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ドラゴン・ブリーダー・アプリ  作者: 鈴之上 太助
3/3

「第三話 食事と寝床」


 ドラゴン達に名前を付けてから三週間が過ぎた。

この頃、ある問題が浮上し、アレインを悩ませることとなった。

それは、七匹のドラゴン達が予想よりも成長してクローゼット内に隠し切れないからだ。

 最初は手の平に収まるほどの大きさであった。


だが、現在では小型犬まで成長している。

さらにドラゴン達の食欲も急激に増しており、冷蔵庫にある肉の切れ端ぐらいでは満足出来ない程であった。

また、追い打ちをかけるようにアレインの部屋での飛行も狭いと感じているのか、

「外で飛びたい」とせがむような態度をとるようになる。


「......このままじゃ、まずい!でも、どうすればいいのかな?」

解決策が思いつかないので夢の中でバロンのいる部屋に向かった。

しかし、鍵の力を使って部屋の前まで来るも、

部屋の扉には[現在・外出中]と書かれた張り紙があるだけで中には入れない状態であった。


「にっちもさっちもいかない。何にも解決策も出てこないし、

こういう時に限ってどうしてこうなの~!」

もはや、絶叫状態であった。


だが、何もしない訳にはいかず、アプリで何かないかと検索をする。

すると、メニュー欄に新たな機能追加と表示されていた。

急いでボタンを押すアレイン。

そこには、ドラゴン用のフード購入とあった。


「......こ、これだ!」

アレインの目の前に希望の光が見える。

早速、購入のボタンを押して、手続きに行こうとした。

だがしかし、奈落の落とし穴に入るような問題にぶち当たる。


[ガリオン通貨をチャージしてください]

購入ボタンを押して進めようとした時、画面に警告として表示された。


「が、ガリオン!?」

よく見ると、今まで見たことのない通貨とその記号がある。


「ど、どうしよう。ポンドやドルは少し持っているけどガリオンって何だ?聞いたことがない?」

打つ手がないと分かり、落胆した状態で椅子に座るアレイン。

疲れていたのか、そのまま眠り込んでしまった。

しばらくすると、夢の中でアレインはバロンの部屋の前に立っていた。


「......ここに来たか。今日はいるのかな?」

扉に目をやると、張り紙がなかった。


「どうやら、今日はいるみたいだね」

アレインは、扉の取っ手に手を掛けようとする。

しかし、指先が触れる寸前に扉が開く。

部屋の中にはバロン、スコル、ハティがいる。

バロンはアレインを見るや否や、いつものセリフを言う。


「ようこそ!我が城へ、幼き客じー」

「バローン!」

アレインは泣きそうになりながらバロンに向かって走って近づく。


「お、おい!止まれ!」

「な、何事です?」

今にも飛び掛かりそうな勢いのアレインをスコルとハティが静止する。

スコルとハティはアレインの様子に驚きつつ、少し引き気味である。


一方、バロンは至って冷静であった。

だが、アレインの様子について分からなかった為、首を傾げる。


「......ん?どうした、アレイン?」

バロンがアレインに尋ねる。

アレインは用意された椅子に座るや否や、

弾丸のように凄い早さで自分が直面している問題について話し始めた。


スコルとハティはアレインが興奮気味でしゃべり続けているので、

「落ち着け!」と言い、彼をなだめようとする。

バロンの方は何もしゃべらずに黙って、彼の話すことを聞いていた。

しばらくして、アレインは全てを話し終えると、息を切らしながらゼーゼーと呼吸を整える。

それまでバロンは黙っていたが、唐突に口を開いた。


「......ふむ。つまり、ドラゴン達の食料を買おうとしたが、お金が全く知らない通貨だった。

そして、チャージする事も出来なかったということか......」


「ぞ、ぞヴなんだよ、バロン」

鼻水交じりの声で言うアレイン。


「お、おい。少しは泣くのを止めろ。アレイン。みっともないぞ」


「そ、そうですよ!ただでさえ、さえない顔がもっとひどくなります」


さり気なくハティはひどい言葉をかける。

 一方、バロンはと言うと親指と人差し指で顎を掴み、「うーん」と考え込んでいた。

しかし、数分足らずで何か閃いたようだ。

バロンは、椅子から立ち上がるとスマホを片手に持って、アレインに近づく。


「......お金であるガリオンについてこちらで説明しなかったのは悪かった。許してくれ。

今更ではあるが、アプリ内の取引で使われている通貨は君の世界のポンドやドル、

円ではなくガリオンという全く異なるものだ。無論、今流行りの仮想通貨でもない。

よって、ポンドやドルなどの君の国や世界の通貨をガリオンに交換することが出来ない。

だから、君が持っているお金をガリオンに変えることも無理だ」


「......じゃあ、どうすれば......」


「ふむ、方法があるが......」


「......そ、それは!」


「......人と魔物がいる世界の集会所に行き、クエストを受けてお金をもらうことだ。

そうすればガリオンが手に入り、ドラゴン用の食料が買える」


「なるほど~。それはいいアイデアだ~。......なんだってー!」

ビックリしたアレインは椅子から立ち上がる。


「まぁ、安心しなさい。命にかかわるほどのクエストを受けて大金を稼ごうなどと

考えなければどうということはない。

ドラゴン用の食料を稼ぐお金は簡単で楽なクエストを選べば何ら問題はない」


「......そうだけど、バロンがドラゴン用の餌代を代わりに出してくれないの?

