48.同性での付き合いと新事実
刀気が驚いている最中、四人の声が聞こえた。
「そうか、それは良かったな」
「まさか、妾とトーキに続いて、シャリアとヤミもか」
「へえ~、そうか」
「おめでとうございます」
思わず左右を見ると、四人とも平然とした顔をしていた。つまり、困惑しているのは、刀気だけということである。そう判断すると、自分だけ違う反応をしているような感覚に陥った。刀気にとっては、驚く方が一般的だと思っていたが、どうやら、この世界もしくはこの国では、違うようだ。しかし、その理由が分からなければ、たとえここの常識だとしても、理解するのは難しい。
前に向き直して、刀気は、胸中で、疑問を浮かべる。
――え? 何でそんなに平然としてられるんだ? シャリアとヤミってことは、女の子同士が付き合うってことだろ。まあ……、俺がいた世界でも、えっと何だっけ、LGB……なんとかの関係で、パートナー関係で同性でも付き合っている人は増えているけど。まさか、異世界で同性愛があるとはな。でも、そもそも可能なのだろうか。確かに、この国では、現地人の男性は滅んだけど、それだったら、他国の男性と付き合えばいいのに。何か出来ない理由があるのだろうか。こうは言っているけど、別に、同性愛に否定的ではない。でも、異性愛が主な世界にいた俺にとっては、驚くべきことなんだよなぁ。とにかく、真相を聞き出すとしよう。
驚く顔を不安に変えて、恐る恐る、レイに目を向け、声を掛けた。
「あの……、レイさん、ここは、女性同士が付き合うのは、いいのでしょうか?」
怪しまれることを承知して訊ねているので、もしそうなれば、正直に答えるしかない。噓を言っても、疑いが晴れるとは限らない。ならば、真実を伝えたほうがいい。といっても、それも相手にとっては、噓のような話だと思えるので、納得するかどうか分からないが。しかし、そちらの方が、刀気にとって、罪悪感がないのは事実である。
この行動をするかは、レイの答えに懸かっているので、その口が開くのを待つ。
問いに、レイは、頷いて答えた。
「ああ、そうだ。そうでなければ、子孫を残せないからな」
そんな、刀気にとっては矛盾めいた答えに、問い返す。
「それって、どういう……」
疑問を持つのは当然である。何故なら、専門知識がなくても、異性でなければ、子を産むことは出来ないのは、知っているからだ。故に、刀気には、その仕組みが想像出来なかった。そもそも、それを可能とする方法があるのだろうか。まあ……、ここは異世界であり、もしかしたら、こちらの常識が通じない方法があるのかもしれないが。現に、デュルフングには、能力を持った剣という、超常の存在がある。その内の一つに、可能とする物があっても、不思議ではない。
この国の技術レベルは、街を歩いたり、歴史書を読んだりした結果、異世界ものでありがちとされている、中世と近世の間あたりだと思われる。なので、技術的には、この疑問は解消出来ない。だとすると、技術とは別の系統を持つ、能力という存在によるものだとするのが、妥当である。こちらならば、まだ可能性は十分あり得る。何故なら、行ったことは、言わば不可能を可能にするのと同義であり、成すためには、超常の存在でなければ納得がいかないからだ。
女性は目を丸くしたが、数瞬後、それを戻して、納得したように頷いてから、口を開く。
「知らなかったのか、では、順を追って説明しよう」
説明によると、男性が滅んだ後、これからどうするか協議がなされた。他国に手を貸そうにも、助けを求めるときに、原因は不明だが、国から出られないのは判明しているので、それは出来ない。考え悩んでいると、最終手段として参加していた当時のブレイドガールズの一人が、意見を申し出た。それは、彼女が持つ、剣の能力で解決するものだった。その者が持つ剣は、斬ったもの及び、それに関係するものを改変させる能力を有していたのである。異論はなく、すぐに可決された。
後日、その者は、皆の前でガードル中心部の地面を斬りつけ、剣を抜かずに、この国の女性が同性でも子を産めるようにするのを願った。そうすると、剣を中心に光が発生し、広がっていって、数秒後に光が晴れていく。そして彼女は、周りにいた住民達に、これで子を産めることを告げた後、剣を抜き、鞘に納めた。
住民達は、歓喜に湧いた……わけではなく、確認をしていないためか、期待半分不安半分のような反応をした。
だが、その場に居合わせた国主の後日実証を行うという宣言に、住民達は、幾分か顔を和らげていく。
それから、実証当日、元々互いに好意を抱いていた女性二人が、実証のために付き合うと、何カ月か経った頃に子を出産した。元気そうな女の子で、万が一を考え、検査されたが、異常は見られなかったという。その時には、住民達の口から喜びの声が響いた。
実証が成立したのを機に、何組か同性で付き合う者が増えていった。しかし、新たな事実が判明する。それは、産まれてくる子が女の子だけというものだった。原因は不明で、解決する術は彼女らにはなかったが、子孫を残せる事実が大きかったので、深追いしなかった。
付き合っている者は、友人や最初の一組と同じ相思相愛などがいたが、男性と結婚したかった者も少なからずいて、彼女らは、子孫を残すためとして付き合ったという。まあ……、男性と結婚出来ないなら、独身を貫くという、極端な人物もいたようだが。
最後に、その効果は、今なお続いていると言って、レイは、締めに入ったのである。
