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懺悔と現れ ココ:side out 第百十六話




「「ココ!!」」


 ――次、エリさんと椿さん。二人が側に来たことで、友人はみんな私の周りに集まってきた。

 椿さんとの思い出は、なんだか刺激的なことばかりだったような気がする。工業区やこよみの暴走の時には助けてもらったし、私のダメなところを正し、躾けてくれた。最後に悔やむべきは、彼女との約束を守れなかったことだ。彼女の目の前で、私……


「椿さん……ごめんなさい。私、またやっちゃいました。これじゃぁ、椿さんの友達、失格ですね……」


「――っ」


 ポロッ ポロッ


「え?」


「うっ……ぐぅっ……」


 椿さん……泣いて……?


「せっかく、親友になれたのによぉ!! なんでてめぇはっ! 一人死にそうになってやがんだよぉぉぉ!! 俺とっ、大盛制覇するって、約束しただろうが! うああああああああああん!!」


「……意外です。いつもかっこいい……椿さんが」


「お前はっ、俺の初めての友達だったんだよぉ! 初めてでわからねぇことばっかだし、最後までかっけぇ奴でいたかったさ! なのに、なのにっ!! 今にもこと切れそうなお前を前にして、いつも通りなんてできるわきゃねぇだろぉぉぉぉっ!!」


「……椿さん、お願いです。みんなを……あの店に、連れて行ってあげてください。きっと、気に入ってくれますから」


「うるせぇっ! お前もっ、お前も一緒に行くんだよぉ!!」


 そう言って泣き崩れる椿さんから、申し訳なく思いながら視線をエリさんに移す。


 ――エリさんとの馴れ初めは、決して良い物とはいえないけれど、それでも今は間違いなく私の大切な友達だ。

 ……貴族区で彼女が私に味方してくれていなかったら、今頃私はどうなっていたんだろう。あの時女王と会って、何か今よりいいことがあったのだろうか?……多分、ないな。


「嘘、ですわよね?」


「…………」


「何か、おっしゃってくださいまし。まだ、私の声は、届いていますでしょう?」


「……ご、めん、ね」


「っっ!! もっと、もっと声を聞かせなさいっ!! 貴女がいなくなったら、私は、私は誰のために生きればいいのですかっ!! 貴女がいなくなったら、私はっ! うぁぁぁぁぁぁ!!」


 声を出す力も、少しずつ無くなってきた。相変わらず痛覚は抑えられたままなのが、余計に私の眠気を強いものにしていく。

 頭も舌も回らない。目も見えず、残った五感は聴覚だけ。しかし、最後の力を振り絞り最後に残った聴覚と第六感でもって、最後の一人を視線上に捉える。


「サ……ク……ヤ……」


「ッ! 無理にしゃべるな! 声にしなくてもお前の言葉はすべてわかる!! だからっ!」


 ガサ……ガサ……


「! ココ!!」


 サクヤさんは何かを私に言っている。けど、今の私には関係ない。もう、口も正常には動かなくなった。

 言葉で気持ちを伝えられないなら、行動で示すのみ。さっきは吐血のせいで拾えなかった床の銃に、私は直感だけを頼りに腕を伸ばす。

 掴んだかどうかはわからない。でも、私は今、間違いなく銃を拾い上げた。


「……ッ……!」


「ッッ!!」


 ――震えながら、不鮮明ながら。不格好に、辛そうに。しかし間違いなく今、彼女は白星をサクヤの手に届けた――


「ッ!! ココ……!」


 ――口を広げ、最後ににっこりと笑みを浮かべる。彼女の、無意識の行動だった――


「キリエ、こよみ、シルク、テトラ、ナツメ、桜花、椿、サクヤ、エリ、レン」


 ――とても流暢に、彼女は友達の名前を読み上げる。ここにはいないキリエやレン、そして正式には友人ではないはずの桜花の名前を彼女は呼ぶ。彼女にとっては、桜花もまたこの街にきて出会った友人の一人だった――


「ありがとう……―――――――」


 ――ぐらっ


「ココ!!」


「ココさん!!」


「ココちゃん!!」


「ココさんッ!」


「ココッッ!!」


「 ココ!!!!! 」


 ついに、ココの体は力を失い、ゆっくりと姿勢を崩し後方の何もない場所へと倒れこんでいく。

 それぞれの口から彼女の名前が叫ばれても、答えが返ってくることはない。それでもナツメを筆頭に、せめてこれ以上の痛みを与えるまいと皆は体を抱きとめるべく行動する。

 たった半歩にも満たない距離が、彼女達には途方もない距離だった。








「……お姉さま」







「「「っ!!!???」」」




 ――しかし彼女の体を抱き止めたのは、ナツメでも、こよみでも、シルクでも、テトラでも、椿でも、エリでも、彼女に一番近かったサクヤでもない。

 地面との距離まで残り数センチ。彼女ら以上にココとの距離が近かったものは周りにはいない。僅か数秒の間に地面とココとの間に腕を差し込み、支えが間に合う存在などただ一人。