それにこんな回りくどいことわざわざしなくても......」


「ふむ、確かにその通りだ。だが、それでは面白くはない。それに君のためにならない」


「え~!でもバロン、君の代わりにドラゴン達を育てているんだよ。それくらいのことは......」


「確かに君の言う通りだ。だが、それでは君がドラゴン達をペットとして育てているだけだ。

それ以上の愛情が必要なのだ!」


「う~ん。だけど、君の言う人と魔物がいる異世界にどうやって行くの?

それに時間がかかると不審に思われて家族や学校に疑われるよ!

例え、上手くごまかしてもずっと?を付き続けるのは......」


「その辺は問題ない。この世界と異世界の時間の流れは違う。

異世界で数時間過ごしていてもこちらの世界では数分にも満たない。

数分ぐらいなら問題はないだろう」


「......でも」

なかなか決心の付かないアレインにバロンはあることを尋ねる。


「しかし、ドラゴン達もずいぶんと成長している。

食事の量も以前より多くなっているはずだ。そう誤魔化せなくなっているのでは?」


バロンの指摘にアレインはギクッとする。

確かにその通りだ。

ドラゴン達の鳴き声やドタドタとした動き回る音で両親が

アレインに対して疑惑の目を向けるようになってしまった。

その都度、色々と誤魔化してきたが流石に信じてもらえなくなってきている。


アレインは頭を抱えて考える。

その結果、バロンのアイデア以外はないと悟った。


「......分かったよ。バロンの提案を受け入れるよ」


「物分かりが良くて助かる。まぁ、ここで駄々をこねても時間を無駄に過ごすだけだからな。

賢明な判断が出来て、嬉しいよ」


「ふん!我が主の提案にケチを付けるとは......。だが、お前は受け入れた!

今度からは我が主の言うことを素直に受け入れろ!いいな!」


「我が主の言うことは絶対です。あなたはただ黙って我が主の命令に従いなさい」


「まぁ、こういう感じだ。頑張りたまえ。

あと、君が夢から醒めたらスマートフォンにアプリをダウンロードしておく。

タッチして起動させれば異世界の集会所に行くことが出来る。

起きたら是非とも試してみたまえ。

......そうだ。集会場に行く時に前に渡した銃とこれから渡す手紙を持っていきたまえ!」


「......?どうして?」


「ふむ、銃は護身用だ。何かあった時のためだ。

あと、手紙は簡単に言えば紹介状のような物だ。

君が集会場に行った時にここに来た理由や手続きについてスムーズに行けるように色々と書いてある。

向こうについて何かあったらこの手紙を渡せばいい」


そう言うとバロンはアレインに手紙の入った封筒を渡す。封筒は丁寧にロウで閉じられている。


「ありがとう!バロン」

受けったアレインはお礼を言った。


「それじゃあ、今日の話はここでおしまいだ。それでは良い一日を!」

そう言って、バロンは指を鳴らした。

椅子に座っていたアレインが一瞬にしてその場から消える。

アレインの座っていた椅子を見ながらハティはバロンに尋ねる。


「......我が主、お聞きしたいことがあります。よろしいでしょうか?」


「なんだね?ハティ」


「どうしてアレインに対して?を付いたのですか?」


「......」


「主がアレインの世界の通貨とガリオンの交換が出来ないとおっしゃっていましたが、

本当はとっくの昔に通貨交換が出来ていましたよね?

それに主がアプリにガリオン通貨のことを説明していないミスをするなんて考えられません。

どうしてそんな嘘を?」


「確かにハティ、君の言う通りだ。アレインの世界の通貨とガリオン通貨の交換は可能だ。

しかし、そのことをアレインに教えては彼があまり苦労せずにただドラゴン達を育てているだけに

なってしまう。自分で働き、稼いだお金でドラゴン達を養ってもらわなくてはならない」


「しかし、育てているだけでもかなりの労力がかかります。

あまり負荷をかけすぎるのはよろしくないのでは?」


「......おい、ハティ!我が主の言うことに逆らうつもりか?

