111.砲撃と一応の決着
刀気は、躊躇わずメザリアに、声を掛けた。
「……メザリア! 今すぐガードル全体にバリアを張ってくれ!」
振り向いた彼女は、困惑したような顔で言う。
「と、刀気さん……。いきなり何を?」
刀気は、必死の形相で頼んだ。
「説明している暇はない! それにすぐ分かる。どうか頼む!」
メザリアは、数瞬無言になった後振り返り、口にした。
「……解りました。その顔からして、何かあるのでしょう。……我が剣よ、あの街を守り給え、『バリアフィールド』!」
刀気が振り返ると、ガードルを外壁までも包むようにして、琥珀色のドームが形成されていく。
それが完成した直後、ドゴン! と音がした。恐らく、大砲の発射音だろう。
それから数秒後、黒い巨大な球体が、ガードルに落ちてきた。
そして――。
バゴーン!
という耳を劈く音が響き、バリア前で爆発した。
爆風が吹き、刀気は体を傾かせ、拳を作った右手で、横から額に当て、声を漏らす。
「くっ……」
続いて、ヤミとメザリア以外の少女達が言葉を発する。
「凄まじい爆発だ」
「まさか、こうなるとはな」
「もしかして……」
「……」
「トーキが対応してくれなかったら、まずかったわね」
刀気は、姿勢を戻し、ガードルを見ると、見える範囲には幸いにもバリアに罅はなく、砲弾の破片が載っていた。
そして、バリアが上から下へ消えていき、解除された。そのとき、破片がガードルへと落ちる。
と、そこで、メザリアの声を背で聞く。
「刀気さん、気づいてくれてありがとうございます」
右手を下げ、振り返ると、両手を組んだ金髪の少女がいて、微笑んでいた。
刀気は、彼女を見て言い、二言目からは、顔の向きを戻す。
「ああ。それにしても、街に撃ってくるとはな。こうなると、あまり時間を掛けられないかもしれない」
そして、心の中で、言葉を連ねる。
――一度見たから前兆は分かるが、何度も防ぐのはあまり良くない。メザリアの負担が増えるし、解除した時に落ちてくる破片とかが積もったら危ないかもしれないしな。まあ、メザリアだけじゃなくて、カノア達にも防いでもらうというものある。出来そうのなのは、カノアとランかな。……あ、いや、確か前に『気』で防げるのは自分の周りだけって言っていたから、防ぐことはできないな。だとすると、メザリアとカノアの二人だけか。弾を何発まで撃てるか分からないから、不安だ。だから、二発目が来る前に倒しておきたい。
すると、カノアの声が右耳に入る。
「ならば、どうする?」
刀気は、右を向き、答えた。
「ここはもう、短期決戦でいくしかない」
二発目はいつ撃たれるか分からない以上、なるべく早く敵を倒さなければならない。そうすると、先程までのように、数人ずつで戦うのは時間が掛かると推測される。なので、連続攻撃などで大ダメージを与え、それで決着を付ける。理由は不明だが、武装外獣は、今までの外獣よりも強靭であるため、生半可な攻撃では倒せない可能性はゼロではない。故に、与えるダメージは、今までより大きなものにしなければならないだろう。
刀気の答えに、シャリアが問う。
「具体的にはどうするの?」
刀気は、少し動揺するものの、正直に答える。
「具体的というより、単純だ。全員の全力を連続で与える」
すると、ミウの驚いたような、シャリアの気を遣ったような声が聞こえた。
「は?」
「た、確かに、単純だねぇ」
刀気は、苦笑顔をし、口中で言葉にする。
――ま、まあ、そう言われても仕方ない。作戦という程でもない、言うなれば、一番威力が高い技を全員で連続に使うようなものだしな。
