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156.代表と罠

 ガードル北門側の街道。そのとある地点で、ヘルムのバイザーを開けている淡褐色(たんかっしょく)の目をした女性が、こちらへと向かう者達を見て、剣を抜きながら号令を発し、後方から聞こえる彼女とは別の多くの女声が応じる。


 「総員構え!」


 「はっ!」


 同時に、様々(さまざま)な音を鎧姿(よろいすがた)の女性は耳にして、鳴り終えた直後、剣を突き立て、指示を出す。


 「……突撃(とつげき)っ!」


 瞬間(しゅんかん)、大勢の女性の喊声(かんせい)と大きな足音が(ひび)き、やがて、淡褐色の目をした女性のものに似た装備をした者達が彼女を通り過ぎる。


 (しばら)くして、足音が止み、金属音が響き渡る。恐らく、接敵して戦闘(せんとう)が始まったのだろう。


 すると、何人もの全身鎧姿の女性達を抜けたのか、様々な姿をした者達がこちらへと来る。


 特徴的な装飾(そうしょく)がある鎧を着た女性は、ヘルムのバイザー下げ、()け出し、向かうものを斬っていく。


 しかし、恐らく一万以上はいる相手全てに対応することは不可能で、大半を(のが)してしまい、()やみながら言うが、表情を戻して二言目を続ける。


 「くっ……、(さば)き切れない。しかし、可能な限り数を減らす!」


 大勢の相手に対し、こちらは一人なので、どのようにしても、通り過ぎる者は存在する。しかし、追おうものなら、あとに来る者達を逃してしまう。


 なので、突破された者は、デュルフング城前にいる騎士団(きしだん)やオーナーズ・オブ・ブレイドなどに任せることにした。


 だが敵を斬り続けている女性は、そのことを理由に気を(ゆる)めるつもりはなく、自分がすることを(まっと)うする。ただし、無理はしないことを心掛(こころが)けており、それ(ゆえ)可能な限りにしているのだ。無理をした場合、それが原因で悪影響を(およ)ぼす恐れがあることは、有り得ない話ではないからである。


 それから、幾度(いくど)となく攻撃する中で、彼女は、ある者達をついて思う。


 ――それにしても、駐在(ちゅうざい)騎士と共にいる者達は、実際に見ると(みょう)な姿だな。伝令によると、簡素な装備をした女性達ということだが、それを恐らく私服のままで着けていることが妙だ。それに、動きが奇妙な程単調過ぎる。まるで、決められた行動だけをしているようだ。一体何者なんだ? 服装に見た目、年代に背格好まで違う。伝令が言うには、駐在騎士ではない確率が高いようだが。……まさか! この者達は、ポインティアの一般市民なのか? しかし、どのようにして彼女達を参加させた? そもそも、駐在騎士がこのようなことをするとは考えにくい。


 駐在騎士は、決められた形式以外で市民を団員にするまたは戦いに加わらせることが国の決まりで禁止されている。なおこれは、騎士団も同じである。といっても、今回それぞれの騎士以外に戦いへ参戦する者達の中でオーナーズ・オブ・ブレイドは武装組織で、レイという者は、元ブレイドガールズだというので特別に例外となっている。残りのイリルとパトレーについては、それぞれの出身地の領主が推薦(すいせん)した人物だと、ポンメルトの領主ツアータから聞いており、特にイリルは、ブレイドガールズの養成所にいたそうだ。これらにより、この二人も例外となっている。


 しかしポインティアの場合は、恐らく、それらに当てはまらない一般市民なので、国の決まりに違反していることになる。


 だが、今は戦闘中であるため、それを指摘(してき)する時間はない。


 伝令については、イースト・サウスガードルの駐在騎士部隊から来たであろう者が伝えたことで、彼女が去った後、デュルフング城前にいる部隊にこちらの者から一人、伝令へと向かわせた。


