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ドラゴン・ブリーダー・アプリ  作者: 鈴之上 太助
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第一話「謎の紳士と謎の卵」

第一話「謎の紳士と謎の卵」


 朝、小鳥の鳴き声と共に十一歳の少年であるアレインは目を覚ました。窓から朝日が顔に照り付けて眩しい。白い肌がより一層、白さを増す。

青い目を細めて、眉毛をへの字にしながら、ベッドから立ち上がる。金髪が朝日に当たり、キラキラと輝く。

「......はぁ〜、もう朝か......」

 ため息を尽きながら、目覚まし時計を見る。

時計は、午前六時四十分を指していた。

同時に、アラーム音が室内に鳴り響く。寝起きで頭があまり働いていない状態で乱暴に目覚まし時計のスイッチを押して止める。

そして、タンスの中から服を取り出して、着替えようとした時、下の階段から声が聞こえた。

「アレイン?起きているの?朝食の用意が出来ているから早く降りてきなさい」

どうやら、アレインの母親が起こしにきたらしい。

アレインは着替えながら、「今、行く」と言った。

着替えが完了すると、ドタドタと音を立てて、一階に降りる。

 居間では、アレインの両親がテーブルに朝食を並べて、椅子に座っていた。

「おはよう!」

アレインは両親にあいさつする。

父親は、スマートフォンを見ながら操作していた。どうやら、仕事をしているらしい。

母親も朝食を作りながら自身の仕事の準備をしていた。

「おはよう」

「ああ、おはよう」

二人とも、返事をすぐに返すが、なんだか素っ気ない。

アレインは、「しょうがない」と思いつつも少し悲しい気分になる。

そんなアレインに気持ちをよそに、母親が言う。

「さっさとご飯食べなさい。こっちも時間がないから」

「......うん」

アレインはテーブルに向かい、自分の椅子に座る。

テーブルには、パンとスープとサラダが用意されていた。スプーンを手の取り、スープを飲み始める。同時に、母親がベーコンエッグの乗った皿を持ってくる。

「はい、出来立てだから気を付けてね」

「うん、ありがとう」

アレインはお皿を受け取る。

「はい、あなた」

「うん、ありかとう」

行儀が悪いが、スマートフォンを見ている状態で受け取る。

 アレインは黙って食事を取っていた。ふと、壁に貼られているホワイトボードを見る。

そこには今日一日の家族三人の予定が書かれていた。

「父さんと母さんは、今日も帰って来るのが午後九時で遅いんだね......」

なんとなく、アレインは両親に聞く。

「......ああ、今月は仕事が忙しくて残業なんだ」

「こっちも仕事が立て続けに入り込んでなかなか処理が出来ないの......。でも、これが終われば有給休暇も取れるし、残業もしなくて済むわ。ゴメンね、アレイン」

「......大丈夫、こっちは平気だから」

笑いながらアレインは答えるが、内心では「寂しい」という感情であった。

そういったやり取りをしているうちに、時刻は午前八時を迎えた。一家は慌てて家を出る準備を始める。

「全員、忘れ物はない?ちゃんと確認してね」

母親が他の二人に言う。

「分かった」

「もう、確認したから大丈夫」

家の戸締りや火の始末などを確認すると、三人はそれぞれ職場と学校に向かった。

アレインは、ヘルメットを被り自転車に乗る。

 イギリスの南部であるマンチェスターの家のある住宅街から道路に出て、学校に行く。十字路を抜けて、信号を渡り、真っ直ぐの道を進んで行く。十分後、目の前に学校が見えた。外見は古いイングランドのゴシック建築を思わせる建物だ。勿論、学校の中心から上の部分には巨大な時計がある。

 学校の正門をくぐると、アレインは駐輪場に向かった。そこに自転車を止めるとヘルメットを脱ぎ、教室を目指す。

 教室に入ると何人かのクラスメートが、既に着席して、友達同士でおしゃべりなどをしていた。その中で一番前の席で一人の女の子が座っていた。彼女の名前はエレノア・スミス。

