私の彼氏
月曜日の朝、晴海は学校に行くための朝の支度をうきうきしながらする。
総真に会えると思うだけで幸せだった。
学校に着き、教室に入ると、翔子が声をかけてきた。
「晴海、あんた昨日、例の公開告白の1年生と街で一緒に遊んでたっていう目撃証言を聞いたんだけど、マジ?」
「うん。昨日から付き合ってる」
晴海は照れながら言う。
「え!? 恋人同士になったってこと?」
翔子は驚いた表情で聞く。
「うん」
晴海は幸せそうに答える。
「へえーーー、おめでとう。あの超イケメンくんとねー。うらやましいなーこのー」
翔子は晴海をつつく。
「ありがとう」
晴海は満面の笑みを浮かべた。
昼休みに総真が晴海をお昼ご飯に誘いに来て、晴海は総真と一緒に教室の外に出るころには、クラス全員に晴海と総真が付き合っていることが知れ渡ることになった。
そして、放課後は部活をしたあと、2人で手をつなぎ家まで楽しく話しながら帰る。
家に帰ると、母親があわただしく声をかけてきた。
「ちょっと、晴海!今日、大量の服が届いたんだけど、あんたこれお金どうしたの?」
「あーーー」
晴海は言葉に詰まる。
「彼氏が買ってくれた」
迷ったが正直に言ってみる晴海。
「彼氏?あんた彼氏できたの?初耳なんだけど。何?会社勤めの人?」
「違うよ。同じ高校生」
「高校生にこんな高い服買えるわけないでしょ」
「彼、仕事してるから」
「高校生のバイトごときじゃ、こんなものは買えません」
「バイトじゃなくて、ちゃんとした仕事。パソコン関係の」
「高校生がそんな仕事できるわけないでしょ。高校にだって通わなきゃいけないのに」
母は全然信じていない様子で言う。
「パソコン関連の仕事だから、短時間でもかなり稼げるんだって」
「本当のことを言いなさい。この服のお金どうしたの?」
「だから!本当に彼氏が仕事しててかなり稼いでるから買ってもらったの!」
ひときわ大きな声を出す晴海。
「だったら、その彼氏、今度連れてきなさいよ」
「わかった。今度連れてくる」
「いつ連れてくるの?」
「明日、来れるかどうか聞いてみる」
晴海は自分の部屋に入る。
総真に明日、家に来てもらい親に彼氏として紹介してもいいかという内容のメールを晴海はすると、総真から、もちろんという返事のメールが来た。
そして晴海は自分の部屋を出る。
「明日、彼氏が家に来れるみたいだから、紹介する」
母はその返答が予想外だったようで、「本当にその人、高校生なの?」と困惑したような表情で言った。
翌日になり、昼休みに2人でお弁当を食べているときに総真に昨日のことを晴海は話す。
総真は笑う。
「まあ、一般的でないから、信じられないのも無理ないかな」
そして、部活が終わり、総真と一緒に晴海は母のいる家に帰る。
家に帰ると、母から連絡を受けたのか父も会社から帰っており、両親が臨戦態勢でスタンバイしていた。
母は総真を見て、まずそのルックスに圧倒されたようで、唖然としている。
総真は制服姿だが、名刺を出して挨拶をし、菓子折りを渡す。
そして、たわいない話をした後に仕事や収入の話を始める。
仕事について、ふつうのサラリーマンの父にも、専業主婦である母にも理解できるようなわかりやすい説明をしたことで、両親も感心し、晴海も改めて総真の仕事を理解した。
総真はプログラミングの技術が超一流であり、主にセキュリティ会社から引く手あまたで依頼を請け負っているというような感じだと晴海は理解した。
総真はパソコンを使って、難しそうな操作を実演したりすることで、何が何だかわからないが、とにかく物凄いことができるらしいということを両親や晴海に視覚的に感じさせた。
晴海は感心し、両親は態度が一気に変わって、歓迎ムードになる。
総真は帰り際に両親に丁寧にあいさつして、封筒を渡す。その封筒の中には両親2人ぶんの旅行券や交通費、一流の宿泊施設の券が入っていた。
そして総真は帰っていた。
年収ですでに総真に大きく負けている父は総真の部下になったように
「彼には精一杯尽くしなさい」
と言ってきた。
