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106.刀とクロスボウ

 道中、邪魔(じゃま)な敵はカノア達が倒してくれたおかげで刀気(とうき)は、敵集団をけることに成功した。途中、後を向くと、(かみ)とワンピースを()らして、メザリアが走っていた。といっても、揺れているところはもう一つあるが、どこからか視線を感じたので、すぐさま向き直す。


 それから(しばら)くして、刀気は、敵部隊の隊長の男のところに着いた。少し遅れて、後方から足を止める音が聞こえたので、メザリアも着いたのだろう。


 「フッ、二人だけで来るとは、いい度胸じゃないか」


 男は、不敵に笑い、そう言う。


 刀気は、無愛想(ぶあいそう)に返す。


 「別にいいだろう」


 ちなみにこれは、()えて行ったことである。何故(なぜ)なら、こちらの作戦を、相手に(さと)られないようにするためだからだ。


 男は、刀気の反応に嫌な顔をせずに、口を開いた。


 「そうか。……おっと、そういえばまだ名乗ってなかったな。(おれ)の名は、クロスウル・キャプトゥルヴァだ。ああ、そっちは名乗らなくていいぜ。既に知っているからな、オーナーズ・オブ・ブレイドのお二人さん」


 するとメザリアが、敵部隊長の男――クロスウルに質問した。


 「戦う前に聞きたいのですが、何故国に仕えるあなた方が、あのようなことをしたのですか?」


 クロスウルは、左手で頭を数回()きながら返答する。


 「あ~~、あれか? 実は俺達、元海賊(かいぞく)でな、その時のクセだったんだよ」


 ――やっぱりそうか。


 返答の直後、以前行った予想が当たったので、刀気はそう思った。


 その後、メザリアが言葉を発した。


 「そう、だったのですね。答えていただき、ありがとうございます。これで、気掛(きが)かりはなくなりました」


 クロスウルは、右腕(みぎうで)を突き出して、口にする。


 「なら、そろそろ始めようか」


 刀気は、(うなず)いて短く返す。


 「ああ」


 そして、刀を構える。


 すると後から、メザリアの声を耳にした。


 「では、私は準備に入らせてもらいます。我が剣よ、我を守り(たま)え、『バリアー』!」


 振り向くと、彼女の周りに下から琥珀(こはく)色をした硝子(ガラス)状のものが現れ、徐々(じょじょ)に上がってきて、ドーム状のバリアを形成していく。


 数秒で完成した直後、魔法剣使いの少女がさっきとは別の魔法を詠唱(えいしょう)する。


 「我が剣よ、我の魔法と(つな)がり給え、『ソードリンク』!」


 その後、バリアから同色の不定形なものが伸び、それが聖母の(アワーレイディー・)魔法剣(マジカルソード)に集まって、繋がった。以前聞いた話によれば、これでバリアーが強化される。


 そこで、クロスウルの声がした。


 「? そっちの美人さん、守りに入ったようだが、何のつもりだ?」


 問いにメザリアは、真剣な顔で答える。


 「私の役割は、あくまでも刀気さんの支援(しえん)ですので」


 彼女が自らの役割を明かしたことに、刀気は内心(ないしん)(おどろ)く。理由としては、刀気は相手に作戦を悟られないようにしているが、メザリアはその作戦の一部と言えることを答えたからである。


 しかし、考えてみると、役割を明かしてもあまり問題ないことに気づく。相手の(かん)の良さがどれくらいかは分からないが、作戦自体を言っているわけではないため、実行不可になるほど作戦が破綻(はたん)する可能性は低い。