髪の毛の色が灰色で、ショートヘアである。目の色は黄色のおとなしそうな雰囲気を身に纏っている。外見は申し分ないほどの美少女であるが、一つ性格で問題がある。

それは、ファンタジーやオカルト好きでいわゆる不思議ちゃんであった。

その為か、クラスメートから煙たがられてクラスの中で浮いた存在に。

しかし、当の本人はと言うとあまり気にしていない様子であった。元々口数が少ないのもあってあまり友達とも話したがらないのもあるが......。

アレインは彼女の後姿を見ながら、あることを思っていた。

実は彼は、エレノアと友達になりたいのだ。

しかし、気が弱いのとクラスの中であまり浮いた存在になるのが怖いので声を掛けづらい。

アレインの気持ちは少しモヤモヤしていた。

 アレインがあれこれと考えている間にも、時間が過ぎていき、続々とクラスには生徒が入っていった。

その中にアレインの仲の良い友人もいる。

黒人のアレックスだ。短い坊主頭で背がアレインよりも高い。

「よう、おはよう」

「ああ、アレックス。おはよう」

「なあ、昨日のyoutobeのあれ見た?」

「あれって何?」

アレインが首を傾げながら聞く。

「おいおい!忘れていたのかよ。コメディアンのフロック・アトランティスの生放送があっただろう?」

「ああ、そうだったね。忘れていたよ」

「ったく、facenoteも使っていなかったし......。昨日は何していたんだよ」

「いや、スマホでゲームしていたから忘れていた。あとyoutobeも使っていたけど、音楽聞いただけだったよ」

「ハハハ、しっかりしろよ!」

二人がたわいのない会話をしていると、彼らの後ろから声がかかる。

「へぇー、あんな面白くないコメディアンを見ていたんだ。趣味悪いー」

二人は後ろを振り返る。

そこにはクラスカーストの上位にいる女子グループたちであった。特にその中で取り巻き立ちを従えて君臨している女の子がいた。彼女の名は、ロザリア・アンダーソン。赤毛のツインテールで目の色が赤い。加えて、この学校内でも一位、二位を争うほどの美人である。しかし、性格はあまりよくはなく、何かとアレインに対してイチャモンを付けては、いじめる。正直、アレインにとっては苦手な存在である。一緒に話していたアレックスは余計なことに巻き込まれたくないのか、そそくさと離れる。

「本当、気持ち悪い。あんなカエルみたいな鳴き声しながら変なことをするコメディアンを見ているなんて......。あんたの感性疑うわ。ああ、そうか。あんたみたいな低レベルの人間にはお似合いか......」

嫌味な笑い方をロザリアはする。正直、アレインは激怒していた。拳を握りしめて、机を叩きたくなる。だが、問題を起こしたくないのと、女性に暴力を振りたくなかったため唇を?んで、怒りを抑えた。

 アレインがロザリアのグループにいじめられている時、クラスカーストの上位にいる女の子が教室に入ってきた。彼女の名前はシャーロット・スペンサー。金髪碧眼のポニーテールで美少女である。眠たそうな目を擦り、大きくあくびをしている。

「ふぁ〜......。うん?」

寝ぼけた状態で、アレインたちの方を見る。

シャーロットは特にロザリア達に向かって、何もしてこなかったが、少し不愉快そうな表情になった。

バツが悪かったのか、ロザリアはアレインの方を見て睨むと自分の席に戻っていった。

アレインは少し、ホッとする。お礼を言おうとしたが、その前にシャーロットは自分の席に座っていた。しかも、鼻歌を歌いながら、窓の方を向いて、景色を見ていた。

まるでさっきまでのことなど忘れているかのようであった。

 アレインは、結果的には助かったが、シャーロットは自分を助けたくて行動したわけではないと悟った。

 数分後、始業時間のチャイムと共に教室に担任の先生が入って来る。

美しくて長い金髪を後ろに一つにまとめて、長いスカートと清楚な服を身に纏っている。

教壇に着くと、透き通るような翡翠色の目で生徒たちを見た。

「おはようございます!」

美しい顔立ちの女性で生徒に向かって挨拶する。彼女の名前は、リリアンヌ。今年からこの学校に入ってきた先生だ。

年は若く、まだ二十五歳。だが、実年齢よりも若く見えるため高校生ぐらいにしか見えない。よって、先生というよりも少し年上のお姉ちゃんの感覚に近い。

そのためか、生徒の多くはリリアンヌ先生をしたっている。特に、男子たちには。

女子たちの一部は快く思っていない者もいるが、大半は優しくて落ち着きのある先生の雰囲気によって心を許している。

アレインもこの先生が好きだ。この先生がこのクラスにやって来てから雰囲気がだいぶ良くなったからだ。まあ、ロザリアのいじめについては気が付いていないようだが......。