今まで主の言葉に間違ったことはないだろう?だったら、

我々は黙って主の言うことに従っていれば......」


スコルがハティに対して苦言を続けようとした時、バロンが途中で口を挟んだ。


「スコル、私の言うことが全て正しいというのは正しくない。

私だって過ちを犯すことはある。なぜなら、私は神ではなく生物だからだ。

今まで過ちを犯したことのない完璧な生物など存在しない。それにハティの言う通りだ。

アレインにわざと負荷をかけている」


「......では、なぜ?」

ハティは尋ねる。


「......先ほどアレインに対して言ったが、

今のアレインはドラゴン達をペットとして育てている状態だ。

ドラゴン達の親としての自覚をもらうためには少し苦労してもらわなくてはならない。

その為には親となることが必ずしもいいことではないと知ってもらう必要がある」


「......なるほどそのようなお考えがあるとは......」


「......ハティ、お前らしくはないな。

いつもだったら主の下した命令に大人しく黙って従っているはずなのに。

疑問を持って尋ねるなど言語道断......」


「スコル、ハティが私の命令に疑問を持つことはとてもいいことだよ。

自ら考え、疑問を持ち、意見を述べることはとても大切だ。

逆に私の言うことを盲目的に従っているだけでは駄目だ。

何かあった時に臨機応変することが出来ないからね。

それにただ従うだけなら自動人形かロボットを従者にした方がいいと言うことになってしまう。

それでは君たちを従者にした意味がない。

まぁ、何でも私の言うことに対して逆らえばいいと言う訳ではないが......」


「も、申し訳ございません。我が主!」

スコルが謝る。


「いや、別に気にしてはいない。それに......」

バロンは手に持っているスマートフォンを見て、ドラゴン達の状態を確認する。


「それに今のところ特に問題はない。全て私の計画通りに事は進んでいる。

さぁ、アレイン。君はどうする?」

表情は仮面で分からないが、少なくとも楽しんでいる様子であった。



 一方、夢から覚めたアレインは自分の左腕に手紙を持っていることに気が付いた。


「夢の世界でバロンに貰った手紙が......」

中身をのぞき込みたいと思ったが、グッとこらえてスマホの方を見る。

画面には新たなアプリがインストールされていた。


「これが夢の中でバロンが言っていたものか......」

アレインは押そうとするが、夢の中で言われたことを思い出して、我に返る。


「そ、そうだ!バロンに貰った銃を携帯しなくちゃ!」

机の一番下の引き出しから、拳銃とガンベルトを取り出す。

拳銃は以前、フクロウ便に入っていたもので、あまり触れずに机の引き出しに入れっぱなしであった。

アレインは銃をまじまじと見ていると説明書が付いていたことに気が付く。


「......えっと、どれどれ?」

説明書を見る。


「この銃は魔法銃というものである。

この中に入っている特殊なエネルギーを弾に変換して発射する。

よって通常の銃にあるような弾詰まりや暴発、反動などはありません。

へぇ~、僕にでも扱えるのか......。とりあえず、引き金を引くだけだから簡単だな!」

アレインはガンベルトを腰に装着すると、魔法銃を入れた。

そして、バロンからの手紙を手に持つと、もう片方の手でスマートフォンを操作する。


「これでアプリを押して起動と」

すると、周りの空間が波を打つように歪んで行き、次第に景色が変わっていった。


気が付くと、アレインは中世ヨーロッパ風の集会所の前に立っていた。

まるでゲームの世界にあるギルドのようであった。


「あれ?さっきまで家にいたのに......。すごい!ここがバロンの言っていた場所か!」

アレインが感動していると、後ろから低い男の声が聞こえた。


「おい!そこのお前、どけ!通行の邪魔だ!」

アレインは振り返る。

そこにいたのは身長二m以上の大男で巨大な斧を背負っていた。

アレインは驚きつつ、彼に対して謝った。


「あっ、ごめんなさい!今退きます」


「いや、分かればいい......」


大男はさっきまでの態度とは打って変わって、優しくなった。

アレインはホッとすると、すぐさま道の端に移動して通行の邪魔にならないようにした。


「じゃあ、またな坊主」

そう言って、建物の中に入って行く。

アレインは少しその男の後ろ姿を見ていた。だが、我に返り、慌てて彼の後を追った。

中に入ると、そこにはゲームの世界のような光景が広がっていた。

集会場で壁には依頼と思わしき紙がペタペタと貼られている。

さらにカウンターと思わしき場所には受付嬢が依頼などに対して対応していた。


「ふぇ~、凄いや!」

感心しながら辺りをよく見るとあることに気が付く。

人だけでなく、人外と思わしき姿の生物が平然と歩いているのだ。

頭部がトカゲによく似ている者やオークやゴブリンと思わしき者までいる。


「......本当に違う世界に来たんだな~」

驚きつつも、アプリにあったバロンからのメッセージを読む。


「集会所にたどり着いたら受付嬢のいるカウンターに行きなさい。

そこで色々と聞かれるかもしれないが、既に渡してある手紙を出して

紹介はバロンであると伝えなさい。そうすれば大抵のことは済んでしまう。

あとは手続きに入るが、基本的には問題ない。聞かれた通りにすれば直ぐに終了してしまうよ。

では幸運を!」


読み終えると、アレインは言われた通りにカウンターに向かった。

カウンターには受付嬢と思わしき女性が立って、対応していた。


女性は長い耳であり、エルフであった。

長い金髪を三つ編みにしていて、整った顔立ちをしており、美人である。

見た目では若く、十代後半から二十代前半と思われる。

アレインはやや緊張気味で、カウンターの前に立った。

受付嬢のエルフはアレインの存在に気が付いたのか、緑色の目をアレインに向ける。


「......あら?坊や、どうしたの?迷子?」


「......えっと、いいえ!あの、冒険者になりたくてここに来ました」


「えっ?君が!?悪いけど......、年齢は?」


「......十一歳です」


「......えっと、悪いけど保護者の方か十八歳以上の同伴者はいるかな?

未成年で一人だけだと冒険者の登録は出来ない規則になっているの?」


エルフの受付嬢は少し困った表情になっていた。

そこで、アレインはバロンからの手紙を取り出す。


「......えっと、何の手紙かな?」

優しく微笑みながら受付嬢はアレインに尋ねる。

アレインは、黙ったまま手紙を彼女に手渡してからこう言った。


「......バロンからの手紙です」

それまで柔らかくアレインに接して、にこやかな笑顔から一変。

急に真顔の表情になった受付嬢は、急いで手紙の封を切る。


「......えっ!?」

半信半疑の状態ではあったが、手紙を見るなり、受付嬢は叫んだ。


「えっと......、差出人は......バロン!?」

受付嬢から発した人物名に集会所にいた全員が驚く。

そして、一斉に全員の視線がアレインのいる方向へと降り注ぐ。


「......バロン!?」


「バロンから!?」

先ほどとは違い、場の雰囲気が変わった。

ほとんどの人物が動くのを止めて、ひそひそと話し始める。


「まさか、あのバロンが!?」


「本当にバロンからのお墨付きなのか!?」


「あいつ、あまり交流しないのに......」


「嘘だろ......!?あの少年、バロンの知り合い?」


「信じられない!?」

一体何が起こったのか、アレインは場の変わりように右往左往する。

そんな中、受付嬢は無言ままカウンターの奥にある部屋に向かった。

部屋の奥から少し声が聞こえる。


「ど、どうしましょう?所長としてはあの少年をどう対応しますか?」


「おおおお、落ち着け。慌てるんじゃない!

