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英雄の弓 2

皆が頑張り続ける中、ディアンはハッと気配に声を上げた。

「勇者が来たみたいです!」

「来たか!」

「撤退だ! 合流しよう!」


汗だく泥だらけで、水の怪物からまた後退し、後から来た勇者を出迎える。

すると、出迎えられた相手は驚いて剣を構えた。

「待ってくれ、勇者だろう!?」

と隠密的なシラが声をかけた。


「え? あ。あ、勇者か」

女性の声だ。相手は、ディアン、荷物から出てきたトピィに目を留めて警戒を緩めた。

「きみは勇者ディアンか? 白いぬいぐるみを連れているっていう」


「はい。白いぬいぐるみは、僕の相棒でトピィです」

「そうか。先に3人の勇者がいると聞いている。私はオリピアだ。国から指示を受けて来た勇者だ」


***


皆で簡単な名乗り合いと情報交換をしあって、この4人でまた奥に向かった。


すると不思議な事が起こった。

水の怪物がオリピアに向けて、膝をつき、まるで出迎えるような体勢を取ったのだ。


『お待ちしておりました。我らの血を引く生き残りの者よ』

声がした。

水の怪物か現れた大きな両手が、オリビアをそっとすくいあげた。


他の3人もついて行こうとしたが、水の壁に阻まれる。


「危険を感じない。このまま行ってみる」

と、オリピアは驚いた様子でありながらもこちらに声をかけてきた。

心配したが、オリビアは落ち着いている。そして、ディアンたちは水の壁に邪魔をされて動けない。

「待っていてくれ。きっと大丈夫だ」

3人で、オリビアを壁の向こうに見送った。オリビアは壁に溶けるように姿を向こうに消した。


「大丈夫だろうか」

「彼女は何かの末裔の様子だな」

「だから僕たちには無理で、オリピアさんなら大丈夫なんだ」


自分に起きた事と同じだ、とディアンは思った。

彼女も、ディアンと同じような境遇なのかもしれない。どこかの、滅んだ国の血を引いている人。

この先には、彼女に大きく関わる国の何かが残っているのかもしれない。


ディアンは残っている2人に自分に起きた事に似ている、と説明することはできない。父たちにそう約束している。

だから、じっと、オリピアが戻ってくるのを待った。


***


異変が起こった。

壁が急に崩れ、水が足元から溢れてきた。

ディアンたちが慌て緊張する前で、水は集まり、巨大になり、そして女性の姿になった。

とても怪物には見えない。女神のような神々しさ、美しさにあっけにとられる。


それが突然、バシャン、と音を立てた。風が起こる。衝撃が空間を通っていく。

だけど嫌な感じが無い。清涼な。

風が通り過ぎた時、この場所の空気が全て変わったような不思議な気分がした。


「・・・ドロドロの生き物が全部消えている」

気配を探ったようで、隠密っぽいシラが驚きのままに呟いて、教えてくれた。

「なんだ今のは」

と大男のガルドも言った。

「全部、綺麗になった気がします」

ディアンも思うところを言った。それだけの信頼関係がこの2人とは出来ている。


カツン、と音がした。

振り返ると、オリピアが崩れた壁の空間から出て来たところだった。

泣いていたようだ。そんな顔をしている。

そして、来た時には無かった杖を持っていた。杖の先は綺麗な模様が入っていて、宝石が埋め込まれているのか、光を放っている。


オリピアがディアンたちに気づいて、少し照れたように笑った。

「もう大丈夫。もう、怪物が現れることは無い」

「・・・」

「・・・」

「・・・うん」


言葉を発したディアンにオリピアは視線を止めた。

「ありがとう。私にはいろいろ事情があるんだ。3人の勇者に、勇者の1人として、頼みがある。どうか、ここで私に起こった事を、秘密にしてほしい。お願いだ。勿論、国だけには報告するが」

「秘密にするのは分かった。だが、俺たちにも事情を詳しく教えられないのか?」

と大男ガルドが尋ねた。


「すまないが、できるだけ話したくないのだ」

「・・・俺たちも随分苦労したんでな。秘密にしろという事情があるのは見れば分かる。ただまぁ、知りたいと思っただけだ」

と大男ガルドが説明した。

隠密的なシラもガルドの説明に口を添えた。

「俺も同感だ。オリピア、きみは苦労せずここまで来たが、俺たちにはかなり辛い9日間だった。秘密は守る。事情はできれば知りたいものだ」


「困ったな・・・」

オリピアは本当に困った顔になった。

「話せない事なら、話さなくても、良いよ」

とディアンは助け船を出した。

自分にも同じ事が起こっているせいだ。


ちなみに、ディアンの時は、皆は事情は聞いてこなかった。単純に解決したことを喜び、ディアンをすごいすごい、と褒め称えた。集まった人たちが違うからだろうし、ここまで大変ではなかったのかもしれない。