一時限目の鐘が鳴り響く。

アレインを含めた生徒たちは教科書を取り出して、授業を受ける体勢に入った。

こうしてアレインのいつも通りの一日が始まった。

 一時限目から四時限目が過ぎて、お昼になった。アレインは昼食を食べるために学校にあるカフェテリアに向かう。途中で友達のアレックスと合流して一緒に昼食を取った。

その後、教室に戻り、午後の授業が始まった。

算数と理科であった。午後三時頃、ようやく今日一日の授業が終わった。クラブに入っている者は、そのままクラブ活動であるが、アレインは入っていないのでそのまま帰宅する。

 帰るために、机の上でリュックサックに教科書やノートを入れる。そして、ヘルメットを被り、教室から出ようとした時、またロザリアがアレインに突っかかって来た。

「あんたって、本当に何にもないつまらない奴ね。なんかやりたいことないの?ほかのみんなはクラブ活動やらで色々やっているのに......。まあ、せいぜいクソみたいな人生で孤独のまま進んでいけば?」

アレインは何も答えず無視して、教室から逃げていった。何も聞きたくなかったのか両手で耳を塞いでいた。表情は悲しく今にも泣きだそうである。ロザリアは無表情で何とも言えない雰囲気を醸し出していた。ふと、何かの視線を感じて、その方向を見る。視線の先には本を読んでいるエレノアがいた。

どうやら、二人の様子が気になったのか、本を読みながら横目で見ていたらしい。

ロザリアはぶっきらぼうにエレノアに言う。

「何か文句でもあるの?」

やや、キツイ口調であった。

「......別に」

エレノアの方は、無表情で我関せずといった様子であった。

ロザリアはそれ以上何も言わずに、教室を後にした。エレノアは、そのまま読書を続ける。

一方、アレインは、駐輪場に止めてあった自転車のロックを解除した。そして、自転車に乗って自宅へと帰っていく。

まだ、ロザリアに言われたことに対して引きずっているのか、悲しい表情のままであった。

 学校を出て、広い道路の横にある自転車レーンを進んで行く。途中、黒いロールスロイスの車が横を通り、アレインの自転車を追い越していく。乗っていたのはシャーロットであった。彼女は、いわゆるイギリス貴族であり、特に上級階級であった。しかし、本人はその意識があるのかないのか。片手でスマホをいじっているばかりであった。

 しばらくして、アレインに自宅に着いた。

両親は共働きなので、当然のように家には鍵がかかっている。いつも通りとはいえ、少し寂しさを覚えつつも、ドアノブの鍵穴に鍵を入れてドアを開ける。家の中はがらんとしており、誰もいない。アレインはため息を尽きながら、家の中に入る。同時に、治安が悪くなっているので、両親から自転車を盗まれないように、家の中に入れておくように言われている。なので、自転車も家の中に持っていく。自転車を置き、ヘルメットを脱ぐと洗面所に向かう。手を洗い、うがいをすると、真っ先に自分の部屋がある二階に登っていた。

 部屋に入ると、スマホを取り出して、気になる動画を見て、時間をつぶし始めた。

むろん、学校から出された宿題も同時並行でやっていく。

そんな風にしていると、時刻は午後七時になっていた。辺りが暗くなっていたのに気が付き、一階に降りる。台所に向かうと冷蔵庫から冷凍食品を取り出して、電子レンジで解凍する。解凍が終わるまでの間、スマホで音楽を聴いて時間を潰した。丁度、一曲分は聴くことが出来る。

 チンと終了の音が鳴ると、スマホをポケットの中に入れて、料理を取り出す。テーブルのある居間に持っていくと、料理を食べて夕食を済ませた。再び部屋に戻り、動画を見る。

かなり夢中になっていると、ドアが開く音が聞こえた。アレインは、時計を見る。時刻は午後九時を回っていた。

アレインは、一階に降りて、両親を出迎える。

「お帰り!今日はね......」

話をしようとしたアレインを疲れ切った両親の言葉が遮った。

「ごめんね。アレイン。ちょっと、疲れているから話はまた今度ね」

「......う、うん」

しょんぼりとした様子で返事をする。

一方、両親はアレインの気持ちに気が付く余裕などはなく、一も草に家に入ると、夕食をさっさと済ませしまった。食休みを終えるや否や、シャワーを浴びて、直ぐに寝てしまった。アレインも両親が風呂から出ると、その後に入ってシャワーを浴びた。風呂から出てきた頃には午後十時になっていた。