手紙には、あの少年の保証人になるから冒険者としての手続きをして欲しいとしか書いていない。

普通に対応すればいい!」


「で、でも上位の依頼を受けたいと言ったらどうすれば......」


「手紙の中身はドラゴン用の食料代を稼ぐだけの金額であればいいと書いてある。

よほどのことでない限り、上位の依頼を受けさせなくていい。問題が起きればケースバイケースだ!」


その後、数分間のやり取りを経て、奥の部屋

から受付嬢と所長が出てきた。

所長は、黒髪の普通の人間で、これと言って特別強そうな雰囲気を持っていなかった。


「あ~、おほん!」

わざとらしく咳き込む。


「アレイン・シェパード様ですよね。

私ここの集会所の所長をしておりますビーン・ベーコンと申します。

先ほど、エルフの受付嬢がとんだ無礼をいたしましたことをお詫び申し上げます」

そう言うと、深々と頭を下げた。


「い、いえ!それほど気にしていませんから......。それよりも手続きの方を......」


「それはそうでした!えっと、受付嬢の名前はご存知でしょうか?」


「い、いえ全く......」

「では、これからこのエルフの受付嬢が手続きの説明を致します。自己紹介を!」


「は、はい!アレイン・シェパード様の登録の手続きの説明をさせて頂きます。

名前はクリスティーナです。どうぞよろしくお願いいたします」

深々と彼女も頭を下げた。


「よ、よろしくお願いいたします」

アレインは小さな声で言った。

こうして、手続きの説明が始まった。

内容としてはとても簡単だった。


記入用紙に名前、年齢、種族などを書き込む。

その途中で「武器などの装備は購入していますか?」と聞かれたので、

アレインは「もう持っています」と答えた。

その証拠として腰に付けてあるガンホルダーと入っている銃を見せる。

確認したクリスティーナは、オッケーサインを出した。

 しばらく、やり取りがあったが、すぐに終わった。


「では、これで手続きは終了です。お疲れ様でした。この後はどうなされますか?

このままお帰りになられますか?」

アレインは一瞬悩みそうになるが、ドラゴン用の食料が今すぐに必要なので依頼を受けることにした。


「......いえ、簡単な依頼を受けます!今すぐにでもお金が必要なので......」


「分かりました。では、初めての依頼は簡単なものから始めましょう!

