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ドラゴン・ブリーダー・アプリ  作者: 鈴之上 太助
2/3

第二話「ドラゴン達の名前」

謎の紳士バロンからドラゴンの卵を受け取ったアレイン

ただの冗談かと思いきや、本物の卵であった

そして、ふ化したドラゴン達の赤ちゃんに名前を付ける話

 産まれたばかりのドラゴン達を見つつ、アレインは、スマホのアプリから情報を得ていた。


「ドラゴンは、とても強い魔力と力を持っているが、赤ん坊の時は他の生物同様にとても弱い。

よって、育てるときには細心の注意を払うこと。

又、ドラゴンは爬虫類と同様に脱皮をする。

この脱皮と殻はとても大事なので必ず取って、保管すること」


声に出しながら、読んだ。

一方、ドラゴン達は疲れているのか羽をたたんで眠っている。アレインも同様に眠気が襲ってきたのでこちらも寝ることにした。


 翌日、窓から入ってくる太陽の光でアレインは目覚める。

横目でドラゴン達の方を見た。まだ、彼らは眠っていた。

「今はまだ眠っているけど、いつ起きるか分からない。とりあえず、クローゼット内に入れておかないと......。父さんと母さんに見つかったら大変だ!」

ゆっくりと起こさないようにタオルで彼らを包みながらクローゼットへ移動させる。

慎重に音を立てないようにしたため、時間がかかる。

「ふぅ、一応隠しておいたけど、何をすれば......。あっ!何を食べさせた方がいいか調べないと」

慌ててベッドに向かい、スマホでアプリを見る。

画面に表示されている項目の中で、[ドラゴンの食事について]があった。

急いで、項目をタッチする。

内容は以下の通りであった。



[成体のドラゴンは狩りをして生きた大型動物を捕食する。

一方、産まれたばかりのドラゴンの場合は、鶏のささ身などの死んだ動物の肉を与えた方が良い。

又、よく間違えて牛乳などを与えた方がいいと思われがちだが、

お腹を壊して戻してしまうドラゴンの個体もいるので、あまりオススメはしない。

もし牛乳を与えるのであれば、少なくとも一か月以上成長して、

何でも食べられるようになってからが良い。最も、個体によっては嫌がるものいる]



