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164.夕食と野営

 昼食を食べ終え、片付けが済むと、進攻が再開され、刀気(とうき)達は歩み始めた。なお、昼食時に、それの毒などが(ふく)まれている可能性があることを刀気が伝えようとしたが、少女達に異常はなく、伝えることを止めた。


 先の見えない森を何十何百何万歩と進むと、風景が(わず)かに変わっていることに気付く。


 刀気は、ふと見上げる。すると、雲が紫色に染まっていた。


 刀気は、そこから、口中(こうちゅう)で時間帯を把握(はあく)し、顔を戻してから森について愚痴(ぐち)などを連ねる。


 ――もう夕方か。一体どこまで続くんだ? この森。夜になると流石(さすが)に進めないと思うから、その前に抜けたいところだ。っても、その先に待っているのは砂漠(さばく)だが。


 それから、(しばら)く進んだ(のち)、オルトリーベの声を聞く。


 「……よし、そろそろ夕食にするとしよう。その後は野営だ」


 刀気達は止まり、広いところを探してから、そこを野営地として、色々(いろいろ)と行われた。


 騎士(きし)達がテントの設置を行い、メザリアとカノアが魔法や剣の能力で、木のテーブルや長椅子(ながいす)を出現させる。なお、今回も昼食時と同じくバリアが張られるが、メザリアではなく、カノアが行った。その訳は、本人が述べたことによると、今まで(あか)りやバリアをメザリアに任せており、前者は発動させてから常に出していて、後者を今回も張った場合の負担を(かんが)みての行動だからだという。


 刀気はそこで、どうやら、カノアもメザリアの魔法による負担を考慮(こうりょ)していたことを知る。


 しかし、負担はカノアにもあると刀気は推測しているものの、彼女が自身の負担を自覚しているかは不明だ。もし、自覚していれば問題ないが、逆だとしたら、カノアの彼氏として存在の有無関係なく自覚させなければならない。仮に負担があるとして、無自覚のまま倒れてしまうわけにはいかないからだ。


 ただでさえ人数が多いので、テーブルや椅子を用意する数も多い。二人で分けても、かなりの数になる。


 手伝うにしても刀気には、二人のような芸当はできないので、入る余地はない。


 それでも、万が一に備え、自身の負担について()かなければならないので、刀気は、カノアに(たず)ねた。


 結果は、自覚しており、問題はないとのことだった。


 刀気は安堵(あんど)し、彼女の邪魔(じゃま)にならないように離れた。


 設置などが終わると、一部の騎士が夕食の準備を行う。


 刀気達――オーナーズ・オブ・ブレイドとイリルとパトレーは、長椅子に座り、夕食が来るまで待つ。


 並びは、刀気側が彼の(となり)に右からカノア、ランとなり、カノアの隣にシャリアとヤミが座る。対面には、右からメザリア、ミウ、イリル、パトレーとなる。


 どれくらいか待つと、まずは皿に置かれたパンがテーブルに配られた。


 そして、木製の器とスプーンが続き、暫くして、配膳(はいぜん)が終わる。


 器には、液体状のものが入っており、他には野菜や肉が含まれている。


 湯気が上がっているところから、温かい料理だと分かる。


 刀気は一瞬(いっしゅん)、スープだと思うが、違う。液体の量が少なく、具材が大きく見え、それはただ単にカットされたものが入っているのではなく、煮込まれているような見た目をしていた。


 刀気は、それらからある料理を思い浮かべる。それは、シチューである。


 しかし、刀気が知るシチューとは多少異なり、液体と(にお)いがそれを物語っていた。といっても、こちらが知っている……というより、見慣れているのはクリームシチューなので、別種であれは、違いがあっても何ら不思議ではないが。


 刀気達は、夕食を摂り始める。


 そこで刀気は、毒などの存在を確認するが、彼と少女達に異常はなかった。なお、シチューやパンは美味しく、前者は以前食べたデュルフング鶏のスープとも元の世界で食したクリームシチューとも異なる味わいで、後者は教会兼孤児院で出されたもの程ではないもののやや硬いが、その時にした食べ方を行うことで柔らかくなると共に当時とは別の風味を(かも)し出している。


