恋人関係
晴海と総真の友達関係は1日で終わり、2人は恋人関係となった。
晴海は総真と恋人となった日の夜、ベッドで悶えて転げまわった。
自分に起きていることが未だに信じられない。
明日は人生初のデートだ。
晴海は総真が自分のことを本当に好きだということを信じることに決めた。
総真のよく照れる顔や言葉、雰囲気などが演技には思えないからだ。
一緒に過ごしていると、相思相愛であるように本当に感じるからだ。
晴海は、あまりにもうれしくて、ベッドで転げまわる。
そして、幸せの気持ちのまま眠りにつく。
日曜日になり、初デート当日の朝、晴海は玄関で財布がバッグの中にあるのをしっかり確認してから外へ出た。
そして待ち合わせの場所に行くと、総真はすでに待っていた。
「おはよう、晴海さん」
総真は笑顔を浮かべている。
「おはよう、白石くん」
晴海も笑顔で歩いていく。
「名前で呼ぶって約束でしょ?」
総真は笑う。
「そうだったね・・・総真くん」
晴海は照れながら言う。
総真は満面の笑顔になる。
二人で並んで楽しくおしゃべりしながら歩き出す。
歩いていると、総真がいきなり手を握ってきたので、晴海は驚くとともに本当に嬉しくて、照れる。
2人とも照れながら手をつないで街を歩く。
総真は超イケメンなので、すれ違う女性のほとんどが総真に見入る。
フルーツドリンクバーが前方にあったので、そこに入ろうということになった。
晴海は財布があることを確認する。
「いつもお金を払ってもらうのも悪いし、今日は払うから」
「財布出したら怒るよって言ったでしょ。お金の心配はしなくていいよ」
総真は笑う。
「パソコンのお仕事って言ってたよね?」
「うん、プログラミングの仕事。セキュリティ関連の仕事なんだけどね」
「へえー、プログラミング・・・」
あまり馴染みのない言葉なので、晴海は言葉だけつぶやく。
「月100万くらい収入があるし、それに貯金だってかなりあるから、まったくお金は気にしなくていいよ」
総真は軽い口調で言う。
「100万!?」
晴海は驚く。
「そう、だから何か欲しいものがあったら遠慮なく言ってね」
晴海は首を大きく振る。
「いや、特に欲しいものなんてないよ」
ただでさえ自分と総真は、ルックス・スペックなどありとあらゆる点で不釣り合いなカップルのに、何かねだったりでもすれば、さらに自分が不釣り合いな存在となる気が晴海はした。
もう、総真が彼氏というだけで晴海は幸せでいっぱいなのだ。
フルーツドリンクバーに2人は入ると、日曜日だからかお客さんが多くいた。
お店には店内と外にテーブルと椅子があった。
総真は晴海に外の2人用の席で待っているように言い、晴海の飲みたいドリンクを聞き、注文して受け取るためにお客さんの列に並んだ。
総真に言われて座った晴海のテーブルは、店内のお客さんからも、外を歩いている人からもよく見える席だ。
晴海は外を行きかう人を見ながら、総真を待つ。
総真がフルーツドリンクを持って、こちらに向かってくるのが見える。
あれ?・・・。
晴海は総真がグラスを一つしか持っていないことに気づく。
そのグラスには晴海が頼んだマンゴージュースが入っている。
「総真くんのぶんは?」
晴海は総真が近くまで来たところで聞いてみる。
総真はにやりと不敵な笑みを浮かべ、マンゴージュースの入ったグラスをテーブルの中央に置き、席に着く。
そして、ストローを2本取り出し、一つのグラスに2本ともさし、ストローをひねる。
「やってみたかったんだー」
笑いながら総真は言う。
「・・・冗談でしょ?」
晴海はその光景を見て、つぶやく。
「本気」
総真は小さく笑い、晴海を見つめる。
バカップルの象徴の一つとして代表的なカップルストローをやろうとする総真に晴海は驚き、固まる。
そりゃ、私も中学時代は妄想したりしたけど・・・実際そんなことしてるカップルなんて見たことがない・・・。
晴海は困惑する。
しかも超イケメンと平凡な顔の自分が、こんな人目のつく場所で、そんなことをやろうというのだ。
でも・・・総真くんがドリンク代を出してくれてるし、それに不釣り合いなカップルである以上、総真くんのやりたいことは絶対に尊重したい・・・。
総真がストローを口にくわえる。
「晴海さん、早く」
若干赤面しながら催促する。
晴海は目をつぶり、ストローをくわえる。
マンゴージュースをストローで吸うが、晴海は恥ずかしすぎて、まったく味がわからない。
周りの人の声が聴こえる。
「ねえ、あれ見て・・・」
「うわー・・・本当にやっちゃう人いるんだ」
「ええーーーやばいね」
「てか、彼氏の人めちゃくちゃカッコよくない?」
「彼女の人うらやましいなー」
晴海は恥ずかしすぎて死にそうだった。
すると前から総真の声が聴こえた。
「晴海さん、目を開けて」
晴海はストローから口をはずし、目を開ける。
「目をつぶって飲まないでよ。俺だけ恥ずかしいじゃん」
