109.オーナーズ・オブ・ブレイドと武装外獣
「それじゃあ、オレからいくぜ。うおおおおおお!」
先手を取ったのはオーナーズ・オブ・ブレイドで、ランが気合を発して突撃した。
武装外獣に接近したところで、敵が右前足を振りかぶった。
ランは急停止して、襲い来る前足を大剣で受け止める。
その時の衝撃に、苦し気な声を漏らした。
「くっ……」
すると今度は、カノアの声がして、彼女も敵へと向かった。
「ならば、妾が」
その接近にランの時とほぼ同じタイミングで、武装外獣は、左前足を振りかぶる。
カノアも急停止して、攻撃を剣で受け止める。
「チッ……」
舌打ちをするものの、敵の左前足を抑え続ける。
その状況に、シャリアが言葉を発した。
「ラン達に加勢しないと」
続いてミウも、声を出す。
「なら、わたしはカノアの方に向かわせるから、シャリアはランの方をお願い」
シャリアは、短く了承した。
「解った」
その後、ミウが歌い始め、シャリアと歌姫の双剣が武装外獣に向かった。
「――――」
そうして、シャリアが右前足を、ミウの双剣が右前足を受け止める。
「オレ一人でもいけるが、ありがとな」
「加勢、感謝する」
ランは後方を向き、カノアは右を向いて二人はそう言う。
これにより、それぞれの敵前足を二人がかりで抑えているが、押し返すには至らず、抑え込むままであった。しかし、押されることはなく、どうやら安定しているようだ。だが、それがいつまで続くかは分からないので、何らかの策を練らなければならない。
その時、武装外獣の尻尾が浮き上がり、凄まじい速さでランへと伸びていった。
このままでは、ランは側面から刺されることになるだろう。もし、彼女が尻尾の方に対応したとしても、バランスが崩れ、下ろされる前足に潰れるかかぎ爪でどちらにしろダメージを受けてしまう恐れがある。
刀気は、思わずランに声を掛ける。
「危ない!」
その時、ヤミの声が聞こえた。
「……ヤミが行く」
そして、足音を耳にし、数秒後には、ヤミが駆けているのが見えた。
左斜めを向いて、彼女を見ると、ランに襲い来る尻尾を短剣で防ぎ、弾き返す。
再び尻尾が伸びてくるが、それもヤミは弾き返す。
以降も繰り返され、攻撃に対応し続けている。
ランは集中しているからか、礼を言わなかった。しかし、むしろそれでいいと思われる。礼をしたことでもし集中が切れた場合、バランスが崩れ、ダメージを受ける可能性があるからだ。それにヤミも、恐らく助けるために向かったのであって、感謝を求めているわけではないのだろう。
これにより、敵の攻撃を対応しているのが五人となり、手が空いているのは刀気とメザリアだけとなった。だからといって、五人に任せるつもりはない。この状況は、逆に言えば攻撃できるのは刀気とメザリアの二人だけであるともいえるからだ。ここで仕掛けなければ、カノア達に申し訳ない。このまま棒立ちするより、この状況をチャンス……というのは些か不謹慎だが、活用するべきである。
刀気は振り向き、口を動かした。
「みんなの頑張りを無駄にするわけにはいかない。メザリア、後方支援を頼む!」
メザリアは、頷きながら了承する。
「解りました」
刀気は前を向き、その後に発せられた彼女の魔法詠唱を背で聞く。
「我が剣よ、火球を生み、敵を討て、『ファイアボール』!」
暫くして、火球が飛んでいくのを見、やがて武装外獣の顔に当たった。
顔が燃え、悲鳴が響く。
「グギャアア!」
それをチャンスと見て、刀気は心の中で言葉にする。
――よし、これで俺から視界が外れた。攻撃するなら今だ。
そして、両手でそれぞれ柄と鞘を持ち、前傾姿勢をして、技名を言う。
「瞬斬!」
瞬間、刀気がウエートウエポンズの前に着くと、噴出音と短い悲鳴が聞こえた。
刀気は、すぐさま姿勢を戻して振り返り、右手を離し、左手を右側に回して剣技を発動させる。
「速斬、十文字!」
刀気は、先程とは逆方向に斬り、素早く側面に回ってもう一度斬る。このようにして、敵を十字に斬った。
斬り終えると、噴出音とひときわ大きい悲鳴が響いた。
「ガアアアア!」
刀気は、左手を下げて振り返り、口中で言葉を連ねる。
――とりあえず連続で二つ使ったけど、倒れはしないか。最終試験の相手として出したくらいだ。簡単には倒れないってことか。そりゃそうか、最後の外獣かもしれない敵が、あっけなく終わるのもどうかと思うしな。
すると、武装外獣が前足を傾けさせる。どうやら、力を入れ、先に前足を抑えられている者から対処するのだと推測される。このままでは、少女三人と双剣が、大きな足に踏み潰されてしまう。それは、何としてでも阻止しなければならない。
と、そこで、メザリアの声が右耳に入った。
「させません。我が剣よ、岩の杭にて、敵を刺せ、『ロックステーク』!」
詠唱が終わると、武装外獣の真ん中辺りの地面から突然岩の杭が伸びるように現れ、敵を突き刺す。まあ……、上に大砲があるからか、貫通はしなかったが。
武装外獣は、悲鳴を上げ、前足の傾きを止めた。
「ギャアアアア!」
その時、カノアとランが言葉を発した。
「力が弱まってきた。これなら……」
「ああ、今なら押し返せる」
右斜めに向けると、三人の少女と一組の双剣が武装外獣の前足を押し、やがて押し返した。そこで、ミウの歌声が止まる。
前半分が浮いた状態になった武装外獣は、それが下ろされ、前足が地面を踏み、ドスーンという振動を響かせる。ちなみにカノア達は、下ろされた直後に後退したので、誰一人潰されることはなかった。無論、歌姫の双剣も無事だ。
