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160.決起集会

 数日後、刀気(とうき)達は、デュルフング城の門の先にある広い庭にいた。そこには、他にも全身鎧(ぜんしんよろい)姿の者達に多数立っている。恐らく、騎士(きし)団員や駐在(ちゅうざい)騎士だろう。


 すると、見上げたところにあるバルコニーから一人の女性が現れた。


 女性は数歩進んだ後、止まって口にする。


 「皆、よく来てくれた。余は、デュルフング十代目国主(こくしゅ)、オルトリーベである」


 少し間を置いてから、女性――オルトリーベは、言葉を続けた。


 「今回は、いよいよ明日(あす)決行されるポインティア進攻に向け、共に戦う者達の士気を上げるためにこのような集まりを(もよお)した」


 刀気は、この光景を見て、心の中で言う。


 ――ゲームとかで見るような感じだけど、ほぼ謎に包まれている街に行くんだから、士気を上げることは大事だしな。それを行うのが、この国の主である国主様なら尚更(なおさら)だ。


 そんな、さながら決起集会のような場でオルトリーベは、見回すように顔を横に振った後、感謝の言葉を述べた。


 「まず、戦いに参加し、この場に集まった者達に感謝する」


 そうして、真剣な物言いで告げた。


 「進攻は明日(あした)だが、ポインティアへは長く過酷(かこく)な道のりとなるだろう。(ゆえ)に進攻は、数日かかる。それに、かの街の前には灼熱(しゃくねつ)のような暑さを(ほこ)砂漠(さばく)がある。過酷さは、主にそこで言えることであり、四つの街のポインティア行きを(はば)む大きな要因の一つだ」


 刀気は、口中(こうちゅう)でもう一つの要因を言葉にする。


 ――もう一つは極寒のような猛吹雪(もうふぶき)で荒れる雪原だろう。どちらにしても過酷なのは変わらないが、砂漠の方であれば、今の俺達にはパトレーが提案した対応策がある。


 もし、砂漠ではなく雪原だとしても、カノアとメザリアの剣の能力を利用する方法があるものの、正確な範囲(はんい)が不明なので、二人の負担がどれ程になるかは予想出来ない。といっても、それはパトレーの場合でも同じだが。なお、カノアとメザリアの方法は、砂漠でも可能だ。


 そう考えると、後者の策がいいように思えるが、パトレーが恐らく自分の意思で提案したことなので、それを無下にするつもりはない。


 と、そこで、オルトリーベが大仰(おおぎょう)な動きをして、大声を出し、最後に剣を抜いて宣言した。


 「だが! 我々(われわれ)は行かなければならない。ポインティアへ進攻し、敵の野望を阻止(そし)する! 幸いにも、今回は今までとは違い、砂漠への対応策がある。このようなチャンス、逃すわけにはいかない。明日(あす)、この戦いを本当の終わりへと向かわせるための一歩を進む。我が剣と神祖の名に()けて!」


 瞬間(しゅんかん)喊声(かんせい)(ひび)き、鎧姿の者達が武器を持ち上げたのか、剣を中心とした複数種類の武器が見えた。


 (しばら)くして、声が止み、武器が視界から消え、オルトリーベが剣を納めると、口を動かす。


 「……ちなみに、余が不在の中でのガードルは、娘のジークルーベに任せることにした」


 すると、バルコニーの(おく)からドレス姿の少女が現れる。アッシュブロンドの(かみ)淡褐色(たんかっしょく)(ひとみ)をした少女、ジークルーベである。


 ジークルーベは、オルトリーベの(となり)に並ぶと、ドレスの(すそ)をつまみつつ、頭を下げて言う。


 「皆さんこんにちは、わたくしは国主オルトリーベの娘、ジークルーベと申します。国主様からのご指名により、皆さんが進攻からご帰還(きかん)するまでこの街を任せられることになりました」


 オルトリーベが、彼女の方を見て声を出す。


 「ジークルーベは、次期国主だから、国主というのがどういうのものか知っておいて損ではない」


 ジークルーベは、(はと)が豆鉄砲を食ったような顔し、それを――刀気から見て――左斜(ひだりなな)め上に向けて口を開いた。


 「お――国主様、如何(いか)にわたくしが国主様の子であっても、次期国主というのは、気がお早いかと」


 国主は、本で得た知識によると、世襲(せしゅう)君主制で即位するので、オルトリーベの言は間違いではない。


 しかし、国主の子がジークルーベだけとは限らないので、彼女が次期国主とも限らない。恐らく、それで気が早いということだろう。


 国主は、ジークルーベの異見に動じることなく言葉を発した。


 「なに、このようなことは滅多(めった)にないから、逃すともう来ないかもしれない。それもあって余は、ジークルーベに任せたのだ。次期国主は、気の早さはともかく、そうではないとは限らないだろう?」


 国主の娘は、両手を下げて裾から離すと、(うつむ)いて決まりの悪そうな顔をし、納得すると、数秒後に顔を上げて真顔で発声する。


 「確かにそうですが、……承知しました。次期国主としても、委任されたことを(まっと)ういたしますわ」


 そしてジークルーベはこちらを向き、オルトリーベが(くちびる)を動かした。


 「……さて、これにてここでの集まりを終了とする。この後は城で食事会だ。明日のために英気を養ってくれ」


 こうして、決起集会は終わり、刀気達は、騎士団員や駐在騎士と共に城内へと入り、大広間にて食事会に参加していく。


 食事会では、豪華(ごうか)な料理に舌鼓(したづつみ)を打ったり、騎士団員や駐在騎士と交流したりした。


 その中で刀気は、二人の人物と出会った。


 二人は、サウスガードル駐在騎士騎士長ナタリー、イーストガードル駐在騎士隊長アミーと名乗る。


 ポンメルトの駐在騎士と戦った時から察するに、彼女達は全員全身鎧姿だとされるが、二人は顔が見えている。流石(さすが)にヘルムを被ったままで食事するわけではないのだろう。