 その後は、自分の部屋に戻り、動画を見て、午後十一時を回ったところに眠りに入った。ベッドで横になりながら仰向けで天井を見る。

「今日も何の変哲もない一日だったな。明日もくだらなくてつまらない一日がまだ始まるのか......。せめて、夢の中だけでも楽しい思いをしたいな......」

独り言のように呟きながら、深い眠りの中に落ちていった。

 夢の中ではアレインは、剣と魔法が存在するファンタジーの中世ヨーロッパのような場所にいて、自分が想像で考えていた仲間たちと共に冒険をしていた。次々と出てくる蛇やオークなどのモンスターを剣でばっさばっさと切り倒していく。勿論、アレインは王道の騎士の恰好である。いい気分になりながら、現実のうっぷん晴らしをしていた。

「よーし!もっと敵を倒していくぞ!」

最早、敵なしと言った状態であった。

「アレイン、君は最強だ!」

仲間の一人が言う。恰好からして戦士のようだ。

「えへへへ!そうかな?」

現実の昼間とは大違いである。

 そんな彼らが進んで行くと、突如として巨大な怪物が出現した。同時に辺りが暗くなる。

「おっ!強敵の出現か?」

アレインを含めた仲間たちが身構える。

怪物は、巨大な鎌を持っており、頭は牛で体は人間のようであった。まるでミノタウロスである。

「なんだ、ミノタウロスか......。こんな雑魚敵は楽勝だ!」

意気揚々と仲間と共に敵に突っ込んで行く。

だが、敵の様子がおかしい。どこかニタニタしていて、全く動こうとはしない。

「変だな?なぜ、こっちに攻撃してこないのだろう?」

その疑問はすぐに解消される。

仲間である戦士が敵に切りかかろうとした時であった。それまで動かなかった敵が急に戦士に攻撃してきたのである。それだけならまだ良かったのだが、問題は一撃で戦士がやられてしまったことであった。

「......えっ?」

あまりのことに全員が言葉を失う。やられてしまった戦士でさえ困惑している。

「おい、これはまずいぞ!」

他の仲間にも緊張が走る。アレインは進むのを止めて、防御の体制を取る。

しかし、もう遅かった。敵は次々と仲間を倒していく。唯一、残った最後の仲間の騎士が

敵を真っ二つに切り裂いたが、中からとんでもないものが出てきたのである。

それは、顔のない全身緑色のゴム人間で蝙蝠のような羽と触手が伸びていたのである。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

まるでこの世の者とは思えない姿と這いよるような悪寒がアレインを襲った。一時的にではあるが正気を失い、狂気が彼の精神を支配する。だが、数分足らずで元の状態に戻った。

アレインは夢の中であったが本能的に逃げ始めたのである。

先ほどまでの楽しい夢は一変して悪夢へとなってしまったのであった。

「早く、あいつに追いつかれる前に!」

 その時、追い打ちをかけるように辺りが揺れ始めた。地面は陥没して奈落の底に落ちていく。アレインは逃げるのに無我夢中であった。後ろから、緑色の化け物が触手を伸ばしてアレインを捕まえようとする。

しかし、アレインも必死だったのか、緑色の化け物は寸でのところで躱されて捉えることが出来ない。

緑色の化け物はますます速度を上げて、アレインを捕まえるのに執着するようになる。

こうした、いたちごっこをして、五分後。

 周りの空間もすっかりと歪み、最早地獄であった。アレインから後ろの地面はなく、全て底の見えない真っ暗闇であった。緑色の化け物は、崩壊して落ちていく地面の破片をジャンプしながら進んで行く。更に悪いことにアレインと緑色の化け物の距離が徐々に縮んでいた。追いつかれるのは時間の問題であった。最早、これまでか。アレインが諦めそうになった時、目の前に不自然な程大きな城が見えてきたのである。中世ヨーロッパのゴシック建築で左右対称であった。

