14.謝罪と意外な展開
結局、ここから近いところから、ということになった。
それでも、特にカノアが、完全に納得したような顔をしなかったが、一応、従ってくれた。
傾向としては、ランは食べ物関係、カノアはちょっと怪しい店や生活必需品の店などが、多い。
案内の途中で、軽食を取り、二人からの案内は続く。軽食のときは、この世界に来て初めての食事だったが、味は元の世界に似たものがあったので、問題なく食べれた。……というより、美味しかった。
料理の見た目は、豚の串焼きとタコスに似ていたが、味は微妙に異なっている。だが、さして気にする程ではなかった。
ちなみに、それらを買うときに、カノアが払っていたのは、ファンタジーRPGで見る、銅貨だった。とすると、銀貨や金貨があるのでは、と推測する。
食べているときに、カノアに聞くと、予想通り、銀貨と金貨もあるという。
違うのは、色だけで、描かれているのは三種類とも、剣の装飾と女性の横顔だった。カノア曰く、女性は国祖をモデルにしているらしい。
刀気が、貨幣について問うと、カノアが説明する。
貨幣は、銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚だという。
つまり、日本円に換算すると、銅貨は百円玉で、銀貨は千円札で、金貨は一万円札ということだ。まあ……、そのほうが分かりやすく、覚えやすくていいのだが。
ついでということで、収入についても説明してくれた。
収入は、外獣を倒すことで、国から報酬が出て、その一部をお小遣いとして貰っているという。残りは、レイが管理しているそうだ。
報酬はすぐにというわけではなく、レイが戦況報告をすることで、払われることになっている。刀気の分も含めた今日の報酬は、明日には貰えるという。
お金が貰えるといっても、ここに来て間もない刀気は、なにを買えばいいのか分からなかった。当然ながら、ゲームはあるはずがなく、とすると、生活必需品などになるだろうか。
すると、カノアは、スカートのポケットから、巾着のように締めている袋を出す。
それは、金を払うときに、出していたものである。少し濃いグレーの布を、薄黄色の紐で結んでいる。
それに合わせて、刀気達に気づいたランも、ショートパンツのポケットから、カノアと同じ袋を出す。といっても、カノアのよりは、明らかにしぼんでいた。
そして、意外なことに、二人は紐を解いて、袋を開けた。
刀気だったからいいが、もし見知らぬ人物だったら、盗られていただろう、と思ったが、帯剣しているのでほぼ心配ないことに気づく。
二人は、現在の所持金を言う。
カノアは、銅貨五枚、銀貨五枚――日本円で五千五百円といったところである。それと、レイに管理させている、貯金があるという。
ランは、銅貨三枚――日本円で三百円というところで、他はなかった。カノア曰く、ランは、浪費癖があり、その結果、こうなったという。
お金を出していたとき、カノアしか出さなかったのは、このような理由があったのだと、刀気は推測する。
その後、カノアとランは、袋を閉め、元あったところに入れた。
そして現在、今歩いているのは、ランが見せたかった、焼きたてのパンが名物のパン屋から、十分程歩いたところである。
「ん? 確かここは……」
ふと、刀気は、ある店で、足を止めた。
彼女達も刀気に気づき、足を止める。
「? どうしたのだ、トーキよ」
「次の場所は、まだ先だぜ」
刀気は、苦笑しながら、言った。
「ああ……、言ってなかったけど、ここで俺は、言技化丸を見つ……いや、出会ったんだ」
そこにあるのは、木造の店で、剣がやけに多い武器屋である。相変わらず、看板の文字は、読めない。
刀気は、それを見て、思う。
――あれからあまり経っていないけど、ここで偶然にも、言技化丸と会ったんだよな。今でも、そもそもの理由は、分からないけど、あの時に何かが始まったってことかなぁ。ゲームでいうと、そこでプロローグが終わって、オープニング、そして、本編スタートってところだな。まあ、剣との出会いで始まるってよりは、王道だけど、少女との出会いで始まるほうが良かったが。いわゆる、ボーイ・ミーツ・ガールっていうやつだ。この場合だと、カノア、ランもかな? との出会いがあたる。けど、状況が状況だったから、そんな感じじゃなかったけどな。ともかく、ついにこの時がきた。ここで、俺のその先が決まる。どのような結末になっても、受け入れるしかないけどな。
その刀気の告白に二人は、それぞれ述べる。
「そうか、まあ……、この店はたまに、掘り出し物があることで有名な店だ。まさか、ここに謎刀があったとは。しばらく来てなかったから、分からなかったな」
「へ~、こことはな。見ねぇ内に、すげえもんがあったものだ」
言技化丸を、勝手に持ち出したこともあって、一応、店に入ることにする。
店には、あの時には居なかった、店員らしき若い女性がいた。
「らっしゃい。って……カノアとランと……男!」
店員が驚いていると、すかさずカノアが、前に出て言う。
「話すと長くなるが、かいつまんで言うと……」
そして、カノアは店員に説明する。
女性は、また驚いたり、相槌を打ったり、たまに、刀気の顔をちらちらと目で見ていた。
説明終了後、若い女性は、一応、納得したように頷く。
そんな女性に、刀気は心の中で言う。
――まさか、一回で納得してくれるとは。普通、こんな話信じないと思ってたが、そういえば、カノアがこの店は有名だとか、しばらく来ていないとか言ってたな。ってことは、店員とは付き合いがあるということか。だから、聞き入れたのかもしれない。
