136.これからと帰船
戦闘終了後、刀気は納刀し、右を向いて銃をホルスターに戻し終えたガルムを見る。ちなみに、ズフターが死亡して、支配魔法が解かれたからか、防御結界がなくなり、周りから声が聞こえた。どうやら、観客が正気に戻ったのだろう。まあ……、その時に聞こえたものが、俺は一体何を……というようなゲームとかで見聞きした正気に戻ったときの定番セリフなどだったが。
そして、先程の戦いについて言う。何せ、想定外のことが起こり、スムーズに行えなかったからだ。
二人が実行した作戦は、本来、刀気が接近し、ガルムが相手の側面に向かいなら撃つ。このとき、相手が射撃を防いでも撃ち続ける。そして、それぞれの目的地に着いたら、刀気は攻撃し、ガルムは撃ち続ける。そうすると、刀気の方にも対応する可能性が高いので、刀気はそれを対処していく。その最中、タイミングを見計らってガルムがわざと敵から狙いを外し、刀気に対応しているものを撃ち抜く。これは、銃で撃ち抜けるものに限られるので、もし、障壁といったものなら、作戦は進まなくなる。結果は、幸いにも、そうはならなかった。このとき、敵が自分から狙いを外したと思わすのが理想だ。最後にその隙を狙って刀気が攻撃し、倒すといったものだ。
しかしガルムは、過程はどうあれ、作戦はほぼ成功した為、あまり気にしていないそうだ。
そこで刀気は、ふと、あることを思い、ガルムに問い掛けた。ズフターの頭を撃った時に使った、弾についてである。
それにガルムは答える。それによると、あの弾は、半自動の二丁拳銃に認識させていないものだそうだ。だから撃鉄を二度鳴らしても自動装填されず、箱に入ったままだという。それに、このような時のために、そういった弾を常に数個用意しているようだ。相手に弾切れを思わせるのも、このようことの狙いだともいう。
それから暫くして、カノアやアロア達が起き上がる。
刀気とガルムが、決着を付けたことを言うと、皆は喜んだ。
そして、戦いはオーナーズ・オブ・ブレイドが勝利したことを、ガルムが告げた。
その後は別れ、メザリアに治療してもらい、闘技場を後にすると日が暮れ始めていたので、帰国するのではなく宿屋に泊まった。
そして現在、刀気はこの国に来て最初に着いた街にいて、前方にウエートウエポンズがいる。戦いが終わってから次の日のことだ。無論、カノア達もいる。
刀気は、ガルムへ質問する。
「……それで、そっちはこれからどうするんだ?」
ガルムは、考える素振りもなく答えた。
「元の世界に戻り、呪いの解き方を探す。奴は知らないというだけで、方法がないというわけではないからな」
刀気が更に問う。
「当てはあるのか?」
ガルムは、首を少し下げ、目を閉じ、数回横に振りながら即答した後、首と目を戻して言う。
「ない。だからまずは、奴が知るきっかけとなった手記を見てみる。場所については、元ズフターかサイザーの部下にでも訊く」
そこで刀気は、肝心なこと訊く。
「そういえば、どうやって元の世界に戻るんだ? 世界間を渡れる魔法を持っていたズフターはもう……」
それにプラチナブロンドヘアーの少年は、動揺することなく答える。
「それには心配することはない。あの魔法を持っている者がもう一人いたからな。ついさっき、本人の申告で見つかったからな。まあ、聞いた話だと、たまに妙なことを口にするようだが」
彼の言葉に、刀気は疑問を浮かべるが、深く考えないことにした。
刀気は頷き、納得する。
「そうか、なら問題ないな」
と、そこで、カノアの声を聞く。ガルム達の反応からして、彼とアロアに訊いているのだろう。
「しかし、『貴様ら二人』はどうするのだ?」
ガルムが問い返す。
「……どうするとは?」
カノアが言葉を発する。
「無論、互いの関係だ。好意が知れた以上、よもやこのままとはいかぬだろう」
そのことに、ガルムが動揺とも怒りとも言える顔と声をし、アロアは無表情だが、顔が僅かに赤くなる。
「な、何を言っている! そのようなこと、貴様らに関係ないだろう!」
「……」
するとカノアが、挑発的な声で反論した。
「関係? あるではないか。忘れたわけではなかろう、好意を知れたきっかけを作ったのは、妾とトーキだからな」
刀気は、苦笑顔をし、心の中で言う。
――確かにそうだけど……、俺は気になったから問い掛けただけなんだけどなぁ。