「とにかく、この城の中に入って身を隠そう」

アレインは追い込まれ過ぎて正常な判断が出来ない状態であった。

城の城門前に来ると城と大地を繋ぐ跳ね橋が下がっており、通行可能であった。

アレインは跳ね橋に乗るとそのまま、城門に向かう。緑色の化け物もその後を追うが、見えない壁によって進行を阻まれた。

 一方、アレインは緑色の化け物との距離を放していき、無事に跳ね橋を渡り切ることが出来た。同時にそれまで閉まっていた城門が大きな音と共に開く。

アレインは城門をくぐり抜けて、更に奥へと入って行く。

 その頃、緑色の化け物は、なかなか入れずに苛立ちを隠せなくなった。触手を伸ばしてみるも、見えない壁によってはじかれるだけである。遂に痺れを切らしたのか、無理矢理体当たりをして、跳ね橋を渡ろうとした。

だが、突然跳ね橋が引き上げられ始めたのである。更に城門も閉じ始める。

焦った緑色の化け物は、何かを唱えると自身の触手をドリルのように形状を変化させた。

そして、そのままドリルを回転させて突進する。見えない壁はいとも容易く壊すことが出来た。しめたと思った緑色の化け物は、跳ね橋を急いで渡り、城門前に到着する。

このまま城門が閉まる前に侵入しようと考えていた。だが、閉まっていく城門の扉に触れた時であった。突如として自身の体が勢いよく燃え始めたのである。訳が分からずに悲鳴を上げる。

それでも、再生能力で体を元に戻そうとする。

しかし、体が再生することが出来ない。それどころか、触手は無くなり、ボロボロと体が砂のように崩れていく。

もはや、緑色の化け物に成すすべもなく、塵となり風と共に消え去った。

 一方、アレインは城の中庭にまで逃げ込んでいた。

「はぁ〜、助かった。......で、ここからどうすればいいのだろうか?」

困惑しているアレインがその場で立ち尽くしていると、体が自分の意志とは関係なしに動き出したのである。

「えっ?」

まるで誰かに操られているように。

不気味さと恐怖の中、中庭から主塔に移動する。体は一定の速度で歩いている。

しかし、自身の意思とは関係なし動く。何度も、止まろとするが全くと言っていいほど効果がない。

「一体何が起こっているの?」

主塔の中に入ると豪華なカーペットが敷いてあり、壁には古い時代の絵画が飾られていた。天井にはシャンデリアが吊るされている。

「うわぁ、凄い!」

まるで宮殿に来たかのようだ。

本当はもっと中を見て回りたかったが、体は螺旋階段の方に向かう。螺旋階段は、とても長くどこまでも上に続いているかのように錯覚してしまう。

こんなに階段を上ったら疲れていただろう。

そう考えるが、足は動きを止めるどころか更に速さが増すばかりである。

「どこに向かっているのだろう?」

 段々と恐怖よりも好奇心の方が強くなっていく。アレインは、三十分以上螺旋階段を登った。

途中で絵画が飾られていたが、少年が鷹と話していたり、王冠を被った青年が苦悩していたりと物語になっていたことが分かる。

しかし、なぜこんな絵画があるのか分からなかった。他にも、真っ黒で化け物が描かれている不気味な絵があるかと思えは、可愛い女の子も絵があり、かなりチクハグであった。

そうこうしていると、最上階にたどり着いた。

 そこは、廊下があるだけで部屋などはなかった。廊下の端に質素であり余計な物などなく、小さなテーブルの上に花瓶やメモ帳などが置いてあるだけであった。廊下を進んで行くと、一番奥に扉があり、この階唯一の部屋である。

 アレインは、ようやく自身の体が動くのを止めて自身の意思で動かせるようになったのに気が付く。このまま、引き返そうと思ったが、この部屋には何があるのかという好奇心があり、中に入ることを決めた。扉に手を掛けようとした時、扉がひとりでに動き、開いたのである。

 部屋の中は大きく、ダンスホールほどであった。床には西洋の羅針盤が描かれてあり、天井部分にも、太陽と月の軌道が描かれてある。

同時に太陽と月の満ち欠けもあり、皆既日食と皆既月食が起きるまでの一連の流れであった。しかし中は簡素であり、ほとんど何もない状態であった。あるとすれば机と椅子で誰かが座っている。そして、座っている者を守るかのように両脇に誰かが立っていた。