「そういえば、冷蔵庫の中に鶏のささ身があったような......」

ドラゴン達を起こさないようにゆっくりと歩きながら部屋を出るアレイン。

 一階に降りると台所に向かった。時刻は午前五時前、辺りはまだ薄暗い。

そんな中を、微かな朝日を頼りに、冷蔵庫を探す。


「えっと、冷蔵庫は......。あった!」

見つけるや否や、扉を開けて鶏のささ身を探す。中はプラスチックの容器に食品が入っており、

きれいに分類されている。おかげで何があるのか一目で分かる。ライスプディングやクッキー、

飲み物などが目についた。

下の段に視線を移す。牛肉や豚肉、鶏肉などが書かれている容器を見つけた。


「えっと、これだ!」

 アレインは容器を取り出して、中を覗く。

鶏のささ身とレバーがラップに包まれていた。

それらを少し取り出して、あらかじめ持ってきた紙のお皿に乗せる。

「うへぇ、レバーが血でぬるぬるしている。気持ち悪いな。よくこんなものを平気で食べるよ、

父さんと母さんは」

二人は、よく仕事で疲れた後にソテーしたレバーをビールと共におつまみにして食べることが

よくあるのだ。


アレインは、お皿を持って、二階に上がった。

自分の部屋まで戻ると、ドアを開けて中に入る。

「ご飯持ってきたよ~。食べるかな?」

しかし、クローゼットが少しガタガタと揺れている。何か様子がおかしい。

「......?何だ、起きたのかな?」

 そう思い、クローゼットの扉を開ける。

すると、突然赤色と黒色の二匹のドラゴンが勢いよく飛び出してきたのであった。

お互いに喧嘩をしている。

「うわぁ!」

驚いた拍子に、皿を落としそうになる。寸でのところでキャッチするが、

危うく皿を割るところであった。

「全く、危ないじゃないか!何しているんだよ?」


だが、二匹のドラゴンはアレインの言うことなど耳に入っておらず、

部屋の天井付近でお互いに噛みつき合いながら空中戦を行っている。

 アレインは、二匹のドラゴンは放っておいて他のドラゴン達の様子を見るために、

クローゼットを覗き込む。

ドラゴン達は各自で自由気ままに行動していた。


青色のドラゴンは、クローゼット内のアレインの服のポケットに隠れていた。

茶色のドラゴンは、羽をばたつかせて落ち着きがない。

黄色のドラゴンはお腹を鳴らして、腹を空かせている。他の二匹も同様であった。

白色のドラゴンは、微動だにせずどっしりと態度で座っていた。

緑色のドラゴンは、未だに瞼を閉じて眠っている。


「......こりゃあ、育てるのは大変だ!」

 アレインは、五匹に鶏のささ身やレバーを与える。

五匹中四匹は、お皿に乗っているご飯を美味しそうに目の色を変えて食べていく。


しかし、眠っている緑色のドラゴンは食べる気配はおろか、起きようともしない。

「ねえ、起きてよ。ちゃんと食べないと......」

五等分したレバーの一つを眠っているドラゴンの前に置く。よっぽど深く眠っているせいか、

ドラゴンから鼻ちょうちんが出来ている。

「何でこんなに深く眠っているのかな?」

アレインは不思議でたまらない。


 一方、緑色のドラゴンはというと、うっすらと目を開けて目の前にあるレバーを見る。

だが、興味がないのか、再び目を閉じて眠ってしまった。

「......食欲よりも睡眠欲を優先させるのか」

もはや、アレインは苦笑するしかない。


だが、天井付近にいる二匹のドラゴンが激しく戦っているのでアレインの注意がそちらに向かう。

「いつまで戦っているんだよ!ご飯なくなっちゃうよ!」

 二匹のドラゴンは疲れてきたのか、段々と飛んでいる高さを落としていく。

そして餌が視界に入ると、一目散に餌へと急降下して行った。


まるで、鳥が水中にいる魚を取るように羽をたたんで、弾丸のように進んで行く。

お皿の上に到着するや否や、取りつかれたように勢いよく食べ始める。

しかし、食べているときも二匹のドラゴンはお互いの顔を睨み合い続けていた。

ライバルよりも多く食べてやるといった競争のようであった。

「......食べているときぐらいは争うのは止めて欲しいよ」



アレインがため息を尽いていると、一階から声が聞こえてきた。

「アレイン!?起きているの?」

「うん!起きているよ!」

「朝からドタドタ動いているみたいだけど、早く降りてきなさい!遅刻するわよ!」

「はーい!」


この時、アレインはあることに気が付く。

「......まずい!早くお皿を父さんと母さんにバレないように戻して、

ドラゴン達をクローゼットに再び隠さないと!」



アレインは急かすように、ドラゴン達に早く食べるように指示する。

幸いにも、彼らはもうほとんど食べ終わりそうであった。

眠っているドラゴンを覗いて、彼らが食べ終わると、再びクローゼットに移動させる。

「お願いだから、大人しくしていてね!」

 お互いに戦っていた二匹のドラゴンは、疲れていたのか再び眠り始めていた。

他の五匹のドラゴンも、アレインの言うことに対して頷くような仕草を見せた。

 アレインは、ホッとした様子でクローゼットの扉を閉める。

そして、お皿をおなかに隠して一階に降りた。



居間では、いつも通り両親が朝食を取り、出かける準備をしていた。

「お、おはよう」

「おはよう、ずいぶんと遅かったわね?どうしたの?」

「えっと......。その......」

アレインは歯切れが悪く、言葉がつまった。

「まさか!?遅くまで動画サイト見ていたの?

それで、早朝からドタドタ動いていたのもそれが原因?もう、そうゆうことはなしよ!」

母親がアレインに顔を近づけていった。

「う、うん。ごめんなさい......」

「......まあ、いいわ。次から気を付けてね!」

「......はい」

何とか、自分のせいに出来て内心、アレインはホッとした。 

その後、ジュースを自分で取り行くと言って、台所に向かい、

隠してあったお皿をこっそりと元の場所に戻した。


そして、素知らぬふりをしてジュースを片手に居間に向かい、自分の席に座る。

反対に、父親が席を立ち冷蔵庫に向かう。

サラダにかけるドレッシングが出ていないので探しているようだ。

頭の後ろを掻き、冷蔵庫の扉を開ける。

冷蔵庫の中を物色しながら、ドレッシングを取り出す。

この時、父親はあることに気が付く。


「あれ?レバーと鶏のささ身が無くなっている?」

朝食を食べているアレインは、一瞬固まる。

「ま、まずい!ここでバレたら!」


その時、母親が父親に対して笑いながら言った。

「あら、やだ。あなた、また酔っ払いながら料理して勝手に食べたの?」

「......そういえば、昨日家に帰ってからお酒飲んでいたな。この前の時もそうだっけ......?」

「もうっ!しっかりしてよ~」


アレインは両親と共に笑いつつも、本当は二人が勝手に勘違いして安心した。

彼らは朝食を済ませると、家を出て各自それぞれの場所に向かった。

 


学校に着いたアレインは、授業中にあることについて深く考えていた。

「休み時間にスマホでインターネットを使って色んな名前を調べてみたけど、

ドラゴンに付ける名前は普通の奴でいいのかな?