「そういうことだったのか。で、用は」
店員が問うと、刀気が、用件を言う。
「それが……、この剣を勝手に持ち出してしまったので、謝ろうと……。それと、カノア達も聞いてほしいが、俺はこの刀を盗んでしまったんだ。言い訳かもしれないが、その時には店員がいなくて、なんとなく持っていってしまって、返すのは後でいいかなって思ったんだ。本当にごめんなさい!」
そう言いながら、刀気は、頭を下げ、言技化丸を出す。
それを見たカノアは、刀気の方を向いて、声を掛ける。
「なんと! そうだったとは。確かに、罪は罪だが、トーキとて、犯したくて犯したわけではなかろう。ならばいいではないか。罪は償わなければならないが、悪意があったわけではない、そうだろ?」
次いで、ランが口を開く。
「カノアの言う通りだぜ。悪いことはしちゃいけねぇが、わざとやったわけじゃねぇだろ。それに、そいつがなければ、オレ達、やられてたしな。それに、本当に悪いやつなら、こんなことしねぇじゃんか」
すると、女性店員は右手でカウンターを、一、二度叩き、笑顔で言った。
「なんだいそんなことかい、いいって、謝らなくて、話を聞く限り、あんたがその剣に選ばれたんだろ」
「だったら、それはもうあんたのものだ。ああ、お代はいいよ。どうせ、値がつけづらいものだったんだし、珍しついでに、特別にタダでいいよ」
と気前よく言ってきたので刀気は、言技化丸を戻してから、少し頭を上げる。そこで気づき、もう一度頭を下げながら、感謝の言葉を述べる。
「あ、ありがとうございます。どうお礼したら……」
許してくれたのは、よかったが、何かお礼をしなければ、刀気の気が済まない。しかし、何をすればいいのか、分からなかった。
女性店員は、首を振り、口を開く。
「礼なんていいって……言いたいところだけど、まあ、たまにでいいから、うちに来てくれたらそれでいいよ。ここ、剣の手入れもしているからな。安くしておくからさ」
その言葉に、刀気は、首肯する。
その提案に甘んじて、刀気は、機会があれば店に行き、手入れさせてもらうことを、覚えておく。まあ……、商売であるため、初回無料とかにはならなかったが。いや、そう思うのは、少し図々しいと思った。安くしておくことだけでも、十分なことである。
そもそも、このようなことを引き起こしたのは、自分であるため、色々と要求しては、謝罪が無駄になる。
それに、そのようなことをしたら、彼女も人間であり限界があるので、今までのことが、帳消しになることは充分あり得ることだ。
刀気とて、過去を無駄にして、要望を通す気はない。
せっかく、カノアの事情説明と刀気の謝罪で、解決したのだ。普通なら、罪人として捕まるのだが、意外にもこのような結果になったので、店員の善意を無下にするわけにはいかない。
通常、罪というのは、こうもあっさりと、消えるものではない。もしも、刀が謎刀とかではなく、普通に商品だったら、こうはいかないだろう。
カノア達の言う通り、悪気があってしたわけではないが、行為自体は変わらず、しかも店員の性格が異なれば、違う結果になっていたかもしれないのだ。
なので刀気は、これ以上、求めない。罪にしては、軽い礼だが、本人が言っているので、これでいいのだろう。
カノアは、心が晴れたような顔をしている刀気に、声を掛ける。
「よかったな。これで、貴様の罪は償われた」
確かにそうだが、もしかしたら、カノアの説明がなければ、こうはならなかっただろうか。となれば、刀気は、カノアに感謝しなければならない。
リーダーが仲間に二度も感謝することになるのは、どうかと思った。まあ……、リーダーにそこまでこだわっているつもりはないが。
それに、一度目はランもだが、二度もカノアに助けられた。リーダーとして、こうも助けられてしまっては、示しがつかない。
確かに、最初に助けたのは刀気だが、以降はカノア達である。
こうなったら、今度は自分がカノアを助けることを、決意する。そのようにしなければ、リーダー、というより、刀気の気が済まないからだ。
その後、左から、ランの声が聞こえた。
「なんとかなったな」
正直に言えば、なんとかというより、様々な偶然が重なったからこそのことである。
こうも偶然が重なることがあると、もしや、必然ではないのか? と思ってしまったが、答えは出なかった。
少女達の言葉に刀気は、少し頭を前に倒してから言う。
「ああ、これにより、俺は、こいつを使うことができるな」
刀気は左手で、言技化丸の柄頭に触れ、本当の意味、そして、心おきなく使うことができることを感じる。
今なら、存分に感慨に耽ることが可能だが、人前であるので、今は、お預けとする。
まさか、こんな展開になるとは思ってなく、罪人として投獄され、裁かれるのも辞さない、と思っていた。
しかし、これにより、言技化丸は、『借り物の力』ではなく、『鶴元刀気の力』になった。それは、喜ばしいことである。
そう思い、刀気は、左手を柄頭から離す。
「では、俺達は、ここで失礼します。本当にありがとうございました」
顔を上げ直し、一礼してから、そう言い、カノア達と共に店を後にした。
「ヴァルカル武具店を、よろしくな」
後ろから、そのような声が聞こえたので、首を後ろに向けて、頷く。
それが、店の名前なら、あの時、看板に書いてあったのは、それだったと推測する。確かに、剣の手入れをしているなら、合っている名前だと思えた。
店を出た刀気達は、次の目的地へ、足を運ぶ。次は、カノアが刀気に、見せたい所である。