114.出発
武装外獣との戦いから数日後、宿舎にローブ姿の人物が訪れ、ウエートウエポンズとの戦いの時期と場所などを話した。
話によると、戦いは二日後に行われ、前日にウエポニアへ来なければならない。つまり、ウエートウエポンズとの戦いは、ウエポニアで行われるのだろう。詳細な場所やその他のことは、こちらが来てから伝えるそうだ。
ちなみに、この数日間、はぐれ外獣は一度も現れていない。こうなると、あの時の武装外獣が、最後の外獣だったのだろうか。しかし、実際に確認したわけではないため、油断は禁物だ。だとしても、嵐の前の静けさでない限り、現れていないのであれば、こちらとしては好都合である。理由としては、その分ウエポニアとの戦いに集中できるからだ。無論、何が起こるか分からないので、はぐれ外獣のことを忘れるつもりはない。
刀気達は、武器の手入れを済ませ、翌日、ウエポニアに向かうため、船があるポンメルトへと転移した。何故なら、ウエポニアとは陸続きではなく、海を挟んでいるため、海路で行くしかないからだ。とある本で得たものから察するに、ファンタジーRPGなどにあるような飛行船はないため、この世界に空路はないとされる。故に、船で移動するしかないのだ。
そして現在、予め来ていたというレイや、色々な人達が、港の前で見送りに来ていた。数にして、十数人程である。
刀気は、彼女達を見、口を開く。
「……色んな人達が来ているんだな。それに、シャリアやヤミ、メザリアに似た人達とかもいるしな」
そう、見送りに来ている者達の中に、三人に似た女性がいたのだ。
すると、シャリアが声を掛けてきた。
「その人達は、僕達それぞれのお母さんだよ」
刀気は、頭の中でシャリア達三人と、彼女達の母親だという女性を比べた後、納得を示す。
「そうなのか……」
そうしていると、その女性達が刀気に近づき、自己紹介をした。
「初めまして。私は、シャリアの母で、リアと言います」
「私は、ヤミの母で、ミーヤと言います」
「私は、メザリアの母で、メアリーと申します」
真ん中にいるリアと名乗った女性は、シャリアに似た髪と目の色をしており、首にネックレス、両手に指輪をしていた。
そして、リアの――刀気から見て――左隣にいるミーヤと名乗った女性は、ウエーブのかかった銀色の髪はヤミと同色だが、目は黒色であった。少々猫背気味な姿勢で、それよるものなのか、前髪が少し目に被さっている。
最後に、メアリーと名乗った女性は、髪型はストレートだが色はメザリアと同じく金色であるものの、目は緑と異なる。垂れ目であるから、穏やかな印象を感じさせる人物である。
刀気は、返事をし、頭を下げて、こちらも自己紹介をした。
「あ、はい。初めまして、鶴元刀気と言います」
三人の女性は礼で返したので、頭を上げると、彼女達も上げ、元居たところに戻った。
すると今度は、一人の少女が刀気に近づく。ドレス姿で、他とは違う雰囲気を出していた。
少女は、アッシュブロンドの髪と淡褐色の瞳をしており、白磁のような肌と長い睫毛が特徴的である。
眼前にまで寄ると、口を動かす。
「貴方が、鶴元刀気さんですわね」
相手はこちらの名前を知っているようだが、刀気は彼女を知らないので、少し動揺しつつ返答した。
「そ、そうですが……」
少女は、ドレスの裾をつまみ、頭を下げて言葉を発する。
「……わたくしは、国主オルトリーベの名代として参りました、娘のジークルーベ申します」
少女――ジークルーベの正体に刀気は、慌てて姿勢を低くし、謝罪したが、焦りのあまり、土下座をしてしまう。ちなみに謝罪の言葉は、ゲームの台詞を参考にしている。
「し、失礼しました。姫殿下とは知らず、先程のような言い方を……」
すると、周りがざわつくが、刀気は気にすることなく、口中で言葉を連ねる。
――まさか、お姫様だったとはな。てっきり、どこぞの貴族の令嬢かと思った。あ、でも、この国は、領主や王族みたいなものはいるけど、貴族はいないんだったな。っていうかこれって、所謂不敬罪になるんじゃ……。まさか、敵国に向かう前に処されて、死ぬとかないよな。デュルフングっていい国っぽいけど、確か城の謁見の間にある、玉座の周りの段差以降は聖域とされ、国祖の一族やごく一部の者以外が一歩でも踏み入れると処刑されるって、なんかの本に書いてあったな。だから、何となく不敬罪とかが、ある気がする。俺、ここで終わるのか?!