えっと......、これはいかがでしょうか?」

彼女は、手に持っていた依頼の紙を見せる。


「回復草の採取十本。これなら手軽に出来るので危険ではありません」


「この依頼なら七匹分のドラゴン用の食料が買えますか?」

アレインは前のめりになって尋ねる。


「はい、大丈夫ですよ!まだ、成体になっていないのであれば十匹でも

しばらく養えるくらいの量を買うことが出来ます」


「なら、それで......」


「はい!では契約書にサインしてください」

アレインは早速サインを済ませた。


その後は、受付嬢に連れられて森に向かった。

場所としては集会場からあまり離れていない所であった。

辺りを不思議そうに見ていると受付嬢がアレインに向かって声をかける。


「......あの~、回復草について説明してもよろしいでしょうか?」

我に返り、視線を彼女に移す。


「では、説明を始めます!回復草とは名前の通り摂取すると低下していた体力や魔力などを

回復する草です。あなたのいる世界では存在せず、変わった植物と思われるかもしれません。

しかし、この世界では当たり前の存在です。外見は、青色で星のようなマークが付いています。

生息するところは森の中で主に木の根元付近や川の近くなどです。

探すのはさほど難しくありません。制限時間としては一時間です。

一時間以内に二十本回復草を取って来て下さい。

もし、時間内に目標の数を取れなかった場合は失敗となりますので、お気を付けください。

あと、何かあればこれでご連絡ください」

そう言って、ガラス状のイヤリングをアレインに手渡した。


「これは一体......?」


「このイヤリングはこの世界での通信機です。

これで何があればイヤリングに向かって助けを呼んでください。そうすれば我々が救出に向かいます」


「ありがとうございます!それでは行ってきます!」


「お気をつけてください。決して無理はしないように!」


「は~い!」

そう言うと、勢いよく森の奥へと走って行った。アレインの後姿を心配そうに見るクリスティーナ。


「だ、大丈夫かな?あの子......」

後を付いていきたかったが、規則とこの後に仕事があったので集会所に戻って行った。


 一方、アレインはすっかりピクニック気分で回復草を探していた

「どこにあるのかな~♪」

鼻歌まじりに言いながら、木の根元付近を見る。

すると、先ほどの説明通りの青色の草を見つけた。回復草である。


「あっ!これか......」

アレインは何の抵抗もなく草を引っこ抜く。

その後は、森の中で探し回った。

 三十分後、二十本全部の回復草を手に入れることが出来た。


「よし!これで終了......」

そう思った時、背後から何かが聞こえる。

すぐさまアレインは、ガンホルダーから銃をぬいて構える。


「な、なんだ!?」

しかし、音のする方向の草むらから出てきたのは小さなイノシシであった。

「はぁ~、なんだイノシシか......。でも、あれが子供だったら近くに親がいるかも......。

近づかないように気を付けてここから離れよう」


足音を立てないようにアレインはその場から離れる。

イノシシの方はアレインの存在に気が付いていた様子ではあったが、

何もせずに静かに通り過ぎ去っていく。

ホッとしたアレインは、銃をガンホルダーにしまう。


「さて、帰るか......」

アレイン集会所の方向に進んで行った。



 歩いて数十分後。集会所の扉を開けて中に入るアレイン。

アレインの姿が見えて、クリスティーナはどこかホッとした様子であった。


「ああ、良かったです~。怪我が無くて。どこか異常は無いですか?」

アレインの体をまじまじと見る。


「だ、大丈夫ですよ~。どこも怪我していないし......」


「でも、万が一アレイン様に怪我や何かあったならば

後でバロン様にどんなことを言われるのやら......」


顔が真っ青になっていて、体も恐怖で震えている。


「どれだけバロンが怖いのだろうか?」

アレインはクリスティーナの様子を見てそう思った。


「では、採取した回復草を見せてください」

言われた通りにアレインは袋から回復草を取り出して彼女に見せる。


「はい!依頼された数丁度ですね!ではこちらに渡してください!」

アレインは回復草の入っている袋を彼女に渡す。


すると、受け取ったクリスティーナは代わりにアレインに銀貨を渡した。


「こちらが代金になります。八千ガリオンです」


「ええ、こんなに!?」


「......ですが、七匹のドラゴン達の食料を全て買うとなるとほとんど手元には残りません。

他に買いたいものがあった場合かなり難しくなりますが......」


「別にいいよ。今、ドラゴン達の餌代以外欲しい物などないし」

あっさりとアレインは言った。



 その後、アレインはクリスティーナからお金を受け取ると、すぐさま集会所の外に出た。

外では、市場などの店が並んでいた。


「どこに肉屋があるのかな?」

辺りを見渡す。

 すると、肉のイラストが描かれた看板を見つける。


「あった!」

見つけるや否や、急いで店に向かって走り出す。ドアを開けて店の中に入る。

店の中は、いかにも中世ヨーロッパの肉屋と言う雰囲気であった。

丸々太った豚が解体されて吊るされている。


「おう、いらっしゃい!」

肉屋の店主が肉を片手に持って出てきた。

筋肉隆々の頭が坊主の中年男性である。


「すみません!この肉屋ではドラゴン用の肉は売っていますか?」


「んんん?何を言っているんだい、お客さん?

この肉屋は色んな肉を取り扱っているんだぞ!ドラゴン用の肉ぐらい当たり前さ!

で、どのくらい欲しいんだい?」


「えっと......、七匹分で一か月分」


「はいよ!マウントイノシシの肉がいいな。7950ガリオンだよ!」


「はい!8000ガリオン」

そう言って、アレインは店主にお金を渡す。


「はいよ!まいどあり!」

こうして、無事に購入することが出来た。

しかし、肉の量が重く、アレインが何とか抱えるがやっとであった

「お、重い......。でも、持って帰らないと!」

店を出て、再び集会場付近まで戻るとアレインはスマートフォンを取り出した。


「最初の場所に戻ってアプリを起動させると元の世界に戻るって書いてあったな」

アプリを押して起動させる。

すると、空間が再び歪みだして景色が変化していった。



 気が付くと、自分の部屋に戻っていた。


「何だか夢を見ていたような気分だな~」

だが、足元には店で買った食料の肉が置かれてある。紛れもない現実だ。


「......とりあえず、ドラゴン達にお肉をあげよう」

そう思い、クローゼットの扉を開ける。

その途端、ドラゴン達が勢いよく飛び出してきた。


「うわぁ!?」

余りの迫力にアレインは尻餅を付く。

しかし、そんなアレインに追い打ちをかけるようにドラゴン達が攻撃してきた。

特にいつも寝てばかりの緑色のベトールが血走った目で体当たりしている。


「い、いつもは大人しいのに......。痛いよ!」

ぶつけられた個所を押さえながらうずくまる。


一方、他のドラゴン達も呼吸を荒くしていた。

やはり、狭いクローゼット内に閉じ込められている状態に空腹が加わったせいで

相当なストレスを抱えてしまったらしい。

他のドラゴン達もベトールに続いてアレインに攻撃を仕掛けていった。


「名前を付けていれば大人しくなるんじゃないのか!」

アレインは攻撃されながら、落ち着くように彼らを説得した。

何匹かはふてくされていたが、しぶしぶ大人しくなる。

そして、袋から肉を取り出して彼らに見せた。


「どうだ!お前たちのために買ってきたマウントイノシシの肉だぞ!

