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困惑と参戦と 第百十三話




 私たちと同じく他の人間に武器を預け、サクヤさんはこちらに近づいてくる。

 あの銃をこよなく愛するサクヤさんが他人に武器を渡すところなんて初めて見た。よく見たら黒光りする銃の中に一丁だけ、白色の銃も混ざっている。まさか奥の手まで手渡すとは


「ココ、何故ここに? それに椿までいるじゃないか」


「なんでここには俺らのセリフだ! てめぇ、いつからここに!!」


「四日前だが?」


「うわ凄く最近」


 四日前というと、私が貴族区に行ってエリさんに会っていた日食の日か。私が病室でこよみに看病してもらっていた間に、サクヤさんはここに足を運び彼らの仲間になっていたらしい。

 だけど腑に落ちない。桜花や椿さんと同じくサクヤさんだって人と群れるような人ではないはずなのに。


「どうしてサクヤさんは革命派に? あんまり世直しとかそういうの興味ないと思ってました」


「フフっ気になるか? 仕方ないな、ココには特別に教えてあげよう。私の胸の中に飛び込んでおいで? さぁ」


「おい、ココに色目使ってんじゃねぇぞ狂人」


「何か言ったかい? 君も彼女の魅力を理解しているようだが、告白したのは私が先だ。そこに他人が介在する余地はないよ」


「あぁん!?」


 そして始まった二人の喧嘩。桜花さんほどではないにしても、椿さんも人のこと言えないくらい喧嘩っ早い。そしてサクヤさんは相変わらず彼女のことを煽るから余計に加熱するんだよ。

 私が椿さんに抱きかかえられ普段より高くなった視線で当たりを見渡せば、友人たちと周りにいる男らは状況に追いつけていないし、イライラ男は私を睨みつけているし、総帥は高笑いしている。これ全部私悪くないですよね?


「それで、その、サクヤさんがここにいる理由とは?」


「あぁ……久しぶりの君の香りだ。もうこの香りなしでは生きられないよ……」スースー


「あのっ! サクヤさん!?」


「――ん? あぁ、すまない。あまりにいい香りだったので意識が飛んでいた。んんっ、私が革命派にいる理由だな? まぁずばり、君のためだよココ」


「私の?」


 サクヤさんがいる理由は、私のため?

 彼女が革命派に参加する理由が、どうつながれば私のためになるのか。サクヤさんとは工業区の一件以来顔を合わせていないので、私が国から狙われていることはまだ知らないはず。なのに、一体何故――?


「君のことだ。お付きのメイドと何やら話していた時点で、なんとなくこうなることは予想していたよ。君と王女様の仲がどっちに転んでも、革命派の情報は必要だろう? しかし現実は、椿に先を越されてしまったがな」


「はん! お前なんざお呼びじゃねぇんだよ。あと、ココは俺のもんだ」


「……私のために」


 サクヤさんの言葉に、私はなんとも言えない思いを胸に抱く。

 私が気楽に考えていた間にも、彼女はこうして私のために動いてくれていた。今とは違い、エリさんが王族のまま私と仲良くなっても、今度は彼女を守るために革命派と接触していた可能性は間違いなくあった。彼女はそこまで考えて、私のために裏でいろいろ行動してくれていたのか。


「サクヤさん」


「随分とまぁ落ち着いたな王女様。前は人を寄せ付けない刺々しい雰囲気だったのに」


「いろいろあったのですわ。……あの時は、申し訳ありませんでした」


「気にしていない。私はあくまでもココの護衛として戦っただけで、私個人は君に恨みなんて持っていないさ」


「サクヤさん……」


「――ん? 王女様の後ろ、もしかして彼女らがココの言っていた友人たちかい? へぇ、全員綺麗な顔立ちをしている。もしや君は面食いなのか?」


「急に人聞きの悪いこと言わないでもらえます!?」


 皆の前でなんてことを言うんだこの人は!? さっきまでしんみりした雰囲気だったのに台無しだよ!!

