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猫耳少女と僕の背中とあの夏へ  作者: 紀州桜玲
旅のはじまり
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1話 猫耳少女との出会い

 彼女が死んだ。横断歩道で信号無視の車に跳ねられて。


 僕がその事実を知ったのは、二週間後だった。どうしてそんなにも遅くなったのかというと、僕と彼女が付き合っていることは誰にも言ってなくて、彼女の両親との面識もなかったからだ。じゃぁどうして亡くなったことに気付いたのか。大学で友達伝いに聞きまくったからだ。


 彼女と連絡がとれなくなったことの事実を知ったとき、膝から崩れ落ちた。


 言葉が出なかった。過呼吸になって苦しくなった。





「行こ」


 バイクに跨った。


 この町にはいたくない。


 高校生の頃のアルバイトと奨学金を借りて、高校を卒業してなんとなくで進学した大学。


 まだ遊んでいたくて働きたくなかっただけだ。


 適当なサークルに入って出会った彼女。付き合って遊びまくったこの町は想い出が多すぎて辛すぎる。


 天気は快晴だった。旅日和と言っても過言ではない。





「あー、どこか遠くの町へ逃げれたら良いのになー」


 塀に腰をかけて、足をブラブラとさせている少女が一人。セーラー服を身にまとい、ショートヘアーの髪の毛を風になびかせている。


 その下の道は片側一方通行の狭い道路だった。特別して景色が良いわけではない。遠くからはバイクの音が近づいてくる。


 少女の真下に停止したバイクはリュックをおろしてなにやらゴソゴソと漁っている。


「うわっ、ちょっ、ごめっ」


 少女は手を滑らせて塀から落ちていく。


 バイクの後ろに見事にお腹から着した少女は下半身の重みでバイクからズレ落ちそうになる。


「おい、落ちるぞ」


 バイク乗りの青年は左手を咄嗟に少女のお尻へと、落ちないように支えた。


「変態ですか!」




「いや、その、お尻を触ったことについては謝るけど、バイクから落ちないように助けてやったんだぞ。お礼の一つぐらい言ってもらっても罰は当たらない気がするんだけど」


 地元に帰っていた僕は路肩に停めたバイクの傍にしゃがんでいる。その横で立っている少女。


「そもそも落ちてきたのは私なんだし、そんなところにバイクを停めたりするからぶつかるんですよ」


「バイクのシートがなかったらとてつもなく痛かったと思うぞ」


「そ、それは……」


「まぁ、別に良いけどさ、気をつけろよ。ガキンチョ」


「ガキ……」


 俯いた少女と目が合った。落ち込んでいるような表情に見える。


「すまん、言い過ぎたか」


「ううん。私ガキだから、何処にも行けないの」


「は?」


 彼女の言っている意味がわからなかった。


「そのバイクのナンバー、他県の人だよね。どうしてこんな田舎に?」


「僕の生まれ故郷なんだよ。この町は」


 僕は立ち上がって空を見上げる。空の青より山の緑の方が視界にたくさん入ってくる。この町はそういう町だ。


「あぁ、実家に帰省的な?」


「うーん、まぁ、それはどうだろ」


「え?」


 少女は頭にハテナを浮かべ、首を傾げた。


「通りかかっただけだから、親に出くわす前にとっとと行くよ」


「何処まで?」


「決めてない」


「私も、乗せてってくれないですか?」


 僕は焦った。それも当然のこと。


「いやいやいや、セーラー服ってことは学生だよね? それまずいんじゃない? 未成年誘拐みたいにならない?」


「ならないですよ。同意なので」


「いや、僕はまだ同意してないんだけど」


「夏休みだから大丈夫ですよ」


「そういう問題じゃないんだよなー」


「可愛かったら良いですか? これでどうです!」


 少女は側に置いていたスクールバッグから三毛猫柄の猫耳を取り出して被った。


「連れてってにゃん」


 と、かわいらしく両手で猫の手をした。


「は?」


「にゃー!」


 まるでライオンがガオーってしているように指先を全部まげて僕に向けてきた。


「いや、無理だから。猫耳なんかつけたらヘルメット被れないだろ」


「猫耳取ればいいですね?」


「いや、だから、そういう問題じゃないんだって」


「私、猫耳つけてると落ち着くんですよね。最近いろいろとあって」


「あ、僕も……」


 バイクのサイドにつけっぱなしにしていた彼女用のヘルメット、無意識につけたままだった。この一人旅には必要のないお荷物だったのに、持ってきてしまっていた。


「とりあえず乗れよ。ここじゃ親に見つかりかねない。見つかったらお前に足止めくらってたせいにしちゃいそうだし、ちょっと移動しよう」


 僕はヘルメットをバイクいから外すと、少女に手渡した。


「これ猫耳つけてたら、被れないよね。潰れちゃうよね?」


「それさっき言ったよね?」


「まぁ、ちょっとだけだし、大丈夫かな……」


 少女は猫耳を外すと、スクールバッグに仕舞い右肩にかけた。


「これ、二人乗りしたら、僕のリュック背負えないよな……ちょっと貸して」


 僕は少女のスクールバッグを奪うと自分のリュックに詰め込んで、少女の背中に背負わせた。胸元にあるベルトもしっかりと絞めた。


「ちょっ、今、さりげなく胸触ろうとしましたよね?」


「そんなつもりないって、ほら乗れ。行くぞ」


「これ跨ったら下着見えません? カップルの自転車みたいに横向きになって乗ったらダメ?」


「死にたいのか?」


「わかんない」


「わかんないってなんだよ。普通は死にたくないだろ。後ろなんて見ないからとっとと乗れ」


 ここに長居は無用だ。


「うん。わかった」


 僕は少女を乗せて走り出した。行先は決めていない。

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