これなら腹一杯食べられるだろう!」

エッヘンとした表情になるアレイン。

だが、そんなことなどお構いなしに肉にドラゴン達はかぶりついた。


「あれ?感動的なハグはなし?それにまだ切り分けていないんだけど!」

ドラゴン達は食べることに夢中で全くと言っていいほどアレインのことなど眼中になかった。

あの寝ぼすけですら一心不乱で食べているほどである。


 数十分後、袋から出した一個の肉の塊は一欠けらも残っていなかった。


「はぁ~、もう食べ終わったのか......」

アレインは感心する。


一方、食べ終えた七匹は満足そうに眠りに付いた。

安らかに眠っているドラゴン達を見て、ふとある疑問が頭に思い浮かんだ。


「そういえば、マウントイノシシの肉はどんな味なのかな?」

好奇心に?き立てられて、まだ余っているマウントイノシシの肉を持ってコッソリと一階に降りる。

そして、そのまま台所に向かった。


袋から肉を取り出して、ナイフで一口サイズに切り取る。

そのまま油を入れたフライパンに放り込んで料理を始めた。


数分足らずで、いい匂いが台所に充満する。


「これは期待できるかも!」

肉に火が通り、少し焦げ目が付くか付かないかというところで火を止めた。

心を躍らせながら、肉をフライパンからお皿に移し替える。


「へへへ、どんな味かな?」

ナイフとフォークを取り出して、アレインは肉を切るとそのまま口の中へと放り込んだ。

モグモグと噛みながらよく味わう。


「......えっと、結構淡白な味だな。それに思ったほどいい味はしない。

あと、かなりけものの臭いがする」

予想と違った結果に少しアレインは残念に思った。

ものすごくまずいというわけではないが、とてもおいしいものでもない。

これを食べるくらいなら、ベーコンやハムの方がおいしいと思った。


「......捨てるのはもったいないし、あとでドラゴン達に与えよう」

食べ残したマウントイノシシの肉を持って、再び二階に上がるアレイン。


 部屋の中では、お腹いっぱいでドラゴン達が眠っている。

その中で、腹を空かせていた緑色のドラゴンであるベトールがまだ起きていた。

アレインは彼の口に残ったマウントイノシシの肉を放り込んだ。

ベトールは美味しそうにバクバクと食べる。

その様子を見て、ホッとした。


 次の日、気分転換にアレインは自転車でその辺を散歩しながらある問題について考えていた。


「食糧問題についてはどうにか解決できたけど、住居の問題がな~。

今のままだと確実に僕の部屋に隠し切れなくなるし。

何より一匹でも僕の部屋より大きくなる可能性があるからな。どうすればいいのか」


色々と解決策を考えていると、正面から歩いてきた人物に声をかけられた。


「こんにちは!アレイン君」

アレインは視線をそちらに向ける。

声を掛けてきたのはアレインがよく知っている人物であった。


「あっ!こんにちは!フィッシャーおじさん」

頭がはげていて、あごひげが立派な優しそうなおじさんである。

アレインの近所に住んでいる人物で、色々とアドバイスやお菓子を与えてくれる。


「何か思い悩んでいるような顔をしているけど......。何かあったのかい?」


「えっと......、何でも......」


この時、「何でもない」と言って、帰ろうと思った。


だがアレインは内心、ドラゴン達の居住地の問題について早急に解決しなくてはならないと考え、

思いとどまった。

そして、アレインはダメもとで、フィッシャーおじさんに相談してみた。


「......実は悩んでいる問題があります」


「それは何だい?もし時間があるならば、ちょっとワシの家で話さないか?お茶を飲みながら......」

そう言うと、彼はアレインに背を向けて、家までの道のりを案内する。

 アレインは黙って、彼の後を追った。



移動していくうちに住宅街から離れて、森や牧草地などがある領域に入っていた。

どうやらこの一帯は、フィッシャーおじさんの家と土地のようだ。


「ず、ずいぶんと広い家と土地ですね......」


「まぁ、私の先祖が地主での~。土地だけはあるんじゃよ。土地だけは!」

彼は少し笑いながら答えた。

家の前に付くと、ドアを開けて中に入る。


「どうぞ、わが家へ!とりあえず、ソファーでくつろいでくれ」

アレインは案内された居間でソファーに座った。

 一方、彼は台所に向かう。

アレインは彼を待ちながら部屋を見渡した。

古いイングランド風の部屋で温かみがあった。

部屋の中を見ながら緊張していると、二つのティーカップと紅茶の入ったティーポットをお盆に乗せて、フィッシャーおじさんがやって来た。

「お待たせして、済まない。少し時間がかかってしまった」

「いえ、別に......」

アレインは謙遜する。

「いや~、そんなにかしこまらなくてもいいよ。しかし、君は礼儀正しい。

今どきの子はスマートフォンやら電子機器に夢中でこっちから話しかけても無視しているから

少し悲しいよ」


アレインは「自分も褒められるほどではない。むしろ、今どきの子の方である」

と心に言葉が刺さった。


「まぁ、話はここまでにしてお茶にしよう!砂糖とミルクは入れるかい?」


「はい、入れます。しかし、自分で調整するのでそのままにしておいてください!」


「うむ、分かった」

言われた通りにストレートの状態でフィッシャーおじさんはアレインに紅茶を渡した。


「はい、どうぞ!」


「どうも」


アレインはたっぷりの砂糖とミルクを紅茶に入れてぐるぐるとスプーンでかき回した。

そして、勢いよくミルクティーを飲んだ。

フィッシャーおじさんも紅茶を飲む。


「......ところでさっき悩みがあると言ったが何かあったのかい?」


「はい、実は......」

この時、アレインはドラゴン達のことを言おうと思った。

だが、信じてもらえる保証はない。

さらにバロンに極力他人に言わないようにと釘を刺されているので隠さなければいけない。

苦肉の策としてある動物で言い換える。


「実は犬を七匹飼っているんですけど......。家で飼えなくなってきているので困っています」


「......?だったら、ご両親や学校の先生などに相談して、

動物愛護センターやボランティア団体に引き取ってもらったりすれば良いのでは?」


ごくまっとうな答えをフィッシャーおじさんは導き出す。


「......はい。ですけど、実は知り合いから育てて欲しいと頼まれていますので

他に預けるわけにはいかないんですよ。

それにその依頼者から両親や家族に内緒にするようにときつく言われております。

あと僕が育てないといけないことになっていますので......」


「うーん、その知り合いと言うか依頼者というか......。少しひどい奴だな。

君みたいな子に対して七匹の犬を育てさせるだなんて......