念のために図書館に行って調べてみた方がいいのかもしれない。

でも、普段あんまり使ったことない図書館でも見つかるのかな?う~ん」

目を閉じて、腕を組み悩んでいた。



 すると、耳元で「アレイン君?」と呼ばれた。

驚いて、振り返るとリリアンヌ先生がアレインの顔に近づいて、目を見ていた。

「考えることはいいことだけど、今は私の授業に集中してくれるとありがたいかな?」


アレインは顔を真っ赤にしてウサギのように縮こまった。その様子を見て、クラス一同が笑う。

しかし、リリアンヌ先生は手を叩きながら、生徒全員に静かにするように促す。



「はい、みんな!静かに!アレイン君のことは笑ってはいけませんよ!

他の人達も授業中にスマホをいじっていたり、上の空だったりしていますからね!

人のことを笑うことは出来ませんよ!では授業に戻ります」

アレインは少しホッとしつつも、まだ恥ずかしかった。


 その後全ての授業が終わり、アレインはとりあえず図書館に向かった。

やはり、早めにドラゴン達に名前を付けなくてはと思ったからである。

教室を出て、普段は使わない通路を通い、階段に向かう。

階段を降りると一階に到着して図書館のある方向に向かう。



 そこは、アレインのいる本館から離れた別館で一番奥の端の所であった。

一応、図書館と立て札があったが、あまり目立たない雰囲気だった。

引き戸式の扉を開けて、中に入る。



図書館の中は、普段あまり使われていないのか人が数えるほどしかいなかった。

スマートフォンや電子書籍などが発達した現代ではあまり魅力がないらしい。

アレインは何となく居心地が悪かった。

アレインも学校のスクールカーストの中で上位ではないが、一番下ではない。

しかし、ここにいる生徒たちは一番下の所の生徒が多い。


少し冷たい視線がアレインに突き刺さる。

あまり、声を出さずに目的の本を探すため、本棚に行く。

ファンタジー系と書かれた棚を見つけて、ざっと見る。

「......えっと、ここかな?」

そこには、色んなファンタジー小説などがあった。


「色々とあるな......。有名どころだとハリーポッターシリーズ、

エラゴン、ドラゴンキーパー。後は......」

「アゴールニンズ、ドラゴンの塔、ロードス島などね。

中世ヨーロッパの魔術や魔法、風習や民間伝承などは神話や寓話の列にある」


アレインは後ろを振り返る。

そこには本を持って、メガネをかけているエレノアがいた。

「えっ!?」

思わず声を上げようとしたが、エレノアがとっさに右手でアレインの口を塞いだ。


「しっ!静かに!図書館で大声を上げるのはマナー違反。

他の人に迷惑がかかる。分かったなら、頭を縦に振って!」


びっくりした表情で、アレインは首を縦に振る。


「......なら、いいよ」

エレノアはアレインの口から手をどかす。

怖い雰囲気から一転して、元の普通の状態にエレノアが戻った。

 驚いているアレインをよそに、エレノアはアレインに背を向けて、どこかに移動しようとする。


「......どこに行くの?」

アレインは小声で尋ねる。


「......魔術や魔法に関する本の棚でそこに連れていく」

淡々とエレノアは答える。

アレイン達のいるファンタジー小説の列から左に二つとなりの所に着く。

そこにはエレノアの言う通り、魔術や魔法に関する本があった。


「エレノア、ありがとう!これで助か......」

お礼を言おうとした時、エレノアが突如言葉を遮って質問する。


「......ところで、何で急にドラゴン、魔術や魔法の本を探そうと思ったの?」

「えっと......、今やっているゲームで出てくる必殺技や魔法が気になって、

調べてみようと思ったから......」


アレインは必死になって誤魔化そうとする。

だが、それまでの無表情から一変して、疑ったような目で睨んできた。

そして、ぶっきらぼうに質問を続ける。


「......じゃあ、今どんなゲームをしているの?

そして、そんなに急に魔法や魔術に興味が湧くかな?

それに、今まで図書館に行ったことのない人間がわざわざ図書館で調べものをする?

