20.復帰と反撃開始
ランの下に着いた時には、苦しそうな顔で外獣の攻撃に耐えている彼女がいた。
あれから、どれくらい、経ったか判断がつかないが、そう早く戻って来たわけではない、と推測する。
耐えているということは、間に合ったのだろう。しかし、同時に、苦しそうにしているランを見て、ギリギリなのかもしれない、という考えがよぎった。
機械の獣は、未だに爪で、少女のバリアを攻撃し続ける。離れる前までと違うのは、空いた右前足の爪でも、叩き付けているところである。
「くっ……、そろそろ限界かな。けど、トーキとカノアが戻って来るまで、時間を稼ぐって約束したから、ここで諦めるわけにはいかねぇ。あと少し……、あと少しでいいから、持ってくれ」
そう言って、左手を翳したまま震えているが、姿勢は一瞬たりとも、崩れなかった。
気のバリアにヒビが入っており、やがて破壊され、敵の大きな爪が、襲い掛かろうとしたその時、無意識に二人は駆けて行く。
「はああああ!」
「払いの一閃!」
二人は同時に叫び、ランの前に駆けつけ、外獣の爪を、左は刀気、右はカノアが切り払う。ガキーンと音がし、外獣は仰け反り、よろよろと後ろに下がり、体を前に傾け、轟音と共に着地する。
ちなみに、払いの一閃は、刀を横に振り、敵の攻撃を切り払う技である。大きな爪を、払うことができたということは、攻撃の重量が多くても、対応可能であることが判明した。
こういった、攻撃以外の技も使えるのは、パワー・オブ・ソードで実証済みなので、駆けつける直前、もしかしたらと思った。結果、成功し、発動することが出来た。
「お前ら、遅かったじゃねぇか。……まあでも、助かったぜ」
ランが言うと、戦場へと復帰したカノアは、顔を後ろに向け言う。
「弁明は後だ。今は小奴を倒す方が、先ではないのか」
続けて、刀気が口を開く。
「カノアの言う通りだ。だから、ラン、まだやれるか」
さっきまでの時間稼ぎで、疲労が溜まっている可能性を考慮し、当人に確認を取った。
もし、疲労が相当なほどにあったら、彼女を戦わせるのは、避けて、一旦休ませた方が良い。疲労困憊のまま行かせ、万が一不覚を取り、傷つくことになってしまうのは、笑えない冗談である。
それについては、その者がどう答えるかによって、決まる。
少女とはいえ、戦うものである以上、体力を甘く見ているわけではないが、限界はあるため、一応意見を聞くことにした。
ランの声が、後ろから聞こえてきた。
「ハッ、誰に言ってやがる、まだまだヨユーだっの。これくらいで根を上げる、オレじゃないぜ」
そう言いつつ、剣を地面に刺す音などが聞こえる。どうやら、強がりを言って、大剣を支えにして、立ち上がっているようだ。
音が消えたのは、それから数秒後のことであった。
――ランって、強がりなところがあるのか。まあ、見聞きすれば、バレバレだけど。ってか、大剣を支えにしているというが、あれは確か、ランほどの長さがあった気がするのでは。ランは、俺ほどではないけど、女の子にしては、背が高いから、腕が長かったな。あの長さなら、不可能ではないけどな。それに、刺した音があったということは、地面に刺さっているってことになる。確かに、剣の長さ的に、そうしないと、支えにならないしな。地面も別に、アスファルトな訳ではないから、することは出来る。まあでも、長さから言って、どれだけ奥にいっているのか、分からないが。そうすると、立ち上がったら、抜かなければならない。でも、片手で大剣を持てるのだから、もしかしたら、片手で抜けるんじゃ――いや、それは言い過ぎかな。これは流石に、両手じゃないか。ともかく、これにより、ランの新たな一面が、知れたな。
