113.手紙と明かされた真実
ミウは、ペーパーナイフを机に置き、封筒を左手に持ち替えて、右手で手紙を取り出す。
封筒を机に置いた後、折られた手紙をを広げる。
広げられた手紙には、こう書かれていた。
『ミウさんへ。この手紙読んでいる頃には、私はもうここにはいないでしょう。ここ最近、はぐれ外獣だけではなく、ウエポニアという新たな敵が現れ、いつ彼らに殺されてもおかしくはなくなりました。ですので、私は手紙を書くことにしました。今のミウさんは、さぞ悲しまれているでしょう。逆の立場であれば、私も悲しみます。ミウさんに涙を見せたことはあまりないですが、私も悲しむことはあります。思えば、ミウさんと出会ってから数年が経ちましたが、私にとってはあっという間でした。ミウさんとのことは、昨日のことのように思い出せます。長々と書きましたが、次で最後とします。最後に一言、私はミウさんの歌が大好きです。マーヤより』
そう書かれた手紙にミウは、頬に伝わるもの感じ、それが涙だとすぐに気づいて、顔を俯かせてから口元を抑え、泣きながら言う。
「……バカ、あんた本当に死んじまったじゃない。けど、わたしもあんたとのことは、昨日のことのように思い出せるわ。それにしても、わたしの歌が大好きだなんて、今まで一度も言ったことないじゃない。……けど、ありがとう。それに、わたし、わたしっ……!」
手紙は、落ちた涙で所々濡れ、インクが滲み、一部が読めなくなった。
ミウは、マーヤと共にあった様々な出来事を思い浮かべ、色々な彼女を思う。
そして、堪え切れなくなり、両手を下げて、顔を上げて大泣きした。
「……うああああぁぁぁぁん……!!」
彼女の大泣きは、暫く続き、やがて泣き疲れ、涙を拭いながら口を開いた。
「ごめんなさい、もう大丈夫よ。後の事は、教会の人達に任せましょう」
ミウが生まれた国ひいては大陸では、戦死者はともかく、事故や病気などで亡くなった者のことは、国ごとにある教会に任せられている。恐らく、デュルフングの教会も同様のことを担っているとされるので、任せることにしたのだ。といっても、この国の宗教は、大陸とは違い、特有のものであるため、実際のところは分からないが。
すると、刀気が声を掛けてくる。ちなみに、他に言葉はなかったので、この国の教会も死者については、大陸と同じだと思われる。
「……本当に大丈夫か?」
ミウは、涙を拭い去り、声がした方へ向いて、答えた。
「……ええ。それに、ウエートウエポンズのところに戻りましょう。トーキ、何か言いかけていたようだし」
刀気は、複雑そうな顔をして返した。
「そ、そうだが……」
ミウは、視線をカノア達に向け、確認を取る。
「カノア達も、いいわよね」
それに、五人が言葉を発した。
「ふむ、貴様が言うのなら、妾に異存はないが」
「オレも、そうだな」
「少し心配だけど、確かに僕達ではここまでだね」
「うん。シャリアの言う通り」
「そうですわね。ミウさんの仰る通り、マーヤさんは、教会の方々に任せましょう」
メザリアの言葉により、先程の予想が当たっていたことが確認された。
ミウは頷き、口にする。
「なら、早速行きましょう」
その後、手紙を机に置く。
そうして、ミウ達は部屋を出る。
その途中、ミウは、心の中で言葉を連ねた。
――わたし、あんたと出会って、本当によかったわ。突然の別れになっちゃったけど、本音が知れてよかった。わたしも、真面目で融通が利かないけど、見守って支えてくれたあんたが好き。……それじゃ、行ってくるわね、マーヤ。これからも、見守ってちょうだい。
と、その時――。
『はい。私は、ミウさんのマネージャーですので』
そう聞こえた気がし、ミウは、歩みを止める。
「……!」
それに気づいたのか、刀気が振り向き、口を動かした。
「? どうしたんだ?」
ミウは、首を横に振りながら言う。
「ううん、何でもないわ」
先程の声は、恐らく幻聴だろう。何故なら、マーヤは亡くなっており、死者の声を聞くなど、基本的にできないからだ。まあ……、ごく一部例外があるが、今回の場合は、その条件を満たしていないため除く。それに、刀気の反応からして、ミウにしか聞こえていないようなので、幻聴だと考えるのが妥当だと思われる。一部の例外は、死者の声を聴くことができたり霊体を見えるようにすることができたりしても、個人にのみ限定することは、ミウの知る限りできないからである。