「レンッ!!!!!!」


 レン。その人物のことをよく知るエリは、真っ先にその名を呼ぶ。次いで面識のあるサクヤ、椿が正体に気づき、遅れて名前を聞いたこよみ、ナツメ、シルク、テトラが反応する。


「てめぇ!!」


「ッ」


「ココを離しなさい!」


「彼女をどうするつもり!?」


 武器を必要とせず、能力のみで戦闘可能な椿、ナツメ、こよみ、シルクがそれぞれ能力を行使する。例え彼女がココの妹だと知っていても、今の彼女らにはココの亡骸を奪おうとする盗人に同じ。武器の都合で戦闘態勢には移れなかったものの、エリ、サクヤ、テトラもまたレンを睨む。


「お姉さま、遅くなり申し訳ありません。すぐにお連れいたします」


「待ちなさい! 彼女をどこに連れて行こうというのです!」


「女王の元へ。本日はその予定で、お姉さまと約束しておりました」


「約束っ!? 一体いつ!?」


「お姉さまが入院していた日にでございます。僭越ながら、彼女の治癒及び痛覚遮断を行わせていただきました」


 彼女たちはその時、椿によって負った重度の負傷がその日のうちに治った理由を、ココが何度も物を落としていた理由を知った。彼女がどのような状態で、この場に立っていたのかも。


「っ! それが、ココが急いでいた理由かよ!」


「だとしても、もう彼女とは無関係なはずですわ! もう、もうココはっ!」


「いいえ、お嬢様。お姉さまは生きています」


「彼女の言うとおりだ、ココはすでに息を引き取った。これ以上、彼女に無理をさせるな!」


「いいえ、お姉さまは生きています。体は温かい。すぐにこの国一番の治療を施せば、お姉さまは目を覚ますでしょう」


「そのために女王の元へ連れて行くと? ――やめなさいっ!! ココは、すでに死んだのですッ!!」


「いいえ!! 姉様は生きています!!」


 元主従関係の二人の会話は、平行線だった。


 ココの想いを受け取り、これ以上苦しめたくないエリ達。

 現実を受け入れられず、何があっても生きてほしいレン。


 互いに互いの思いを理解できるからこそ、交わることのない会話は永遠と続く。この会話を断ち切る方法は、互いにとってもっとも良い落としどころを見つけるか――


「……このまま話し合っていても意味はない。いち早くお姉さまを治療していただくためにも、私はここで失礼いたします」


「待ちなさい!! ――」


 ―― 一方的に言葉を遮るのみ。


 彼女の能力を知るエリが予感し、身柄を奪われるまいと駆け寄るが遅かった。レンは時間停止の準備をすでに終え、走るエリの目の前で瞬間移動を行った。

 ――後にはもう、おびただしい血の跡を残すのみだ。



「『……』」


 目の前で起こった状況に、困惑を隠せない革命派の兵士たち。ココを撃った男を取り押さえる者たちですら、今は腕に一切の力が入っていない。


「――――決行は、いつですの」


「は?」


「作戦決行は、いつだと聞いているんです」


「あ、あぁ。君の情報をもとに作戦を練り直すとして、一週間後を予定しているが」


「 三日 」


「……え?」


 彼らを代表し、総帥たる男がエリの言葉に返答するが、指示された日付を聞き驚いた。

 男の言った一週間ですら、彼女らの思いを汲み絞りに絞った日数だというのに、元王女は三日でやれと言ってきたのだ。流石の男も困惑してしまう。


「三日で済ませろ、といったのですわ」


「む、無茶だ!! 作戦の練り直しから部隊への伝達、資材の調整など時間が足らない!」


「我々が力を貸すと言っているのです。絶対に間に合いますわ」


「ッッ!! そもそもだ! 私がこの組織のトップなのだぞ! 私が拒否すれば、君たちは我々すら敵に回すのだ!!」


「ほう?」



「ッッッッ!! うわあああああああああああああ!!」


「『しまった!?』」

「『逃がすな!!』」


 場の空気に流され、拘束が緩んだ隙を見計らい男はその場から逃走した。組織を裏切ったこと、何よりも自身が撃った相手がいかに周りの女に愛されていたのか。それをむざむざと目の前で見せつけられて、彼の精神は限界をとうに過ぎ去っていた。


「『待て!! ――お、おい? 何して』」


 ドパンッ!


「…………」


 立ち上る硝煙。預けていた武器を手に取り、一発。目で見る必要などないと、頭とは直角の位置でサクヤは銃を構え躊躇なく放った。その弾丸は、暴発した男の銃弾などとは比較にならない鋭さで獲物の脳天へと吸い込まれていった。


「エリの言葉に従え。今の私は火薬のように機嫌が悪い」


「『な、なっ』」

「『っっ』」


「――ご安心を。もしも私の指示通りに動いてくださるのでしたら、確実な勝利を約束しましょう。それに、」


 扉が、開く――


「攻め入る際の一番槍は、我々が担当いたしますわ」


 その言葉を否定するものは、ココの友人には誰もいなかった。

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