しかし、思い出してみると、片方の気持ちを明かして、もう片方は明かさないのは公平ではないため、そのような意味合いも兼ねていても不思議ではない。
ガルムが言い淀むが、アロアが落ち着いた声で遮り、それに彼が今まで聞いたことがない頓狂声を出す。
「そ、それは――」
「そうね、それを借りだとしたら、返すのが道理というものでしょう」
「アロア?!」
すると、視線がガルムに集める。まあ……、刀気もその内の一人だが。
ガルムは、顔を改め、咳払いをし、了承する。
「……解った。質問に答えよう。俺としては、このままにはしたくない。アロアとは恋人となり、いずれは結婚するつもりだ!」
今度は、刀気を含む複数人が驚いた顔をする。そのことから、突然結婚を言うことは、この国もしくはこの者達がいた世界の常識や価値観ではなく、あくまでもガルム個人の意見だと思われる。
宣言した少年は、左右を見て前に戻し、口を開いた。
「? 違ったか?」
刀気は困惑顔をし、手振りを交えて言った。
「い、いや、結婚というのが出てきたからで。まず、付き合うとかじゃないのか?」
ガルムも同じような顔して返す。
「そ、そうなのか?」
すると、アロアが半眼でガルムを見、名を呼ぶ。
「ガルム」
視線に気づいたのか、ガルムは返事する。
そこで、カノアが質問した。
「それで、アロアはどうなのだ?」
栗色の髪の少女は、向き直して表情を戻し、顔の赤みを少し増してから答えた。
「私もガルムとほぼ同じで、恋人になりたい思っている。け、結婚は分からないけど、付き合いたいのは確か」
カノアは納得し、提案する。
「そうか、なら、今改めて告白するか? 無論、ガルムがだ」
ガルムが短く言う。
「は?」
カノアは、さも当然のことのように口にし、刀気がそれに口中で突っ込む。
「こういうのは、男からするものだ」
――あれ? 俺の時はカノアから告白して来たんじゃ……っていうのは野暮だな。
ガルムは困惑顔になりつつも納得し、表情を改めてから――刀気から見て――左を向き、数秒後、アロアが右を向いてからガルムは口を動かした。
「そ、そうか。……アロア、今度は向き合いながらになったが、改めて言う。俺は、アロアのことが異性として好きだ。好きになったのは、多分、アロアと初めて会った時のことだ。あの時は分からなかったが、今なら分かる。あれは、好意――つまり、惚れていたのだと。まあ、両親によると、物心がつく前に会っていたようだが。……どうか、俺と付き合ってもらえないだろうか」
すると彼女の目から涙が流れ、頬を伝う。
ガルムは驚き、慌てた素振りをする。
「! ア、アロア、顔が……」
アロアは小さく驚き、伝っている涙を右人差し指に付け、それを離し、言葉を続けて涙を拭くが止まらず、その声が泣き声になる。
「え? な、ぜ、私は一体。と、とまら、ない、『こんなにも嬉しいのに』」
その時、後方からミウの声が聞こえた。
「そういうものなのよ。嬉しいから泣いてるの。それだけガルムの告白が嬉しくて、ガルムのことが好きなんでしょ」
そして、涙が治まり、両手を下げてから、アロアが声を出す。
「……そう、ね。ガルム、私も貴方と付き合いたい。それに、私もガルムと初めて会った時に惚れていた。けど、私は何度か会う内に気づいたの。だから、告白の答えはYesよ」
このことから、どうやら、互いに一目惚れしていたようだ。
二人は、視線を合わせ、名を呼び合う。
「アロア……」
「ガルム……」
その後、両腕を前に出し、近づいて抱き、目を閉じてキスをする。
暫くして二人は離れ、表情を戻してこちらを向き、ガルムが問う。
「それで、貴様らはこれからどうするんだ?」
それに刀気が答えた。
「帰国した後は祝いとかがあると思うけど、その次の日は色々と行って、本当に外獣がいなくなったか確かめるつもりだ。その後のことは、その時に考える」
もし、外獣が残存していた場合は、なくなるまで戦い、一体もいなければ、今後はその時に考える。
ガルムが頷き、納得する。
「そうか。なら、これで別れだな」
刀気も頷き返し、口を開く。
「ああ、互いにいい結果になるよう頑張ろうぜ」
ガルムが短く言う。
「当然だ」
こうして刀気達はウエートウエポンズと別れ、泊めてある船に向かう。
船に着くと、桟橋が外され、ガルム達などから見送られつつ船が動き出し、デュルフングへと帰船していく。