自分でやればいいのに......」


「で、でもその七匹達は僕になついているので大変なんです。

それに下手に他の人は言ったら何されるか......。

ただ、餌代や他のことなどはサポートしてくれるんですけど......」


「う~ん。本当だったら警察に相談するか知り合いに引き取ってもらった方がいいのだが......。

ようはワシに引き取ってもらいたいということかな?」


「い、いえ!育てるのは大変じゃないのですが、

犬の大きさが家で飼うにはスペースが足りない程大きくなってしまって......。

どこか広い所に犬達を移したいだけです」


「......なら、いい方法がある。ワシの敷地内で七つの小屋が今でも存在する。

今は使わなくなったが、そんなに老朽化していない。そこに移動して育てるのはどうじゃ?」


アレインは彼の提案に驚いた。

だが、同時に渡りに船であった。

すぐさま彼の提案に承諾したいところであったが、ある疑問が生じる。


「で、でも大変なんじゃ......。わざわざ大型犬七匹の移住地を提供して下さるなんて......」


「いや~、別に場所を貸すぐらいだったら大したことではないから大丈夫じゃ。

昔、大型の動物を飼っていたことがあったからのう。それに育てるのは君だろう?

ワシが育てるとなると話は別じゃが......。そういう話ではないからのぅ。

むしろ、使っていない小屋を有効に使ってくれた方がワシにとっては助かる」


「あ、ありがとうございます。それともう一つお願いが......」


「......?なんじゃ?」


「......実はその七匹の犬達、かなりの人見知りなんです。

だから、攻撃的なのであまり近づかないでください!お願いします」


「......分かった。ワシはもう老人だ。そんな犬に襲われたらひとたまりもない......。

それにこの家から小屋まではかなりの距離がある。往復するだけで大変な労力がかかってしまう。

アレイン君、君の言う通りに小屋に近づかないようにするよ。

だが、君も注意するんだぞ!それと何かあったらすぐにこっちの方へ連絡するように......。

いいね?」


「はい!ありがとうございます!」

彼はお礼を言った。

その後、たわいのない話をして、自宅へと帰って行った。


「良かった~。これで何とかなる。......でも、なんで信用してくれたのだろう?まぁ、いいか!」

スマホをいじりながら、楽観視していたが、あることに気が付いた。


「......そうだ!どうやって家からフィッシャーおじさんの小屋まで移動させたらいいんだ!?

方法を考えないと......」

だが、その問題はすぐに解決する。


アレインがドラゴンを育てるためのアプリを調べている内に、

カモフラージュという機能に気が付いた。


「......カモフラージュ?」

名前の通りで、どうやらドラゴンの姿や気配などを消したり、

別の存在に認識を変化させたりするものである。

さらに、電子機器であるカメラやスマートフォンでドラゴン達を撮られても、

犬などに変わるためバレる心配がない。


「よし!これだ!」

 アレインは、部屋の中で遊んでいる七匹のドラゴン達にカモフラージュを使用する。

使い方は簡単で、既に登録されてある七匹のドラゴン達にカモフラージュの機能の追加を行い、

起動させるだけである。

しかし、アレインにはぱっと見したところドラゴン達に変化が見られなかった。


「本当に大丈夫かな?これ?」

アレインは少々不安であったため、ドラゴン達を夕方から夜に移動させようと思った。


「まず、ドラゴン達をゲージに入れて何回か往復しよう!」

そう思い、ゲージの用意をしていたところ、ある問題が発生してしまった。

それは、赤色のファレグと黒色のヘギトが勝手に部屋の窓を開けて、外に出てしまったのだ。


「あっ!こら!」

アレインは直ぐに気が付いて、窓から部屋に戻るように注意する。

しかし、お互いにじゃれ合っているためアレインの言葉に気が付かない。

仕方がないので、アレインは一旦一階に降りて外に出ることにした。


幸いにも、家には誰もいなかったので特に誰かに誤魔化さなくて済んだ。

ドアを開けて自分の部屋の窓に向かう。

そこには、木の近くで飛んで遊んでいる二匹がいた。


「おい、もし見つかったらどうするんだよ!」

近くに人がいないか確認しながら小声で注意する。

しかし、二匹はアレインの言葉を無視してじゃれ合っていた。


やれやれと思っていたら、他のドラゴン達も窓から出て、二匹の元へとやって来てしまう。

慌てたアレインが彼らを元の場所に戻るように指示する。

その時、ファレグとハギトが家の近くから道路側に出てしまった。


「ま、まずい!もし、カモフラージュのアプリが起動していなかったら......」

アレインは慌てて後を追いかける。

時間的にも、それほど人の往来が多いわけではないが、やはり住宅街。

少なからず、人が行きかっている。

そして、アレインの心配が現実となった。


二匹が進んでいる方向から右側に自転車に乗った若い男がやって来たのだ。

確実に彼の視界には二匹が映りこんでいる。


「これはもう......」

流石にヤバいと感じたのか。アレインは急いで彼らを隠そうとする。

しかし、若い男はアレインや二匹のドラゴン達を無視して通り過ぎていく。


「......あれ?驚かない?もしかしてカモフラージュの機能が発動している?」

その後も何人もの人間が彼らの横を通り過ぎて行ったが、

全くと言っていいほど無反応であった。

「やったー!ちゃんとカモフラージュが出来ている!