総真は赤面した顔で言う。
恥ずかしいなら・・・なんでする?・・・。
総真はストローをもう一度くわえ、赤面しながら「早くっ」と催促する。
晴海はマンゴージュースを見るが、特大サイズのグラスのようなので、中身がまだまだ残っている。
晴海はあきらめ、目を開けたままストローをくわえ、2人で赤面しながらマンゴージュースを飲んだ。
フルーツドリンクバーで史上最高に恥ずかしい思いをしたのではないか思うほどの時間を晴海は過ごし、総真と共にドリンクバーを後にした。
2人は歩いていると、総真がペアリング専門店を見つけた。
「晴海さんはお店の外でちょっと待ってて」
総真はお店の中に入っていく。
そして、総真はお店から出てきて、晴海と一緒に中に入っていく。
すると、値札が外された状態のいくつものペアリングがカウンターの隅に並べられていた。
「ここにあるのが、このお店で取り扱ってる全てのペアリングだって。晴海さんが一番気に入ったものを買おう」
「え・・・値段も見ないと」
晴海は店内を見回し、同じ商品の値札を探す。
「ペアリングはずっとつけるものなんだから、値段関係なく、晴海さんが一番気に入ったものを俺は買いたい」
「総真くんはどれが気に入ってるの?」
「俺は晴海さんが気に入ったものを気に入るよ。晴海さんが気に入ったものをペアリングにしたい」
店員にあらかじめ事情を話し、1番高い値段のものでも必ず買う約束をして、そのように準備したようだ。
晴海は一つ一つペアリングを見て、一番いいなと思ったものを選ぶ。
すると、そのペアリングを見た店員が拍手する。
「お目が高いですね。当店で3番目に値段の高いペアリングですよ」
そして、高校生が買うにはしては少し高い値段のペアリングを総真は購入し、2人でペアリングを指にはめた。
初デートで初彼氏からの初プレゼントがペアリングということに晴海は感激していた。
その後、昼食をレストランで2人は食べ、外を歩く。
総真と話していて晴海は知ったのだが、総真にとっても晴海は初の彼女らしい。
晴海は本当にうれしかった。
大きなデパートに入り、服売り場に2人で行き、晴海の試着に総真はつきあってくれた。
晴海がふだん選ばないような高い服を総真は試着してほしいと言ってくるので、晴海は総真の要求を尊重して高い服を試着したりした。
高いだけあって、晴海も気に入った服がいくつもあった。
総真は晴海が気に入った服を教えてほしいと言う。
「買ったりしなくていいからね」
晴海は総真に念を押すように言う。
「晴海さんの服の好みがどんな感じなのか知りたいんだよ」
晴海はいくつか気になった高い服を試着して、気に入った服を言っていく。
「それくらいかな」
30分くらい試着した晴海。
女の子の服選びに男の子を長時間付き合わせるのは申し訳ないと思い、「そろそろ行こうよ」と晴海は言う。
「そうだね」
総真はそう言い、レジの方へ向かっていく。
「ちょっと!・・・」
晴海は驚いて総真のもとへ駆け寄る。
「ここに書かれた物を全て購入でお願いします」
いつの間にか書いていたメモを総真は店員に渡した。
「買わないって言ったじゃん」
慌てて晴海は総真の横に立つ。
「買わないとは言ってないよ」
「それにこんなに荷物持って帰れないし」
「もちろん、配送にするよ」
総真は晴海の住所を記入していく。
「・・・配送?」と晴海は言う。
今まで服を買うにあたって晴海は配送など使ったことがないから思いつかなかった。
「もったいないよ!」
「買った服の値段に比べれば、配送代なんて微々たるものだよ」
笑う総真。
服の購入代金の支払いを終え、2人は服売り場をあとにする。
「なんか長い時間、試着につきあってくれたり、服買ってもらったり、いろいろありがとう」
歩きながら晴海は申し訳なさそうに言う。
「全然。晴海さんが気に入った服を着て、いい気持ちになれるんだったら、払うお金なんてたいしたもんじゃないよ。それに彼女の服選びを一緒にするっていうのは、好きな子の可愛い姿を存分に見ることができるから、幸せな時間だなって思ったよ」
総真は笑顔だ。
・・・そんな男いる?
晴海は疑問に思いながらも、本当に楽しんでいるような総真の笑顔を見て、たしかに見方を変えればそう感じるものなのかなと思う。
その後は、夕日が沈むまで2人は街を話しながら歩いた。
ただ話をして歩いているだけでも、晴海はものすごく幸せを感じ、手をつないでいるから緊張した。しかも、途中から総真は恋人つなぎに変えてきたので、2人とも赤面しながら歩いた。
総真が晴海を家まで送る。
「今日は本当にありがとう。一生の思い出になった」
晴海は幸せそうに笑う。
「俺もだよ。本当に幸せな1日をありがとう」
総真も微笑む。
2人は、はにかみながら家路につく。
晴海は家に帰るなり、自分の部屋のベッドに倒れ込み、幸せすぎて泣いた。
自分は幸せが最大限に達すると泣くのだと今日、知った。