132.刀と銃
最初に攻撃を仕掛けたのはガルムで、引き金を引き、銃声と共に弾を発射させる。
刀気はそれを、横に避ける。
「……!」
それからも、敵は発砲し、その度に刀気は避け続けた。
すると、ガルムは発砲を止め、口にする。
「避けてばかりでは勝てないぞ」
刀気は足を止め、言い返す。
「分かっている。しかし、不思議だなぁ。撃鉄辺りが自動で動いて、どこからともなく出てきた粉が銃に入っていくからな。それが武器の能力か?」
プラチナブロンドヘアーの少年は、少し間を開けて答えた。
「……まあ、そうだ」
刀気は、このことからガルムの武器について、口中で推測を立てる。
――ってことは、多分ほぼ自動で打つ準備が終わり、あいつは残ったものをして、後は引き金を引くだけでいいんだろうな。
それにより、刀気は、敵の武器の能力ながら感心する。
「……すげえ能力だな」
ガルムは、落ち着いた声で言う。
「では、今度は貴様が能力を見せる番だ」
刀気は肯定し、剣を構え、相手に接近していく。
「ああ、言われなくてもそのつもりだ!」
相手が能力を使い、その説明をした以上、こちらも能力を使うのが公平だろう。説明については、知っているようなので省く。
ガルムが銃を撃つが、刀気はそれを避け、間合いに入り、剣技を発動させる。
「速斬、四つ斬り!」
そうして、刀気は高速移動をして、左右の腕と脚を同時に攻撃するように斬る。
速斬、四つ斬り。この技は、高速移動をして、あたかも刀気が四人いるように見せ、四ヶ所を同時に斬る技である。
ガルムの対面に戻ると、彼の苦し気な声と共に、斬った部分から出血し、患部を抑えずに口を動かす。
「うぐっ……! 流石はリーダーということか。狙いを定められないとはな」
ガルムは飛び退いて距離を取り、再び発砲するが、撃鉄が鳴るだけで、弾は発射されない。恐らく、弾が切れたのだろう。
しかし、そう安堵するのも束の間、ガルムが先程のを含めて二度引き金を引き、僅かに間を開けた後、引き金をもう一度引くと、銃声と共に弾が発射された。
思わぬ出来事に、内心驚き、胸中で言葉を連ねる。
――なっ……、弾切れかと思ったら、発射された!? それもリロードなしで。これも、武器の能力による自動化の一つなのか?
それにより、判断が少し遅れ、回避も今までより遅くなり、弾が刀気の左脇腹を掠る。
刀気は顔を歪ませ、苦し気な声を発した。
「痛っ……!」
服の左脇腹部が少し破れ、血が滲む。しかし、その広がりは、数センチメートルで止まる。理由としては、身体強化による自然治癒力の向上により、血が固まったからだ。
ガルムは、口角を上げ、口を開いた。
「掠りはしたものの、ようやく当たったか。しかし、さっきのことがよく分かっていないようだな。せっかくだ、教えてやろう。弾がなくなった場合、撃鉄を二度鳴らすと、箱に入っている弾が銃口に転移し、自動的に装填される。ただし、弾はなんだっていいわけじゃない。銃に認識させる必要がある。やり方は簡単で、銃口に入れればその弾を認識する。以降は、さっきやった方法で、同種の弾が規定数装填される。なくなったら、撃鉄を二度鳴らす、その繰り返しだ」
刀気は、顔を戻し、感心する。
「へえ~、随分と便利だな」
ガルムは、銃口を向けたまま声を出す。
「だから、こっちの補充の隙を狙うことはできない」
刀気は、周りを見ながら心の中で分析した。
――まあ、ここは遮蔽物がないから、リロードしにくいだろうし、その能力との相性がいいな。
刀気は、真剣な顔になり、剣を構え、宣言する。
「だったら、何としてでも間合いを詰める!」
そして駆け出し、敵の銃から放たれる弾を避けながら進む。
