38.管理人の一日と外獣が来ない日
管理人レイの朝は早く、陽が昇る前に、起床する。
身支度を済ませた後、まずは、朝食の準備に掛かる。
調理室で、朝食を作り始めた。今日の献立は、パンにレタスとベーコン、そして、野菜スープである。
一通り調理を終え、最後にスープをお玉ですくい、それを数センチ程の小さな皿に入れ、スープを味見する。
味見の後、レイは、胸中で、味を言葉にした。
――ふむ、こんな感じか。
準備が完了すると、レイは、一言、口にする。
「さて、と、次は……」
次は、宿舎の掃除であり、刀気達の部屋以外のところを綺麗にしていく。
掃除を終えた頃には、陽が昇っており、レイは、調理室でスープを温め直し、用意した皿に朝食を盛り付ける。
暫くしてから、スープを専用のカップに入れ、朝食を食堂へ運ぶ。
配膳を終え、席に座って待っていると、刀気達が食堂へと入っていき、そこから朝食が始まる。
食事後、自分のも含む食器を、ある程度ずつ調理室に運ぼうとしていると、メザリアに声を掛けられたので、用件を聞き了承した。
その後、片付けを再開し、全ての食器を運び終えたら、次は、それらを洗っていく。
食器洗いが完了し、それらを元あった場所に戻して、洗浄に使った道具を片付け、額の汗を右腕で拭い、口を開く。
「ふ~、後は、部屋で過ごすか」
そうして、拭っている腕を下げ、レイは調理室を出、管理人室へと向かう。
管理人室で、部屋にある本を手に取り、椅子に座って、読み始めた。レイの趣味は、読書で、マイがいた頃は、よく読み合ったものである。まあ……、レイに影響を受けて、カノアも、同じ趣味となったが。彼女自身は、色々と読んできたことによるものだと思っているが、実はこちらの影響を受けていることを、レイだけが知っている。
数冊程読んでいるとき、レイは中断し、口にする。
「……そろそろ、昼食の準備に掛かるとしよう」
そして、調理室へと行き、そこで、昼食の準備に取り掛かった。
今日の昼食は、サンドウィッチ、付け合わせの野菜と白身魚のムニエルである。
早速調理を始め、数十分後、四人分の昼食が完成した。
その配膳を終えると、一言いった。
「よし、後は……」
すると、正午を告げる鐘の音が聞こえたので、ラン達を呼びに行く。
ランの部屋の前に着いたレイは、一回ノックしてから、ドア越しに、声を掛けた。
「ラン。昼食の時間だ」
しかし、反応がなく、疑問に思い、心の中で呟く。
――いないのか? 部屋でないとすると、一体。
彼女なら、呼んだ瞬間、足音がし、ガバッとドアを開け寄ってくるのだが、今日は違っていた。
管理人は、間を開けてから一言口にして、ドアを開ける。
「開けるぞ」
だが、そこにはランの姿はなかったが、見回すと、あることに気づく。
それは、剣掛けに、大剣がなかったことである。
そこから、彼女の状況を察し、答えを、胸中で言う。
――そういうことか。だとすれば、今は、外ということだな。
その後、ランを呼びに行き、次に、シャリアとヤミの部屋に行く。
こちらも、同じく、ノックの後、呼んだ。
「シャリア、ヤミ。昼食の時間だ」
呼び掛けに、シャリアがドア越しに、答える。
「今行く~」
レイは、その言葉に、了承していく。
「分かった。先に、食堂で座っている」
昼食時、レイは、ランの方を向いて、口を開いた。
「そういえば、まさか、素振りをしていたとはな」
ランは、時折食べつつ、返した。
「まあ、暇だったし、じっとしているのに、耐えられなかったからな」
じっとしていられないのは、彼女の性分で、頭を使うより、体を動かす方がいい人種である。……しかし、時間を忘れるまでに、動かしていたのは、どうかと思うが。
レイは、理由に納得し、向き直す。
「そうか。ならいいが」
ふと、目線を、左に動かすと、左隣の少女の目や目元が赤くなっていることに気づいた。
管理人は、彼女の方を向き、問い掛ける。
「? シャリア、目が赤くなっているが、どうかしたのか?」
管理人として、居住者の健康を気にしなければないので、万が一のことを想定した上で、問い掛けたのである。
気づいたシャリアは、かぶりを振って、答えた。
「ううん、何でもないよ」
しかし、納得が行かず、心の中で、言葉にする。
――そうは言っているが……、何かあるとしか思えない。少なくとも、いいことではないはずだ。一体、何があったんだ。…………、情報が少なすぎて、見当がつかないな。……確か、朝食の時に、シャリアはヤミに話があると言っていたな。もしかしたら、そこで何かがあったのかもしれない。二人は幼馴染だから――いや、幼馴染だからこそという可能性もある。確かに、ヤミは色々と気になるところがあるが、もしや、それについてのことだろうか。とすると、その話で、何らかのことが起こり、それによりシャリアが悲しみ、涙を流したと推測される。だが、シャリアが何でもないと答えたということは、あまり言いたくないことだと思われる。私とて、無理強いする女ではない。気になりはするが、これ以上の詮索は止めにしよう。
そうして、レイは、向き直して、昼食を再開させた。
食べ終え、片付けの後、レイは管理人室に戻り、机を見て、口を開く。
「今日は、今のところ、外獣出現はないから、報告書は書かなくていいな」
あくまでも今のところであるが、大体この頃ぐらいから、報告書を書いていく。しかし、外獣の出現がないため、現在は、報告書に書くことはない。といっても、油断禁物なので、準備くらいはしておく。
準備を終えてから、読書を再開した。
二、三冊くらい読んだところで、本を閉じ、心の中で、一言いう。