「誰がいるのだろう?」

アレインは恐る恐る、彼らに近づく。

机の上で腕を組み、椅子に座っているのはシルクハットを被った紳士であった。服装は十九世紀の紳士が着る服でフロックコートを着ていた。

外見は二十代から三十代の男性である。しかし、顔は仮面を被っているので良く分からない。仮面から二つの目がアレインを見つめていたが、爬虫類のような目であり、人間ではない。アレインも確信はないが直感でそう思った。

 そして、人外の紳士を守っている両脇の二人は双子であった。双子は女の子で年は、アレインと同じ十一歳から十二歳と言ったところであった。

服装は、十七世紀から十八世紀頃のイギリス軍のような赤い軍服を着ており、頭にピッケルハウベ(槍付きヘルメット)を被っていた。但し、ヘルメットはそれぞれ双子を区別するためなのか、黒い太陽と黒い三日月の違う刻印がされていた。さらに腰には拳銃の代わりにレイピアを装着していた。

 髪の毛は黄金でそれぞれ違う髪型である。目の色も双子はオッドアイであったが、ヘルメットに黒い太陽がある方は、左目が赤で右目が黄色。

黒い三日月の方は左目が黄色で右目が赤であった。まるで左右対称である。

 アレインが彼らを見ながら、状況を理解しようとしていると仮面を被った紳士はアレインに向かって言った。

「ようこそ!我が城へ、幼き客人」

低音のハスキーボイスであった。紳士は手で紳士の座っている机の前の椅子を指した。

アレインは、座っていいと思い、そのまま椅子に座ろうとした。

だが、オッドアイの双子は紳士のそばを離れると、アレインに近づき、急に彼の頬を叩いた。訳が分からず、頬を手で押さえてポカーンとしているアレイン。そんな彼をよそにアレインに向かって双子の片割れが怒った。

「我が主の許可を出す前に椅子に座るとは何事だ!礼儀がなっていないぞ!無礼者!」

そして、アレインを指さしながら顔を紳士に向けて抗議した。

「我が主!こんな間抜け面した奴にアレは務まりません。少なくとも、もっと別の優れた人間に任せるべきです!」

「彼は何の能力も持っていない......。計画が破綻する恐れが......」

双子のもう一人の方も援護する。

だが、双子の抗議に対して、紳士は首を横に振りながら冷静に反論する。

「彼にしか出来ない」

この一言に双子は黙ってしまった。

しかし、納得していなかったのか、少しムスッとしている。

 アレインは一体何の話をしているのかさっぱり分からず、首を傾げるばかりであった。

そんなアレインの戸惑いに気が付いたのか、紳士は彼の方を見て言う。

「済まない。自己紹介がまだだったね。私の名前はバロンだ。よろしく。ちなみに君の頬を殴った双子はスコルとハティという名前だ。

ヘルメットに黒い太陽が描かれているのがスコル。黒い三日月の方がハティだ。覚えていくように」

続けて、彼はこの世界の住人であるとアレインに伝える。

「ここは、夢と現実の狭間。意識と無意識の間。この世であったこの世ではない場所だ」

アレインはバロンの説明について良く分かっていなかったのか、眉間にしわを寄せて難しい顔をした。

「夢と現実?無意識?」

バロンは諭すようにアレインに言う。

「まあ、よく分かっていないみたいだが、要するにここは現実ではないということだ。それはさておき君をここに連れてきたのは他でもない。君にある事を頼みたい」

「......あること?」

「うむ、突然だがドラゴンの卵を育ててもらいたい」

アレインの頭は真っ白になる。

「ついでに言うと、七匹も!」

アレインは椅子に座ったままフリーズしてしまった。再び、ポカーンとしているとスコルとハティはバロンに向かって言った。

「ハハハ、我が主!こいつを見てくださいよ!こんな間抜け面した奴では無理です。できっこない!」

「......そうですよ。絶対に不可能です」

バロンは無言のまま、上着のポケットからスマートフォンを取り出した。

「アレイン、君のスマートフォンにドラゴンを育てる方法や必要な買い物が出来るアプリケーションをダウンロードしている。ここから必要なものの購入や分からないことがあったら有効に使うといい。必ず役に立つ」