普通だったら、スマホかパソコンで探した方がいいと思うけど......」


アレインは、思わずギクッとする。

内心、適当に誤魔化して上手くやり過ごそうかとしていたが、

ここまで深く突っ込まれるとは思ってもみなかった。


「......えっと、最新作のマジックスペースの奴が気になって......。

あと、インターネットだといい加減なサイトがあるから信用がなくて本の方がいいかなって......」

「マジックスペースは私もやっているけど、元ネタが古い魔術や魔法関係の物は出てこない。

それにインターネットの方もちゃんと作っているサイトもある。

逆に、本の方もいい加減に書いている物もある。......何を隠しているの?」


エレノアは、じりじりとアレインに近づく。

反対にアレインは後ずさりをした。

「......えっと、悪いけど君の質問に答える義務はない!

本当に何も隠し事はない!普通に興味が湧いただけ!」

やや強引で無茶苦茶な言い訳だった。


 しかし、エレノアは意外にも何も言わなかった。まだ、疑ったような目ではあったが、

それ以上追求することはなかった。


「......そう」

アレインは気まずくなった。


「......あっ!......えっと、その......」

「......それじゃあ、私はこれで。もう、大丈夫でしょう」

エレノアはアレインに背を向けて、離れていく。


「あっ!......ありがとう」

小さな声でアレインはお礼を言う。

アレインの言葉が聞こえていたのか、エレノアは振り返り、


「どういたしまして」

そして、再び去っていった。

アレインは何とも言えない気持ちになった。

彼女に対する後ろめたさと終えて貰った感謝の気持ちが入り混じる。


だが、気持ちを切り替えなければならない。

アレインは、教えてもらった場所で本を探した。


とりあえず、使えそうなものは片っ端から手に取っていく。主にドラゴン関係のものを。

数としては十冊ぐらいであった。

アレインとしてはこれ以上無理だと判断した。


「この中からドラゴン達にふさわしい名前を探そう!」

 アレインは、本を持って、受付カウンターに向かう。

カウンターでは、図書委員の二人が対応している。一人は男でやる気がないのか、

ずっとスマホをいじっている。もう一人は女の子で男の子とは対照的に眼鏡をかけていて

、真面目そうであった。


アレインは静かに本を出す。

しかし、男の子はスマホに夢中で受け取ろうともしない。


「まじめにやってよ......」

女の子が注意するが無視して、スマホをいじり続ける。

呆れながら、女の子はアレインに謝った。


「別にいいよ」

アレインは特に気にしていなかったが、女の子に対して気の毒に思った。

 一方、女の子はアレインが出した本の数を見て、眉をひそめる

「ごめんなさい。本は三冊までなの......」

何冊でも借りられると思っていたアレインは少し驚くが、

とりあえず言われた通りに十冊の中から三冊を選んだ。

アルゴールニンズ、ドラゴン・神話の歴史、初心者でも分かる魔法と魔術の歴史。

かなり悩んだが、これらに絞った。


「じゃあ、これで......」

アレインが三冊を女の子に改めて渡す。

受け取った女の子は「カードは持っているの?」と聞いてきたため、学校の図書カードを渡した。

カードを読み取り、アレイン本人かどうか確認する。

本人と分かると、次に本の裏表紙にあるバーコードを読み取り、貸し出しにする。

「はい、これで貸し出しの手続きは終わったよ。期限までには返してね」

アレインは頷くと、バッグに三冊の本を入れて図書館から出た。

そして、ウキウキしながら家に戻っていった。



「......また、この場所か」

 その日の夜。眠りにつくとアレインは夢の中にいた。目の前にあるのはバロンの城である。

門が開き、つり橋が下がる。アレインは再び、バロンの城に入って行った。


十分後、アレインは最上階のバロンのいる部屋に到着する。

すると、ひとりでにドアが開く。

部屋の中は、前回と同様にバロン、スコル、ハティがいた。

相変わらず、バロンは椅子に座って前の机に肘を置き、腕を組んでいる。


「ようこそ!我が城へ幼き客人」

前とあった時と同じセリフをバロンは言った。


「......バロン、どうしよう......」

アレインは今にも泣きだしそうな声で弱音を吐いた。


「どうした?アレイン、何があった?」

「......実は」

ため息を尽きながら理由を話す。



 アレインが学校の図書館から自宅に戻ってきた時間にまで遡る。

鍵で玄関ドアを開けて、中に入り、自分の部屋まで直行する。


「ただいまー。帰ってきたよ!」