 斬撃を続けていると、突然向かうものが無くなり、直後、前方から悲鳴が上がる。


 すると、大勢の人から、一人の女性が突破するように現れ、こちらに近づく。


 ある程度接近すると、足を止め、装着しているヘルムのバイザー上げてから、声を()けた。


 「……お前がここの者達を率いているのだな。私は――」


 それを(さえぎ)り、敵の返り血を浴びている女性は、口を動かした。


 「貴女(あなた)の名前は、伝令から聞いています。エクレスさんですよね」


 そう、伝令からは、一般市民だとされる者達についてのこと以外に、ポインティアの駐在騎士を率いている人物の名前も聞いていたのだ。なお他に、敵の数が情報より多いことも含まれている。無論、向かわせたこちらの伝令には、これらも内容の一つとして伝えるよう命じた。


 眼前の女性であるエクレスは、笑みを浮かべるような目をして声を出す。


 「フッ、知っているならそれいい。ならば、お前は?」


 淡褐色の目の女性は、自己紹介をする。


 「私は、ポンメルト駐在騎士代表、アリアといいます」


 エクレスは、バイザーを下げ、剣を構えながら言う。


 「そうか。ではアリア、そこを通らせてもらうぞ」


 こちら――アリアもバイザーを下げて、剣を構えつつ言い放つ。


 「他を止めることはできずとも、貴女――貴様(きさま)を通すわけにはいかない!」


 そして、エクレスが言葉を発して()み込み、アリアが気合いと共に駆ける。


 「フッ、では行くぞ、はっ!」


 「ハアアアアアア!」


 (たが)いに間合いへ入った瞬間、剣を振り、それが衝突(しょうとつ)する。


 そして二人は押し合い、そこでアリアは、エクレスに(たず)ねる。


 「一つ()くが、駐在騎士とは違うあの者達は何だ?」


 エクレスは、少し間を置いてから答えた。


 「……まあ、別に隠すことではないからな。あれは、我が街の住民の一部だ。しかし、領主様が用意したこと以外は私の知るところではないがな」


 どうやら、予想通りの正体のであるものの、彼女は(くわ)しく知っているわけではなかった。


 アリアは、納得を示す。


 「そう、それなら仕方ない」


 その後二人は、弾き飛ばされるように下がり、再び接近してエクレスの攻撃をアリアは対応していく。


 何度も金属音が響く中、エクレスが発声した。


 「私の攻撃全てを捌くか。代表というだけではないな」


 アリアは、あっさりとした口調で返す。


 「数万もの敵と比べれば、容易(たやす)いことだ」


 エクレスは、短く問う。その声には、(わず)かながら怒りのようなものを感じさせた。


 「それは挑発(ちょうはつ)か?」


 彼女は怒っているのかと思いつつも、アリアは動じず、口にした。


 「貴様がどう(とら)えようが、私は構わない」


 「フッ、答える気はないか。まあいい」


 エクレスは、アリアの言葉をそう解釈(かいしゃく)する。


 と、その時、アリアの腹部が押され、彼女は短く声を()らし、体を曲げて吹き飛ばされる。


 「かはっ……!」


 そして、地面に背中を打ち付けた(のち)、倒れる。


 アリアは、体を(ふる)えさせながらも上半身を起き上がらせ、エクレスを見た。


 剣での押し合いしていた敵は、右脚(みぎあし)を左脚と直角になるようにして少し曲げたまま上げており、足を横にしていた。そこから推測するに、エクレスは、アリアを()ったのだろう。