 食事の最中、少し顔を前に倒し、彼が言った。


 「結局、今日のうちに森を抜けることはできなかったか。それにしても、宿泊やお泊りは何度かあったけど、野営は初めてだな」


 実際には、宿泊が中学の修学旅行と家族との二度だけで、他は保育園でのお泊り保育などのよる泊りが大半を()める。まあ……、泊りは幼い頃が主で、それ以降はほぼなかったが。


 すると、左からランが言葉を発する。


 「なんだ、トーキ、早く抜けたかったのか? けど、この森は一日じゃ抜けられねぇぜ。ここは国一番長い森らしいからな」


 刀気は、苦笑交じりに口を開く。


 「他より長いことは知ってたが、一番とはな。そりゃ納得だ」


 と、そこで、シャリアが発言した。


 「野営は初めてって言ってたけど、トーキとミウとパトレー以外の僕達元ブレイドガールズ候補生は、養成所で訓練としてしていたきりだと思う。いつどこに外獣(がいじゅう)が現れてもいいように」


 これは、この世界に転移した日に、カノアが外出時に心構えとしている常在戦場と(つな)がることだ。恐らく、養成所の出来事から心構えを持つようにしたのだろう。


 発言に、イリルが続く。


 「まあ、あたしも野営はあれ以来かしら」


 刀気は表情を戻し、声を出して、途中、顔を上げる。


 「そういうこともしていたのか。ってことは……」


 カノアが、置いたような物音を立ててから声を出す。


 「ああ、ブレイドガールズとなってからは一度もなかった。だが、野営の心構えを(おこた)ったことはない」


 ミウとパトレーが、順に言う。


 「そうなのね。わたしもトーキと同じで今回が初めてよ」


 「私もです」


 そして、食事は続き、やがて食べ終えると、刀気は、少女達を見て(くちびる)を動かす。


 「この後はどうする?」


 答えたのはシャリアで、逆に刀気に問う。


 「暫くは自由時間かな。僕達はテントに行くけど、トーキは?」


 刀気は、(かみ)を軽く()きながら返した。


 「(おれ)もそうするかな。特にやることないし」


 すると、右耳に声が入る。声の主はカノアで、語調からして『素』のときの声である。


 「……ということは、トーキ専用のテントに行くの? やっぱり、あたし達のところの方が――」


 刀気は、困りつつも彼女を見て返答していく。


 「いや、それはなぁ……。男である俺が行くのはダメだろう。何が起こるか分からないしな」


 ――それに、そっちに行ったら、寝る時に俺の理性が()えられるか。もし耐えられなかったら……。いやいや、そんな姿、みんな――特にカノアには見せたくないし。だから、入るわけにはいかない。


