迫る決断
続きです。
今回も現実世界での話になります。
それでは本編をどうぞ!
バスに揺られながら、いつも通りに学校へと向かう。
そう、いつも通りだ…昨日の出来事がまるで夢だったかのように穏やかな日常だ。
だけど、昨日のことは夢ではない。実際、俺や俊、岡野さん、そして岡野さんのお母さんもレイアが話している所を見ている。
そして、何よりも俺の心に刻まれたあの光景が、あれは夢ではないと教えている。
「はぁ…こんな調子で大丈夫か、俺」
「よっ!冴えない顔してんな、未来」
「あぁ、俊か…おはよう」
テンションが低い俺と違い、俊が明るく俺に声を掛ける。
「そういや、昨日はどうだったんだ?」
「あぁ…それは…」
一瞬、口ごもる。昨日のことはそこまで誰かに話したい内容じゃない。
だが、話さないと俊がしつこく聞いてくるだろうし…仕方ない、話すか。
「実は、本当にリアルクロスの世界に行ってきた」
「えっ!?マジか!どういう状況だ?」
驚いたようにそう聞いてくる俊に、俺は昨日あった出来事を話し始めた。
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「ということがあったんだよ」
「マジか…何かスゲーことになってんな」
「まぁね…おかげでメンタルがかなりやられてる」
「悪いな、そうとも知らずに…」
そう言って、申し訳なさそうに頭を下げる俊に、気にすんなと返し、外の景色を眺める。
とはいえ、広がる景色は建物が並んだ住宅街と青空という、いつもとほとんど変わらない景色だが。
「そういや、今日はログインしたのか?リアクロ」
「いや、まだだけど」
「そっか…一応ログインだけでもしておけよ」
「そう、だな…」
今朝見た夢のせいか、どうにもリアルクロスにログインする気になれず、ログインせずにいたんだが…まぁ、ログインぐらいなら大丈夫か。
俺はそう考えて、リアルクロスのアプリを開いた。
『ミライさん、お待ちしてました!』
『ミライ殿、ここで会うのは初めてですね…正直、私が何故、夢の楽園に居るのかはわからないのですが』
「あれ?何でアスカがここに…?」
「ホントだ、アスカちゃんまで居るじゃん!普通、選んだ1人のキャラクターだけなのに…これも未来がリアルクロスに行ったせいか?」
俊の言葉の通り、普通なら選んだキャラクター1人だけがホーム画面に現れるはずなんだけど。
これも、俺がリアルクロスの世界に行った影響なんだろうか?
「まぁ、とりあえずそれは置いといて…2人共、調子はどうだ?」
『はい、私達は元気ですよ!今は皆さんと協力して、街を復興する為に頑張っている最中です』
「そっか…」
あの戦いの後だ、復興の為に色々とやることがあるんだろう。
そう考えると同時に、目の前で死んだ人達の姿がフラッシュバックする。
「うっ…」
一瞬、吐き気を覚えて思わず口を抑える。
『ミライさん…』
『…ミライ殿、こんな言葉では何の慰めにもならないかもしれませんが、どうかそこまで思い詰めないでください…あなたによって救われた命も確かにあるのですから。この私もその1人です』
「うん、ありがとう…じゃあ、俺は一旦用事をこなしてくるよ」
『はい、気を付けてください。私達はここでミライさんを待っていますから』
「うん、了解。それじゃあ行ってくる」
それだけ伝えて、俺はアプリを閉じた。
「大丈夫か?何なら今日は学校休むか?そのつもりなら俺から先生に言っとくぞ」
「サンキュー…でも、大丈夫だ。むしろ学校に行った方が気分転換になるだろうし」
「まぁ、お前がそう言うなら良いけど…おっ、もうすぐ着くぞ」
俊の一言で、学校にもうすぐ着きそうということを理解し、バスを降りる準備を進める。
そうして、程なくしてバスは学校の近くのバス停に停まり、俺と俊は学校に向けて歩き出した。
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「おはよう、絆野君」
「あぁ、おはよう…岡野さん」
「昨日、あれから大丈夫だった?」
教室の俺の席に座ると、岡野さんが心配そうに声を掛けてくれる。
「うん、まぁなんとか…」
「そっか、良かった…」
「なぁ、岡野さん、さっき未来から昨日あったことを聞いたんだけど、マジなのか?」
「うん、全部本当だよ。私も信じられないけど…」
「そうか…これって運営に伝えた方が良いんじゃね?」
俊が柄にもなく神妙な顔つきでそう口にする。
俺を心配してくれているんだろうか…?有り難いけど、多分運営に言ったところで解決はしないと思う。
「霧野君、多分この現象は絆野君にだけ起きてるんだと思う…だから、運営の人にどうにかできるレベルじゃないと思うよ」
「岡野さんの言う通りだよ、俊。これは運営に言ってどうにかなるレベルじゃない」
「それもそうか…未来に起きてる現象、ダイブ?は他の奴らには起きてないっぽいしな」
「いや、ダイブってなんだよ…」
「お前の現象に名前を付けようって思ってよ。良い名前だろ?」
「まぁ、悪くはないな…ダイブか」
「よし、決まりだ!これからお前の現象の名前はダイブだ!」
こうして俺の身に起きた現象はダイブと名付けられた。