――そろそろ、来る頃かな。
大体この頃に、宿舎へ、ある人物が来る。それも、約一年続けば、慣れていき、ドア前で待たなくても、分かっていくのだ。
レイは、立ち上がり、部屋を出ると、案の定、大扉からノックの音がした。
「今行きます」
と、言ってから、大扉に向かう。
開けると、そこに、革製の巾着袋を持った、女性がいた。
彼女は、外獣が出現した翌日に報酬を届けてくる人物である。金銭に関係する大臣の部下で、これが主な仕事だという。
女性は口にし、途中で、巾着袋を、差し出す。
「レイさんですね。昨日の分の報酬を、届けに来ました」
「はい。謹んでお受け取りいたします」
そう言って、レイは、袋を受け取る。
部下とはいえ、大臣の部下なので、敬意を払っている。
女性は、一礼して、言葉を発した。
「では、私は、ここで失礼します」
管理人は、頷いて、返答する。
「はい。御足労いただき、恐縮です」
管理人室に戻ったレイは、報酬が入った袋と同じものと紐を六つ用意し、報酬とそれらを、机に置く。
椅子に座った、管理人は、それらを見て、呟く。
「さて、と、報酬が入ったことだし、管理しておくか」
それから報酬を空の袋に、決められた量で入れて、一つ一つ紐を結び、最後の紐を結んで、言葉を発する。
「よし、こんなところだな」
続けて、次の予定を言う。
「後は、夕食の買物にでも行くか。そうすると、あの二人に会わないようにしなければな」
せっかく、二人っきりで出掛けているので、邪魔する訳にはいかないと思い、自分自身に注意したのだ。
そうして、レイは立って、麻の買い物袋を左肩に掛け、買物に行く。
商店街に着いたレイは、歩きつつ、口中で、夕食を決める。
――……今日は、シチューにしておくか。まずは、肉屋に向かうとしよう。
彼女は、目的地を見つけ、そこに寄る。
すると、恰幅の良い女性が気づいて、声を掛ける。
「あ、レイさん。夕食の買物かい? いい肉揃っているよ」
レイは、小間切れになっている商品を指して、女性に注文した。
「では、こちらの肉を買うとするか」
「毎度あり」
代金を支払うと、そう言って、女性は商品を取り出し、それを袋に入れ、こちらに差し出した。
商品を受け取り、買い物袋に入れ、次は、野菜売り場に足を運ぶ。
そして、買物を終えた管理人は、袋を見て、胸中で、言葉を発する。
――ふむ、これくらいでいいかな。
目線を戻して、宿舎へと帰っていく。
買ってきた食材などを調理室で用意し、レイは、口にして、夕食作りを開始する。
「では、夕食の準備に掛かるとしよう」
数十分後、シチューが完成し、味見を終え、胸中で、一言いう。
――よし、完成だな。
調理室を出ると同時に、刀気とカノアが帰ってきた。
刀気が右手で、カノアが左手を使って袋を持っており、その中が形状からして本であることから、楽しく過ごしていたことがうかがえた。
ドアが開いたときの外の様子から、夕方になっていたことに気づく。
二人と声を掛け合っていると、次に、メザリアが帰ってきた。
彼女を目にした刀気が、その姿に驚いたが、すぐ何かに気づき、顔を戻す。
メザリアとも言葉を掛け合っていると、後から、ランの声が聞こえ、暫くして、シャリアの声も聞こえた。
それにより、宿舎にいた三人は、先に食堂へと入り、外出組は、まず部屋へと戻っていく。
それから暫くして、食堂に全員が集まり、レイは、七人分に分けたシチューを調理室から運び、彼女たちの下に渡す。
食事の準備が完了し、夕食を摂っていく。
そうして、片付け、風呂の準備、入浴と続いた。
現在は、既に夜であり、管理人室で晩酌をしているところである。酒は、調理室ではなく、この部屋にあるものだ。
何口か飲んだ時に、ふと、今日について気づいたことなどを、心の中で言っていく。
――ふ~。そういえば、今日は、外獣が現れなかったな。まあ、まだ今日が終わった訳ではないから、油断できないが。理由は不明だが、こういった日は珍しくないしな。ここ最近、戦いが続いていたし、休暇ということにしておくか。あいつらも、それぞれの一日を過ごせたようだし。例え、明日に外獣が来ても、これなら、問題ないかもな。|カノアのようなことが、《・・・・・・・・・・》起こらなければの話だが。酔いが回っているせいか、戦えないことを悔しく思ってしまう。もうとっくに、剣の能力の衰えを理解し、引退したというのにな。だが、デュルフングを救うのは、私ではなく、あいつらのような、若い世代だ。終わらない戦いはない。何時かは、何代か先……もしかしたら、あいつら――オーナーズ・オブ・ブレイドが、終わらせるかもしれない。……明日も早いし、今日はもう寝るか。
口調が変わっているのは、酔いによるものだと結論付けた。
酒に弱い訳ではないが、強くもない。この酒も、別段強いものではなく、いつも晩酌のときなどに飲んでいるものである。それでも、酔うものは酔う。
それに、この酒は、マイと共に初めて酒を飲むときに飲んだ酒と同じもので、思い入れがある。それもあってか、特に晩酌のときには、この酒と決めている。
ちなみに、マイは酒に弱いのだが、よく飲んでいた。それにより、すぐ酔ってしまい、酔うと、正直面倒な程に絡んてくる。メンバーの中でも、一番酔い癖が悪く、身体が接触してもお構いなしに絡むのだ。まあ……、その対象が、レイであることが多かったが。しかし、面倒と思っても、嫌には思えなかった。それもまた、いい思い出である。
そして、グラスに残っている酒を飲み干し、それらを片付け、灯りを消し、ベッドに入って就寝した。