ドアを開けて、中を見る。

そこには、信じられない光景が広がっていた。

辺り一面、物が散乱していて滅茶苦茶になっていたのだ。

さらにカーテンも途中で外れている。

このありさまは、下手をすれば強盗に荒らされていると思われてもおかしくない状態だった。


ショックのあまり呆然とするアレイン。

そんな彼をよそに天井近くで四匹のドラゴンが飛んで騒いでいた。

 どうやら今朝、喧嘩していた二匹のドラゴンが再びケンカを始めたらしい。

その証拠に赤色と黒色のドラゴン達が空中戦をしている。他の青色と茶色のドラゴン達は、

二匹のドラゴンの戦いを見て、喜んでいる。

しかも、あからさまに煽っていた。



 アレインは、他の三匹のドラゴン達の様子が気になり、クローゼットの扉を開く。

白色のドラゴンは、どうやらメスのようで空中で騒いでいる四匹のドラゴン達に呆れている様子で、

ため息を尽きながら座っていた。

黄色のドラゴンは、お腹を空かせて、「エサはまだか?」と言わんばかりにアレインの方を見ている。緑色のドラゴンは相変わらず眠っている。

しかし、アレインが朝に置いたエサは無くなっていたので、

どこかの時間でしっかりと食べた様子であった。


「この三匹はまあ、いいとして......。天井近くで喧嘩しているあいつらをどうにかしないと......」

 アレインはすぐに行動を開始した。

まず、天井付近で騒いでいる四匹に声を掛ける。


「おい!喧嘩をするのは止めろ!これからエサ持っていくから大人しくしろ!」

だが、前回と同様に赤色と黒色のドラゴン達は言うことを聞かない。

野次馬として参加していた青色と茶色のドラゴン達は餌のことが話に出るや否や、

天井から降りてきてアレインの元に来た。


「この二匹のドラゴンは僕の言うことを聞いたか......」

しかし、赤色と黒色のドラゴン達は、依然として喧嘩に夢中である。

アレインは必死に声をかけるが、一向に言うことを聞かない。

逆に、ますます戦いが激しさを増している。このままでは歯止めが利かなくなる。


「これはまずい!」

直感で思ったアレインは強硬手段に出る。

急いで一階に降りると、隅にある物置部屋に向かった。

そして、そこからあるものを取り出すと、再び二階に上がり自分の部屋に戻る。


 勢いよくドアを開けたアレインの手に持っていたのは虫網と小型犬用のゲージであった。

アレインは、ゲージを置くと再び、一階に降りてもう一つのゲージを取りに行く。


数分足らずで自分の部屋に戻ると、虫網を手にして強引に二匹のドラゴンを捕まえようとする。

幸いにも、二匹のドラゴンはお互いに争うのに夢中で、

虫網はおろかアレインの存在にも気が付いていない。


じりじりと距離を詰めて、あっという間に赤色のドラゴンを捕まえてゲージに入れる。

赤色のドラゴンは、ほぼ不意打ちだったため、自分の身に何が起こったのか分からなかった。

黒色のドラゴンもいきなり赤色のドラゴンが消えたので一瞬だが、混乱する。


アレインはそれを逃さず、虫網で黒色のドラゴンも捕まえて別のゲージに素早く移し替える。


「ふぅ、これで何とか喧嘩を強制終了させることが出来た」

ひとまず、安心するアレイン。

 一方、ゲージに入れられた二匹のドラゴンはお互いにまだにらみ合っていた。

流石に痺れを切らしたアレインが怒った。


「もう!また喧嘩をするならご飯はあげないぞ!」

これには二匹のドラゴンはヤバいと思ったのか、首を下げて大人しく座り込んだ。

 しかし、目は互いににらみ合っており、仲良くする気などサラサラないようである。

呆れかえったアレインはため息を尽きながら、一階に降りてご飯の用意を始めた。

冷蔵庫から鶏のささ身と豚肉を少し切り取って皿に乗せる。


再び、二階に上がり、ドラゴン達にエサを与える。

四匹は普通に出された物を美味しそうに食べていたが、

喧嘩をしていた二匹はお互いににらみ合いながら食べていた

緑色のドラゴンは相変わらず眠っていた。

だが、目の前に出された餌の匂いを嗅ぐや否や、ゆっくりとまぶたを開き、

のそっと体を動かして、餌を食べ始めたのである。


「あっ!良かった!一応、ご飯食べるんだ!」

アレインは安心して喜んだ。

 しかし、喜んだのも束の間。部屋を見渡してアレインは信じたくもない現実に戻される。

そう、辺り一面ドラゴン達が暴れまわったせいで滅茶苦茶にされた状況を。


「......とりあえず、父さんと母さんが帰ってくるまでに部屋を片付けておかないと」

アレインは寝るまでの間、部屋を元の状態に戻した。

その後は何事もなく終わり、今に至る。


「......くっ、ハハハハハ!」

