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現実✕仮想のクロスワールド  作者: 切り札の一手
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アストリウス防衛戦 前編

アストリウス防衛戦、前編です。

それでは、本編をどうぞ!

 訓練と称してアストリウスの人々を避難させてしばらく時間が経ったが、避難は順調だ。

 これも、レイア達の指示が的確で、尚且、アストリウスの人々も協力的なおかげだ。

「使徒様、ほとんどの民の避難が終わりました。もうじき、全ての民の避難が終わると思います」

「それは良かった…避難が完了次第、こっちも準備を進めよう」

「はい!…それにしても、敵は一体何者なんでしょうか?」

「…まぁ、そればっかりはなんとも…」

 本当はイールンが攻めてくるとは知っているけど…でも、俺があんまりにも詳しすぎたら、それはそれで俺が疑われそうだからな。

 だから、レイアに相談した時にも、あえて詳しい情報は伏せていた。

 疑われたら、色々と大変なことが起きそうだし、何よりレイアに嫌われたくなかったっていうのが大きい。

 まぁ、根拠のない俺の言葉を信じてくれたレイアを見た感じだとその心配はなさそうだけど。

 とはいえ、今回の俺の行動によって本来のルートから少しズレたことを考えると、あんまりレイアに重要な情報は話さない方が良いかもしれないな。

「レイア様、避難が完了しました」

「そうですか!お疲れ様です!では、私達も準備を進めましょう!アスカ副団長」

「アスカ副団長…?」

「今、どこからか声が聞こえたような…」

 アスカと呼ばれた少女は長い黒髪を揺らし、黒曜石のような綺麗な黒い瞳で声の主、俺の姿を探していた。

 確か、この娘もプレイヤーが選ぶキャラクターの1人だ。格好が女侍みたいだったから印象に残っている。

 レイア達は洋風な感じの格好なのに、彼女は和風っぽい格好だから多少の違和感を感じるけど、彼女はマグナカリバからやってきたらしいから、文化の違いと言われればそれまでだ。

 実際、マグナカリバのキャラクターは皆和風な格好してたし、そういう国なんだろう。

「アスカ副団長も使徒様の声が聞こえるんですか?」

「えぇ、先ほど少し声が聞こえてきました…まさか、あの声が使徒殿のものであったとは…」

「いや、俺もびっくりしたよ…レイア以外に俺の声が聞こえる人が居るなんて思いもしなかった」

「私も使徒殿の声を聞ける日が来るなど、思いもしませんでした。…と、失礼致しました…私はアスカ・タキザワと申します。出身はマグナカリバで、今はこの国で黎明の騎士団の副団長を務めさせて頂いております」

「これはご丁寧にどうも…俺の名前は未来。新米使徒だけど、よろしく」

「ミライ殿と仰るのですか…とても良い名ですね」

「ありがとう。俺もこの名前、結構気に入っているんだ。あー…呼び方は任せるよ」

「では、ミライ殿と呼ばせて頂きます」

「オッケー、じゃあそれで。よし、じゃあ準備を進めよう…まぁ、俺はこの国の立地とか建物を詳しく知らないから具体的なことはレイア達に任せるしかないけど」

「えぇ、お任せください!ミライ殿。では、準備を進めて参りますので、失礼致します」

 そう言って、アスカは1度お辞儀をしてからこの場を去って行った。

「頼りになる人だな」

「…そうですね…ですが、むむむ…まさかアスカ副団長が使徒様の声を…私も使徒様のことを名前で呼んだ方が良いのでしょうか?」

 何やらブツブツとレイアが独り言を口にしているが、声が小さくてよく聞こえない。

 うーん、さっきからどうしたんだ?とりあえずこのままじゃ埒が明かないし、1度声を掛けてみよう。

「レイア!大丈夫か?」

「ひゃっ!?ど、どうかしましたか?使徒様!」

「いや、何か険しい顔してブツブツ言ってるから心配になって」

「す、すみません!大したことではないんです!えぇ!本当に大したことではないのでご安心ください!」

「そ、そうなのか?それなら良いけど…」

「さ、さぁ!私達も準備を進めましょう!」

「了解!」

 何故か、顔を赤くしているレイアを横目で見ながら、俺はレイアと共に戦いの準備を進める。

 それは、武器と防具の点検、王城付近の避難所の警備の確認に陣形の確認、敵の攻撃に対する作戦会議等といったもので、俺にはいまいちわからないことも多かったが、レイアに説明してもらい大まかではあるが理解することができた。