そうだ!このまま自転車に乗って誘導しよう!ゲージに入れるのは大変だから......」


アレインは一旦家に戻ると、ヘルメットを被り、

そのまま自転車に乗ってフィッシャーおじさんの家に向かった。

ドラゴン達も彼の後に付いて行く。

傍から見れば、大騒ぎするような光景であったが、

カモフラージュの機能が発動しているので全くと言っていいほど問題にはならなかった。


 数十分後、何とか無事にフィッシャーおじさんの家に到着した。


「良かった。無事にたどり着いて......」

少し、しみじみと感動する。

辺りは既に赤くなり、夕方に近づいてきた。


「まずい!父さんと母さんが家に戻ってくる!」

慌てて、小屋までドラゴン達を移動させた。

小屋に来ると全員が気に入ったのか、特にアレインから指示させることなく、自ら中に入る。

そして、そのまま小屋の中にある藁を下にゆっくりと全員が眠りに着いた。

まるで今までのストレスから解放されたかのように。


「良かった全員気に入って......。明日から必ず来て世話をしなくちゃ!」

こうして、アレインは食糧問題と住居問題の両方を片付けることが出来た。

辺りが暗くなる中、彼は家へと帰って行った。




 その日の夜。

時刻が午後十時を回ったところで、フィッシャーおじさんは家の戸締りを確認していた。


「......さてと、もう時間じゃ。寝るとしようかの......」

彼は、パジャマ姿になると家の明かりを消してベッドに入った。


深い眠りから数時間後。

彼は夢の中を見始めた。そこはかつて見覚えたある場所であった。

何にもない暗い空間にポツンと現れた巨大な城。

彼は何の迷いもなく、城門をくぐり最上階に向かう。


最上階に到着すると、そのまま奥の部屋へと行き、ドアの前に立った。

しかし、ドアを開けて中に入ろうとはしない。

中から声がかかるまで待っているのだ。


体感で五分も経たないうちに、「どうぞ!」と聞こえた。

彼はドアをノックして中へと入る。

中にはバロン、スコル、ハティがいた。


「ようこそ、我が城へ!久しぶりの我が友人」

仮面を被ったバロンは嬉しそうに言う。


「やあ、久しぶりだねぇ。バロン、君は相変わらず変わらない。

あ、椅子に座ってもいいかな?」


「ああ、どうぞ」


「ではお言葉に甘えて......」

フィッシャーおじさんはよっこらせと椅子に座った。


この時、スコルとハティに目線が合う。


「久しぶりだな、フィッシャー。お前、ずいぶんと年を取ったな!」


「......ですが、中身が変わっているのか少々気になります」

双子が話す。


「やあ、二人とも久しぶりだねー。相変わらず変わっていないな。懐かしい」


「ふん!当たり前だ!我々は人間と違って年の取り方が違うからな!」


「......その通りですよ」


「だいぶ従者として板についているね、二人とも。

途中から入ってきたから最初は心配したけど、もう大丈夫みたいで安心したよ!

ところで、バロン。前の従者はどうなった?」

フィッシャーおじさんは尋ねる。


「ああ、彼女は自らの意思でここを辞めて、自分の目的のために旅をしている。

もう私の手から離れてしまった。今は連絡が付かないからどうなっているのか分からない......」


「......そうか。じゃあ、仕方がない......」

顔を俯いて、寂しそうに言う。


「それよりも、急用なのに対応してくれて助かったよ。

アレインのドラゴン達の住居を提供してくれて。感謝する」


「本当に驚いたよ!四十年以上も連絡がなかったのにここ最近夢で連れてこられて......。

しかも、ドラゴン達の住居の提供をして欲しいと頼むのだから......」


「いや、済まない。君にこんな事を頼んでしまって......」


「こっちは気にしていないよ、バロン。

アレイン君にも言ったが、こっちがドラゴン達を育てるわけではない。

そもそも昔、私も彼と同様に同じように魔法生物を育てているからね。

彼の苦労は良く分かるよ。こっちも大変だったからね!

でも、あんないい加減な嘘を付いたら普通の大人たちは不振がるだろう......。

もっとよく考えないと......」


「まあ、まだ子どもだからな。そんなに高度な嘘をつくには早すぎるだろう......」


「こっちも知らないふりをするのは大変だったよ。下手に突っ込まれたらひとたまりもない。

上手くいって良かった」


「......済まない。助かった」


「まあ、ドラゴン達の鳴く声などはこっちで対策しておくよ。

ところで、話は変わるが、聞きたいことがある......」


「ん?何だね?」

バロンは首を傾げる。

「なぜ、七匹のドラゴン達を卵からアレイン君に育てさせる?

もっと魔法や魔術に長けた世界があるならそっちに育てさせればいいのに......」


「......少し事情があって詳しくは話せないが、問題が発生したためだ。

そして問題解決策としてある人物達から依頼された」


「何となく察するよ。かなり訳アリのドラゴン達だろう?」

バロンは黙ってしまう。


「......図星かな?まあ、君のことだから色々とヤバいことは分かる。

だからこれ以上は聞かないことにするよ。君も色々な制約やしがらみがあるからね。

苦労しているよ」


「......仕事だから仕方がない。それに好きでやっていることだ」


「私も昔を思い出すよ。君に託されたグリフォンを育てたことを。

あの時は我が家の山でコッソリと育てたけど......。

しかし、今どきの子は大変だね。監視カメラやスマートフォンにSNSで直ぐに

情報が発信される社会だ。あの子は他の人間にバレないように隠して育てられるのだろうか?

苦労するだろうな......」


「だが、こっちも対策をしている。問題はない」


「......あと、アレイン君の命は大丈夫か?危険なことにならなければいいが......」


「それも大丈夫だ。彼の命は保証する。彼に自衛手段は渡してある。

それに少なくとも危険にさらされることはない。万が一何かあったらこっちも彼を守る」


「なら、安心だ!君は最強だからね」


「私にも弱点は存在するが、誰にも分からない。私以外はね」


「頼もしいのう。......せっかくの再開だから色々と話したいことがあるのじゃが、いいかのう?」


「ああ、構わないさ。今日はもう仕事を片付けてある。それに私も君とゆっくりと話したい」

こうして、彼らは話を続けた。

双子は彼らの邪魔をしないように部屋から出て、そっとドアを閉じた。

            第三話 終わり






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