 刀気が向き直すと、クロスウルは、左手の親指と人差し指の間を(あご)につけ、口を動かした。


 「ふ~ん、俺も()められたもんだな。あんたは、それでいいのか?」


 刀気は頷き、返答していく。


 「ああ、こっちの方が好都合なんでな」


 何が、何故かは、敢えて言わず、好都合という言葉で答えた。何故なら、一部が知られても、全てを言うつもりはないからだ。


 眼前の男は、左手を離してから口を開き、言い終えるのと同時に、矢を射出させた。


 「そうか。んじゃ、今度こそ本当に始めよう……かっ!」


 瞬間(しゅんかん)(すさ)まじい速度で矢がこちらに向かい、刀気は心の声と共に驚く。


 ――な……、この速さは。


 同時に突風が吹き、刀気とクロスウルの髪と衣服を揺らす。


 咄嗟(とっさ)回避(かいひ)すると、数秒後に甲高(かんだか)い音とメザリアの悲鳴が(ひび)いた。


 「きゃあっ!」


 刀気は、すぐさま振り向き、彼女に声を掛けた。


 「メザリア、大丈夫か!」


 衝撃(しょうげき)に身を(すく)ませていたのか、少し体を曲げているメザリアが応えた。


 「え、ええ。ちゃんと防がれていますわ」


 確かに、バリアが破壊(はかい)された形跡(けいせき)はなく、ひびも入っていない。その証拠に、矢がバリアの前に落ちていた。どうやら、ソードリンクで強化されたバリアーなら、防げるようだ。


 すると、クロスウルの声が聞こえたので、刀気は、向き直して彼を見た。


 「驚いたか。こいつは『神速の(フリートオブ)クロスボウ』っていって、クロスボウだが、()ち出せる速さは普通のとは比べられない程になる能力を持っている」


 刀気は、先程の矢を思い出し、神速のクロスボウを見てから口にした。


 「まさかとは思ったけど、あんたも能力持ちの武器を持っているんだな」


 それならば、あの突風にも説明がつく。あれは、速さ(ゆえ)に発生したものだろう。ゲームの中でだが、刀気は、弓で矢が放たれるときに風が吹くエフェクト(演出)があった作品を見たことがあるので、似た武器であるクロスボウでも、そのようなことが起きたと推測する。ちなみに、その時も今回ほどではないが、矢が凄まじい速さで放たれていた。まあ……、あくまでもゲーム上のことなので、実際には発生しないと思うが。


 しかし、射出速度が上がる能力を持っているとなれば、話は別である。速さが上がれば、射出したときの衝撃が強くなり、発生した風も強くなるということだと思われる。


 クロスウルは、やれやれといった感じに補足する。


 「っても、能力がある飛び道具は、あまり少ないけどな」


 それに刀気は、短く返す。


 「そうなのか」


 と、そこで刀気は、ウエートウエポンズについて、思い出す。理由としては、部隊長の武器だと彼のクロスボウが初めて見る能力持ちの飛び道具だが、ウエートウエポンズには恐らく能力持ちであろう飛び道具を持っている者が三人――スタジーの(スタッフ)攻撃(こうげき)は魔法だとされるので(ふく)めている――いて、少ない印象があまりないからだ。といっても、彼等(あれら)は一人の差で近距離(きんきょり)武器の方が多いので、数的には少ない。しかし、差が小さいので、あまり感じることはなかったのだ。なので、考えられるとしたら、能力持ちの武器の総合的な数による割合のことだと推測される。


 すると、両腕を下げ、突然クロスウルが話を変えてきた。


 「そういえば、てめぇらの武器は、剣なんだよな」


 突然のことに刀気は、少し驚きつつも、肯定(こうてい)した。


 「あ、ああ、そうだが」


 そして、突然何を言っているのかと(いぶか)しむ。


 クロスウルは、顔を(うつむ)かせ、(かげ)りを見せて言う。


 「そうか……、剣か……」


 直後、両手で拳を作り、(にぎ)りを強くして、初めて見る顔を彼はした。


 刀気は、その顔を見て、心の中で言葉にする。


 ――まただ。これまで何回か敵部隊と戦ったが、そこで知ったことによると、こいつらは、剣のことになると大体同じ顔をする。しかもその顔は、なんとなくだが(にく)んでいるように見えるんだよなぁ。一体ウエポニアと剣に何があったんだろう。憎んでいるってことは、只事(ただごと)じゃないと思うが……。まあ、別世界にまで来て侵攻するくらいだからな。やっぱり、早めにウエートウエポンズと再び会って、目的を聞き出さなきゃいけない。これ以上相手の目的を知らずに戦うのもなんだしな。


 するとクロスウルは、息を吐き、顔と右腕を上げ、口を動かして、また言い終えるのと同時に、射出させる。


 「それじゃ、再開するとしよう……かっ!」


 刀気は、敵の攻撃を()け反撃に転じようとするが、無駄(むだ)のない装填(そうてん)により、(わず)かながらクロスウルの方が早く、すぐさま三発目が放たれた。なので、回避せざるを得なかった。


