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抑制と自覚と 第百十五話



 ピチャ ピチャ


「何をしている、はやくそやつを取り押さえろ!!」


「は、はっ!!」


 男の指示で、近くにいた人間が数名で倒れた男を取り押さえる。

 ふぅ、と一息つくとともに、自分の手のひらの中に白色に輝く白星があることを確認する。それにしても、サクヤさんの銃を片手で撃って無事だったんだこの人。サクヤさんがとんでもない美少女で、彼が恋を自覚しなければきっと素晴らしい未来が待っていただろうに。


 ピチャ ピチャ


「はい、サクヤさん。銃を取り戻したよ」


「…………」


「ごめん、撃たせちゃった。大事なものだったのに、間に合わなかった」


 未だ状況が呑み込めていない状況のサクヤさんに、私は白星を差し出す。やっぱり、この銃が彼女以外の人の手で撃たれたことを気にしているようだ。

 ごめんなさい、私がもっとうまくやればこんなことにはならなかったのに。サクヤさんだけじゃない、みんな私のことを信じられないものを見る目で見てるよ。失敗……しちゃったからね


 ゴトッ


「あ、」


 片手に持った白星を、ついうっかり落としてしまう。そっか、そういえば今日いつもより力の入りが弱かったんだっけ。大事なものなのに落としちゃった、怒られるかな。


 ピチャ ピチャ


 ――さっきから聞こえてくるこの音、なに?


「ココ、ちゃん?」


「ココさん……」


「? はい?」


「痛く、ないの?」 


「?」


 痛い? シルクさんの一言に私は首をかしげる。あぁもしかして取っ組み合いの時に殴られた傷のことかな? 別に痛くはなかったし、一種の興奮状態だったせいで殴られていたこと今思い出したよ。

 それに感覚抑制のおかげで、後に残りそうな痛みもない。


 ピチャ ピチャ


「あぁぁ……あぁぁぁ!!」


「嘘、よね? 嘘よ……嘘だと言って!!」


 ――ナツメ? こよみ?


「そんなっ、ことって」


「っ馬鹿、野郎!」


 ――エリさんに椿さんまで


 みんな、一体どうしちゃったんだろう。確かに失敗はしてしまったけど、こうして銃は戻ってきたわけだし。早いところ話し合いを済ませて帰ろう? そろそろレンとの約束の時間なんだ。


「……ココ」


「サクヤさんまで、一体どうしたんですか? ……あ、ごめんなさい。銃落としたままでしたね」


 そうだった、さっき銃を目の前で落としたんだった。だからサクヤさんは唖然としてたんだね。早く拾ってわざとじゃないことを説明しないと


 ドロロロォ・・・・・・・


「――え、あれ?」


 口から、血が出てきた。いつのまにか痛みはなくともひどく口を傷つけてしまっていたらしい。確かに認識はなくともダメージはあるんだから、何もないなんて思いこむのは危険だよね。念のため他に深い傷がないか確かめておこう。

 口から出た血の跡を袖で拭いながら、改めて自身の体の状態を見回し――





 ピチャ ピチャ






「は?」






 お腹に、見るからに深い銃弾の命中した後。そこから際限なく溢れ出した血液が、私の足元に血だまりを作り出していた。






「なん……で?」




 確かに銃は、私の体には当たらなかったはず! だって、当たったなら痛いはずじゃん!? 皮膚の焼ける感覚と、何かが体を突き抜ける感覚があるはずじゃん!? 何もなかったんだよ? 何もなかった! 何もなかったのに!!??



 ″ 感覚の抑制 ″



「あっ」


 そうだ……私今、痛みを感じなくなっているんだ。傷口を左手で押さえてみるが、やはり痛みも何も感じない。でも、抑えた手のひらには血の跡がべったりと付着し、この傷が夢や幻の類でないことを知らしめる。