 思えは、大広間にいた騎士達は、目視した範囲では顔が見えていた。


 ナタリーは、琥珀色(こはくいろ)双眸(そうぼう)と赤褐色の髪をしており、アミーは緑色の双眸と整った栗色の髪をしている。


 二人は、刀気達のことを知っていると言い、色々(いろいろ)と話し合った。


 それが終わり、ナタリーとアミーが去ると、一人の女性が刀気に近づく。


 女性は、淡褐色の目と砂のような色の金髪(きんぱつ)をしていて、ある程度近づくと足を止めて「オーナーズ・オブ・ブレイドの皆さんお久しぶりです」と頭を下げながら言う。


 刀気は、そんな彼女に見覚えがなく、どういうことなのか分からないので、言葉を選び、前に会ったことあるか問う。


 なお、他に意見する者はいないので、カノア達も見覚えがないのだろう。


 すると女性は、以前この国に来たウエポニアとの戦いで、ポンメルトにその海戦部隊が現れたことについて話した。


 そこで刀気は気付き、その時に共闘(きょうとう)した駐在騎士の代表なのか(たず)ねた。


 女性は肯定(こうてい)し、ポンメルト駐在騎士代表アリアと名乗る。


 アリアは、そういえばと前置きをしてからあの時はヘルムを被っていたことを苦笑気味(くしょうぎみ)に告げた。


 刀気は、(だれ)なのか分からずにいた自分にも非があることを伝えるが、カノアがこのようなことなら仕方ないと声を()けたので、少し考えた後、受け入れることにした。


 その後は、暫く語らい、終わるとアリアが去った。


 それから刀気達が食事を再開していると、今度はジークルーベがこちらへと来る。


 彼女はバルコニーで見せたものと同じく、両手で裾をつまみ、頭を下げた。ただし、発せられた言葉は自己紹介ではなく、再会の挨拶(あいさつ)という違いがある。


 刀気達が返事をすると、ジークルーベが数日前に起きたポインティアの進攻について話した。それによると、敵の指揮官を倒したのが刀気とカノアだということを知っており、この場で彼女は()め、刀気は少し照れつつ改めた言葉で、カノアは丁寧(ていねい)な口調で返す。


 その後、話し合い、その中でレイが次期国主のこと言い出し、ジークルーベが口を開く。


 そこで刀気は、ジークルーベがヤミと同い年、つまり14(さい)だと知る。


 刀気の視線は、ヤミに移り、気付いたようにこちらを向く彼女が、「トーキ、何でヤミを見るの?」と(まゆ)(しか)めながら言った。まあ……、ジークルーベは国主の娘だからか礼儀正しいし、どこか大人びているし、……あと、服のせいなのかどうなのか分からないが、胸の谷間が見えていることもヤミを見てしまった要因なのだが。


 刀気は、振り返って動揺(どうよう)しつつも弁明する。


 しかし、ヤミは納得を示さない。


 瞬間、刀気は、右脇腹(みぎわきばら)に痛みを覚える。


 右を向くと、こちらを見ているカノアが不満気(ふまんげ)な顔で刀気に手を出しており、鼻を鳴らして目を(そむ)ける。


 視線を下に向けた先には、刀気の脇腹をつねる手があった。といっても、単につねているのではなく、(つめ)が刺すように当たっているが。


 手が離れた後は、カノア達から非難され、視線を戻した刀気はその者達やジークルーベに謝り、反省する。


 ジークルーベに注意されるものの、それ以上の言及(げんきゅう)はなく、刀気が返事をすると、彼女は去っていった。なお、謝罪を受け入れたのか、カノア達からの言及もない。


 刀気達は、再び食事に戻り、どれくらいか時間を経つと、食事会が終了した。


そして解散となった後、刀気達は帰路に()く。






 その日の夜。とある一室にいる人物は、月明かりのみが(とも)る中、紙に書いていた。


 その内容は、明日から行われるポインティア進攻についてであり、参加者や日時、隊列などが含まれている。


 暫くして、書き終えると、ペンを置いた後、紙を折り、小さくする。


 それを机にいる鳩の(あし)に結び、鳩を持つ。


 椅子(いす)から立つと、移動して、開かれた窓の前に着く。


 そして、両手を前に出すと、鳩が羽ばたき、飛び始める。


 鳩は途中左に曲がり、やがて見えなくなった。


 つまり、部屋にいる人物は、ガードルで得た情報を記した紙を鳩に(くく)り付け、飛ばしたのだ。その情報を伝えるために。なので、飛ばした鳩は、ただの鳩ではなく伝書鳩(でんしょばと)ということだ。


 伝達先はポインティアで、二週間程前のものを含め、二度目のことであり、これがその者の『本来』の役割である。まあ……、他にも役割はあるが、それは先のことだ。


 しかしそれも、今回が最後であり、後は進攻の参加者に(まぎ)れ、味方のふりをしていく。


 月明かりに照らされている人物は、両手を下げ、口にした。


 「……領主様のために(・・・・・・・)


 その者は、開口したまま(うつ)ろな目をしているが、(なみだ)が流れていた。


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