ゲームであるが、これが簡単に大ダメージを与えられる方法である。特に、体力が多い強敵相手に使われるものだ。といっても、全てのゲーム内バトルに当てはまるとは限らないが。だが、メリットはある。それは、シンプルであるが、条件さえ満たしていれば行えるので、下準備はほぼ必要ないというところだ。なので、短期決戦には有効な方法である。メリットや目的は、今回の場合にも通ずるため、愚策というわけにならないと思われる。
と、そこで、ランが言葉を発した。
「けど、オレはこの方が分かりやすいから、いいぜ」
それにカノアが、考え込み仕草をしつつ、口を動かす。
「まあ、今までの戦いからして、一理あるな」
思えば、以前までの外獣戦――ローメリア戦も含む――では、全員ではなく少数の場合もあるが、多くが一斉攻撃による決着であった。なので、それによる意見なのだろうか。まあ……、思い出せば、ゲームのブレイドガールズの連携攻撃に似ているが、自分としてはあくまでも偶然だ。理由としては、ローメリア戦で、ゲーム『ブレイドガールズ』の記憶を思い出す前にも行っていたからである。この世界に転移してから、その時までゲームのブレイドガールズに関する記憶が封印されていたので、意図的にすることはできない。故に、その時までは偶然である。といっても、似たシステムがあるゲームはあるので、そちらの方であった可能性はあるが。
シャリアとミウは、内容は違えど、同意してくれた。
「……それなら、いいけど」
「ま、さっきまでのよりは、マシかもしれないし。いいわ、わたしも賛成よ」
刀気は顔を戻し、向き直して視線をメザリアに移して言った。
「メザリアは、どうなんだ?」
メザリアは、左手を胸部に当て、答えた。
「私は、先程言いました通り、リーダーの提案ですので、従いますわ」
刀気は頷き、口を開き、二言目は視線を戻してから続ける。
「そうか。んじゃ、始めるとしよう」
すると、ミウが声を出した。
「それじゃあ、わたしからいくわね」
そうして、彼女は歌い始めた。
「――――」
それを見ると、歌姫の双剣が剣帯から出たので、顔で追うと、武装外獣へと向かっていく。
そして、踊るように敵を斬っていく。
ミウの攻撃に、武装外獣は声を上げる。
「ガッ……、グギャア!」
暫くした後、歌が終わり、双剣がミウへと戻ると、今度は、背を向けたメザリアが言う。
「次は、私が行きます。我が剣よ、炎を纏いて、敵を切り裂け、『フレイムソード』!」
詠唱が終わると、聖母の魔法剣の剣身から発火し、炎はその部分に纏った。
その後、剣を右斜めに持ち、気合を発して、メザリアは駆け出した。
「やああああああ!」
そうして、敵に近づくと、袈裟斬りを行った。
そして、後退すると、後方からヤミの声がした。
「……次は、ヤミが行く」
それから数秒後、駆け出すヤミが見え、敵の前足や尻尾での攻撃を避けつつ、接近したところで、首元側に移動し、ジャンプする。その高さは、武装外獣を優に超える。
ヤミは、体を捻り、敵の首を、隠者の暗殺剣で斬る。
「……!」
その勢いを利用してか、ヤミはバランスを崩さずに着地した。
直後、シャリアの声を背で聞く。
「まだまだ続くよ」
暫しの静寂の後、彼女の裂帛の気合が響いた。
「……ハアアアアアア!」
瞬間、一条の光に似たものが二回見えたかと思うと、武装外獣の腹に二つの穴が開いていた。恐らく、往復で二撃与えたことによるものだろう。
と、そこで、ランが言葉を発する。
「今度はオレだ」
暫くして、敵に向かうランが見え、近づいたところ止まる。
そこで刀気は気づく。大剣が納められていることに。
すると彼女は、右手で拳を作り、それにベージュ色のもの――『気』を纏わせた。その大きさは、手の倍近くのものだった。
すると、膝を曲げ、大声を出した。
「喰らいやがれぇえええっ!」
