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現実✕仮想のクロスワールド  作者: 切り札の一手
6/9

アストリウス防衛戦 後編

続けて、後編です。

それでは本編をどうぞ!

「やりましょう!アスカ副団長!」

「もちろんです!ミライ殿に任されたこの使命、果たしてみせます!」

 未来を他の戦場に向かわせたレイアとアスカは互いに鼓舞し合い、魔獣達に向けて剣を構える。

 それに呼応するように、他の兵士達も各々武器を構える。

「あなた達に私のかわいい魔獣達を倒せるかしら?」

 彼女達を嘲笑うかのように、そう告げて、魔獣達に一斉に指示を出す。

 その指示は単純明快、敵を殺せ。ただそれだけだ。

「来ます!」

 レイアの叫びと共に、狼のような魔獣と兵士達がぶつかり合う。

 互いに殺し、殺されを繰り返し戦況はしばらく拮抗する。いや、レイア達が優位に立っていた。

「たぁっ!」

「はぁっ!」

 その理由はレイアとアスカにあった。

 レイアはアストリウス随一の魔法剣士であり、魔法力も剣の腕前も上級クラスだ。その圧倒的な魔法力で放たれる魔法により、魔獣達を倒していく。

 そしてアスカは単純な剣の技量だけであれば、レイアすら上回る剣士である。その剣技により魔獣達は次々と地に倒れ伏す。

 それを見ているオルテナは、それに対抗する新たな手段を用意する。

「これはまだ使うつもりはなかったのだけど…ま、仕方ないわね」

 彼女がそう呟きながら手をかざすと、彼女の手の平に黒いエネルギーが収束していく。

 そして、それが収束しきると同時にレイア達の周りを囲むように黒い空間が広がる。

「さぁ、ここからが本番よ」

 オルテナの言葉と共に、魔獣達は先ほどよりも速く、そして強くなり、再び彼女達に襲いかかる。

 オルテナの作り上げた空間により強化されたのだと、その場に居る誰もが理解し、さらに気を引き締め、武器を構える。

 だが、その程度の心の準備では意味がなかった。

「な、何だ!魔獣が消えた?…うぐっ!が…は…一体どこから…」

 ある1人の兵士が魔獣と戦闘中、魔獣の姿を見失い、気づけば腹を貫かれ、絶命した。

 またある者は、首を噛み切られ絶命した。

 またある者は、心臓を貫かれ絶命した。

 それらの兵士だけではない、他の兵士達も魔獣と戦闘中に同じように魔獣を見失い、絶命していくものが増えていく。

「一体何が起きてるんですか!?皆さんが次々に…」

「ダークネス・ウルフの調子は良さそうね」

「ダークネス・ウルフ…この魔獣達は一体…」

「そうね…このままじゃ面白くないし、ヒントを上げるわ。ダークネス・ウルフはある場所を自由に動き回れるのよ」

 そんな風に堂々とダークネス・ウルフの能力を答えるオルテナにレイア達は困惑するが、今はそんな場合ではないと切り替え、ダークネス・ウルフの倒し方を考える。

(ある場所を自由に動き回れる…考えてみれば妙なことがある…ミライ殿が門を封鎖したはずなのにどうやって奴らはここに入ってきた?何かが破壊される音など聞いていない)

 冷静に魔獣を観察し、アスカはそう思考する。

 そう、こちらの門はすでに未来によって封鎖されている。ある程度破壊しなければ真正面から侵入することは難しい。

 ならば、奴らが侵入したのはあの魔獣の能力によるものである可能性が高い。

 では、肝心のその能力とは何なのか?そんな思考が再びアスカの思考を支配する。

 そして、その思考を遮るようにレイアの影から魔獣が現れる。

 そう、ダークネス・ウルフは影の中を移動することができる魔獣だった。

 だから、魔獣を見失い、命を奪われる兵士が多かったのだ。

 だが、気付くのが少し遅かった。今まさにレイアはダークネス・ウルフに命を奪われそうになっていた。

「…!レイア様!」

 今から守るのは間に合わない、アスカが選んだ手段は刀を投げつけることだった。

 そして、その判断は正しくもあったが、同時に大きな隙を見せることになってしまった。

 彼女が投げた刀により、確かにレイアは救われた。だが、それと同時に武器を手放したアスカは無防備になってしまう。

 そんな無防備なアスカを魔獣が見逃すわけもなく、影から忍びより、彼女を斬り裂かんと襲い掛かる。

(…ここまでか…!)

