アストリウスへ
続きです。リアルクロスの世界に来てしまった未来、これからどう行動するのか?
それでは本編をどうぞ!
「何がどうなってるんだ…」
「使徒様、大丈夫ですか?顔色が悪いですけど」
「あぁ、大丈夫……って!レイア、俺の姿が見えてるのか?」
「はい、見えています!それはもうはっきりと!…正直、私も驚いています。夢の楽園から戻ってきたら、使徒様の姿があるんですから……本来、使徒様の姿を見ることはできませんし、声を聞くことができる人だって限られているはずなのに」
その通りだ。リアルクロスにおいて、プレイヤーは神の使徒と呼ばれる上位の存在であり、姿を見ることはできない。
そして、神の使徒の声を聞くことができる希少な存在こそが、プレイヤーが選ぶことができる15人のキャラクターなのだ。
だからこそ、こうして俺の姿をレイアが見ることができるのはおかしいんだ。
というかここって、もしかしなくてもリアルクロスの世界だよな…何でリアルクロスの世界に?
確か、さっきまで岡野さんの家に居たはずだよな?マジで何が起きてるんだ。
『絆野君!聞こえる!?』
「岡野さん!?どこに居るんだ?」
『良かった…絆野君、急に意識を失って、気づいたらゲーム画面に居たからびっくりしたよ……これって、もしかしなくても、ゲームの中に飛ばされちゃったってことだよね…』
「にわかには信じ難いけど、多分そういうことだよな…」
「使徒様?先ほどから1人でどうなさいましたか?」
「いや、何でもないよ…ちょっと考え事をしていただけだよ」
「そうですか…やはり、もう少しお休みになられた方が良いのではないでしょうか?」
「あ、ありがとう。大丈夫だよ、心配掛けてごめん」
レイアに心配を掛けないようにそう伝え、レイアから少し離れた場所に移動する。
後ろから彼女の声が聞こえたが、俺が大丈夫と伝えると、少し不安そうな表情をした後、笑みを浮かべて待っていますと言ってくれた。
「岡野さん、聞こえる?」
『聞こえてるよ』
「良かった。どうやらレイアには岡野さんの声が聞こえてないみたいで、ちょっと場所を変えたんだ」
『そうなんだ…じゃあ、レイアの前では私の言葉に返事をしない方が良いかもね』
「だね。それで、これからどうする?ぶっちゃけ帰る方法とかわかんないんだけど…」
『私もわかんない…だけど、そこがリアルクロスの世界なら、ストーリーをある程度進めれば帰れるかもしれない』
「なるほど…今はそれに懸けるしかないか」
『うん、それしかないと思う。ちなみに絆野君、ストーリーはどれくらい進んでるの?』
「えっと、確か……森に謎の魔獣が現れたって報告を受けて、それをレイア達、黎明の騎士団が調査して、その魔獣を撃破。その魔獣に刻まれた刻印がイールンの国のもので、黒幕はイールンなのでは?よし、とりあえず国に戻って報告だ!ってところかな」
『なるほど…序盤のクライマックスの所に近いんだね』
俺のざっくばらんな説明に岡野さんは納得したようにそう口にする。
『じゃあ、次に来るのはアストリウス防衛戦か…そこを乗り切れば帰れるかも』
「ネタバレされた…!」
『あ、ごめんね!ネタバレは未プレイの人にはあんまり良くなかったよね!本当にごめん…!』
「いや、良いよ。さすがにこの状況じゃ仕方ないし…むしろ、教えてくれて助かったよ!ありがとう」
『どういたしまして。じゃあ、アストリウス防衛戦について説明しちゃうけど大丈夫?』
「あぁ、どんとこい!」
『それじゃあ手短に説明するね。まず、ここから城に戻ってしばらく経つと、イールンがアストリウスに攻め込んでくるの』
マジか、いきなり攻めて来るのか…何気にハードモードだな。
『それで、レイア達も騎士団を率いてイールンと戦うんだけど、徐々に押されてしまう。だけどプレイヤー、神の使徒の助力によりアストリウスが巻き返すの』
「なるほど…じゃあそうなったら後は勝つだけ?」
『それなら良かったんだけどね…その後、イールンが魔獣を従えて襲い掛かってくるの…そして、神の使徒は選択を迫られる』