バロンの表情は仮面に隠れて分からなかったが、部屋中に響くほど大声で笑った。


「おい!笑うなよ、バロン!こっちだって大変だったんだよ!」

仮面を押さえながら、笑いをこらえようとするバロン。


「......いや、失礼。あまりにもおかしかったのでつい......。

ところで、その話からドラゴン達の様子を察すると......。

アレイン、君はまだドラゴン達に名前を付けていないな?」

アレインは一瞬、ドキッとする。


「......図星か。だったら君の言うことに従うどころか話すら耳に入っていないだろう」

「どっ、どうして!?」

アレインは思わず立ち上がって、バロンに近づこうとする。

しかし、双子が素早く彼に近づき、肩を抑えて動きを封じる。


「おい!我が主に近づくな!馬鹿者め!身の程をわきまえろ!」


「あなたのような愚かな存在が許可なく我が主に近づくなど言語道断。

決して許される行為ではありませんよ。

......それとも?席に座っていられない程自制心がないのですか?」

ハティは嫌味っぽく言う。

双子の目は完全にアレインを見下していた。


「―くっ!」


「まぁまぁ、スコル、ハティ、落ち着きなさい。話を戻すが、

どうしてドラゴン達に名前を付けていないのが分かったって?

答えは簡単だ。名前を付けていないから君の言うことなど聞かずに、

好き勝手に暴れまわって、部屋を滅茶苦茶にしているからだ」


「で、でもドラゴン達の中には僕の言うことを聞いて行動する者だっている......」


「だが、それは君が餌を持って来たからであって決して言うことを聞いて行動した訳ではない。

あくまでお腹が空いていたから食べただけに過ぎない」

「......」


アレインは何も言えなかった

「まぁ、名前を付ければ大人しく君の言うことを聞くだろう。

最低でも耳を傾けることは確実だ。

だが、早めに名前を付けておかないと大変なことになるかもしれない」


「えっ?どういうこと?」


「何だ?アプリをよく見ていなかったのか......?まあ、いい。

一応、口頭で説明する。ドラゴン達の卵がふ化して二週間以内に名前を付けていなければ、

ドラゴン達は君を親として認識しなくなる。そうすると、少し厄介なことになる」


「や、厄介なこと?」


「ふむ、そうだ。ドラゴン達は自分自身に名前を付けて勝手に行動するようになる。

そして、君を見下すようになる」


「......み、見下す!?」


「その程度ならまだいいが、次第に主従関係が逆転してしまう。

最悪の場合、君に危害を加えて奴隷扱いするようになるかもしれない」


「......えっ~!?」


部屋中に声が響き渡る。

「ドラゴンという生き物はプライドが高い。

自分より力の弱い生き物には馴れ合いするなどサラサラないに等しい。

だが、名前を付けて親として認知されれば、少なくとも危害を加え、

奴隷扱いするようにはならない」


「なら良かった~」


「だが、あまりうかうかしていられないぞ。

ドラゴン達もそれぞれ個性があるから気にいる名前が決まるまで時間がかかる可能性が高い。

まあ、明日から色々と名前を付けてみて反応を見るといい」


「はぁ~。とりあえず、明日から頑張るとするか......」


「他に何か聞きたいことはあるか?」


「ん~、二つあるけどいいかな?」


「何だ?言ってみなさい」


「一つは、フクロウ便にあった拳銃だけど、何で入れてあったの?」


「それは、ドラゴン達を奪いに来る不逞な輩を倒すための自衛手段だ。

今はまだドラゴン達が小さいから気づかれていないが、いずれは気づかれる。

まあ、今の所は気にすることではない。時が来たら話す。他には?」


「うん、この城の正面からこの部屋までたどり着くのにかなり歩いて時間がかかっているけど、

もっと効率的にこの部屋に行く方法はないかな?夢の中だからそんなに疲れないけど、

いちいち歩いてこの部屋まで行くのは時間がかかり過ぎるよ」


 すると、それまで黙っていた双子の従者であるスコルとハティが口を挟んだ。


「な、何だと!?我が主がこの忙しい中、お前ごときの為に時間を割いて下さっている。

相談に乗り、サポートして頂いているのにも関わらず、もっとお前の都合のために働けと?

ふざけるな!何様のつもりで......」


バロンがスコルの前に手を出して、話を遮った。


「我が主も色々と忙しいのです。それくらいのことは自分で解決するべきです。

このくらいのことを我慢できなければ......」


スコルと同様にハティにも話を続けるなとサインを送る。


「でも、こっちだって学校のある中でドラゴン達育てている訳だし、

それくらいのサポートはあったっていいはず!