 その後も射出の間隔(かんかく)は変わらないので間に合わず、攻撃を避け続けることになってしまった。


 そんな後手(ごて)後手の状況に(おちい)っていると、クロスボウ使いの男が、顔をにやけさせ、言い放つ。


 「どうした? 避けてばかりじゃ俺は倒せないぜ」


 刀気は、攻撃を避けつつ、思考する。


 ――矢が速いだけじゃなく、次が来るのも速いから、距離が詰めにくい。矢が切れるのを待つにしても、そこまで体力が持つかどうか。なにせ、避けるための速さと見極めるための集中力で、肉体的にも精神的にも(つか)れているしな。身体強化しているとはいえ、無限ではないと思うし、このままじゃ不味(まず)い。


 助けを求めるため、避けながら振り向くが、各々(おのおの)が交戦状態になっているようで、呼んでも来ることは難しいので、断念した。


 向き直すと、右腰(みぎこし)()けているのが見える矢筒(やづつ)に目が向く。そこには、矢が数十本残っていた。間隔が短いとはいえ、その数だと、無くなるのはまだ先である可能性が高い。故に、敵の矢か刀気の体力、どちらが先に切れても、おかしくはないだろう。それにもし、矢が切れた時のために何らかの武器を(かく)し持っているとしたら、撃ち()くしたとしても油断はできない。流石(さすが)にそれにも能力があるとは考えにくいが、武器自体のことは、考慮(こうりょ)すべきだ。


 そうしていると、メザリアが言葉を発した。


 「……でしたら。我が剣よ、敵の動きを鈍らせ給え、『ブランティング』!」


 すると突然、クロスウルが()い灰色に染まっていき、数秒後それが消えると、()び付いた歯車のように動きが鈍くなり、矢の射出が止まった。


 なので刀気は、そこで足を止める。


 鈍化したクロスウルは、声を()らす。


 「くっ……、動きが……」


 刀気は振り向き、メザリアに礼を言う。


 「助かった。これなら、距離を()められる」


 「ええ。ですが、(ふう)じたわけではありませんので、早めに向かってください」


 確かに、少しずつだが動いているので、向き直して敵に接近していく。


 たとえ射出を許しても、立っているときよりも難しいが回避し、その後再び接近する。しかし、懸念(けねん)事項が一つある。それは、射出された矢の速さはどうなるかというものだ。メザリアの魔法により、敵の動きは鈍くなったが、それが矢の速さにも適応されるかは不明である。もし、適応されているのが敵だけだとしたら、矢の速さは変わらない可能性が高い。そうなると、接近の途中で避けるのは難しい。対処するには、射出される前に近づき、攻撃を仕掛けなくてはならない。まあ……、そもそも、仲間が作ったチャンスを無駄にするつもりはないが。


 刀気が近づくと、クロスウルは舌打ちをした。


 「チッ、接近してきたか。だが、あと少しで――」


 「武器破壊の連剣!」


 相手が言い切る前に、刀気は技名を発し、クロスボウを連続で斬る。


 そうすると、クロスボウは、(いく)つかに分けられ、破壊した。


 自分の武器が(こわ)れたことに、クロスウルは、息を詰まらせる。


 「な……」


 刀気は、刀を納め、口を開く。


 「これで最後だ! 居合一閃(いっせん)!」


 そして、刀を抜き、敵に当たる寸前で刃の向きを変え、(みね)打ちをする。


 「がはぁ……」


 そう声を漏らし、クロスウルは倒れた。同時に、振動(しんどう)とは別の音を耳にした。恐らく、彼が倒れたことにより、矢筒から矢がこぼれた音だろう。


 そこで、後方からメザリアの声が聞こえた。


 「勝ちました……のでしょうか?」


 刀気は振り向き、頷いて言う。


 「……ああ、多分そうだ」


 それにより、彼女が勝利を認識したのか、バリアとそれを剣と繋げていたものが消えた。


 こうして、ウエポニア海戦部隊隊長クロスウル・キャプトゥルヴァとの戦いは、刀気とメザリアの勝利で終わった。


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