96.謁見と答えにくい質問
騎士達を見ると、暫くして彼女らの下に一人の女性が来て、内容は聞こえないが、話し掛けていた。
話が終わると、その女性は、一礼をして戻っていく。
すると、騎士の一人が隣にいる者に話し掛け、それが終わると、話し掛けられていた者が、こちらへと駆けてきた。
刀気達の前に止まり、女性は声を出した。
「オーナーズ・オブ・ブレイドの皆さん、団長がお呼びです。私達の下へ来てください」
刀気は了解し、カノア達と共に騎士達の下へ向かう。
騎士達の下に着くと、その一人が振り返り、刀気達に近づく。
その姿を見て、刀気は、思わず呟く。
「え……?」
その姿は、装備こそ違うが、薄茶色の髪と目で、目は見覚えのある鋭さがあった。顔が見えたのは、大半の騎士と違い、ヘルムを被っていないからである。ちなみに、装備は違えど、剣は初めて見た時と同じものであった。
彼女は、礼をしながら感謝を述べる。
「此度の戦闘、加勢していただきありがとうございます」
刀気は、感謝への返答ではなく、疑問に思ったことを口にした。
「何故、ジャンヌさんがここに?」
そう、眼前にいる女性は、国主が訪れたときに護衛の騎士と共にいた、国主の側近であるジャンヌだった。
ジャンヌは、体を戻し、口を開く。
「……そうか、お前は知らないのだな。私は国主様の側近と騎士団団長を兼任している」
刀気は、内心では驚きつつも、納得する。
「そうだったんですか」
側近と騎士団長、二つの大役を担っているのは初耳だが、思えば、実力を備わっていることが窺えた。先の戦いの時に少ししか見えなかったが、騎士達の中に明らかに他の騎士とは動きが違う者がいた。動きが速く、顔がよく見えなかったが、よくよく考えれば、あれはジャンヌだったのだろう。薄茶色の髪に見覚えがある剣といった、前方の女性と一致する部分があるからだ。当時は、無駄のない立ち回りや読まれにくい攻撃しており、刀気にとってその動きは、経験上熟練者の動きだと判断していた。元の世界でも、ゲームの中でだが、同じような動きをし、そのゲームのシステムを完全に理解したような強者を、刀気は何人も見てきた。それ故の判断である。
つまり彼女は、それだけの実力があり、兼任は、その結果だとされる。
騎士団長は、咳払いをした後、話し始めた。
「本題に入るが、今回の戦果により、お前達には、国主様に謁見することを求める」
刀気は、確認するように問う。
「謁見……、ですか?」
国主がこちらへ訪れることはあったが、こちらが向かうことは、少なくとも刀気は初めてである。ましてや、謁見という単なる訪問ではないので、国主からの方とは意味合いが異なる。謁見自体は、ゲームで何度か見たことがあるが、実際に経験するとなると、緊張せざるを得ない。
ジャンヌは頷き、二言目以降は、これからのことを告げる。
「そうだ。私は先に行き、国主様へ伝えるため、案内は副団長が務めさせてもらう。他の者には、負傷者の手当を命じる」
そうして、彼女は振り向き、騎士達の中の一人を見て、言う。
「頼んだぞ、ティミー」
声を掛けられた人物は、怯えた顔で返事をする。よく見ると、その者もまたヘルムを被っていなかった。
「は、はい!」
ティミーと呼ばれた女性は、白髪で茶色い目をしており、髪にはヤミのように撥ねているところがあるが、彼女より少ない。装備は薄茶色の髪の女性と似ているが、デザインが所々で異なっている。
向き直したジャンヌは、手招きをして、刀気を呼ぶ。
「それと、鶴元刀気。私の前にこい」
刀気は、言う通りにジャンヌの前へ行き、近づく。
すると騎士団長は、顔を刀気の右耳に寄せ、囁く。
「お前は、甘すぎるな」
「……!」
ジャンヌの囁きに、刀気は思い当たるところがあり、無言で驚く。それは、彼女が刀気を見たときに、少しの間、目を下に向け、眉をひそめたことである。
囁かれた直後に、ちらりと下を見ると、峰を後ろ向きにした言技化丸があった。どうやら、ザドを倒した後、無意識のうちに刀の向きを戻すことを忘れていたようだ。つまり、ジャンヌはその状態の刀を見て、刀気が峰打ちを行ったことを察したとされ、さっきの囁きをしたとされる。まあ……、言ってしまえば、自分のミスで、峰打ちを使っていたことがバレたということだ。
刀気の戦い方と騎士達の戦い方を思い返せば、甘すぎると言われるのも仕方がないのだろう。理由としては、刀気は峰打ちだが、騎士達はそのまま攻撃していて、敵ともども出血していたからである。なので、血を流さない刀気の戦い方は甘いとされても、反論はできない。しかし、たとえそうだとしても、自身の選択を後悔するつもりはない。刀気達の戦い方がどのようなものかは、発案した時に理解しており、その上で選択したものだからだ。
もしも、今回のような戦いがこれからもあり、そこで敵が峰打ちに気づき、反感を買われたとしても、変えることはないだろう。だが、峰打ちを過信するつもりはなく、使うときは細心の注意を払っている。何故なら、単なる峰打ちではなく、身体強化込みのものであるため、加減を間違えれば、どうなるか分からないからだ。場合によっては、通常では起こりえないことになる恐れがあり、倒れたまま一度たりとも動かなくなることもあり得る。故に、行動自体は甘いとしても、行う側からすれば、簡単ではないのだ。
しかし、刀気は事情を説明することなく、表情を改める。理由としては、事情説明が、自身の甘さへの言い訳として解釈される可能性があるからだ。
ジャンヌは、刀気の右耳から顔を離し、口にする。