そうして、ランが右手を突き出すと、気が飛び出し、敵に直撃した。
その後、ランは膝を戻し、右側に寄る。
刀気は、意外な攻撃に目を見開き、開いた口が塞がらなくなる。刀気としては、大剣で攻撃をするものだと思っていたからだ。……いや、考えてみると、ランは剣を使うが、『気』を操る『能力者』でもあるので、このよう攻撃をしても、何ら不思議ではない。剣をよく使うため、そのことを失念していたようだ。
刀気が動き止めていると、カノアの声を耳にしたので、気を取り直す。
「フッ、次なる攻撃を紡ごう」
数秒後、駆け出すカノアが見え、敵の地面と腹部の隙間に入り、端まで着く。
そして、横を向き、凧を揚げるかのような動きで、敵を斬る。
その後、顔近くまで進むと、技名を口にした。
「暗黒昇斬!」
そうして、背を向けて釣り上げるが如く、斬り上げた。
武装外獣はそれにより、前足が上がり、仰け反るような姿になった。
刀気は、言技化丸を両手で持ち、口を動かし、ダッシュする。
「最後は俺だ」
そして、接近したところで止まり、両足で勢いを付けて、大ジャンプをした。
それから、仰け反った敵をも超える高さまで跳ねると、振りかぶり、見下ろして技名を言う。
「天上降下、一刀、両断!」
そうして、降下と共に、敵を一直線に斬る。
この技は、高くジャンプしていることが前提であるため、通常では条件を満たせない。しかし、今の刀気は身体強化をしているので、その条件を満たせている。つまり、『天上降下、一刀両断』は、身体強化したからこそ、発動できる技なのだ。
「ガ、ガガ……」
刀気が着地すると、そんな声が武装外獣から聞こえた。
刀気は、体をゆっくりと上げてから、刀を納める。
チン、という音がした直後、武装外獣は、轟音と共に大爆発をを起こした。
硝煙が上がり、暫くして、風により晴れると、見えたのは、機械や武器の残骸と爆発跡とウエートウエポンズだった。
刀気は、敵の撃破を確認した後、勝利を宣言する。
「よ、よし! 俺達の勝利だ!」
少女達も、言葉を発していく。ちなみに、声からして、ミウは嬉し泣きをしているようだ。
「これで、長きにわたる戦いが終わったのだな」
「ああ」
「まだ実際には分からないけど、そんな感じがするよ」
「これも、ヤミとシャリア――トーキ達のおかげ」
「ええ。そうですわね」
「あ、あれ? ……ごめんなさい、グスッ、カノアが言っていたことだと思うと涙が……」
こうして、刀気達――いや、オーナーズ・オブ・ブレイド、そしてブレイドガールズと外獣との戦いに一応の決着が付いた。
しかしそれは、あくまでも外獣との戦いの話である。つまり、この国の戦いが終わったわけではない。なので、勝利の余韻に浸る暇はなく、もう一つの戦いに意識を向けなければならない。
刀気は、眼前にいるウエートウエポンズを見て口にした。
「……けど、まだ終わりじゃない。あいつらに聞かなければならない。色々と」
カノアが、それに応える。
「そ、そうだな」
すると、ウエートウエポンズのリーダーであるガルムが、左掌を上にして右手で数回叩き、両手を下げてから口を動かす。
「まさか、武装外獣に勝つとはな。だが、言っておこう。おめでとう、合格だ」
刀気は前に出て、口を開く。
「だったら、約束通り問わせてもらう。お前らの――」
しかし、その途中に誰かの足音が聞こえ、言葉が止まる。
足音が聞こえなくなってから振り返ると、そこには、一人の女性がいた。
彼女は、体を曲げており、両手を膝につけている状態で息を整えてから顔を上げ、言い始めた。
「……オーナーズ・オブ・ブレイドの皆さん、大変です! マーヤさんが何者かに殺されました!」
「…………え」
そう声を漏らしたのは、ミウだった。