のこともできぬ愚者を、今更母などとは思えませんわ! 今この場で、貴女とは縁を断ち切りますわ!」


「故に、私とも本気で戦えると? ずいぶんと血気盛んではないか。手下どもの血酒の味では不満か?」


「何小難しいこと言ってやがる!! はなからテメェも、下の奴らも興味ねぇ!! ちゃっちゃと出すもん出しやがれ!!!!」


「せっかちなハイエナめ。高貴なる食事にはマナーがあるのだよ。前菜を置かずしてメインなど、程度が知れるというものだ」


「何をっ ――」


 パンッ!!


 女王は一回、天に掲げた両手を叩く。

 足を組み、常に威厳を崩さなかった彼女にしてみれば少し滑稽なようにも思えるその動作。だが、その音に続くように部屋の両端から聞こえてくる足音を認識すると、その滑稽さを笑う余裕も消え去る。


 一人、三人、十人……いや、この足音の数はそれ以上


「どうやら諸君らは安物の酒では満足できんほどに舌が肥えているようだ。ならばこちらもとっておきを出そう。長い間熟成を重ね、ようやく形になった逸品を」


「チッ! はなからテメェに要はねぇって! 言ってんだろうがああああああ!」


「椿さん!!」


「あいつ! 私より先に!?」


 足音の正体もわからないままに、椿さんは煙の噴射で加速し女王の眼前に迫る。狼煙の体に変化する暇すら惜しむほどに今の彼女は頭に血が上っている。

 拳が突き刺さるまであとわずか。だというのに女王の顔から、余裕が消えることはない。


「おぉぉぉぉおぉぉぉおおお!!」


 ―― ゴォン ―― 


「なにっ!? ぐあっ!?」


 巨大な銅鑼を叩いたような鈍い音が鳴り、次の瞬間には椿さんは私達よりもはるか後方に吹き飛ばされた。シルクさんをはじめ、皆は何が起きたのか理解できていない。


 ……でも、私は見た。椿さんが攻撃を加える直前、彼女と女王との間に割り込んだ一人の影を。


「大丈夫!?」


「お怪我はありませんか!?」


「――ペッ! てめぇ、一体何もんだ?」


 衝突時に一緒に崩落した瓦礫を退け、口に入った異物を吐き出し女王の元を睨む。その瞬間再び、私たちの目線は女王の元に再び集まることとなった。

 そして見た。女王の側に控える、巨大な盾を持った少年の姿を。


「お怪我はございませんか、女王様」


「問題ない。しかし、なかなか見事な働きであったぞ」


 その少年は、身の丈以上の盾を消し女王の前に跪く。女として平均以上の身長を持つ女王がまだ小さな少年を跪かせる姿は、異様の一言に尽きる。


「子供!?」


「まさか、そのようなものまで戦いの場に引きずり出すとはな」


「ッ!! とうとう堕ちるところまで堕ちましたわね! 大人だけに飽き足らず、まだ年若い少年までもを戦いの道具にするとは!!」


 ぞろぞろと、女王の側に集まる同じ年頃の少年少女。先ほどの足音は彼らのものであったらしく、総勢百名ほどが集まる。

 彼らは最初の一人を除き、女王に跪くことなく私たちのことを警戒する。まるで初めからそう命令されていたかのように。


「人聞きの悪いことを言うな。こいつらは私の道具、主人が道具を使って何が悪いのだ? それにこれは、彼らが望んだことでもある」


「なんだと?」


「「「その通り」」」


「「「私達が生きるのは女王様のため」」」


「「「女王様のためなら、命はいらない」」」


「「「すべては女王様の望みのために」」」


「ククク……! いいぞぉ、実に素晴らしい出来栄えじゃないか」


 一言一句間違えず、瞬きすらせず復唱する子供たち。あれが、あの姿が、本当に血の流れる子供の姿か!? 人形だと言われた方がまだ納得がいく。

 全員全く同じ距離と姿勢で立ち、同じ言葉を永遠と話す人形のような子供たち。その光景は、女王の統制を許した私たちの住む町の、未来の姿に思えた。


「出来栄え……ですって!?」


「酷い……こんなのあんまりだわ!!」


「外道め」


「チッ、子供の陰に隠れて親は見物ってか! どこまでも俺をイライラさせる奴らだ」


「もはや見て見ぬふりはできないな。これ以上貴様を自由にはさせん」


「おい待てよ! 次は俺だかんな!?」


 皆、流石にこの光景を見せつけられて黙っていられる人間ではなかった。私たちは皆女。ココさんに愛を誓った時点でそういったことは諦めていても、子供が嫌いかと言われれば決してそうではない。

 女王の言葉に怒り、皆に続き私も感情のままに言葉を発しようとした。


 しかし、私は話せなかった。隣に立つキリエさんとこよみさんの、異様な雰囲気を見てしまったから。


「……ぁ……ぁぁ」


「は……ぁぁ……」


「!? ど、どうしたんですか!?」


 目は瞳孔が開き、額からは滝のような汗を流す。動悸が激しく呼吸を乱し、まともに会話することすら今の二人には厳しそうだった。一体、二人に何が!?


「ナツメちゃん……? !? どうしたの二人とも!!」


「気を確かにっ、呼吸を整えてください!!」



「ほう? こいつらを見せただけで察したようだな。そこの元一人娘よりよっぽどいい勘をしているじゃないか」


「女王っ! 二人に何をしたんですか!!」


 初めて、女王は椅子から立ち上がった。そして私達と同じ位置にまで下りてくると、側に立つ少女の頭を腕に抱き込む。


「察しの悪い木偶の坊だ。そこの二人、どちらかこいつらに説明してみろ。思ったことを全部な」





『私達が生きるのは女王様のため』


『すべては女王様の望みのために』


 ―― 『ココは、どうして他人のために命を懸けようとするの?』 『どうしてって言われてもなぁ……それが私の生きる理由っていうか、そうしなくちゃいけないって本能で思ってしまうといいますか』 ――


「はっ! はっ……はっ……」


「こよみっ!?」


 ―― こよみは、今頭を埋め尽くすこの悪い予感が、すべて外れることを願った。だけどこの事実を口に出し、もしも事実になってしまったらと思うと、恐怖で口が動かせない ――





『女王様のためなら、命はいらない』


 ―― 『たった一日しか関わってない私のことを、キリエは友達だと言ってくれた。ほんのちょっとだけ、このまま殺されてもいいかもって思っちゃった はは』 『より正しく言うのなら、小さい頃の記憶が全くないんです。俗に言う記憶喪失ってやつですね。気づいたら、夜の森にこの身一つで倒れてました』 ――


「ハァ……! ハァ……! ハァ……!」


「キリエ!!」


 ―― 嘘であってくれ。そんなことはあり得ないと、キリエは心から神に願う。一言。ただ一言女王に問えばそれで済むことだ。彼女は言うだろう、違う、と。そうだ、この予感は気のせいだ、目の前の女王に一言、すぐに確認すれば済む話じゃないか ――




 先に口を開いたのは、キリエさんだった。彼女は震える唇で、たどたどしく声を絞り出す


「ま、さか……ココ、も……貴女、が……?」



「「「「「「!?」」」」」」


「フッ……ハハハハハハハハハハハハ!!!! その通りだぁ! お前らが恋い慕うココ――いや、こころは私が作った最初の擬似能力者!! こいつらの姉に当たる存在なのだ!!」



 ――――――え・・・・・・?





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