名前があった方がわかりやすいだろうし、文句はない。ま、そもそも俺が再びあの世界にダイブするかと言われると断言はできないけど。
「それで、これからどうするの?絆野君」
「え…?」
俺の考えを読んだかのような岡野さんの言葉に思わず間の抜けた声が出る。
「まだ、あっちで戦うつもりなの?」
岡野さんに真剣な顔で質問される。
俺はどう答えれば良いかわからず、沈黙してしまう。
「正直に言えば、あっちの世界は私達の世界とは何ら関係はないし、わざわざ絆野君が戦わなくても良いんじゃないかな?」
それは、俺を心配しての言葉だった。
その言葉は今の俺にとって甘い誘いだ…あの世界は俺達には関わりのない世界、だからその世界のことなど気に掛ける必要はない。
そう割り切れたら確かに楽だ…俺も2度と戦場になんて行きたくはないし。なら、さっさと割り切ってしまえば良い。
だが、何故だろう…それだけはダメだと、俺の中でナニカが訴えかける。
ここで投げ出すことだけは許されない。そう訴えるナニカが確かにある。
「…正直、まだわからない。俺が戦う必要が本当にないのか…それに、俺自身がどうしたいのかも」
「絆野君…まぁ、そうだよね…簡単に決められることじゃないよね」
「ゆっくり決めれば良いんじゃね?ストーリーを進めなけりゃ、ダイブせずに済むっぽいし」
「そうだな、そうするよ」
それだけ言って、俺は話を切り上げた。
その後、授業が始まるまで、俺は2人と雑談をして過ごすのだった。
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授業を受けながらようやく昼休みを迎え、俺は昼食の用意をする。
今日の弁当には母さんの言っていた通り、唐揚げが入っていて、思わず顔が綻ぶ。
「お、美味そうな唐揚げだな!俺にもくれ!」
「断る」
「良いじゃんか、1つぐらいくれよ」
「い・や・だ!俺の大好物だから、絶対やらん」
「わかったよ…ったく」
「絆野君は唐揚げ好きなの?」
「うん、大好き。小さい頃からの大好物だよ」
「…そういえばそうだったね」
「そうそう!……あれ?」
「どうかしたの?」
何か、今ちょっと岡野さんの言葉に違和感があったような…気のせいか?
「いや、何でもないよ…さ、早く食べよう!」
「そうだね!あ、絆野君、私の玉子焼き食べる?」
「食べる!じゃあ、代わりに俺の唐揚げをあげるよ」
「ありがとう!じゃあ交換だね」
そうして、岡野さんの玉子焼きと俺の唐揚げを交換した。
「あ、ずるいぞ!何で岡野さんは良くて、俺はダメなんだよ!贔屓だ贔屓」
「いや、お前は何も交換せずにそのまま貰おうとしたじゃん」
「じゃあ、俺のミニトマトやるから!」
「どう考えても釣り合わないだろ…しかも、ミニトマトが嫌いだから、俺に押し付けようとする魂胆が見え見えだし」
「ぎくっ!仕方ない、今回は諦めるぜ…だが、次はこうはいかないからな!」
「次があるのかよ…」
俊の一言に呆れながら、岡野さんからもらった玉子焼きを口に運ぶ。
あ、うまっ!砂糖入ってるのかな?良い感じに甘みがあって美味いな。
今度母さんに頼んで、甘い玉子焼きを作ってもらおうっと。
そんなことを考えながら、弁当を次々食べていくと、気づけば弁当を完食していた。
ふぅ、美味かった…ごちそうさまでした。
手を合わせつつ、心の中でそう呟き、俺は弁当の片付けを始める。
「もう食い終わったのか、早いな」
「弁当がおいしかったからな、そういうお前も後はミニトマトだけじゃん」
「これだけは無理!この際、未来が食ってくれよ!俺には無理」
「しょうがないな…じゃあ食べるよ、ミニトマト」
「サンキュー!」
「どういたしまして」
そうして、俊の残したミニトマトを口に運び、完食する。
「ヘタはどうする?さすがにヘタまで食べるのは無理だぞ?」
「そのまま弁当箱に入れといてくれ。後で捨てておく」
「了解」
「ご馳走さまでした。2人共、食べるの早いね」
「確かにそうかも…まぁ、早ければ良いというものでもないだろうけど…あ、そういえば岡野さんは何でレイアルートについてあんなに詳しかったの?」
「あぁ、それはね…」
「それは?」
「ふふっ!内緒♪」
「焦らさないでくれよ…まぁ、とりあえず今はこれ以上聞かないけどさ…でも、いつかはちゃんと話してくれよ」
「安心して、このことは絆野君がどんな形であれ、ちゃん決断した後に教えるから」
「決断、か…」
授業中も、ずっと今後のことについて考えていたが、未だに答えは出ていない。
とはいえ、そんなあっさりと答えが出るものでもないだろうけど。
でも、あまり悠長に考えている時間はなさそうだ……あまりに考える時間が長すぎるとレイアとアスカに申し訳が立たないし、何より時間を掛ければ掛けるほど、俺の思考は2度とダイブしたくないという考えに埋め尽くされてしまいそうだ。
だから、なるべく早く決断しないと。
「うん、頑張って決断してみるよ」
「あんまり気負わなくて良いからね?どんな決断でも、誰も絆野君を責めたりしないから」
「ありがとう、岡野さん」
そう伝えると、岡野さんは安心したように笑みを浮かべた。
俺はそんな岡野さんの顔を見ながら、どういう形であれ必ず決断を下すことを改めて誓うのだった。