「さ、サクヤさ……」


「ッどうして、前に出たんだ!! お前が何もしなかったら、例え銃が撃たれようともそんな傷はできなかったはずだッ」


「――ごめん、なさい」


「ッ!!」


 あぁ、またまた視界が薄くなってきた。でももう慣れちゃったけどね、この街にきて何回、同じ状況を体験してきたことやら。

 でも、血の音とは違うこの水音は、一体なんなんだろうなぁ。目がよく見えなくなってきたのに、意識が遠くなる気配は全くないのになぁ。


「私、やっぱり駄目みたいだ。誰かのために、みんなのためにしたことが、回り回ってみんなを苦しめちゃう……″空回り″ばっかりだっ」


「コ、コ」


「余計のことをして、ごめんなさいっ。私、もう、自分で自分がわからないよっ」


「コ、ココ! すまない! 君を責めるつもりなどないんだ!」


 サクヤさんはこんな私を、独りよがりの身勝手な私を、まだ許そうとしてくれている。優しいなぁ……かっこいいなぁ……私もこんな風に、なれたら、よかったのになぁ。




「ココさぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 ――私の傷に一番動揺していたナツメが、一人先に私の元へと駆け寄ってくる。彼女はいつだって私の側にいてくれて、私といると嬉しいと、私がいるだけで生きていけると言ってくれたっけ。


「ココさっ、そんなっ、ど、どおっ、どうして出て行ったんですかっ!! わ、私は、わたっ、わたし!!」


「……ナツメ、ありがとう。ずっと近くにいてくれて、子犬みたいで、妹みたいで、可愛かったよ」


「っっっっ!! わ、私! ココさんのためなら犬にだって妹にだってなります!! ずっとずっとずぅぅッと一緒にいます!! だから、だから!!」


「は、ははは……嬉しいなぁ。でも、ナツメは自分のために、生きるべきだよ。他人のためだけに生きた末路が、今の私なんだからさ」


「うぅ、うぅぅう!!」




「ココッ!!」


 ――次に側に駆け寄ったのは、こよみだった。この街にきて初めて出会った友人で、よく舟に乗せてもらったなぁ。彼女と見た三つの月は、とても綺麗だったことを覚えている。


「馬鹿っ!! バカバカバカ!! どうしていつも一人でやろうとするのっ! どうして自分ばかりっ、傷つけようとするのよ!!」


「フ、フフ……前にも聞かれましたね……他人が傷つくのを見たくない、から」


「私はいっぱい傷ついたわッ!! ココが撃たれて傷ついたし、死に掛けの姿を見てまた傷ついた!! お願いだから自分を大切にしてよ!! 私の側にッ、ずっといてよ!!!!」


「……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」


「どうしてよ……どうして……」





「ココちゃん!!」


「ココさん!!」


 ――次は、シルクさんとテトさんのお二人だ。二人には、私が路頭に迷っていた時仕事を与えてくれた恩がある。一か月と少しの間だけど、それでも彼女たちには本当に感謝している。


「ココちゃん、意識をしっかり持つのよ!! 傷は深いけど、まだ助かる見込みは十分あるから!!」


「シルクさん……私……」


「弱音を言っちゃ駄目よ!! まだ助かるわ! 死なせないんだから!!」


「 シルクさん 」


「ッ!! なんで、なんでなんでなんで!! なんで私の大事な人ばかりいなくなるの!! お母さんの次は、ココちゃんまでッ! こんな思いをするくらいならッ、あの時、消えていれば――」


「――違いますよ、シルクさん。それは、違う。だって、シルクさんの大事な人は、私だけじゃない。テトさんだって、みんなだって、もうシルクさんの友達だから」


「うぅっ! うぅぅッッ……!」





「ココさん」


「テトさん……もう、怒らないんですか?」


「こんな姿を見たくないから。もう二度と貴女の傷ついた姿を見たくなかったから怒ったのです。今にも消えてしまいそうな貴女を前に、私は、一体どう怒ればいいんでしょうか」


「……いつものように、してください」


「……馬鹿です。貴女はどうしようもない馬鹿です。私が一体どんな思いで傷ついた貴女を、あの時も、今も!! 見ていると思っているのですか!! やっぱり、大事なものは誰にも見られないよう監禁しておくべきだったのです。私が想いを自覚した、あの瞬間に」


「はは。テトさんもなかなか、ナツメに負けないくらい独占欲つよいですね……」



 そろそろ、立ちっぱなしの足にも力が入らなくなってきた。

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