 死を覚悟し、いずれ来る痛みに備えるようにアスカは思わず目を閉じた。

「させるか!」

 聞き覚えのある声にアスカは目を開いた。

 そこに映ったのは、空のような蒼い瞳と夜空を思わせる黒の瞳を持った青みがかった黒髪の青年の姿。

「ミライ殿…?」

「アスカ、無事?」

「私は無事です…ミライ殿はどうしてここに?それに私にもミライ殿の姿が…」

「とりあえず、今それは後回し!この状況を切り抜ける!」

 そう口にして、未来はアスカを守るように前に出るのだった。

_______

_____

___

時間は少し遡る。

 レイア達にあの場を任せて別の戦場へとやってきた未来は辺りを観察し、そこで驚くべき光景を目にする。

「おかしいな…兵士達の姿は見えるのに、魔獣の姿が見当たらない」

『確かに…魔獣がいないのは変だね…もう少し観察してみようよ』

「だな…」

 そして、彼は再び観察する。

 だが、しばらく待っても一向に魔獣の姿は現れない。痺れを切らして、彼は他の戦場へと移動する。

 今の彼は実体を持たない為、移動方法は空中を飛ぶような状態になる。それ故、普通に移動するよりも速い。

 そうして、それほど時間が掛からずに次の戦場へと移動したのだが、そこにも魔獣の存在はなかった。

「ここにも居ない…なぁ、岡野さん、これは本来のルートでもこうなのか?」

『うーん、本来のルートではちゃんと魔獣が居たんだけど…一応、もう一つの戦場に行ってみて』

「了解」

 指示に従い、彼は再び別の戦場へと移動する。

 だが、やはりそこにも魔獣の姿はなかった。

「ここにも居ないか…じゃあ、このままレイア達の支援に戻ろう」

『そうだね…他の戦場に敵がいないなら、気にする必要はないし』

 そんな会話を交わして、彼はレイア達の居た戦場へと向かう。

 そこで、彼の目の前に先ほどまで感じていた驚き以上に信じられない光景が広がっていた。

「おいおい、魔獣どころか、さっきまで戦っていたレイア達すら居ないじゃないか!どういうことだ?」

『これじゃあ、まるでレイア達だけが別の空間に飛ばされちゃったみたい……まさか!?絆野君!周りを触ってみて!』

「えっ?わ、わかった。とりあえず了解!」

 そうして彼は言われるがままに何もない場所に触れていく。

 すると、辺りに漆黒の空間が現れ、中でレイア達の戦っている姿が映っていた。

「これは一体…」

『やっぱり…この空間は対象を閉じ込めて、魔獣達を強化する空間なんだ…本来なら、これが出てくるのはもう少し先のはずなんだけど…』

「詳しい話しは後!今はこれを突破する方法を教えてくれ!」

『わかった!安心して、方法はシンプルだから!』

「その方法は?」

『思いっきり殴る!この空間、外側からの衝撃に弱いの。まぁ、普通の人には破壊できないし、知覚することもできないんだけど、神の使徒ならできるよ!』

「了解!これでどうだ!」

 未来は拳を振り上げ、力を込めて漆黒の空間に拳を叩きつける。

 その攻撃により、漆黒の空間が破壊され、未来の目に、魔獣に襲われそうになっているアスカの姿が映る。

 させるものか、そう決意を顕にし、アスカの元に高速で移動する。

「させるか!」

「ミライ殿…?」

_______

_____

___

「アスカ副団長!無事ですか?」

「はい。ミライ殿のおかげで助かりました」

「2人共無事で良かった…」

「使徒様、ありがとうございます!アスカ副団長を助けてくれて」

 気にしないで。未来はレイアとアスカにそう伝え、眼前の敵に意識を向ける。

「使徒様…?さっき、どこからともなく声が聞こえたと思ったらそういうこと…まさか、アストリウスに神の使徒がいたなんてね」

「あなたも俺の声が聞こえるんですか?」

「えぇ、そうみたい。使徒の声が聞こえる人間は珍しいって話だけど、意外とそうでもないのかしら?」

「さぁ、どうだろう…俺はレイアとアスカ、そしてあなたぐらいしか俺の声を聞ける人に会ってないから何とも」

「そうなのね」

「それで?まだやるんですか?」

「そうね…このまま戦っても良いけど、神の使徒が居るんじゃ少しこっちが不利かもしれないわね…ダークネス・ウルフ達の能力にも察しがついているだろうし…うん、ここは撤退すべきね」