そんな刀気に掛けられた言葉は、意外なものだった。
「いえ、構いませんわ。貴方の噂はかねがね聞いておりますので」
刀気は、心の中で安堵しつつも、気を引き締める。
――はあ~~、どうやら処されることはないようだ。けど、どこまで許されるのか分からないから、言葉には、気を付けた方がいいな。相手の許しを無駄にするわけにはいかないし。
そう、許されたとはいえ、調子に乗ってはいけない。相手は国主の娘で、恐らく次期国主となる者であるため、ここでへりくだれば、許しがなかったことになり、最悪の事態になりかねないという可能性は十分にある。といっても、次期国主のことは、あくまでも世継ぎが彼女一人だけであった場合のことなのだが。もし、他にも世継ぎがいた場合、継承権などによる位置によっては、次期国主がジークルーベだとは決まっていないと推測される。だとしても、国主の親族であることは変わりないため、敬意を払うのが身のためだろう。
刀気は顔を上げ、感謝した後、立ち上がり、名を名乗る。まあ……、こっちも言い方は、ゲームのを参考にしているが。ちなみにジークルーベは、既に姿勢を戻していた。
「寛大なご慈悲に感謝いたします。……改めまして、自分はオーナーズ・オブ・ブレイドのリーダー、鶴元刀気と申します。以後お見知りおきをお願いいたします」
国主の娘は微笑み、口にした。
「ええ、こちらこそよろしくお願いいたしますわ」
すると、後方からの声を耳にする
「そろそろ出航しますよー」
刀気は振り向き、返事をした。
「あ、はい!」
そして向き直し、口を開く。
「それでは、自分達はこれで失礼します」
それに、ジークルーベとレイが返した。
「ええ、皆さんの勝利を、祈っていますわ」
「私や皆も祈っている」
そうして、ジークルーベが下がった後、レイが来て、咳払いをしてから声を出し、二言目は、右手を前に出して言う。
「……目的は、敵国ウエポニアにて、敵との決着を付けること。総員、出発せよ!」
刀気達オーナーズ・オブ・ブレイドは、同時に応じる。
「了解!」
それから、踵を返して、カノア達と共に船に乗り込む。そこには、先程声を掛けた女性がいた。
船は、幾つかの帆を張っている所謂帆船で、刀気がイメージするものとほぼ同じであった。恐らく、前方にいる女性以外の船員は、既に乗り込み済みだろう。
刀気は、元の世界で船に数回乗ったことがあるものの、帆船は初めてである。ちなみに、今までの乗船で酔ったことはないが、これまでとは違い、未乗船である帆船なので、船酔いをしないとは限らない。
港と船を繋げる桟橋を上り、刀気は、甲板に足を踏み入れる。
その後、見送る人々を船上から見て、声を掛ける。それに、カノア達も続ける。
「では、行ってきます」
「帰帆する時は、妾達の勝利と共に舞い戻ろう」
「またな!」
「この国の――ううん、みんなのために、絶対勝ってくるから」
「だから、待っていて」
「皆さんのご期待に沿えるよう、頑張りますわ」
「わたしたちが、この戦いを終わらせます。……行ってくるわね、マーヤ」
この状況に刀気は、冒険の旅へ出る主人公の気分になるが、今から行くのは戦いであるため、そう思い、気持ちを切り替える。まあ……、そういうことなので、どちらかというと、決戦の地に向かうようなものだが。
そして、桟橋が外されていく。
色々な人達の声が聞こえる中、前を向いた刀気は、胸中でこの先のことを想う。
――この先に待つのは、恐らくウエートウエポンズとの……いや、ウエポニアとの最終決戦だろう。遂に、敵の最高戦力と戦う時が来たな。デュルフングの命運は、俺達に掛かっているといっても過言ではない。それに、この世界を救うと決めた以上、負けるわけにはいかないしな。しかし、戦場を自国にするってことは、今までとは違う戦いになるのかもしれない。それにしても、ウエポニアかぁ、前に見た時は、大きかったが、どんな国なんだろうな。武器の国というからには、武器が有名なんだろうか。それとも……、あ! いや、俺達は決着を付けるために行くのであって、観光に行くわけじゃないんだから。気を引き締めないと。
それから暫くして、船が動き始め、ウエポニアへと出発していく。