「選択…?」
『レイアを助けるか、他の騎士達の支援に回るかの2択だよ。ちなみに、他の騎士達の支援に向かわなかったらバッドエンドルート直行だよ』
「割と序盤からバッドエンドルートあるんだな…わかった、その時になったら他の騎士達の支援に向かうよ」
『うん、そうして。ただ、もしかしたらゲームのシナリオとは違う展開になる可能性もあるから、それは気をつけてね』
「わかった、ありがとう岡野さん、気をつける…じゃあ、そろそろレイアの所に戻るよ」
『うん、気をつけてね…私もちゃんと見守ってるから安心して』
そうして、岡野さんとの会話を終えて、レイアの元に戻るのだった。
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「お待たせ」
「使徒様、もうよろしいのですか?」
「大丈夫だよ。さ、そろそろ城に帰ろう」
「わかりました。では、一緒に帰りましょう!」
そう言って、レイアは待機していた騎士達の所に向かい、そのまま帰る準備を進めた。
防衛戦か…上手くできるかな。一応、神の使徒としての力は使えるだろうけど、失敗したらレイア達が大変な目に遭う。
この世界はゲームの世界なのか、それとも実際に存在している世界なのか俺にはわからない…だけど、今の俺にとっては間違いなく現実で…この世界に生きるレイア達にとっても現実だ。
だから、失敗するわけにはいかない…この防衛戦、絶対に勝たないと。
「使徒様!今から城に帰りますよ!」
「あ、あぁ!今行く!」
俺を呼ぶレイアの声を聞きながら、俺は彼女達の元へ歩を進めた。
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「大変なことになっちゃったな……まさか、絆野君がリアルクロスの世界に飛ばされちゃうなんて…」
意識を失っている絆野君を見ながら、そう呟く。
到底信じられない出来事ではあるけど、そうとしか考えられない状況。
それは本当に一瞬の出来事だった…彼がストーリーを進めようと画面をタッチした瞬間、眩い光が現れて、彼はそれきり意識を失ってしまった。
そして、そのゲームの画面に青みがかった黒髪の少年、絆野君の姿が映った時は驚きを通り越して、逆に冷静になってしまった。
驚いている場合じゃない、彼を助けることだけを優先しなければ、そう直感的に感じた。
かつて、私に手を差し伸べてくれた彼のように、今度は私が彼の力にならなければと。
「お母さん、絆野君をしばらく家に置いても大丈夫かな?」
「大丈夫よ。未来君なら大歓迎だから!」
「そういう問題じゃないと思うけど…まぁ、ありがとう」
お母さんは絆野君が寝ているようにしか見えてないのかな…いや、ホント天然っていうか何ていうか。
とりあえず、絆野君を病院に連れて行くなんてことにはならなそうだから一安心かな。
病院に連れて行っても解決はしないだろうし。
そもそも、ゲームの世界に飛ばされちゃいましたなんて言っても誰も信じてくれるわけないもんね。
「大丈夫だよ、絆野君…私が必ず助けるから」
私がそうやって決意を固めていると、絆野君達が城へと辿り着いたのが目に入った。
城へと辿り着くには数時間掛かるはずなんだけど、現実では、画面をタッチすればすぐに時間が経つ。
なるほど、あっちの時間とこっちの時間はズレてるんだ…良かった、時間の流れが一緒だったら、絆野君を助けるのが難しくなる所だったよ。
「ここからが本番だ…頑張れ私…絶対に助けるんだから!」
絆野君が挑むことになるアストリウス防衛戦は、序盤のクライマックスなだけあって、難易度が高い。
1つの選択肢を間違えるだけで、詰みの状態になったりするから、ミスは許されない。
だけど、幸いにもレイアルートは私の得意分野だ。成功する確率は高いと思う。
「よーし、やるぞ!」
改めて気合いを入れ直し、私はゲームの画面に視線を移すのだった。