 そう言って、オルテナは身を翻す。これは未来達に背を向ける形となるが、周りの魔獣達が警戒している為、彼らも下手に動くことができない。

「あ、そうそうまだ名乗ってなかったわね。私の名はオルテナ…また会いましょう、神の使徒さん」

 オルテナは最後にそう告げて、ダークネス・ウルフと共に影の中に消えていった。

「とりあえず、帰ってくれたってことかな…」

「そうですね…うん?つまりこれは!」

「はい、我々の勝利です。レイア様」

 アスカのその言葉と共に生き残った兵士達が歓声を上げる。

 イールンの兵士が撤退し、アストリウスはこの戦いに勝利したのだ。

//////////////

「なんとか勝てましたね!使徒様」

「あぁ、そうだね…」

 そう口にする使徒様の顔色はあまり良くない。

 思えば、使徒様はこの戦いの最中、ずっとこんな状態のままだ。

 おそらく、彼は戦場に慣れていないのだろう。本人も新米使徒だと言っていたし。

 私達よりも上位の存在である、使徒様…だけど、中身は私達と変わらない普通の人間だ。

 そんな使徒様に、失礼ながら私は親近感を覚えてしまう。

「ミライ殿、改めてありがとうございます…あなたが居なければ、今頃私はこの世を去っていたでしょう」

「いや良いって、気にしないでくれ。そういえば、アスカにも俺の姿が見えるようになったんだっけ…何でなんだろう?」

「それは私にもわかりませんが、ミライ殿の姿を見ることができたのは素直に嬉しいです」

「俺もレイア以外に俺の姿を見ることができる人が増えたのはありがたいよ」

「あなたの力になれるのであれば嬉しい限りです。これからは、誠心誠意あなたに仕えます。ご要望があれば何なりと」

「いやいや、そんな大げさな…」

 そんな風にアスカ副団長と使徒様が会話をしているのを見て、少し羨ましく思う。

 私も、もっと使徒様と会話したいのに。

 そんな気持ちを抱いていると、突如として使徒様の体が光に包まれる。

「使徒様!?体が光っています!」

「あぁ、びっくりさせちゃったな。これは問題ないよ…ただ、一旦夢の楽園に戻るだけだよ」

 その言葉に安心する。使徒様は私の傍から居なくなるというわけじゃないとわかったから。

 なら、私も再会の約束をするとしましょう。

「そうですか…では、また夢の中で逢いましょう。ミライさん」

「あぁ、また…って、レイア!今俺の名前を…!」

 その言葉を最後に、ミライさんは夢の楽園へと帰って行った。

//////////////

「___くん____君!」

 未だ朦朧としている意識の中で誰かが何かを呼ぶ声が聞こえてくる。

 誰が俺を呼んでいるのかは明白だが、どうにも意識がハッキリしない。

 俺を呼んでいるのは岡野さんだろう。発している言葉は上手く聞き取れないが、必死に呼びかけているのはわかる。

 変な感覚だ…まるで、プールに潜っている最中に外から声を聞かされているかのようだ。

 えっと、俺ってあの後どうしたっけ…?何か、体が光って…あぁ、そうそう元の世界へと戻ったんだっけ。

 元の世界?そうだ…そうだよ!

 急速に意識が覚醒していく…すると、状況がようやく理解できるようになってくる。

「絆野君!起きて!」

 ようやくハッキリと聞こえた声に、ゆっくり目を開くと、そこには心配そうにこちらを覗き込む岡野さんの姿があった。

「岡野さん…あれ?ということは…」

「良かったぁ!ちゃんと戻ってこれたんだね…良かった…良かったよ…」

 そう言いながら、涙ぐむ岡野さんを見て、思わず手を伸ばしてその涙を拭う。

「岡野さん…えっと、ただいま。こうして無事に戻ってこれたから泣かないで」

「うん…うん…!ごめんね、何か安心したら涙が出てきちゃって…おかえり…絆野君」

 そう言って、彼女は笑顔を見せてくれた。

 その笑顔を見て、俺はようやく現実世界に戻ってきたのだと実感した。

というわけで、一旦未来は現実に帰ってこれました。

しばらくは現実世界の話になると思います。

それでは、今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます!

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