それに色々と文句があるのならば、

僕じゃなくて他の人にドラゴン達の世話を頼めばいいじゃないか?」


このアレインの言葉を聞いて、スコルの顔が真っ赤になった。

怒り心頭だったらしく、今にも怒鳴り散らそうとしたが、バロンが「怒るな!」と命令した。


 一方、ハティは何も言わなかった。

だが顔を歪め、見下したような目つきでワザと聞こえるように舌打ちをする。


「ハティ!」


バロンは、ややきつめに言った。


「......申し訳ありません、我が主。彼が少し生意気なことを言ったものでつい......」


バロンは、少しため息を尽きながら双子をなだめた。

そして、机の引き出しから何かを取り出すとアレインめがけて投げる。

アレインは、とっさに両手でキャッチする。


「何だろう?」


両手を広げて中を見る。それは、鍵であった。

古い時代のヨーロッパのデザインで装飾が施されていた。

アレインが見たものの中で一番美しい。思わず、アレインはまじまじと見てしまった。


「この鍵は私のいる部屋の物で、

持っていれば夢の世界ですぐに私のいるこの部屋に来ることが出来る」


「これを常に持っていれば、一応大丈夫?」


「無論だ。ひもを渡すから、結んで首からかけておくといい。そうすれば、紛失する心配もなくなる」


「これって、現実の世界でも存在することになって、他の人にも見えるの?」


素朴な質問をアレインは、バロンにぶつける。

「いや、現実の世界に戻っても鍵は存在しないことになる。

他の人には見えないし、触ることも出来ない。基本的には君にしか見えないし、

触ることも君だけだ。但し、この部屋に来た者には見えるがね」


「ふ~ん、まるで幽霊みたいだね!」


「確かに、君の言う通り幽霊みたいな物だ。さて、聞きたいことはこれで全部かな?」


「うん、これで全部だよ。ありがとう!」


「なら、良かった。では、早めにドラゴン達に名前を付けたまえ!

なかなか、彼らが気にいる名前を探すまで大変かもしれないが......。頑張りたまえ!」


 この時、双子がアレインの方をにらみ付けて言った。


「ふん!我が主は寛容で慈悲深いお方だ。

本来ならばこの程度の問題はお前自身が解決しなければならないが、

わざわざ我が主がアドバイスして下さった。感謝しろ!