 アリアは、不快に思い、口を開く。


 「まさか、そのようなことをするとは。騎士である貴様が」


 エクレスは、姿勢を変えずに言う。


 「すまないな。目的を達成するためなら、手段を選ばないのが私だ」


 アリアが起き上がりを再開させようとした瞬間、エクレスが脚を下ろし、剣を構え、接近した。


 その(すさ)まじい速さにアリアは、体を起こしてからでは遅い判断し、敵が振り下ろした直後、右に回転して攻撃を回避(かいひ)する。


 「……っ!」


 アリアが左を向くと、剣は振り下ろされた後のようで、地面に斬られた(あと)ができていた。


 すると、そこから氷が発生し、まるで跡を(こお)らせるように広がった。


 アリアは、疑問を(いだ)き、顔を左斜(ひだりなな)め上に向いて、こういった現象を起こすものについての予想を述べる。


 「これは……? どうやら、貴様の剣は、能力を持っているようだな」


 エクレスは、一度(うなず)きつつ答える。


 「そうだ。ちなみに、先にいた騎士長と隊長を倒したが、その時にも剣の能力を使った」


 アリアは、敵を(にら)み、(くちびる)を動かす。


 「ならば、私もそうするつもりか?」


 エクレスは、こちらを見、声を出した。


 「望んでいるのなら、そうするつもりだが?」


 アリアは、体を起こしながら言い、起き上がってからは、顔以外もそれと同じ方向を向き、剣を構えて揚言(ようげん)する。


 「そういうわけではない。だが、私には通じない。剣の能力の仕組みは大体理解した。……貴様に斬られなければいいだけだ!」


 能力は恐らく、斬った対象を凍らせるものだろう。故に、斬られなければいいと判断したのだ。


 その後、アリアは接近し、再びエクレスと剣を打ち合わせる。


 「最初に剣を交わし続けた時に、私を良く言っていたが、貴様もよく捌くようだな」


 何度か打ち合いを続けていく中、アリアはそう言う。


 エクレスが発声していく。


 「ポインティアの駐在騎士を率いる者としての実力だ。では、別の力を見せるとしよう。はああああ!」


 そしてアリアの剣に自分の剣を打ち付けたその力は凄まじく、ポンメルト駐在騎士代表は、顔を(ゆが)ませる。


 「くっ……!」


 しかし負けじと、押す力を強める。


 エクレスは、(ふく)み笑いと思われるものをして、言葉を続けた。


 「フッ、()えるか。騎士長は、耐えられず吹き飛んだが、お前は違うようだな」


 アリアは即答する。


 「私の実力というだけだ」


 エクレスは、ヘルムを下げて納得し、二言目(ふたことめ)には、こちらを見る。


 「そうか。なら、これはどうだ?」


 アリアは、先程の蹴りを思い出し、左下に視線を向けると、その時に見たエクレスの右脚の形をしており、こちらへと向かうので、それについて思う。


 ――また蹴りか、二度も()らうつもりは……いや待て、これはどうだと予告したものが以前したものとは考えにくい。まさか、これは……!


 すると、エクレスの声が耳に入る。


 「気付いたようだが、遅い!」


 蹴りを行うと予想していた彼女の右脚は、アリアの腹に触れる直前で止まり、素早く降ろされた。


 つまり、先程のものは、そちらへ注目させるための(わな)で、メインは別にあるのだろう。


 直後、アリアが向き直したのと同時に、甲高(かんだか)い音が鳴り響いて、剣が手から離れた。剣が(はじ)き飛ばされたのだ。


 アリアがそれを取りに行くが、エクレスが剣を下方向に横向きで振り、その斬撃を受ける。


 アリアは、苦痛に顔を歪ませ、声を漏らす。


 「ぐっ……!」


 すると、パキパキという音が聞こえ、下を向くと、両脚にある傷口を中心に氷が発生し、広がっていく。


 そして、ある程度広がったところで止まる。これで、両脚は凍結(とうけつ)し、動かすことは出来ないだろう。


 と、そこで、エクレスが声を出す。


 「では、そろそろ終わりにするとしよう」


 アリアは、右下を向いて手をそちらに伸ばすものの、足を動かせない今では、目先の剣に届くことはなく、悔やみながら言った。


 「とど、かない……」


 その時、音が聞こえ、同時に耐え(がた)い激痛が(おそ)い、アリアは短く言葉を漏らす。


 「がはっ……!」


 アリアが向き直すと、剣を振り下ろした姿勢をしているエクレスが見えた。


 すると、パキン! という音が響き、視線を下に向けると、足に広かっていた氷が地面にあった。


 そこで、それらとは別のことに気付く。斜めに発生した切り込みが胴鎧(どうよろい)にあり、そこから血が出ていたのだ。


 アリアはそこで倒れ、エクレスが言葉を発する。


 「フッ、私の勝ちだな。ここを通らせてもらうぞ」


 足音が耳に入り、彼女が歩いたとアリアは判断するが、体が動かず、敵の歩みを止めることが出来なかった。


 その後も足音は続いて、やがて聞こえなくなり、そこには、地面に()せた一人の女騎士が残るのみだった。


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