刀気は、少し間を置くが、それ以上言及することなく、向き直した。
そうしてミウは、歩みを再開し、刀気達と共に部屋を出た。
その後は、一階に降り、刀気が宿屋の店主に後の事を教会の人達に任せるよう伝え、ミウ達は、宿屋を後にした。
そして、メザリアの転移魔法で、ウエートウエポンズがいる場所へ戻る。
光が晴れ、目に見えたのは、七人の男女の姿だった。
その内の一人、プラチナブロンドの髪と灰色の双眸を持つ少年――ウエートウエポンズのリーダー、ガルムが、声を掛けてきた。
「……戻って来たか。用はもう済んだのか?」
刀気は頷き、先程中断したことを再開させる。
「ああ、それであの時の続きだけど、お前達の目的は一体何なんだ?」
今まで不明であったことであり、それ故、最優先に知らなければならないことであるため、刀気は、目的を問うたのだ。他にも、マーヤが殺されたことや、国ごと転移してきた訳などと、質問は多くあるが、まずは目的を聞かなければならない。
ガルムは口を動かし、途中、間を開けてから両手を広げ、声を張らせた。
「それは……、この国を制圧し、剣の製作技術を得ることだ!」
その目的に、刀気は、息を詰まらせる。
「な……」
しかし、いつまでもそうしているわけにはいかないので、刀気は、問い掛けた。
「ど、どういうことだ?」
すると、ガルムは両手を下げ、笑みを浮かべて口にする。
「フッ、まあ、想定していたことだ。特別に説明しよう」
そしてガルムは、ウエポニアで起きたことや、今に至るまでの経緯を説明した。
それによると、ウエポニアでは、何故か剣が作れないという。正確には、作り始めること自体は可能だが、必ず失敗するそうだ。その原因は、未だ不明で、様々な憶測が言われているが、確かなものは一つもなかった。剣――つまりは、武器を作れないというのは、武器の国の名折れであるため、あらゆる手段を使ってでも剣を作れるようにせよと、王命が下された。ちなみに、混乱を避けるため、ウエートウエポンズを含む一部の者にのみに下されたという。まずは、周辺諸国へ行き、技術を得ることにしたが、結果は変わらず、作れることは出来なかった。他国の者に作らせるという案が出されたが、そこは武器の国としてのプライドが許されず、却下された。
これにより、もう手立てはないと思われたその時、一人の男があることを提言した。
それは、こことは別の世界に行き、そこから技術を得るというものである。別の世界については、召喚魔法の研究や、昔ある国が別の世界の者を召喚したという記述から、存在は確認されていた。
提言したのは、国内随一の魔法使いと呼ばれていた男で、自分の魔法であればそれが可能であると言った。
国は彼のことを認めているため、それを受け入れ、国王の許可も得られた。
その後、威圧や撤退しやすくするために、国ごと転移することが決まり、来たのがこの世界であったという。
「……ということだ」
そう言って、ガルムは説明を終えた。
明かされた真実に刀気は、脳内でそれを要約した後、口を動かす。
「理由は、何となくだが分かったけど、攻め入る必要はあるのか? そっちの事情は何とか分かったが、目的が技術なら、戦う以外の方法もあると思うが」
彼は、一度頷き、口を開く。
「確かに、そのことは理解しているが、これは王命であるため、こうせざるを得ない」
それに、スタジーが続ける。
「すまんのう。ワシらの国では、王の命令は絶対なんじゃ」
刀気は、顔を俯かせ、納得する。
「……そうか。なら、仕方ねえ」
その後、ガルムが声を出した。
「理解してくれるなら、それでいい。……話は変わるが、試験に合格したので、貴様らと我々で決着を付けることが決まった。後日、我が国の者が訪れ、詳細を伝える」
そして、スタジーと顔合わせ、頷き合った後、向き直して口を開いた。
「……では、我々はここで失礼する」
続けて、ガルム以外の六人が言葉を発する。
「さようなら」
「じゃあな」
「それでは、また後日」
「んじゃ、またな」
「まったね~」
「またのぉ」
そうして、スタジーの魔法が発動され、ウエートウエポンズは光と共に消えた。
と、そこで刀気は、他に質問することがあることを思い出すが、時すでに遅く、問う相手はもうそこにはいない。