刀気は、カノア達三人と左を向いてヤミを見、声を掛ける。
「よし、一旦体勢を戻すぞ」
このまま攻撃を続けるのもいいが、体勢を戻し、戦い方を決める方がいい判断した為、刀気はこのような指示をしたのだ。この戦いが始まってから今までのは、ランの突撃から始まり、その後起きたことに対応や活用をしてきたものであり、作戦などによるものではない。お願いや頼みはあったものの、その場その場のことであるため、一貫したものではなく、このまま無策で立ち向かっても、先程までの二の舞になる可能性はゼロではない。なので、これから敵を倒すまでの一貫した作戦が必要となる。
ふと、そこで刀気は、あることに気づく。それは、戦いが始まってから今まで、大砲が使われていないことである。そもそも、刀気達と武装外獣との距離は、数メートルであるため、砲撃では通り過ぎると推測される。だとしたら、下向きに撃つことが考えられるが、そうすると頭部を掠める可能性があるため、行わなかったのだろうか。それに、形状的に旋回できないので、刀気が後ろや側面にいた時に撃たなかったのは、それが理由なのだろう。他に考えられるとしたら、まだ撃つときではないというものだ。相手にも何らかの作戦があり、それで決まった時に撃つと思われる。もしそうだとしても、理由は不明だが、可能性として考えても損ではないだろう。
そう考えていると、返事を耳にしたので、刀気は向き直して、右側に移動する。
最初にここへ来たときの位置に戻ると、カノア達三人が合流し、大きい音がした後、暫くしてヤミもこちらに来た。
その後、尻尾が襲い来る気配はなかった。恐らく、届かないからか、別の理由で戻しているとされる。
刀気は、眼前にいる武装外獣を見て、胸中で思う。
――武装外獣、思ったより強いな。だって、こちらの大半を攻撃の対応に回してしまうくらいだからなぁ。まあでも、ダメージはちゃんと受けているし、勝てないわけではないと思う。でも、何回も繰り返したら対応している側が疲れるから、なるべく長期戦は避けなければな。HPがないから、いつ倒せるから分からないし、スタミナバーもないから、カノア達がいつ疲れるかも分からないしな。疲れによって判断が鈍ってしまい、それで傷ついてしまうのも避けたい。俺が知ってる限りだと、外獣は操られているからか、疲れているところはあまり見たことがない。なので、長期戦で不利になるのは俺達だ。だから、早めに決着を付けなければならない。
と、そこで、カノアが声を掛けてきた。
「してトーキよ、どうする?」
刀気は、暫し考え込こんだ後、作戦を口にする。
「……何回も攻撃を受け止めるのは、体力が持たないだろうし、攻撃はなるべく避ける。でも、全員じゃなくて数人ずつで行き、残りは待機だ。途中、疲れたと思ったら交代して、体を休めろ。あと、いけると思ったら攻撃をすること。けど、無理はするな」
先刻のように防御すれば、再び刀気達の大半が防ぐことになるため、それだけ与えられるダメージが少なくなる。そうなると、撃破に時間が掛かり、全員の体力が消耗するだろう。その為、防御ではなく回避にした。体力の消耗は避けられないが、防御よりは攻撃を仕掛けられる機会はあるので、数人ずつでもそれなりのダメージを与えられると思われる。それに、昨日の戦いで考えたことのように、回避を重視する場合は、少数で向かう方がいい。今回は、今のところ敵は武装外獣だけなので、アタッカー数人でも問題ないだろう。
カノアは了承し、更に問う。
「解った。それで、順番はどうする?」
今度は考え込まず、順番を告げる。
「順番は、最初に俺とカノアとランが行き、交代または俺達三人が疲れた場合にシャリアとヤミが行く。二人も同じ状態になったら、メザリアとミウが攻撃をして、交代または疲れたときには、最初の三人が行く。これを敵がやられるまで繰り返す」
順番については、剣の能力により多彩なことができる刀気とカノア、そして『能力者』であるランで敵の攻撃を知り、ダメージを与えていく。この時に、敵に色々な攻撃を出させれば、後続の者のためになる。次に、こちらも剣の能力により一撃の威力の高さを誇るシャリアとヤミで、更にダメージを蓄積させる。最後に、メザリアとミウで止めを刺す。それでも倒せない場合は最初の三人が行き、二巡目に入る。ちなみに、その時の三人は、一巡目とは異なり、敵の攻撃を知ることや出させる必要はない。これを、敵の撃破まで体力の続く限り繰り返す。
すると彼女は、刀気の言葉から察したのか、声を出す。
「……それは、この戦いが長期戦になると踏んでいるからか?」
それにランが、反応する。
「え? そうなのか?」
刀気は、動揺しつつも、首を横に振り、口を動かす。
「い、いや、確信があるわけじゃないけど、一応な」
そうすると、カノアの声が聞こえた。
「まあ、万一に備えるのは悪いことではない。たとえ杞憂だとしても、あまり問題はなかろう。故に、妾は賛成だ。トーキの提案に異論がある者はいるか?」
意見を求める言葉に、カノア以外の少女が応じる。
「いや、オレは特にないぜ。オレも賛成だ」
「交代で戦うのはいいかもしれないから、僕も同じだよ」
「シャリアと一緒に戦えるならそれでいい」
「私達のリーダーは刀気さんですので、リーダーの提案でしたら従いますわ」
「ま、みんながそれでいいなら、構わないわ」
刀気は、苦笑交じりに礼を言い、表情を戻してカノアとランを見、声を掛けた。
「ありがとう。……それじゃあ、俺とカノアとランから行くぞ」
二人は、同時に応えた。
「ああ!」