ガルムに近づくと、迫られても撃つ弾を、口中で言いつつ右のサイドステップで避けるが、そこで見えた彼の行動に嫌な予感を覚える。
――近距離だろうと避ける! よし、あとは攻撃するだけ。……? あの動きは……、! まさかっ。
それは、左手を背中に回し、何かを抜くように上げたものだった。
そうして、左手をこちらに向けると、そこには予感通りもう一つの銃があった。それは、見えている限りでは、先に出したものと同一である。だとすると、彼の後ろにもう一つホルスターがあり、それと銃がガルムの背中と尻に隠れていたとされる。確かにその位置なら、彼を正面から見ると、銃とホルスターは一つしかないように見える。敵ながら、見事な隠し方だ。
直後、その銃が発砲したので、刀気は咄嗟にジャンプする。といっても回避方法は他にもあるが、選択する余地がなかった為、何故か脳内再生された遠距離攻撃をジャンプで避けるゲーム画面のように、跳ねたのだ。
それにより銃弾を回避し、地面に着地すると、銃使いの少年が含み笑いをして言う。
「フッ、まさか避けるとはな」
刀気は、姿勢を正して口にした。
「俺も意外だよ。まさかもう一つ銃があるなんてな。二丁拳銃ってやつかな」
まあ……、実際に見た始めての銃が、実は二丁拳銃だったということも意外だが。
ガルムは頷き、自身の武器について説明する。
「ああ、そうだ。ちなみにこいつらは、半自動の二丁拳銃といって、能力は撃つための工程をほぼしてくれるというものだ」
だとすると、左手に持つ銃も片方と同じように動くのだろう。
刀気は頷き返し、頭に浮かんだ推測を投げ掛ける。
「そうなのか。だとしたら、そっちが本来の戦闘スタイルか?」
ガルムはそれに首を横に振り、途中、右手を上げながら答える。
「いや、普通はこっちで戦うことが多いが、強敵やここぞというときに使うな。だから、奥の手や一部の者にしかしないスタイルといったほうが正しい」
つまり、そのどちらか、もしくは両方の条件を満たしたので、二丁目の銃を使ったのだろう。更に、発砲時の言動からして、不意を突くためでもあったと思われる。
彼の答えに刀気は、胸中でゲームに例える。
――なんか、ボスとかにある、HPがある程度減ると使ってくる攻撃みたいだな。
ガルムは二丁の銃を下げ、口を動かした。
「そういえば、貴様もまだ出していないものがあるだろう? いや、あれは強力過ぎるから使えないのか。貴様は人を殺せないようだしな」
それを聞き、刀気は否が応でも思い出す。以前、ジャンヌから甘いと言われたことだ。
それにより、精神的苦痛を食らう。
刀気は、言葉に詰まるも、意見を言う。
「……っ、確かに、あれだとお前を殺してしまうかもしれない。けど、それでも俺は勝つ。戦闘不能による勝利を目指す」
それに、勝利した仲間達はそうしてきたので、刀気だけが相手を殺して勝つことはできない。この戦いで果たすのは勝利で、殺人ではない。
ちなみに、ガルムの言う出していないものとは、十中八九言技化丸の二つ目の能力――技名の声の高さで威力が変わることだろう。刀気の意見は、それを前提としている。
するとガルムは、銃を構え、納得した後、恐怖を感じさせる目つきで語る。
「そうか。だが、俺は貴様を殺せる。決して少なくない数の者達をこの銃で撃ち、その中には、頭や心臓を撃った者も一人や二人じゃないからな」
刀気は恐怖し、手足が震える。
「……!」
このことから、刀気は彼の言葉が、ハッタリではなく本当のことであると認識する。つまりガルムは、人を殺した人間なのだ。加えて、言葉通りなら、彼は刀気を殺して勝つと言っているようなものである。つまり、この戦いでの敗北は、死である可能性が高いということだ。