説明を聞き、刀気は、心の中で新事実を纏め、気づいたことなどを言う。
――つまりその、改変の能力を持った剣を持つブレイドガールズの一人が、この国の女性は同性でも子を産めるようにしたのか。デュルフングでは、何らかの要因で他国にいくのが出来なくなっていて、それを解消させるための措置だという。しかし、唯一の欠点として、産まれてくる子は、女の子だけだった。だから、あの時、男の子が産まれるのを望んだのか。考えてみると、さすが異世界って感じだな。でも、シャリアとヤミがかぁ……。確かに、二人とも互いを大切にしていると思うけど、まさか付き合うとは。異世界、というよりこの国で、恋愛観の違いを知ってしまうなんてな。まあ、とりあえず、お祝いしなければな。
目線をシャリアとヤミに向けて、お祝いの言葉を述べた。
「二人とも、おめでとう」
二人は、刀気から見て右から順に、微笑んで感謝した。
「うん、ありがとう」
「ありがとう」
二人が顔を戻した後、中性的な少女が口を開く。
「で、僕達が付き合うことになった経緯なんだけど……」
そこから昨夜の出来事を、話し始めた。
部屋で、ヤミから告白をされ、少し考えてつつも、受け入れた。
すると、彼女から刀気について問われたが、人の恋路を邪魔したくないという一心で、彼を諦める決意をし、正直に答える。ここでシャリアが、照れながら、刀気を気にしていたのを明かす。理由としては、彼の人となりや、三日前の夜にした話がきっかけだという。
黄緑色の髪の少女は、咳払いをして、頬の赤みを薄め、話に戻った。
その後は、銀髪の少女が、付き合ったことの証明とばかりに、灯りを消して、キスをしてきた。
それが終わると、驚きつつも、確認を取る。
ヤミが、頷いてから、シャリアからもしなければ、証明は成立しないという言葉を発したので、その通りにしていく。
唇と体を離した後、恥ずかしさに耐え切れず、就寝することを提案した。
小柄な少女は、首肯してから、続けて、同じベッドに寝るのを希望してきた。
そうして、希望通りに、同じベッドで寝ることに至ったのである。
「……というわけで、僕達は付き合うことになったんだ。実を言うと、眠れなかった理由は、それがあったからなんだよね」
と、言って苦笑する少女は、一度、口を閉じた。
話に刀気は、口中で、言葉を連ねた。
――そっかあ、昨日の夜にそんなことがあったとはな。しかも、告白したのは、ヤミだったのか。ってか、シャリア、俺のことを気にしていたなんてな。それでも、ヤミと付き合うのを選ぶとは。人の恋路を邪魔したくないか……。何というか、人を思いやるシャリアらしいな。まあ、それでいいなら、俺は何も言わないが。そういえば、気になったのは、キスだけじゃなくて、同じベッドで寝たというところだ。そりゃあ、その二つが合わさったら、恥ずかしさで眠れなくなるだろうな。それにしても、同じベッドかぁ、俺とカノアがまだしてないのをするなんて。告白もだけど、それを提案したのはヤミとはな。それは、大切だからこその、積極性かもしれない。
そう思っていると、右側から、カノアの声が耳に入っていく。後半は、小声になっていて、口調も変わり、最後に、驚くべき一言をいった。
「そうであったか。しかし、シャリアもトーキを狙っていたとはな。だが、妾達を思い、トーキを奪わなかったのは、賢明な判断だ。……それより、一緒に寝たなんて。あたしとトキはまだなのに。意外とやるわね、ヤミ。あ~あ、あたしも、トキと同室にしてもらおうかな」
――そ、それは、遠慮して欲しい。
と、心の中で、願っていく。
もし同室となれば、刀気の体は持たないだろう。故に、そう願ったのである。
前方の少女は、再び口を開き、締めの言葉を発する。
「これで、僕からの話は終わりかな」
どうやら、自分の質問によって、一時脱線してしまったが、これでシャリアの話は終わりなのだろう。
しかし、色々な情報を得ることになった。シャリアとヤミの付き合いに、同性でも付き合えるだけでなく、性別が限定されるが、子供を産むことが出来るなど、思いもよらないものまで、知り得た。それにより、この国の特徴でもある、特殊な剣の凄さを、改めて思い知らされたのである。思えば、刀気やカノアなどの剣もだが、以前にも、チートじみた能力を持つものがあったことに気付く。それでも、男性で能力を発動出来るという唯一性はあるので、そこまでがっかりすることではなかった。
能力持ちの剣が、戦い以外でも役立っているのを改めて知り、刀気は、この国にとっての剣について、考えさせられた。これらは、歴史書によると、人工物ではなく、デュルフングの色々な場所にあるという。調査の結果、この武器は、建国以前からあるのだとされている。しかし、詳細は不明で、根本的な疑問は、解明されなかった。それ故、様々な説が浮上していったが、どれも確証には至らなかった。だが、特殊性があるのは確かなので、この国では剣を特別視しているのだという。つまり、デュルフングにとって剣とは、特別で国を象徴する物だと、推測される。
そこで、刀気は、オーナーズ・オブ・ブレイドが持つ剣を、思い浮かべた。確かに、この中にも、戦闘以外で役立つ剣はある。ということは、戦うための武器だけではなく、人を助けることが出来る存在でもあるのだろう。戦いが終わっても、それらの剣には、使い道が見つかるのだと思えた。
刀気は、目線でぐるりと少女達を見て、前へ向き直し、彼女達と共に戦いを終わらせるのを、改めて心の奥に刻み込んだ。




