第1章 9年後
あれから9年がたち、夜斗は14になった。まだ蔵舞様の仕事に慣れてなかった9年前とは違い、夜斗も大分町の安全に貢献できるようになっていた。仕事といっても、ただ夜の町の見廻りをし、邪悪な存在を打つだけだ。14年もやっていれば、そこまで重労働とはいえないが、当時5歳の夜斗には十分大変な仕事だったろう。9年前に参拝に来た少女はあれから1度も参拝に来ることはなく、あれ以来会えてない状態だ。何日も待っている内に、いつからか夜斗もあまり期待しないようになっていた。夜斗の恋を応援してくれていた友達、京矢もその事について口に出さなくなった。
「なー夜斗。今月神無月だろ?そろそろ『集い』の頃じゃね?天界の人から通達が来るぞ」
『集い』その言葉を聞いたとたん、夜斗の顔から血の気が引いて青白くなっていた。それを見た京矢が、慌てて続ける。
「はぁ!?お前、まさか存在すら忘れてたのかよ!うわキショ!引くわ~。確か今日か明日なんだろ?大丈夫かよお前。まぁ蔵舞は神の中でも上位にいるから大丈夫だろうけど、まさか忘れてたなんて......」
「はぁ!?ばか!お前、きしょいはないだろ!?存在は忘れてねぇよ!存在は!」
京矢の言葉に夜斗の血の気が戻る。流石に頭に来たようだ。夜斗の発言に京矢が首をかしげる
「じゃあ、なんなんだ?忘れてないのになんで............あ、そうかあのこだろ?『集い』の日だったもんな。」
京矢の言う『あのこ』とは、夜斗が一目惚れした少女である。もうほとんど顔も覚えてなく、探したくても探せずにいたあのこだ。
「そうだよ。たしかに好きなのに、顔も覚えてないとか、自分でもビックリだよ。でもさ、5歳の時だししょうがな...」
ドン!
突然頭に衝撃が走った。なんのことかと振り向く。
「おい!聞いてるのか!夜斗、ついでに京矢も!通達、読んでなかったのか?今日、今から。『集い』だよ!はじまるぞ!」
ビックリした。2人の元に通達なんて来ていないはずだ。それに、この天狗?もそこらでは見ない顔。その天狗は鼻はたいして長くなく、天狗とわかる点は頭につけた天狗の面と漆黒の羽、底の高い下駄だけだった。髪は黒く、左側の目が髪で隠れている状態で、眼は紅色だった。
「は、あんた誰だよ。急に失礼じゃないか。なめてんなよ、天狗風情が。」
京矢よりも先に、夜斗が天狗を威嚇した。なぜこいつがこんなことを知っている?こいつも神なのか?いや、違うとは言い切れない。だから夜斗は念のために威嚇したまでだ。眼光鋭く、牙を剥き出して。そうしたら、天狗はビクッと体を震わせ、こう言った。
「あ、あぁ。そうだな。今日に殴ってすまなかった。だが、『集い』があるのは本当だ。それに、俺は隣町の土地神だ。安心してくれ。」
隣町の土地神とはあまり接点がなかった。知っていなくて当然だ。敵でないことはわかった。まずは威嚇したことへの謝罪を。そしたら、黙ってこの天狗についていこう。
「こちらこそ、急に威嚇してごめんなさい。天狗さんのお名前は?」