そう思い、刀気は、口を大きく開き、言う。
「よし! それじゃあ行くぞ! こっから反撃開始だ!」
それに呼応し、少女達は同時に、声を発する。
「応よ!」
「ああ!」
三人は同時に敵の下へ駆けて行く。
敵の下に着いた三人は、右にラン、左にカノア、そして真ん中に刀気という配置で、止まる。
「それじゃ、まずオレから行くぜ」
そう言ってランは、手に気を溜め、それを蛮族の大剣に取り入れ、気を纏った大剣を振り下ろす。
「お~~らあっ!」
気合いと共に大剣を力強く振り下ろし、下ろした地点から音が響き、纏っていた気が、衝撃波として放たれ、外獣に直撃した。
機械の獣は、悲鳴を上げようとするが、その隙を与えないように、次の一撃が来る。
ランの攻撃が直撃した瞬間、黒衣黒剣の少女が、巨獣の眼前に向かう。
「休む暇などないぞ。すぐさま、妾の番だからな」
そう言うとカノアは目を閉じ、数秒後、瞼を開くと、服と想像の具現化剣はさらに黒くなり、言った。
「暗黒輪舞斬!」
すると、カノアは敵へ更に近づき、外獣を中心に、円形に何周も斬っていく。時折、外獣の前半身、後半身で円を描くように斬る。それはまるで、その名の通り、輪舞を踊っているようだった。
斬りつけるたび、巨獣は声を上げる。それに機械部分は、徐々に破損していく。
「止めは、任せたぞ。トーキ」
カノアは、そう刀気に呼びかける。
「ああ! 任された。こいつで、終いだ」
刀気は、それに答え、言技化丸を居合の姿勢で持ち、技名を言う。
「連斬、亜数多理素久!」
刀気は、まず真っ直ぐに斬り、即座に外獣の側面に回り、直線に斬る。そして、外獣の方を向き、左にずれて斜め上に斬り、即座に敵の右横顔に移動し、斜め左上に向かって斬る。まさに、アスタリスクのマークを、描くように、切り裂いた。
最後の一撃を与えた後、その場で止まり、ちらりと後方を見ると、獣の各所から血が噴出する。
刀気が、目線を戻し、刀を納めると、外獣がバチバチと音を立て、やがて爆発したのである。
体を曲げ戻すと、すでに辺りは暗くなり、夜になっていたことに気づく。
建物の灯りは、ランプなどによる、小さなものであったが、そこまで暗くない。何故なら、主な光源はそちらではなく、上空にある月と星々であるからだ。
刀気は、見上げ、空にある二つの光を見詰め、幼い頃、数回だけ見た地元の星空を思い出す。
別に、星への興味があるわけではないが、幼心で、綺麗と思ったのは、微かに覚えている。
そして刀気は、ふと、こういうところは世界が違っても同じなんだな、と思う。
見知らぬ場所でも、同じ所があることに、安心感を覚える。
そのときの彼に、異世界転移による不安は、もうなかった。
改めてよく見ると、幾重にも煌めく星々が、まるで、刀気達の勝利を祝福しているようだった。
目線を戻し、後に振り向き、爆発した後の外獣がいた地を見て、一回、ガッツポーズをする。
「た、倒した。俺たちの勝利だ! なぜだろう、ゲームで勝ったときより、嬉しい」
刀気はそう言ったのち、左手を開き、腕を下げてから、少女たちの下に、駆けて行く。
何故なら、二人の下に向かい、この喜びを分かち合いたいからだ。
向かう途中、刀気は、胸中で、初勝利の感慨に浸った。
――最初は、意外なことが起きて、どうなるかと思ったが、こうして、誰一人死なず勝てたのはよかったぁ。まあ、戻って来たときにランが危なかったから、説得がもう少し長かったら、最悪、死んでいたかもしれない。だから間に合って、本当によかったと思っている。実際のところは、本人次第だけど、これで、カノアの過去に、決着が付いたかな。けど、最後のあれって、どっかで――いや、なんか嫌な予感がするから、これ以上考えないでおこう。今は、この勝利の余韻を、カノア達に向かう、短い距離で、味わうとしよう。