そして、我が主に手を煩わせるな!いいな!」


「この程度のことも自分で処理できないとは、情けないですね......。

まあ、せいぜいドラゴン達の世話で汚名返上するくらい頑張りなさい......」


バロンはポケットから懐中時計を取り出して、見る。


「ふむ、今日はこの辺で......。もう時間だ。

後のことは、アプリを通して連絡しよう。

さっき、アプリで私と通信できるようにアップデートしておいた。

起きたら確認してくれ。まあ、こっちも忙しくてなかなか返信ができないかもしれないが......。

では良い一日を......」


バロンはそう言うと、指パッチンを行った。

 気がつくと、アレインは目が覚めていた。

窓を見ると、朝になっている。


「ああ、もう朝か......。あっという間だったな......」


ふと、ベッドから起き上がる時、胸元を見る。

首からひもの付いた鍵が見えた。


「夢の中でバロンにもらった鍵だ!本当にきれいだ。でも、本当に他の人には見えていないのかな?」


アレインは気になったので、ワザと鍵を首から下げたまま一階に降りて居間に向かった。

両親に鍵が見えるかどうか確認するためだ。

 両親は、いつも通りに朝食と仕事の準備をしていた。


「おはよう!」


アレインは自分の方を向いた、両親の反応を見る。


「ん、おはよう」


「あら、おはよう!アレイン」


二人ともいつもと変わらない返事をした。

もし、アレインが今まで見たことのない鍵を首からぶら下げていたら、何らかの反応を示すはずだ。

だが、何も言ってこない。


バロンの言う通り、自分にしか見えない鍵であることははっきりした。

感心してボッーと立っているアレインに向かって母親が不思議そうに言った。


「どうしたの?アレイン?」


ビクッとしながらも慌てて返事をする。


「いいや、ちょっと考え事を......」


「......?まあ、いいわ。さっさとご飯食べちゃいなさい!」


「は、は~い!」


その後、いつも通りに学校に通った。


 二日後。休みの日、アレインは自分の部屋の机に大量の本を山のように積んでうなだれていた。


「......どうしよう。本当にまずい!」


この二日間、バロンに言われた通りにアレインは、色んな名前をドラゴン達に付けようとした。

しかし、七匹全員がアレインの提案した名前に対して首を横に振り、拒否したのである。


ジョン、スティーブン、アラン、ケイティ、

ロンなど様々な名前を言ってみるが、どれもだめだった。

何か一つぐらいはと思っていたが、全く受け入れようともしない。


同時にあることに気が付く。バロンの言っていた通りに、

段々と自分の言うことに聞かなくなってきたのである。

 今朝だって、餌を食べさせるのに一苦労であった。

せっかく出しても、好き勝手に行動するのでなかなか指定した時間に食べようとしなかった。

各々が、自分の好きな時間に食べていた。


「......本当にまずい。早く名前を付けないと......」


 段々と余裕が無くなっていく。アレインは顔を上に向けて、視線を天井に動かしボッーとする。

もはや、現実逃避に入ってしまった。


「はぁ~、こんなことになるなんて......」


不注意になっていたのか、机の上の山積みになっている本に腕がぶつかり、本が崩れ落ちてしまった。


「あわわわ!」


何とか本を元の戻そうとするが時すでに遅かった。床一面には本が散乱していたのである。

慌てて本を拾い集めるアレイン。

その中の一冊で、本の見開きページがアレインの目に留まる。


「......オリンポスの七天使?」


このページには少ししか書かれていなかったので以前読んだ時には、

アレインは気にも留めずに読み飛ばしていた。


「オリンポスの七天使って何だろう?」


他の本でも探して読んだが、該当する記述はなかった。

そのため、インターネットで調べた。


「へぇ~、グリモワールの奴か......。ふ~ん」


 この時、アレインにある考えが浮かんだ。


「......これらの名前なら大丈夫かな?試してみる価値はありそうだ!」


アレインは、クローゼット内に隠してある七匹のドラゴン達を出すと、

彼らを自分の前に来るように移動させて、名前が気にいるかどうか確かめる。


「まず、茶色のドラゴンの君。君の名前は、アラトロンだ!どうかな?」


すると、気に行ったのか首を縦に振り、すんなりと受け入れたのである。


「良かった。受け入れてくれて......。えっと、次は青色の君で。名前は......オフィエル」


こちらも気に行ったのか、首を縦に振り、喜んで受け入れる。


「よし!この調子で次々と行こう!」


残りのドラゴン達にも名前を付けていく。

「黄色の君は、フルだ!次に白色の君は、オクで、緑色の君はベトール」


ここまでは順調であった。

しかし、いつもケンカばかりしている赤色と黒色のドラゴン達が名前で取り合いを始めたのである。


「赤色の君はファレグだ!えっ?黒色の君もファレグがいいって?君はハギトだ!それで我慢しろ!」


少し、二匹のドラゴンが再び喧嘩して噛みあいになったが、

アレインが怒ったことで何とか止めさせた。

 結局、黒色のドラゴンが妥協してハギトを受け入れた。

赤色のドラゴンは鼻歌を歌いながら、嬉しそうに名前を受け入れる。

こうして七匹全員の名付けは終わった。


「はぁ~、ようやく終わった......」


ホッとしたのか、アレインはベッドにダイブして横たわった。

 その時、ドラゴン達が肌の色と同じ色で光りだしたのである。

同時に彼らの足元に魔法陣のような物も出現した。


「な、何だ?」


時間にしては数分足らずであったが、アレインはあっけにとられてしまった。

ビックリしていると今度はスマートフォンから着信音が鳴った。

何事かと思い、画面をのぞく。


 そこには、七匹のドラゴン達全員の姿と名前が表示されていた。


「こ、これは!?」


驚いているアレインをよそに音声が流れる。


「名前の登録が完了しました。これより、七匹のドラゴン達の体調や能力、

契約者との絆について数値として表示され、確認することが可能となります」


アレインは画面をスクロールさせて下の方を見る。

デフォルト化したドラゴン達のアイコンと名前の下に、能力や絆などの項目が確かにあった。

今のところ低い数値が表示されている。

アレインが感心して見ていると、ドラゴン達が大人しく画面をのぞき込んでいた。


「......あれ?さっきまで好き勝手にやっていたのに......。すいぶんと大人しくなってきたな」


 この時、アレインはバロンの言う通り、名前を付けたおかげだなと考えた。


「ともあれ、これで一安心だ......」

急にアレインに睡魔が襲ってくる。

今までの精神的な疲れが出たのか、そのままベッドの上で寝てしまったのである。

ドラゴン達がアレインの手をなめていたが、起きることはなかった。

ある日の午後の時間帯である。


           「第二話」終わり






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