「それでは、私はこれで失礼する」
そうして振り返り、デュルフング城へと歩いた。
刀の向きを戻し、鞘に納めてから、刀気は元の位置に戻る。
すると、ティミーがこちらへ来て、口を開く。
「……で、では、私が案内を務めさせてもらいます。鶴元さんとミウさんとは初めてですので、自己紹介を。私は、ここの騎士団の副団長をしていますティミーといいます」
続けて、刀気とミウが自己紹介で返す。
「お――自分は、オーナーズ・オブ・ブレイドのリーダーの鶴元刀気です」
「わたしは、メロディアスから来ました、ミウといいます」
そこで刀気は、あることに気づく。それは、騎士団の中でヘルムを被っていないのが、見えている限りでは団長と副団長だけだということだ。そこから、その訳は、階級の違いを表すためのものだと推測する。ちなみに、団長と副団長で装備のデザインが違うのもそのためだとされる。
そして副団長は、身振りと共に案内を促す。
「……では、改めて案内を始めます。わ、私について来てください」
その後、ティミーは城の方を向いたので、彼女に合わせて、刀気達は歩み始めた。
それから暫くして、ティミーが足を止めたので、刀気達も止まると、白髪の女性は振り返り、右方向を示して言う。
「こ、ここが、謁見の間となります。私は、戻られたらときの案内のため、ここでお待ちしていますので……」
右を向くと、大きな扉が見え、両隣には全身鎧を着た者がいた。
扉に近づくと、鎧姿の二人が来て、右側の人物が声を掛ける。
「オーナーズ・オブ・ブレイドの皆さんですね。それでは、ドアをお開けいたします」
二人は、ドアに向かい、左右の把手をそれぞれ持って開けた。
開かれた先には、長く伸びる赤と黄色のカーペットに様々な装飾、奥には二段の段差があり、その先には、玉座に座る国主オルトリーベとその隣にいる側近のジャンヌがいた。
刀気は、謁見の間に入り、途中でカノア達が止まったので、同じく足を止める。
――確か、こんな感じだったかな。
ゲームで見た謁見のシーンを思い出し、それを基に跪き、胸中で確認した。
一応、視線でカノア達を見ると、刀気と似た姿勢であったため、間違っていないのだろう。
すると、オルトリーベが言葉を発したので、刀気は顔を上げる。
「……面を上げよ。此度の戦闘、よくぞ勝利してみせた。聞いたところでは、敵部隊の隊長を、鶴元刀気――貴様が倒したようだな」
刀気は、緊張しつつも、返答する。
「は、はい」
といっても、峰打ちにより、敵部隊長は恐らく気を失ったのだが、言わぬが花だろう。
国主は、凛とした顔で、用件を言う。
「さて、貴様らを呼んだのは、此度の戦闘における報酬についてだ。今回の場合は、貴様らだけではなく騎士団も戦ったので、すまぬが以前のように与えることはできぬ。なので、ウエポニアとの戦いを終わらせた暁に与えることにした。もちろん、量は弾んでおき、はぐれ外獣の戦いの時は、今まで通り報酬を与える。それと、以降もウエポニアの部隊が現れ、戦った場合も今回と同じだ」
この国の財産がいくらあるかは正確には不明だが、限りはあると考えれば、刀気達だけではなく、五十人程いる騎士団員全員に与えるとしたら、莫大な量になるだろう。そして、オルトリーベの言葉から察するに、ウエポニアとの戦いの度にそれを行うだけの量はないと思われる。国の財産となると、様々なことに使われるとされるので、報酬に莫大な量を振り分けることはできない。故に国主は、その代替案を提言したのだろう。国のこととなると、刀気達に出来ることはあまりないので、拒否する要因はない。何故なら、無理に反論しても財産が増えるわけでもなく、もし通ったとしても、量によっては、財政を悪くする恐れがあるからだ。
刀気は、ゲームで見た動作を真似して、その時に聞いた台詞を口にした。
「……有り難き幸せにございます」
その後、オルトリーベは口を動かす。
「余からは以上だ。戻ってよいぞ」
刀気は、ゆっくりと立ち上がり、礼をして、踵を返し、立ち上がっているカノア達と共にこの場を後にする。
謁見の間を出ると、ドアが閉まり、眼前にいるティミーが声を出す。
「お待ちしておりました。で、では、城門へと案内いたします」
そうして、刀気達は、城門へと歩いていく。
城門に着くと、ティミーはこちらを向き、一礼をしながら言った。
「それでは、私はこれで……」
そして、彼女は、刀気達の右側に移動し、駆け出した。
その音が遠くなった後、刀気達は、デュルフング城を出る。
歩いている中、ラン達が声を発する。
「しっかし、謁見なんて久しぶりだよな」
「そうだね。確か、数ヶ月ぶりだったかな」
「うん、確かそのくらい」
「ですが、刀気さんとミウさんと共にしたのは、初めてですわね」
するとカノアが、刀気に声を掛けた。
「そういえばトーキよ、妙に慣れていた感じだが、経験があるのか?」
刀気は、声がした右隣を向き、困り顔で口を開き、答えにくい質問であるため、最後は笑って誤魔化す。
「あぁ……、それは、何っていうか、その……、あっはははは……」
ちなみに、他にも理由はあり、それは、流石にゲームで知ったからとは言えないからというものだ。
カノアは、怪訝な顔をするが、数秒程で戻し、それ以上は追及しなかった。
刀気は、内心で安堵し、向き直した。
その後、ミウの声が後ろから聞こえた。
「わたしは初めてだったから、みんなの動きに合わせていたわ。メロディアスでは、そんなことなかったしね」
それから、刀気達は、いくつかの雑談をしながら、帰路に就いた。