少女達に近づき、足を止めると、両者とも、嬉しさをあらわにし、刀気を見ていた。
腰や背には、既に剣が納められている。
「ああ。トーキにとっての初戦は、大勝利だな」
ランがそう言って、刀気に近寄り、背中を叩く。それは、浸っていた感慨を、吹き飛ばす程だった。
「痛っ」
刀気は、痛がりながらも、苦笑する。
叩いた手を下げ、ランは、後に下がっていく。
「妾達の力を、もってすれば、当然のこと」
と、カノアは、誇らしげにポーズまでして、言った。
これで、何度目のポーズかと思ったが、見飽きることはなかった。これもカノアであり、言うなれば、これが彼女の代名詞だと、思えていく。といっても、本人はどう思っているかは、分からないが。
「と言いつつ、急に暴走したのは、誰だったけな」
ランが、カノアをちらりと見てから、そう茶化す。
当人のことを尊重し、言わなかったことをいとも簡単に口にしてたので、注意しようとしたが、寸前でその誰かさんが、行動を起こす。
暴走を起こした人物、もとい、カノアは、慌てながらも、意見する。
「な……、それは、悪かったと思っているわよ。それに、いつも先走るあんたにだけは、言われたくないんだけど」
一応、反省の色はあるが、その後の言葉が、余計だった。そのように、相手を煽るようなことを言えば、次のことは、大方想像がつく。けれど、そう想像できる自分を苦笑するしかない、という自分が、刀気の中にいることに、気づく。
ランは、眉をひそませ、返す。
「人を、突っ込むだけのバカだと、言いたいのか」
やはり、始まってしまった。何だか、二人が向かい合うと、よくこの光景を見る気がする。
喧嘩する程なんとやら、というが、少女達を見ると、こういうのも世界関係なくあるんだな、と思えた。
相手の物言いに、カノアは、顔をキッとして、反論する。
「そこまで言ってないけど、実際そうじゃない」
その前半を無駄にするような言い方に、刀気は心の中で、それじゃダメだろう、と突っ込む。
それから先は、短い言葉の応酬が、繰り返された。
「なんだと!」
「なによ!」
何度目かの応酬の後、二人は互いの方向に向き合い、ランは腕を組み、カノアは腰に両手を当てて顔を詰め寄り、唸り合った。左の少女が腕を組んだ時、胸が上下し、男としての性が反応して、目が行ってしまった。しかし、右にもう一人少女がいることを察知し、すぐさま、目線を戻す。まあ……、カノアも顔を寄せたときに、胸が僅かながら揺れたが、申し訳ないことに衝撃はランの方が大きかったので、目がそちらに動いてしまったのである。
その時、刀気は、ここに来て二度目の、二人の間に火花が見えた気がした、という現象に遭遇する。
戦いに勝ったとしても、いがみ合う二人を見て、刀気は、これがカノアとランなのかもしれない、と思った。
「まぁ、終わったことだし、宿舎に帰ろうぜ。レイさんは既に、戻っているだろうし」
刀気がそう言って、止めに入ったことにより、唸り合いは終わった。
何とか治まり、安堵の息を吐いてから、彼女達を見ると、顔がさっきとあまり変わらないように、見えた気がする。
二人は両腕を戻し、怪訝そうな顔で刀気を見るが、互いを見合って頷き、再び、刀気の方を向いて言う。
「まぁ、釈然としないが、傷を治さなければならぬから、帰るとしよう」
確かに、見た目では分からないが、傷はそのままであるため、治療しなければならない。
敵を倒したのに、出血多量で死んでしまったら、元も子もない。
「いつの間にか夜になってたし、早く帰らなきゃな」
そうして三人は、宿舎へと向かった。