 アストリウスは国の周りを囲むように円形の城壁が存在し、それぞれ東西南北に門があり、中央に王城がある。

 現在、それぞれの門に兵士達が防衛の為に集まっている。門以外に侵入できる可能性のある場所には罠が仕掛けられているようで、迎撃の準備は万全と言える。

 ただ、岡野さんが言ってた魔獣達の存在が気に掛かるし、油断は禁物だな。

 ちなみに、今俺達の居る司令部は王城付近にあって、万が一の時は、ここが最終防衛線になる。

 そんな風に情報をまとめていると、程なくしてその時は訪れた。

「敵影確認しました!敵はイールンです!イールンの軍勢がこちらに向かって来ています!その数、およそ2000!」

 伝令役の兵士の声が響き、周りの空気が張り詰めるのを感じる。

 ついに来たか…だけどレイアの話じゃ、この国の戦力は確か、精鋭達が揃った黎明の騎士団が500人、黎明の騎士団の次に強い騎士達が揃った黄昏の騎士団が2000人、そして魔術を扱う人達が揃った後方支援部隊が3000人の計5500人が主力らしい、それに他の一般の兵士なんかも含めると1万ぐらいは居るらしいから、2000人じゃ少なくないか?

 もしかして、この軍勢は囮で本命は魔獣ってことなのか?それなら岡野さんの話とも矛盾しないと思うし。

『絆野君、気をつけて!敵の戦力はそれだけじゃないよ!4方向から同時に攻めてくるから!』

「マジか…!」

 俺が驚きの声を上げると同時に別の伝令役の兵士達の声が響く。

 それはさっき岡野さんから聞いたばかりのことで、他の3つの場所にも3000ほどのイールンの軍勢が現れたとのことだった。

 岡野さんの言った通りだ…なんとかしないと。

「使徒様!急ぎましょう!」

「あ、あぁ!急ごう!」

『絆野君、先に西の戦場に向かって!』

 西の戦場?これもミスるとバッドルート直行とかいうパターンか…確か、西にはアスカが居るって聞いたっけ…なるほど、そういうことか。

「レイア、先に西の方に向かおう!2000の軍勢の方は数も他より少ないし、何より西の方にはアスカさんも居るから、先にアスカを自由に動けるようにした方が戦況が有利になるかもだ」

