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プロローグ

ディアンという少年がいた。


本来は、大人しく、どちらかといえば繊細な性格。

ただ、見た目が突出して綺麗だった。

加えて、運命というものがあったのかもしれない。


ディアンの3歳年上の親友、ルルド=アドミリードという少年には、

「ディアンくんは凄いよ。僕なんてすぐ追い抜く」

と言われてはいた。


でもディアンはそれは友情から来る言葉だと思っていた。

ディアンより親友の方が素晴らしいと思っていた。


けれど、ディアンは国から『勇者』と呼ばれる事になった。

勇者なんて呼ばれるような存在では無いはずだけれど、タイミングがディアンに合ってそうなっただけだ。


とはいえ、成長するにつれて、家に訪れる冒険者たちから教えて貰った弓の腕は上がっていた。

数年後、歳をとってきた彼らにディアンは勇者として助力を乞われた。お世話になってきた彼らの役に立てるなら、とディアンは頑張る事に決めたのだ。


ちなみに、ディアンが尊敬する親友ルルド=アドミリードは、この頃食べ過ぎで太ってしまって、ディアンより動きが悪くなっていた。

ちなみに食べ過ぎの理由は、親友が、大勢から愛されているからだ。たくさん食べ物を貰うのだ。そして、人の良い彼は断るなんてこともなく全て平らげ続ける。

ディアンの弟イーシスも、ルルド=アドミリードを慕っていて、弟自身が釣った魚を調理して、ルルド=アドミリードに提供し続けている。それも一因だろう。


とにかく親友は大幅に太ってしまい、今ではディアンの方が色々動けるようになっていた。


そこでディアンは、家族のことを親友に頼み、外の世界に出た。

ディアンと親友の家族は、同じ仕事をやっていて、大きな家に一緒に住んでいる。


***


ディアンを「勇者」と認めたのは国だ。ドルド国、と人々は呼んでいる。


あまり知られていないが、ドルド国には、勇者に仕事を割り振る人が数人いる。

彼らは普通の人のようにものを見ることができない代わりに、別のものが見えているらしい。

『ここが困っている。この人なら解決できるだろう』と判断して、白羽の矢を立てた勇者に仕事を依頼するのである。


というわけで、ディアンに来る仕事は、『ディアンにならできる』とその人たちが判断して振ってくる。


多分、ディアンはその人たちに、性格を見抜かれている。

地味な仕事が多いのだ。


神様の失くしものを数か月かけて探し出してあげる。

幻のイキモノ、と呼ばれている巨大な生物の、手が届かない背中をかいてあげたり、とか。


あと、ディアンは、『家の傍の湖の遺跡を泥棒から守った』という事から「勇者」になったが、その際に、便利な空を飛ぶ船を手に入れていて、勇者の活動にも使っている。

ちなみに空を飛ぶ船自体はドルド国では珍しいものではないが、普通はドルド国内しか飛ぶべない。国の地面に、空の船を浮かすための魔法が使われているのだが、他の国の地面にはその魔法がないからだ。