 確かにみんなが美人なのは否定しようのない事実だけど、それをこの人に言われても嫌味にしか感じないよ全員。


「あのーココさん、そちらの方は?」


「あ、うん。みんなにも紹介するね、こちらサクヤさん、三日前に革命派になったらしいよ」


「初めまして、私が紹介にあったサクヤだ。同じ想いを秘める者同士、仲良くしてほしい」


 サクヤさんの自己紹介に合わせ、皆一人ひとり自己紹介を済ませる。ただナツメとこよみに関しては、好奇心に加えて警戒するような視線を含んでいた。理由はまぁ、告白の件で間違いないはずだ。

 ……ほんとに、ごめんなさい。


「ははは! まさかそれほどまでにそ奴に好かれておったとはな! いやいや、なかなかどうして面白いお嬢さんだ。我々の中にも彼女を手に入れるべく告白し、見事玉砕していったものが後を絶えんというのに」


「私のすべてはココのものだ。彼女以外の者の想いに答える気はないよ」


「えっ、告白は保留って話では?」


「そんな美しい指輪をはめておいて、今更保留はないだろう? さっきの二人の内どちらかに貰った婚姻指輪ではないのかな? それは」


「!!?? い、いつから気付いて!?」


 指輪の件が彼女の口から出た時、思わず私とこよみは顔を赤く染めてしまう。当然、指輪に気づいた彼女が私たちの顔の変化に気づかないはずもなく……


「なるほど、彼女か。私はまた一番を取られてしまったな」


「……ご、ごめんなさい」


「まぁいい、これから先もずっと一緒なんだ。いずれ君の一番を取る機会はくるさ――んっ」


「んちゅっ!?」


「「「「「「「あああああああ!?」」」」」」


 ――サクヤさんからの、熱烈なキス。

 こよみやエリとはまた違う、私を支配するような力強いもの。彼女たちだけでなくこの場にいるすべての人間の前でのキスに、私は恥ずかしさと背徳感に頭が混乱してきた。どうしてこんなことに、なんでサクヤさんからキスされているんだ、でも嬉しい。

 複雑に入り乱れた思考と感情の波に脳の処理が追い付かず、全身の力が思うように入らなくなってしまった。もしも今私の感覚が正常であったなら、間違いなく意識は遠い何処かへ消え去っていたに違いない。


「な、なななな!?」


「これは、本に書かれていたものよりずっと……」


「なにどさくさに紛れて発情してやがんだてめぇこの野郎!」



「ココ……」


「ココさん」


「……」



 うっ、三人の目線が痛い。私の目の前にはサクヤさんの顔だけが映り彼女らの顔は一切見えないはずなのに、エリさん、ナツメ、こよみの三人が今私のことをどんな風に見ているのかが手に取るようにわかってしまう。そ、それにしても長くない!?


「ん……はぁっ。いや、すまない。思ったより背徳感が凄くてな、数秒延長させてもらった」


「い、一分くらいしてましたよ。はぁ、はぁ、い、息が続きませんって」


「ははは、すまないね」


 まぁ、こちらも時間を忘れるくらいの凄い体験をさせてもらったのでいいんだけど……いややっぱり時と場所は考えてほしかったな!?

 長い長いキスによってほとんどを奪われた体内の酸素を補給するように、私は彼女の腕の中で深呼吸二、三回行う。はぁっ、ようやく落ち着いてきたかな?


「君を見ていると、どうにも抑えが効かなくなってしまう。もう一回してもいいかい?」


「え!? だ、駄目ですよ! それに私もう時間が!! ――」


 

 その時、



「『お、おい!? 何をするんだやめろっ!!』」



 サクヤさんの銃を回収した男が、なにやら慌てた声を上げる。その声に反応し顔を向ければ、



 ――チャキッ


「ッ?」


「なんだ? ――――ッッ!!??」



「 動くなッ!! 」


 私たちに何度も噛み付いてきた男が、サクヤさんの銃をこちらに向けて構えていた。最悪なことに、彼が握る銃は白色。奥の手として彼女がいつも人目に付かない懐に隠し持つ、あの銃だった。




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