「わかりました!先に西の戦場に向かいましょう!」

 そうして、俺達は戦いの場へと赴くのだった。

/////////////

「何だよ…これ…?」

 西の戦場に辿り着いた俺の目に映ったのはイールンの兵士と戦うアストリウスの兵士達の姿。

 両者がぶつかり合う度に鮮血が舞い、断末魔の声が響き渡る。

 魔法を使うものがこの戦場に居るのか、辺りには炎が舞い上がって、建物が崩壊している所もある。

「うぅ……おぇ」

 血の臭いや、腐敗臭が混ざりあった気持ち悪い臭いに吐き気を催す。この身体は実体を持ってないせいか実際に吐くことはできなかった。そのせいか気分は最悪なままだ。

 実体はないのに、何で臭いなんて感じるんだ…いや、例え嫌な臭いを感じなかったとしても目の前の光景が目に、脳裏に焼き付いて離れなさそうだ。

 これが戦場…頭では理解していた…でも、実際目で見て感じてみると、自分の認識は相当甘かったのだと思い知らされる。

「使徒様!気を確かに!まずはこの戦場を切り抜けましょう!」

「うぅ…わ、わかってる…俺だって、こんな地獄はごめんだ」

 そうだ…なんとか切り抜けなきゃ…正直、怖い。死にたくない…誰かの死ぬとこだって見たくない。

「なんとか…なんとかするんだ」

『…絆野君、深呼吸して…』

「あ、あぁ。スゥー…ハー…スゥー…ハー。ありがとう、ちょっと落ち着いた」

 深呼吸する時に嫌な臭いも同時に吸い込んでしまったが、不思議と先ほどよりは気分が良い。

『良かった…もう大丈夫?』

「…正直、大丈夫とは言い切れないけど、さっきよりはマシだよ……岡野さん、これからどうすれば良い?」

 心配そうに声を掛ける岡野さんにそう伝え、俺は覚悟を決める。

 そんな俺の心中を察したのか、岡野さんは少し間を空けてから、これから俺のするべきことを

『まず、イールンの兵士を外に追いやって。多分、今の絆野君は神の使徒の力を使えるから大丈夫だと思う』

「その後は?」

『城門って言ったら良いのかな?とにかく、敵が入ってきている場所の近くに大きな柱のようなものが見えるでしょ?』

 そう言われ、イールンの兵士達が入ってきて場所に視線を移すと、確かにそこには大きな柱のようなものがあった。

「あれをどうするんだ?」

『あれを倒して、相手の出入りを防いでほしいの』

「なるほど…わかった、やってみる!」

『うん、頑張って…私はここで絆野君に指示したり、見守ることしかできないけど、私に出来ることは全部やってみるから』

「ありがとう、岡野さん」

 岡野さんにお礼の言葉を口にし、レイア達が戦っている兵士達を外へと追いやるために行動を開始する。

 兵士達をタップするように指で突いていき、すべて後方へと吹き飛ばしていく。

「な、何だ!?これは…!体が勝手に吹き飛んでいく!」

「ぐぉ…!」

「ぐあぁ」

 次から次へと吹き飛ばされるイールンの兵士達は訳がわからないといった様子で、門の外へと追いやられていく。

「使徒様!兵士達を外に追い出しているんですか?」

「うん、ちょっとね…さて、そろそろかな?」

『絆野君、今だよ!』

「了解!皆、ここから一旦離れて!」

「はい!皆さん、一時後退です!使徒様が何かを行うつもりのようです!」

「承知しました。皆の者、レイア団長の指示に従うのだ!」

 レイアとアスカの指示通りに他の兵士達も後ろに下がる。

 それを確認すると同時に俺は近くの柱に触れて、力を入れる。すると、柱が倒れ、イールンの兵士達が入ってきていた門が封鎖された。

「これで、敵の侵攻をしばらく凌げると思う」

「そうですね!では、今の内に他の場所を支援しに行きましょう!」

「私もお手伝い致します」

「アスカ…いや、ありがたいけど、ここに残って皆を手伝わなくて大丈夫なのか?」

 確かに、俺達はアスカが自由に動けるようになった方が良いとは思ったけど、俺達の手伝いをして大丈夫なのだろうか?

「はい、問題ありません。ミライ殿のおかげで敵の侵入は防げています…後はここの者達に任せても良いでしょう。万が一の時はすぐに撤退するように指示もしてありますから」

「それなら大丈夫か…?わかった、じゃあ一緒に行こう!」

「はい!」

「副団長が来てくれるならとても心強いです!さぁ、使徒様!行きましょう!」

「あぁ!」

 そうして、俺達は次の戦場へと向かった。

/////////////

 西から北へ、北から東へ、東から南といったように時計回りに戦場を駆け回ることにし、俺達は次々戦場へと向かう。

 どの戦場も、変わらず人の断末魔が響き、死の臭いを否が応でも感じさせられる。

 何度も吐き気を催し、何度も心が折れそうになりながらも進み続ける。

 その道中で、味方を庇って死ぬものや、不意をつかれて死ぬもの…真剣勝負の末に死ぬもの、そんな様々な死があった。

 幸いにも、俺はまだ誰かを殺すということをせずに済んでいる…それは、岡野さんの指示のおかげだ。

 最初に門を封鎖したのと同じように侵攻を防ぐこともあれば、気絶させ捕虜として捕らえたりするなどのやり方で、俺が誰かを殺さずに済むようにしてくれていた。

 ありがたいな…もし、誰かを殺したとしたら、俺は精神崩壊していたかもしれない。

「使徒様、大丈夫ですか?とても顔色が悪いですよ」

「あぁ、うん…なんとか」

「無理はなさらないでください…すべての戦場は回りましたし、これでイールンの侵攻は凌げるでしょう…ですから、しばらく休んでください」

「ありがとう…でも、まだ油断ならない状況だし、休んではいられないよ」

 岡野さんの話だと、魔獣達が襲い掛かってくるらしいから、まだまだ油断禁物だ。

「そうですか…わかりました…ですが、本当に大変な時は言ってくださいね」

「うん、ありがとう」

『絆野君、来るよ!』

 俺がレイアにお礼を言うと同時に岡野さんの声が響く。

 俺はすぐに視線を移し、その視界に映るものを観察する。

 そこに居たのはまさしく魔獣。血のような紅い眼に人の10倍はありそうな巨体…その姿はファンタジー世界の強大な獣であるベヒモスを連想させた。

 そして、その魔獣の周りには狼のような魔獣の姿があった。

 だが、何より俺が気になったのはベヒモスの上に座っている、黒を基調とした少々際どい衣装を着ている紫色の髪の女性の姿だ。

 あれは間違いなくオルテナだ…イールンの女魔術師…というか、あの衣装際どくない?

 お腹丸出しだし、ミニスカートとガータベルトに網タイツとか…一応上着を着ているけど、色々とアウトじゃない?

「あら?思ったより被害を受けてないのね。誰かの入れ知恵かしら…本当なら奇襲を仕掛けて、あなた達が疲弊したところにさらに魔獣達を投入して殲滅するつもりだったけど……」

 って、そんなこと考えてる場合じゃなかった…切り替えろ!ここからが本番なんだから。

「どうやら、私達の動きが読まれていたみたいね…まぁ、良いわ。予定通りとは行かなかったけど、結局やることは変わらないもの」

 そうして、オルテナは魔獣達を俺達に差し向ける。

『絆野君!選択肢を選ぶのはここだよ!他の皆の支援に向かって!』

「わ、わかった!レイア、アスカ!ここは任せて良いか?他の所にも魔獣が来てるかもしれないから、ちょっと見に行ってくる」

「わかりました!ここは任せてください!」

「ミライ殿、ご武運を!」

「ありがとう!行ってくる!」

 レイアとアスカの言葉を聞き、俺は他の戦場へと向かうのだった。

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