ただ、ディアンの湖の空の船は、水が近い場所、つまり湖や川や海が近い場所なら他の国でも飛んでいける。


つまり、他の人たちより便利な移送手段を持っている。

というわけで、動物の輸送も頼まれる。この前は貴重な動物の餌になる草の輸送を頼まれた。


つまり勇者とは、国を超えた何でも屋。


***


さて今回も、ディアンは国からの指令を受けて、その地に行った。

『何だか放っておくと悪い事になりそうだから行ってきて欲しい。多分きみなら出来る』というかなり曖昧な指示だった。


他の勇者が5人も先に到着していたが、全員が大きな岩の前で立ち往生していた。

ディアンは皆と軽く自己紹介しあった上で、状況を勇者5人から聞いた。


「この先に禍々(まがまが)しいものが生まれる気配がある」

と一人が言った。

「一刻も早く辿り着いて、浄化しなくてはなりません」

と一人も言った。

「ここが扉だとは分かったんだが、全然、何やっても動かないんだ」

と一人が眉をしかめた。

「ディアンくんの武器は?」

と一人が尋ねた。

「魔力があっても技術が無いと無理かもしれません」

と一人が言った。


ディアンが皆の深刻な様子に頷き、目の前の大きな岩、むしろ崖にすら見えるところに手を当ててみた時だ。

手を置いた部分に蒼白い光が走った。


えっ、と皆が驚く中、岩全体に模様が浮かび上がる。


さっきまでただの岩だったのに、立派な木の扉に変わっている。

そればかりか静かに内側に開いた。


皆が目を丸くしている。ディアンだって驚いている。


『よく来た。我らが王国の血を引く者よ』

感極まったような声が呼んでいるのが、ディアンには分かった。


「呼ばれてる」

ディアンは呟き、そのまま踏み込んだ。

踏み込むことを期待されているのがよくよく分かったからだ。


「お、おぃ!」

と後ろから呼ばれて振り向けば、向こうに5人の勇者がいる。

どうして入ってこないのだろう、と思ったが、どうやら彼らは入ってこれないようだ。

見えない壁に、彼らが手をついているような姿勢だから。


ディアンは一瞬迷ったが、一人で進もうと思った。

一刻も早くなんとかしなくては、と彼らが言っていたのも覚えているし、身の危険も感じない。


ディアンは、彼らに向かってしっかり頷いて見せた。

「僕、見てくるよ」


そんなディアンに、皆は心配そうにしながら、顔を引き締めて頷きかえしてくれた。

扉が勝手に閉じていく。


ディアンを招くように空間に明かりがついていく。

すすり泣く声がするけれど、ディアンに危害を加えてくる気がしない。


ただ、歩いてたどり着いた先に、斜めに突き刺さっている斧があった。

蒼白い光が粒になって集まり、王冠を被った勇ましい男性の姿が、上半分だけ現れた。


幽霊だろうか。


『よく来た。我ら王国の血を引く者よ。よく生き残っていてくれた』

と幽霊は泣いた。


『お前にぜひとも受け継いでもらいたい。他の者に握らせるぐらいならばと、遠い地にと放り投げてここに至った戦斧だ。見よこの文様を。代々我らがシャトエールが継いできた、先祖からの宝である』


なんだろうと思ったので、ディアンは尋ねた。

「シャトエール?」


『我らが子孫よ! 王国の名を忘れたか』


シャトエール、とディアンは呟いた。


『どうかこの戦斧を継いでくれ。王家は絶えた。残りでたどり着いたお前こそ、相応しい』


良く分からないが、涙を流して告げてくる幽霊に誘導される形でディアンは斜めに岩に刺さっている斧の柄に手をかけた。

力を込めると、抜き取ることができた。


しかし重い。とても重い。


『やったぞ!』

幽霊がうれし泣きで大変な事になっている。


『頼む、他にも各地に散らばった我らシャトエールの宝具を集めてくれ! 楯、弓、杖、旗、多くの宝が各地に飛んだ。全て血を継ぐ者を待っている。怨念と化しそうなほど無念である。全てお前の手に。お前こそが我らが希望である』

