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猫耳少女と僕の背中とあの夏へ  作者: 紀州桜玲
旅のはじまり
2/3

2話 猫耳少女を乗せて

 あまり遠くへ行き過ぎてはいけない。だって、よくわからない女の子を後ろに乗せているのだから。


 まだ一緒に旅をしていいなんて許可は出していない。その許可を出すかどうかを話し合うために、落ち着ける場所を探して彷徨っている。


「何処行くの?」


 なにか聞こえた気がする。


「なんだって?」


「だから! 何処に向かってるの?」


 バイクのエンジン音、風を切る音、一人で走っている時は心地良いのに、今だけはインカムが欲しくなる。


「聞こえないって!」


 そのときだ。町唯一の信号機が赤になった。


「どーこーに、向かってるの?」


 ひょこっと顔を出しているのがミラー越しに見えている。フルフェイスなので表情は全然わからないけれど。


「決めてない。道の駅とかで良い?」


「何処でも良いけど、荷物取りに帰るのにまた戻ってもらわないといけないから、遠くなっちゃうよ?」


「いや、だから! まだ一緒に旅するって許可してないし」





 道の駅の駐輪場スペースにバイクに置いて、近くのベンチに腰掛けた。


 ちゃっかりいつの間にか猫耳を装備している少女は猫耳の場所を微調整している。


「それ必要なの?」


「必要だよ。お兄さんのバイクと同じぐらい」


「バイクと同じねぇ・・・・・・まぁいいけど」


 とは言ったものの、猫耳少女と隣り合わせで座っている。これは恥ずかしくないわけがなく、早く話を終わらせて、家に帰したいところだ。


「さてと、早速話したいんだけど」


 と、会話を始めると。意外と早く結論が出た。理由は長く語らないけど、同情してしまったのが事実だ。


 再び出会った方向へと引き返す僕と少女。指さしで道案内されながら少女の家の近くへバイクを停める。


「大丈夫なのか? 止められたりとか」


「大丈夫よ。多分どっちもいないから」


 どっちもとおいう表現はきっと両親のことだろう。先ほど聞いた話から察するに、どっちもという表現をしたくなる気持ちはわからなくもない。


「どうしたら良いかな? 私乗っちゃうとリュック一つだけしか背負えないよね?」


 数メートル歩いた先で振り返った少女。年上に敬語じゃないなんて今更だ。年上といっても一学年しか変わらないのだから。


「リュック持ってけよ。これに詰めてこい」


 少女は小走りで戻ってくると僕のリュックをひょいっと片手で受け取ると、いつ地面に擦っても良いような高さで持ち、走って行った。


 それだけ身長が低いってことだ。何センチなのか、細かいところまで興味はないけど。





「ったく、どれだけ待たすんだよ」


 バイクを停めている場所、実家から近いわけじゃないけど、ドキドキというか、ソワソワというか、そういう気持ちがしている。


「おまたせ」


「おう、制服じゃないんだな」


「学校に行くんじゃないんだから」


 少女はダボッとしたTシャツにショートパンツを履いてきた。


「それもそうか・・・・・・今日制服だったのは?」


「夏休みの登校日的な?」


「あぁ、なるほどね」


「それじゃぁしゅっぱーつ!」


 少女は重そうなリュックを背負ったまま、右腕を掲げた。


「ちょっと待て!」


 僕はその右腕を下に下ろした。掴んだ場所は手首だったけど、なんだかちょっとエロいというか、申し訳ない気持ちになった。


「なに?」


「警察とかに捜索願い出されたりしない?」


「そんなこと恐れてるの?」


「そりゃそうだろ。お前はまだ未成年なんだし、こっちは大人だぞ」


「大人って・・・・・・まだ二十歳にもなってないじゃん」


「いや、そりゃそうなんだけど、女子高生っていうのを連れ回すのはなかなかに犯罪の匂いがする」


「そのときはちゃんと事情説明してあげるからさ、なんとでもなるって! ただ行った先々で色々と住人とか宿の人とかに聞かれたりしたら、兄と妹っていう設定でどう?」


「まぁそうだな。そんなこと心配してたら乗せるなんて話が出るわけないよな。わかった。兄弟の設定で良いよ」


「よろしくね。お兄ちゃん!」


「いや、今じゃないし、なんか照れるし」


「妹とかいないの?」


「一人っ子だな」


「私は多分、一人っ子」


「たぶんってなんだよ」


「まぁまぁまぁ、ほら、早く行こうよ」


「おう」


 たぶん一人っ子って言葉が引っ掛かったけど、僕たちは走り出した。


 本当はこんなこと、誘拐だってことにされてもおかしくはない。そんな危ないことをしているのに、行動に移してしまっているのは女子高生と旅できる。そんなことではなくて、彼女を亡くした。二度と掴めないところに行ってしまった。そのショックが大きかったから、もう僕の人生どうなっても良いという投げやりだった。


 他人からすればたかだか彼女を失っただけ。まだ二十歳にもなっていないのだから、まだ人生はやり直せる。そう思うだろう。


 当事者が抱えた苦しみは当事者にしかわからない。こっちからすれば、なにも知らないくせにわかったような口をきくなって思う。


 まぁ、これも全部僕の想像でしかないけど。


 亡くなってから誰かに会って、その事実を話したわけじゃないから。


 これから何処に行こうかな。

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