アレインは自分の持っているスマートフォンを見る。画面には今まで見たことがないドラゴンをデフォルト化したアプリがダウンロードされ始めていた。

「卵の方は後日、特別便で君の元へと届く。安心するといい。こちらでも出来るだけのサポートはする。よろしく頼むよ」

そう言って、バロンは腕を上げて指を鳴らすような動作に入る。

アレインは、「まだ、引き受けるとは言っていない」と言おうとした。だが、バロンはアレインの考えを察したのか、彼の言葉を遮って、

「君にしか出来ない。適任者は君だけだ。ああ、最後に付け加えるがくれぐれも大人には気づかれないように。なるべくね。では、目が覚める頃だろう。良い一日を!」

バロンは、パッチンと指を鳴らした。

 気がつくとアレインはベッドで目を覚ましていた。上半身を起こして窓を見る。

外はまだ薄暗く、少し赤みがかかっている。

夜明け前といったところだ。

アレインは頭をかきながら思った。

「アレは夢だったのだろうか?それにしてもやけに鮮明に覚えていたし、リアルだったな......」

狐に化かされたような気持ちでスマートフォンを見る。すると、画面には夢の中で見たアプリがダウンロードされていた。

同時に音声が流れた。

「アプリのダウンロードが完了致しました」

静かな部屋に機械的な女性の声が響く。

「えっ?本当にダウンロードされている......アレは夢じゃなかったのかな?」

アレインは急に怖くなり、画面にタッチしてアンインストールをする。

そして、ベッドから立ち上がると、早い時間ではあったが起きることにした。

 その日から数日の間、アレインは何をしたのかよく覚えていない。ロザリアに何か言われたことや学校の授業の内容までも頭に入ってこなかった。どこか上の空で、全くといっていいほどボッーとしていたのである。

 そんな風に平日を過ごして、休日に入った。

アレインは、休日の午前中に新作のゲームをしていると、ドアをノックする音が聞こえた。

何事かと思い、ゲームを途中で止めて、ドアを開ける。

「どうしたの?」

ドアをノックしていたのは母親であった。

「あなたに小包が届いていたのだけど......」

母親は心配そうにする。

「何だろう?......まさか!?」

アレインは急いで一階に降りる。玄関には見慣れない小包が届いていた。

小包にはフクロウ便と名前が書かれており、アレインの名前とこの家の住所が記載されている。だが、差出人の名前や住所はどこにも書かれていなかった。

 アレインの父親と母親は、少し気味悪がっていて、警察に届けた方がいいのではないかとアレインに向かって話していた。

しかし、アレインの方は本能的に夢の中で見たドラゴンの卵だと思った。

そこで両親に、「これは自分が頼んでいた本である」と偽って言った。

両親は、「いつ頼んだの?」や「代金はもう払ったの?」と質問をする。

アレインは何とか誤魔化しつつ、

「自分で色々と勝手にやった。心配かけてごめんなさい」

父親は心配そうな顔で、アレインに向かって諭すように言う。

「今回は変に料金がかかったり、危ないものではないと思うけど、世の中には危ないものを送りつけて、お金をだまし取るものもある。次からは何か買うときはちゃんと相談すること。いいね!」

「ごめんなさい」

アレインは頷くように小さな声で言った。

その後、両親は小包について何も言わなかった。アレインはそのまま小包を抱えて、二階の自分の部屋に上がる。

部屋に入ると、アレインはドアを閉めて、ロックをかけた。

窓もカーテンを閉める。焦る気持ちを抑えて、小包を開けた。小包の中身は七つの小さな卵と杖のような物。そして、なぜか自動拳銃と古い紙が入っていた。

「......なんで拳銃があるの?」

疑問に思いつつ、夢の中で言っていた卵があり、夢ではないということが分かった。

アレインは紙に手を伸ばして書かれている内容に目を通す。紙には以下のことが書かれていた。

「次の満月の夜に七つのドラゴンの卵を月光に当たるようにして、真の言葉を唱えること。必ず、午前零時にはふ化出来るように。ちなみに、アレインのスマートフォンからアプリがアンインストールされていたのでこちらで再度インストールし直した。次から気を付けるように」

