9.提案と問題
カノアがランと共に、席に戻ると、レイに向けて、口を開く。
「レイよ、頼みがあるのだが、トーキを、妾達の一員に加えてもらえないだろうか」
「小奴の強さは、妾とランが保障する。どうか、了承してもらえないだろうか」
「オレからも、どうか頼む。カノアの言うことは、オレも同意だ。あの時は、座り込んでいたが、外獣を一発で倒したってことは、相当、ツエーやつだと思ったんだ。だから、トーキを、オレ達の仲間にしたい」
ランと同時に、頭を下げながら、頼む。確かに、一緒に戦いたいのはやまやまだが、そちらから申し出るとは、思っていなかった。
だが、刀気はその時、宿舎に行く前に、カノアが誘って来た時のことを、思い出す。
そういえば、ランが、何か言いたげな感じだったが、もしかしたら、これのことだったのかと推測する。
しかし、そうなると、刀気はブレイドガールズの一員になるということだ。
だが、これは、大きな矛盾を生むことになる。それは、名前にガールズとつく以上、男の刀気が入ってしまうと、名前が意味を成さなくなってしまう、ということだ。つまり、その名がつく限り、刀気が入ることは、不可能である。といっても、女装をするなどの方法があるが、それは、嫌だった。それならば、他の方法を探す方が、ましである。何故なら、女装にトラウマがあるわけではないが、力の唯一性の為に、男である方がいいからだ。
なので何故、カノアはそう言ったのか、分からなかった。カノアもこのことは、知ってるはずだが、何か刀気でも入れるような案があるのだろうか。それならば、女装等以外であれば、歓迎だ。
後、レイも、刀気が入れないことなど、知っているはずだ。だから、答えは、ノーであるだろう。しかし、親代わりとして、理由を聞きにいくと、思われる。その上で、刀気を入れるか否かを決めるはずだ。
だが、数秒の静寂の後、レイが口から出したのは、意外なものだった。
「……、分かった、参入を許可する。お前らがそこまで言うのなら、噓ではないからな。それに、お前たちがそこまで信頼する人物だ。私も、それを確認する必要があるからな」
まさか、と思い、刀気は、声を出さずに驚く。
もしや矛盾に気づいていない、とは思いづらいが、レイも案があるのだろうか。最悪、二人が同じ案で、それが女装等だったら、刀気は即刻断り、他の方法を探しにいくだろう。
女装による羞恥心はあるが、それよりも、唯一性が無くなるのは、断固として、譲ることは出来ない。こんな、ゲームのプレイヤーとしてしか、味わったことがないことを、捨てるわけにはいかなかった。
このような状況である前の刀気には、薄れているが、幼い頃は、ゲームの主人公のようになりたい、と思っていた。だが、今となっては、この状況により、その思いが数年ぶりに再燃した、と感じている。なので、戦うとしたら、男としていくことに、一切の揺らぎは無い。
こう思うと、ここは異世界ではなく、実はゲームの中なのでは、と感じたが、すぐに否定する。
たとえ、VRだとしても、ここまで進化していない。していたとしても、それなら、既に情報を得ているはすだ。こんなVRゲームがもしあったら、ゲーマーとして見逃すわけがない。
このことにより、刀気は、ここはやはり、異世界であると、結論付けた。そうでなければ、辻褄が合わなくなる。
それに、カノア達を見ていると、話し方や動きまで、どう見ても、NPCとは思えなかった。
それに、刀気の知る限り、AIがここまで進化しているはずがない。もしそうだとしても、TVかネットニュースになっているはずだ。だが、そうなっていないということは、彼女らは、AIではなく、この世界に住む『人間』である。
それに、状況を除き、いままでゲーム的な要素はなかった。というより、ゲームだとしたら、あまりにもリアル過ぎる疲労感と、頭痛であるが、痛みがあった。まあ……、ここまでいくと、ユーザーからのクレームがくるだろう。
刀気自身も痛みが頭痛ではなく、切り裂かれたり撃たれたりしたときの痛覚が、それらと同じなら、クレームをするはずだ。
それ故、刀気はここを、ゲームではなく、まごう事なき異世界であると、再度断定した。
だが、それよりも今は、刀気が女装されるかどうか、間もなく判明することが、最優先事項である。
なので、この後のことを、刀気は、顔を戻してから固唾を飲みつつ、待つ。
すると、レイは、何かに気づき、言葉を発する。
「しかし、そうなると、名前を変える必要があるな」
その後、カノアが少し思考した後、再び首をかしげるが、すぐに察し、レイに言う。
「そうか……、トーキが、入るということは、妾達、ブレイドガールズではなくなるという事か」
「え? 一体、どういうことだ」
ランだけが、何の事か分からす、カノアとレイを、交互に見る。
しかし、二人は、口を結び、目は、ランの方を向けなかった。
そして、困惑するランは刀気を見た瞬間に、ハッとし、顔を戻してから、納得した顔をする。
――つまり、俺が入ることで、ブレイド「ガールズ」とは呼べなくなる、という事か。
刀気はそう胸中で言い、レイ達を見る。
なんとか、女装は避けられたが、名を変えるという、考えてみれば出て来ることだった。思えばあの時に、カノアは、根本的な問題がある、と言っていた。
これでは、今までの不安が無駄であると思い、さっきまでの自分を、脳内で責める。