「ディアンはお人よしだな」

と大男ガルドが困った顔だ。

「そうだな。まぁ、俺たちも無理にとは言わない。察してやれる事があるからな。ただ、できれば、と気持ちを言っているだけだ」

と隠密的なシラが苦笑した。


「それでも、申し訳ないが、聞かないでいて欲しい。これは私からの願いになる・・・」

オリピアが辛そうに視線を伏せる。

他の勇者は互いの顔を見合わせて肩をすくめた。

「仕方ないな。まぁ、怪物問題は片付いたわけだ」

「そうだな」

「少しでも役に立ったので、それで良かったです」


オリピアは少しホッとしたようだ。顔が少し明るくなった。

「頼みを聞いてくれて感謝する。せめて、私の荷物の中から欲しいものを1つずつ、差し上げたい」

そんな事を言い始めた。


「それは要らんな。荷物に不要な品なんてないはずだ。必要だから持っている。だからそんな気遣いは必要ない」

と言ったのは大男ガルドだ。やはり優しいとディアンは思った。


「俺は、んー、では、どんなものを持っているかを見せてもらいたい。全てとは言わない。俺たちに渡しても良いと思うものがあれば、だ。ディアンくんは?」

「僕は。できれば、参考にしたいので、皆さんの荷物がどんなのかは知りたいです。どう役に立つのかとか知りたいし、僕の荷物に良いものがあれば紹介もできると思うので。交換では無くて交流で」


「それ良いな。互いが良かったら交換してもいい」

「じゃあ、ここでしようか。安全になったようだし、誰も来ない。他に見られる心配はない」

「はい」

「ではそうしよう」


オリピアが来たことで、この場は無害な洞窟に変わっている。

広い場所に移動して、それぞれの荷物を広げだした。


***


披露し始めた途端、ディアンの荷物に、皆の興味が集中した。

父が魔力と技術と愛情を込めてくれた便利な道具が詰まっているからだ。


結果、ディアンの父たちへの注文を6つとりつけた。

細かいやり取りのために互いの連絡先も交換する。この人たちとこれからも交流できるのでディアンは嬉しく思った。


こんな流れなので、皆が、絶対に見せられないもの以外、惜しみなく見せてくれる。

困っていることを相談したり、修理方法、手入れ方法なども教えあった。

とても友好的で協力的だ。良い人たちが集まっている。


そんな中、ふと、隠密的なシラが自分の胸元に手を入れて、小さな袋を取り出した。

「実は、普段は人に見せないものなんだが、見てくれないか。直せる方法を探してる。全部、壊れてる。妹の分も入ってる。修理したいんだが、無理だって今まで全て断られてる」


小さな袋から、色んな道具が出てくる。魔法の袋のようだ。

「あー。これは・・・無理だろう」

次々出てくる道具に、大男ガルドが困ったようにしながら、教えるように言った。

「新しいのを買うしかない」


原形が分からないほど曲がっていたり、相当にバラバラになっているものばかりだ。


「まぁな・・・。ただ、父親の形見なんだ。それでな、どうしても捨てられない。直せる人を探している」

と隠密的なシラがしみじみと教えた。


「形見・・・そうか」

とオリピアが痛ましそうに頷いた。


そんな中、ディアンは酷く驚いた。

「これ! これもですか?」


弓。

マークが入っている。父が持っている陶器の人形のマークの1つ。父の家を表すマークだ。


間違いない。父の家の、代々の。英雄イーシスの弓だ。


「これも、あなたのお父様の、形見なんですか」


この人は、ディアンたちと近い血筋の人なのか。それとも、血が繋がっている?


「あぁ。ディアンくん弓を使うからな。良い弓だと分かるのか」

「はい」


「そうか。これも、形見なんだ」

隠密的なシラが、もう破片の集まりのような弓に、視線を落とす。


「この弓は、父が生きるか死ぬかの時に拾って生き延びたものだ。土の中に半分埋もれていたそうだ。矢は傍に一本だけ。父は、夢中で掴んで、爪はもう剥がれてたっていうのに、その一本の矢をつがえて射ったんだ。それで生き残れたって話してくれた」

懐かしむようにしみじみとした口調だ。


「命の恩人、奇跡の弓だ、ってな。ただ、父も荒い人生を歩んだから。妹がお守りにと貰ったんだが、すでにボロボロだった。妹も勇者なんだが、戦いで吹っ飛ばされた時にこんなに壊れちまった。妹は回復したが、武器は元に戻らないだろ? 修理はできないって言われたんだが、妹も俺も諦められない。父は死んでしまったし形見なんだ。この袋の中の、全てそうだ。全部、父親が俺たちを生かそうと必死になって戦ってくれた証拠で、お守りさ。俺たちには、手放せなくてな」


ディアンは語られた話に、言葉が出なかった。


「とても素晴らしい父君だったんだな」

とオリピアが労わるようだ。

「あぁ」

と隠密的なシラが頷く。



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