殺さずに勝つ者と殺して勝つ者、戦う者としたら、恐らく後者の方が相応しいだろう。
しかし、刀気は考えを変えるつもりはない。この戦いは殺すまで終わらないわけではないので、無理に行う必要はない。それに、ガルムには思い人がいて、その者も彼を思っているので、ガルムを殺すということは、その者と死別させることを意味する。それは、同じく相思相愛の者がいる者として、行い難いことだ。故に刀気は、考えを変えず、ガルムを殺さずに勝つことを決めたのだ。甘さなど関係なく。
ガルムは含み笑いをし、言葉を続けた。
「フッ、怖気づいているようだな。さて、話はこれくらいにして、再開しようか」
そして、右と左の順に、弾が放たれた。同時に撃たないのは、恐らく回避の誤りを狙っているのだろう。刀気は、主に右に避ける傾向があり、幾度としてきた回避でガルムに気づかれたと推測される。なので、順に放った可能性がある。
刀気は怖がるが、心の中で言い連ね、無理矢理震えを止める。
――くっ、相手が怖い。でも、勝つしかない! しかし、二丁ってことは、一つのときより避けるのが難しそうだ。だったら、別の方法で対処する!
回避の場合、一丁なら後方以外に避ければいいが、二丁となるとそうはいかない。先程のように、片方を避けられても、相手の回避方向に合わせてもう一つの銃を向け、撃てばいいからだ。当時は、動きから本能的に予期し、咄嗟に対応した為避けられたが、仮に存在する二度目以降も成功するとは限らない。なので、今のガルムに回避は恐らく難しく、方向やタイミングを誤れば、反撃を受ける危険性がある。故に、回避以外の方法で対処することを決めたのだ。
思考の後、剣技を発動させる。
「自動弾き!」
そうして、気合と共に刀を振り、銃弾を弾く。
「はああああああっ!」
自動弾き。その名の通り、敵の攻撃を自動で弾く技である。類似の技である自動斬撃との違いは、これも同じく名の通り、弾くか斬るかだ。使い分けは、片方では困難のものはもう片方で行うというものだ。つまり、斬ることが難しいものには自動弾きを使い、弾くことが難しいものには自動斬撃を使うということである。
それからも撃ち続けられる弾を弾く。その度に金属音が響くが、刀気は一瞬たりとも振りを止めない。ここで止めた場合、銃弾は刀を通過し、刀気は撃たれるだろう。場所によっては重傷もしくは即死となることはあり得るので、何としても避けなければならない。それ故刀気は、敵が発砲を止めない限り、刀を振り続ける。
やがて、弾が切れたのか、銃の猛撃が止む。
刀気はその瞬間を逃さず、振りをピタリと止めてからそのまま接近して、ガルムが三度引き金を引く前に間合いへと入り、続けて攻撃を行う。
「重剣の連閃!」
刀気は、剣を横に振り、敵に当たる直前で刃の向きを変え、そのまま一回転し、もう一撃与えた。
重剣の連閃。それは、重量を増やした剣で回転し、相手に二撃与える技である。剣の見た目は変わらないが、感触として重さはある。しかし、身体強化により、問題ない程の重さとなっている。
回転を終えた後、すかさず刃の向きを戻す。同時に、剣の重さも戻る。
ガルムは短く言い、倒れ込む。
「がはぁ……」
刀気は納刀し、両手を離す。
それからどれくらいかの時間が経ったとき、審判が判定を下すが、途切れた。
「……し、勝者、トーキ――! よって、これらの勝負の勝者は――」
何故なら、ある男の声が遮ったからだ。
「それは、まだ早いんじゃねぇか?」
刀気は、声がした場所――ウエートウエポンズ側の入場口を見ると二人の影が歩いていた。
徐々にその姿を現し、判明した姿に刀気は驚く。
「な……」
その姿は、サイザーとスタジーだった。