――クソ……、女装とか思っちまった俺が、バカみたいじゃねぇか。何で、すぐに思いつかないんだ? 記憶はともかく、こっちが出てくると思うのに。もしかして、あの時は、突然のことに、混乱していたのかもしれない。だから、あんな突飛な考えになったのだろうか。……そうだと思いたい。正気の俺が、そんなこと思うはずないし。
「そういうことだ。だから、名前を変えなければいけない。……誰か案はあるか」
途中、レイは、刀気から見て左から右へ、最後に彼の方に向けて、言った。
レイは、刀気達を見、考え込む素振りはなかった。だがこれは、刀気達の問題、つまり、三人で決めていくものであるので、疑問には思わなかったのである。
ここまでのことで、レイが刀気のブレイドガールズ入りの可否を決めたり、その集団名の改名案を考えさせたりしたことにより、彼女はカノアより上の立場であると推測する。確かにレイは、元ブレイドガールズであるので、適役だと思った。
すると、何かありげに、カノアが言う。その顔は、自信に満ちあふれた感があった。カノアは、ブレイドガールズのリーダーであるので、いい名前を閃いたのか、と思った。しかし同時に、嫌な予感がする。それは、刀気のゲーム経験がそうさせていた。
つまり、カノアのような者が、思いつくものといったら――。
「ならは、暗黒守護騎士団は――」
「誰かいないのか」
「無視するなあああ!」
さっきまでの彼女とは、違うような声で叫ぶ。しかし、声質は、覚えがあった。それは、刀気の謝罪を許し、彼がそれに感謝した時に返した言葉の末尾に、言ったものや、ランと言い争っていたときにも聞いたものだった。
ようするに、カノアは、羞恥や怒りのときに、声質が変わると思われる。
二つの顔があるため、どちらかが本当の彼女なのか、分からなかったが、一回考えると、今のカノアが素であると出た。これも、ゲームの経験によるものである。
それと、案の定、カノア発案の名前は、予測できたようなもであった。つまり、嫌な予感の方である。
レイとランは、叫ぶカノアに、顔を向けずに言う。
「カノア、そう、大声を出すな」
「うるっせぇなぁ」
「誰のせいよ! 誰の! 改名案だしたんだけど!」
「ああ……、すまないな。で、何て言ったんだ?」
「絶対、わざとでしょ!」
「別にいいんじゃねぇ。どうせ、意味わかんねぇやつだろうし」
「あんたは黙っていてよ! あと、意味わかんないとか言うな!」
「カノア」
「うっ……、ごめんなさい」
――なんか、管理人、そして育ての親とあって、カノアは、レイさんに頭が上がらないようだな。あと、ごめんけど、正直言って、カノア、五月蠅い。そういえば、こういう掛け合い、なんかのゲームで見たことがあったなぁ。だからか、このやり取りに、少し納得しちまった。
刀気は、ゲーム経験からか、この掛け合いに、少し納得してしまった。
その後、カノアは、低く唸りつつも、考え込んでいる。
すると、腕を組み、考え込んでいるランが、口を開く。
「ん~、オレ、こういうの苦手だから、パスな」
考え込んだのち、首を横に振った。
それに、レイが、ランの方を見てから言葉を発する。
「ランは、なしか……」
ランが脱落したことにより、改名というのが如何に難しいものかを、実感した。
そこで刀気は、改名すべき名前、ブレイドガールズに関することを単語化して、思い浮かべる。
まず、メンバーである少女達、これは、刀気が入るので、除外する。次に、剣、能力を持っており、外獣に対抗する為の武器であるので、入れておく。さらに、剣を持っているということで、持つという単語は、言い換えれば使えそうなので、これも入れていく。最後に、組織――いや、集団、刀気達による集団になる為、これもまた残す。
そうしながら、使えそうなものを、刀気は絞り込んだ。
そして、残った単語をブツブツと、言う。
「剣……、持つ……、集団……!」
すると、刀気は思いつき、それを呟く。性別関係なく、かつ、以前の名前の一部を残したものを。
「オーナーズ・オブ・ブレイド……」
カノア達は刀気の呟きに気付き、各々、述べていく。まあ……、カノアは、最初に咳払いをしつつだが。
「……トーキよ、今、何と言った」
「? さっき、なんったんだ」
「何か、思い付いたのか」
刀気は、彼女達の言葉に気付き、聞こえるように言った。
「いや……、オーナーズ・オブ・ブレイドって、どうかと」
それを聞いた三人は、一瞬、驚いたが、すぐに微笑し、それぞれ口を開く。
「オーナーズ・オブ・ブレイド……、ふむ、悪くない名だ」
「よく分からないけど、なんか、気にいったぜ」
「決まりだな」
――いいのかよ! 一応、出してみたけど、そう簡単に決まるとはな。確かに、考えて決めたけど、理由を聞かずに決定って……。まあでも、カノア達がこう言っているから、いいか。
刀気は、内心、突っ込みつつも、彼女らの了承を得て、宣言する。
「じゃあ、今から俺たちは、オーナーズ・オブ・ブレイドだ!」
直後、刀気は、自分のしたことに気づき、思う。
――あ、つい、出張ってしまったが、いいのだろうか……。っても、発案者は俺だけど、こういうのは、カノアかレイさんが言うものだと、思っているが。新人の俺が、行き成りこんなことしてしまったら、嫌に思うだろうなあ。ああ……、三人の顔をみるのが、怖い。けど……。
刀気は恐る恐る、三人を見る。
しかし、彼女らは、それぞれ違う反応だが、何か言うわけではなく、訝しむことはなかった。
まず、カノアは、目を閉じつつ頷く。次に、ランは、驚いている顔をしていた。最後に、レイは、行き成りのことであるが、微動だにしていなかった。
それに刀気は、内心、安堵の息を吐く。