アレインは自分のスマホを見る。

消したはずのドラゴンのアプリが再び、インストールされていた。

「......これは絶対にやれという奴だ」

もう一度、アプリをアンインストールしたら何されるか分かったものではない。アレインは大人しく、アプリをそのままにしておいた。

彼は、スマホで次の満月が何時になるのか検索する。すると、明日が満月であることが分かった。

「明日か......」

そのまま、ドラゴンのアプリにタッチして中身を見る。中身は、ゲームのようで様々なことが表示されていた。その中に卵のふ化について書かれている項目を発見する。

アレインはその項目をタッチして詳しく見る。

紙に書かれている通り、(午前零時にドラゴンの卵を月光に当てなくてはならない)とあった。

だが、同時に「真の言葉」を掛けなければならないとある。

「そう言えば、紙にも書いてあったけど「真の言葉」って何?」

疑問に思いつつ、さらにスクロールしてみる。

「真の言葉」について

「真の言葉」がなければドラゴンは卵のままでふ化することが出来ない。とても重要なものだ。言葉は以下の通りである。

(月光よ。月光よ。アトラ・ハシースの真名において、淡水と海水の力を受け継ぐ者達に生と魔力を与えよ)

「......何だこれ?」

どう表現していいやら分からない複雑な心境にアレインはなってしまった。

しかし、冷静になるともしやらなかったらバロンは怒るかもしれない。潜在的に恐怖がアレインの中から沸き上がった。

「......少し笑いそうになったけど、本気でやらないといけない」

アレインは取りあえず、部屋の中にあったタオルを手に取ると、窓際に畳んで置いた。

その上に卵を割れないように慎重にゆっくりと置く。

「後は明日、満月の夜に晴れることを祈ることと「真の言葉」を忘れずに唱える事か......」

なんとなく不安ではあったが、少し面白いことになりそうだと考えになってくる。

「まあ、何とかなるだろう」

こうして一日を過ごした。

 次の日の午後十一時頃。アレインは、部屋を暗くして窓際に置いた七つの卵を眺めていた。天気は幸いにして晴天であり、雲一つない状態であった。

闇夜を黄色の満月が明るくする。

アレインは、内心半信半疑であった。

「本当にこの卵はドラゴンなのかな?それにちゃんとふ化するのか?」

そう考えているうちに時間は過ぎていく。

そして、とうとう午前零時になった。

卵は月光に当たっている。

「そういえば、「真の言葉」を忘れちゃいけない」

のどを鳴らして、調子を整えると「真の言葉」を唱えた。

「えっと......。月光よ。月光よ。アトラ・ハシースの真名において、淡水と海水の力を受け継ぐ者達に生と魔力を与えよ!」

詠唱を終えた途端、七つの卵らが青白く光り始めたのである。

「......えっ?」

さらに、数秒も経たないうちに卵が揺らぎ出した。正確には卵の殻にヒビが入り、殻の破片がポロポロと落ちていく。それまで微動だにしなかった卵が七つ同時に動き出したのである。アレインは反射的に後ずさりして、距離を置いた。

 一方、卵の方は激しく動き、上部分の殻が机の上に置いてあったタオルの上に落ちた。

次第に姿を現す。

蝙蝠のような羽に爬虫類のような目。ニュルリと長い舌を出して、かぎ爪を備えた四本の足で卵の殻から出る。

正真正銘のドラゴンであった。

「......えっ?本物!?」

目を丸くしながら恐る恐るアレインはドラゴンに近づく。ドラゴンたちは少しぐったりしていて、羊水に濡れていた。

「これ、大丈夫かな?」

目が完全に開いてはいなかったがドラゴンたちは各々動き出した。

「......次に何をすればいいかな?」

スマホを手に取り、スクロールして探す。

 項目の中にドラゴンの卵がふ化した後があった。そして、そこにはこう書かれていた。

[二週間以内に七匹のドラゴン達に名前を付けてください。後、非常に警戒心が強いのでドラゴン達に噛まれないようにご注意を]

「......名前が必要?しかも、七匹分」

スマホから視線をドラゴン達へと移す。

「これからどうなることやら......」

アレインは興味本位で一匹のドラゴンの口元に指を出してみる。

ドラゴンはスマホの情報通り、警戒してアレインの指を噛んだ。

「痛い!」

とっさに指を引っ込めた。

こうして、アレインのドラゴン育成が始まった。

             第一話 終わり






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