母親は晴海の部屋に入ってきて
「あんた、あんな凄い彼氏逃したら、宝くじ1等捨てるようなもんよ。彼の希望は最大限尊重しなさい。キスとかそれ以上のこともよ」
と言ってきた。
・・・母親が娘にそんなこと言うか。
晴海は笑いつつ
「わかってるよ」
と言う。
親と私は本当に似てるなと晴海は思うと同時に、総真と宝くじ1等を比べたんじゃ、宝くじ1等なんかゴミみたいなもんだよと晴海は思った。
総真が初めて両親と対面した次の日の朝に、晴海の携帯に総真からメールが届いており、メールの内容は、今日も家に行って、夕ご飯を作っていいか母親に聞いてほしいという文章だったので、晴海は母にそのことを伝える。
母親は大歓迎だと言った。
夕飯の材料は総真と一緒に買って帰るということを母親に伝え、晴海は家を出て、学校へ行く。
ふつうは恋人の親と会うのは緊張するから、できる限り避けたいと思うはずなんだけどな・・・
と晴海は思いつつも、完璧超人だからそんな抵抗はないのかと考える。
私はなるべく総真の両親には会いたくない。
総真が完璧超人なのだから、総真の両親も何かしら凄いに決まってる。
凄くなくても、あんなできた息子の彼女には、できた女性を求めるはずだ。
私が総真の両親と対面すれば、あまりに不釣り合いすぎて、何もできなさ過ぎて、失望されかねない。交際を反対されてもおかしくない。
できれば総真と結婚した後に会いたい。
学校でいつものように晴海は過ごす。
今週の土日は部活があるから、総真と丸1日の休日デートはできないなと晴海は思う。
・・・部活を辞めて、ずっと総真と過ごしたいな。
すると、部活の時間に顧問が部員に連絡事項として、今日から2カ月間、部活へは基本自由参加とすると伝えたのだ。
つまり、部活を休みたい場合は特に理由を伝えなくても、休んでいいということだ。
テニス部はそのような息抜きできるような期間も取り入れる、魅力ある部として、もっと人を集めたいというような理由を顧問は述べた。
・・・いや、テニス部は結構人気だし、人も十分いるよね?
晴海は疑問に思う。
しかし部長や部内で発言力の強い人たちが賛同しており、そのよう流れになった。
晴海は釈然としなかったが、これで総真と毎週、休日デートすることができると思い、嬉しかった。
学校の帰りに2人で寄り道したりして、その後、総真と一緒に晴海はスーパーに寄り、食材を買う。
家にどんな香辛料があるかなど晴海は料理をしないため知らなかったので、総真は必要なものを全て買っていく。
そして、ビニール袋が食材などで重くなりそうなので、小分けにして自分も持つと晴海は言ったが、総真は問題ないと言い、重そうなビニール袋を一人で持つ。
アミューズ施設で総真の上半身を見たとき、鍛えているのか、引き締まった体であったことを晴海は思い出す。
父親が帰ってきてもおかしくない時間に晴海と総真は家に帰る。
家には父も母もそろっていた。
総真は両親に挨拶したあと料理を一人で作ると言い、台所で父や母、晴海と楽しく会話しながら、腕を振るった。
出てきた料理はプロのシェフが作ったのかというほどのもので、両親も晴海も驚く。
そして4人で楽しく話しながら料理を食べた。
総真は完全に両親の信頼を勝ち得ていた。
総真が晴海の家で料理を作った翌日、木曜日に晴海は玄関から学校に行くため外へ出ると、総真がマンションの下で待っていることに気づいた。
これからは一緒に登校しようということになった。
晴海は総真と一緒にいられる時間が増え、本当に嬉しかった。
学校に2人で到着する。
もうすでに学校内では超イケメンに彼女ができたという噂が完全に広まっているようだ。
総真と付き合っていることで、やはりルックスの不釣り合いのせいか、心のない言葉も耳に入ることがある。
「彼氏の方マジでイケメンなのに、彼女・・・超ふつーじゃね?」
「あんなイケメンならいくらでも美人を彼女にできるのにな」
でも、そんな言葉を聞いても、晴海はどうでもいいと思えるくらい、総真と過ごすことで幸せを感じていた。