「つまり、他にも、集めた方が良いと。盾や弓」


『見ろ、この王家の文様を。これらすべて先祖からの品々』


ディアンは示された場所を見た。模様がついている。

あれ。見たことがある。


「お父様の大事にしている人形に、同じ模様がついているよ」


『これはシャトエールの国を表す文様である。つまりお前の父が血を継ぐ者か! よくぞ生き延びてくれた』

また幽霊が感激して大泣きしている。


ディアンは首を捻った。

お父様から、そんな話を聞いたことが無いけど。

家に帰ってこの斧を見せて聞いてみた方が良いよね。


感激してオンオン泣きながら幽霊は姿を消した。

ディアンは斧を手にして道を戻った。

心配しながら待っていた5人の勇者にディアンは大変驚かれ、凄い、素晴らしいと褒め称えらえた。


とはいえ、ディアンは真面目に困った。

凄い事は何もしていないからだ。


***


さて、ディアンは家族の元に戻った。

父に話を聞くためだ。


父は、ディアンの話と、斧の文様に酷く驚いた。


そして、父から真面目な話を教えらえた。


その時に父の話を聞いたのは、母と、ディアン、そして2歳下の弟イーシス。


本当なら、一番下の妹にも教えるべきかもしれないが、まだ幼く教える時ではない、と父が判断して、妹はこの場に呼ばれなかった。


父と母は、駆け落ちだとはもともと聞いていたが、母は裕福な商人の娘ではなくてある国の身分の高い貴族令嬢であったという事だ。


そして父の方だ。母の家と付き合いのあった一商人、というのは嘘だ。


母の国の、貴族アドミリード家に仕えていた使用人だった。

ちなみに、今同じ家に住んでいる、ディアンの親友ルルド=アドミリードの父が主人。


それだけではなかったのだ。


父はそもそも、母の国に滅ぼされた北の国の貴族の家の息子だった。


その国の王族は全て殺された。

父の家族も、父以外全滅。


ちなみに母も、今まできちんと詳しく知らなかったようで、母もギョッとした顔で驚いていた。


そして。

ディアンが持ち帰った斧だが。

父によると、父の、滅んだ国の、王家の宝物の一つだろうということだ。


父が大事にしている陶器の人形は2つマークが入っている。これは偶然見つけて父の手に戻って来たものだというが、マークの1つが、父の家を表すもの。もう1つが、国のマーク。

その陶器の人形は、その国の英雄、昔の王の物語を再現して、家が子どもにと作ったもの。だから、所持者である家のマークに加えて、国のマークまでいれてあるのだそうだ。


さて。斧には国のマークしかない。つまり、王家のものだろう。


父が小さな頃に戦争になったこともあり、父は国や王家の宝物などに詳しくないそうだ。

ただ、父の滅んだ国は狩りが好きだった。

父の家の代々の宝物は弓で、それは見たことがある、とのこと。


父の家は高位の貴族の一つだったから、王家とも近い血筋で、だからこの斧がディアンを頼ったのだろう、と父は言った。


衝撃の事実を知ってしまった。


ディアンは弟イーシスと顔を見合わせた。


そしてだ。

この斧をどうしよう。


ディアンは、弟のイーシスに相談した。斧の扱いに困ったからだ。

「勇者の活動に斧がいる時があるかもしれないけど、とりあえずはいらないんだ。いる時に探せば良いだけだし・・・。その国の血を引くっていうならイーシスもだ。イーシスは、この斧、欲しいか?」

「うーん」

弟イーシスは軽く悩んだ。

「ちょっと持って良いかな」


弟イーシスに斧を渡すと、イーシスは周りをきちんと確認の上、ブン、と軽く斧を振った。


「思ったより軽いね。薪を割るのに良いかもしれない。ディアンがいらないなら僕が貰おうか?」

これを軽いと言うとは。

じゃあイーシスにあげよう。

「うん。使うならイーシスの方が良いよ」

ディアンは笑った。


「お父様、お母様。僕が貰って良いかな」

とイーシスは、両親にも確認した。謂れのある品物だと思ったからだろう。


父は少し困ったように首を傾げたが、

「まぁ良いんじゃないか。本来は薪じゃなくて、大型の獣をしとめるのに使うはずだが」

と言った。

「あら。斧と言えば木を切るので正しいと思うわ」

と呑気な母は首をすくめて父に言った。


その際、斧の傍にフワッと、なんだか動揺した様子の幽霊が浮かび上がったが、どうもディアン以外の目には映っていないようだ。


「使われず仕舞われているより、使われたほうが道具冥利につきるんじゃないかな」

とディアンが独り言のように呟くと、幽霊は瞬きをするような顔をしてから、スゥっと消えていった。

納得したのだろう。良かった。


***


こうして、どうやら由緒正しく色々すごいらしい伝説の戦斧は、弟イーシスが料理に使う薪を作るために活用されている。


切れ味が良いと弟は気に入っているようである。


他にも見つけたらイーシスにあげよう、とディアンは思った。

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