 そう思い、決意を固める。


 そこで、カノアの隣にいるシャリアが右手を彼女の(かた)に置き、右を向いて口にする。


 「仕方ないよ、カノア。トーキがこっちに来るということは、一緒(いっしょ)に寝ることにもなるかもしれないし、彼女としても、それはよく思わないでしょ」


 するとカノアが、(こぼ)すように言い、少し間が開いて目を見開き、顔や耳を赤くして(もだ)えるような声を発した。


 「一緒に……、! ~~~~!」


 シャリアの隣にいるヤミが、胸をそらしながら(ほこ)らしげに言い放つ。


 「ヤミは、シャリアと寝る」


 シャリアが、右手を下げてから左を向き、左手でヤミを軽く小突いて注意する。


 「今言うことじゃないでしょ」


 ヤミは、少し前に倒し、不満気(ふまんげ)な顔をして、右頬(みぎほほ)(ふく)らませる。


 シャリアは右手を下げ、途中、手を開かせた。


 そして、右を向き、口を動かす。


 「それで、カノアはトーキが専用のテントに行くことに納得した?」


 カノアは、表情を戻してシャリアを見、答えた。その声は、『素』ではなく、『暗黒の剣士』のものだった。


 「……あ、ああ。それなら仕方あるまい。シャリアが言うことは分かるしな」


 と、そこで、ランが発声したので、刀気はその方向である左を向く。


 「けど、誰もカノアとトーキが隣同士で寝るとは言ってねぇんじゃないか?」


 そうすると、怒りによるものなのか、震えた声でカノアが彼女の名を言う。


 「! ラ~~ン~~!」


 ランは、そちらから見て左を向き、口を開いて狼狽(ろうばい)するように手振りを交える。


 「オ、オレは、事実を言っただけじゃねえか」


 その後、カノアとランとヤミ以外の少女達が笑い出し、刀気も笑い出す。


 それから暫くして、笑いが退()き、カノアとランが落ち着いたところで、食器を持ちながら刀気が立ち上がり、声を出す。

 

 「……んじゃ、俺はテントに行くとするか」


 カノア達は、もう少ししてからテントに行くようで、刀気はテーブルを離れ、片付けへと行く。






 片付けが終わり、自分用のテントに着いた刀気は、座り込み、胸中で今までのことを思う。


 ――それにしても、今のところは順調に進んでいるな。裏切り者が何かすることや、街が(さわ)ぎになっている感じはないし。でも、油断はできない。っていうか、これ以上楽観視すると、フラグが立ちそうだしな。いずれ夜になるし、夜行性の動物が(おそ)ってくるかもしれない。バリアを張ってたり、見張りがいたりとしているが、絶対に安全という訳ではない。もし、バリアが破られたら、俺達は襲われ、数によっては見張りで対処できると思うが、大勢となれば、そうはいかない。俺達も加わっていくこともあるだろう。しかし、就寝時に発生すれば、消灯されていて、夜という見えにくい時間帯での戦いなので、今までより難しいものになる。


 夜間の戦いは、発生すれば二度目だが、今回は森の暗さにより、前回よりも困難になる可能性は高い。一度目の時は、街中ということもあり、月光を(さえぎ)るものはあまりなかったが、今回は樹葉が遮るので、それ(ゆえ)に森の暗さも含まれる。


 といっても、新たな存在が現れることがあるリスクがあるものの、再び灯りを(とも)すことで、暗さはほぼ解消されると思うが。


 刀気は、両手をテントに置き、見上げながら唇を動かした。


 「まあ、一応備えておくか。けど、夜だから、『パワー・オブ・ソード』の効果時間には注意だな」


 パワー・オブ・ソードは、効果時間が一日――正確には午後十二時までとなるので、夜は時間が短くなる。加えて、任意などで解除した場合、再使用は次の日からだが、時間切れとなった場合は、リキャストタイムが発生する。暫く経つと初めて会った時と似た発光を行い、使用可能となるので、効果が切れると、リキャストタイムが終わるまでは発動中の時のようには戦えなくなるのだ。なので、特に夜は効果時間には注意しなければならない。つまり、身体強化は、この国で言う二十四の(かね)が鳴るまでとなり、再使用はそれから暫く待たないと行えないのである。このことから、戦いは、その効果時間内に終わらせるのが理想だ。


 これらから、効果時間は実際にはほぼ一日となるが、誤差の範囲(はんい)としているので、一日としている。まあ……、そうしないと、実質永続となるからだが。


 そちらの方がいいように思えるが、色々なゲームをプレイしてきた刀気としては、デメリットも付けなければいけないと考えている。


 ゲームなどの様々(さまざま)なことには、大なり小なり、メリットとデメリットがある。


 過去の経験から刀気はそれを知り、故にデメリット付与の考え――正確には、メリット・デメリットの両立の考えを持つようになっている。


 なので、効果時間を一日――ほぼ一日としているのだ。


 とにかく、夜戦が発生する可能性はあるので、警戒(けいかい)していくが、そのためにも休めるときに休む。


 刀気はそう心掛(こころが)け、体を休めた。


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