告白
翌日の土曜日になり、約束の時間より10分早く晴海は集合場所に到着すると、総真はすでに待っていた。
学校では制服だが、プライベートで会う総真はおしゃれだった。
総真は晴海を見ると満面の笑みで手を振った。
総真と晴海は挨拶を交わして歩き始めると、総真は晴海が勧めたドラマや漫画を昨日いくつか観たり、読んだりしていて、楽しく会話が弾み、晴海はうれしく思った。
晴海は昨日よく考えた末、今日、総真に対して好きオーラをぶつけまくり、それで告白してくれればOKの返事を出し、告白してくれなければ、別れ際に自分から付き合いたいと言おうと決めていた。
総真の出方によっては、自分から付き合いたいと言うことになるので、晴海の心臓は緊張で高鳴っていた。
今日は絶対に幻滅されないように注意しようと晴海は思った。
しかし、初っ端から最悪な事態が起こる。
総真の優しそうな顔を見たのか老夫婦が道を尋ねてきて、その隙に晴海は軽く自分の顔を手鏡で確認するために、バッグの中にある手鏡を探すと、違和感に気づく。
・・・ん?
財布がないのだ。
嘘ーーー!?
晴海は内心で叫ぶ。
これでは恋人関係でないのに奢られる気満々の女だ。
最悪・・・。
晴海は焦る。
そういえば今朝、母にお小遣いの前借りを頼み、そのまま財布をテーブルに置いたまま出かけたことに、今になって気づく。
自分の間抜けさに心底腹が立った。
晴海の今日の計画は木っ端微塵に消し飛んだ。
財布を忘れたって言う?・・・いや、わざとらしい。
・・・どうしよう。
なんとか今日、お金をまったく使わない方向にもっていかなければ!
晴海は激しく狼狽する。
総真が道案内を終えて、晴海の方を向く。
「ごめん、待たせちゃったね」
「ううん」
晴海は冷や汗を背中にかいていた。
さっきまで幸せでいっぱいだったのに、今は不安でいっぱいだ。
思考がうまく整理できないまま、総真の横を歩いていると、足だけ温泉に入浴する、足湯が目の前に見えてきて、料金が100円という看板が近くにある。
「足湯か・・・いいね。あそこで少し話そうよ」
総真は足湯の場所を指差した。
晴海は焦る。食べ物であれば、まだおなかが空いていないとか、苦手な食べ物だからと断る理由を思いついていたが、足湯で、しかも料金が100円だ。
断る理由が見当たらない・・・。
晴海は観念して、財布を忘れたことを正直に話そうと思った瞬間、総真が口を開く。
「あ・・・言い忘れてたけど、お金は全部、俺が出すからね」
その言葉を聞き、救われるような気持ちで「そんなの悪いよ・・・」と晴海は言う。
「気にしないで。俺、結構稼いでるし」
「バイトしてるの?」
「バイトって言うよりは仕事かな。パソコンのね。短時間でかなり稼げるんだ」
「すごいね。私、高校生なのにバイトもしたことない」
「高校生だったら、親からのお小遣いか、それでも足りない場合はバイトするっていうのがふつうだから、バイトしたことないなんて別にめずらしいことではないと思うよ」
「ふつうの高校生なら割り勘が当たり前だろうけど、俺は稼いでお金があるから、好きな人にはお金は出させないよ」
「財布なんか出したら、怒るからね!」
笑いながらウインクする総真。
・・・出す財布がないんです。
ほっとして晴海は「ありがとう」と言う。
晴海と総真は足湯で学校やテレビ・漫画の話をして楽しみ、その後はレストランで食事をしたりした。
レストランと言っても、晴海が入ったことがないような高校生には不釣り合いの高級な雰囲気の漂うレストランだった。
食事後は、アミューズメント施設で、ボウリングやゲーム、カラオケなど2人でいろいろなことをして楽しんだ。
総真はどれも器用に上手にこなし、ますます完璧超人だと晴海は感じた。
夕方になり、近くのいい感じのカフェに入って、それでお開きにしようということになった。
晴海と総真は2人用の席に着き注文して、ドリンクバイキングがセルフサービスだったので「飲み物とってくるから晴海さんはここで待ってて」と総真は言い、席を立つ。
自分とは違って、勉強も運動もできて、仕事をしてお金を稼いでいて、料理もでき、性格も申し分ない超イケメンが、なぜ何も取り柄のない自分のことを好きになるのだろう
と晴海は待っている間、改めて不思議に思う。
総真なら、学校のどんな女子でも落とせそうだ。
自分は性格が特別いいわけでもなく、学校の中には、自分より美人でさらに自分より性格のいい子はいくらでもいるだろう。
なんで・・・私なんだろう・・・。
晴海は総真の後姿を見て、そう思う。
総真が飲み物を取ってきて、席に着く。
晴海は総真を見つめ、不意に口から言葉が出た。
「白石くんは、私のどこを好きになったの?」
総真はきょとんとした顔で晴海を見る。
晴海は続けて言う。
「私より綺麗で性格のいい人なんて、いくらでもいるのに・・・」
総真は笑う。
「好きになるのに明確な理由が必要かな?・・・好きになっちゃったんですよ」
総真は子供ような笑顔を晴海に向けて言う。
晴海は赤面して泣きたくなり、今、自分の思いを伝えようか迷った。
もう一度告白してほしい・・・。
晴海はそう思いながら、総真を強く見つめる。
晴海が自分から言ってしまおうと思った瞬間、総真は何かに気づいたように、はっとした表情になり、席から立ちあがる。
そして、晴海の横に立つ。晴海は椅子に座り、総真を見上げる形になる。
総真は顔を赤くして、「あの・・・俺は・・・」と緊張した表情になり、言葉を発する。
瞬間、晴海は告白されると思い、自分も椅子から立ち上がり背筋を伸ばし、総真と向かい合う。
その晴海を見た総真は覚悟を決めたような表情になって、言う。
「晴海さんのことが好きです。絶対に大切にします。どうか俺と付き合ってください!」
晴海は赤面し泣きそうな顔で「はい」と答える。
愛の告白を見ていたのか、周りの客席からの温かな拍手が2人を包む。
総真は「よかった・・・」と赤面してほっとしたような表情でつぶやく。
晴海は幸せな気持ちでいっぱいで心臓が高鳴っている。
「これからは彼氏としてよろしくお願いします」
「こちらこそ、彼女としてよろしくお願いします」
2人とも照れながら、席に座りなおす。
それからのディナーの時間は、晴海はにやける顔を抑えることができずに総真と楽しくしゃべった。
総真も晴海と同じような状態らしく、幸せなのがこちらに伝わってくるような表情でしゃべる。
食事が終わり、カフェを2人は出て、晴海の家の前まで一緒に歩く。
「今日は人生で一番幸せな1日になったよ。白石くんのおかげだよ。ありがとう」
晴海は幸せいっぱいの表情で言う。
「それは俺もです。あと、もう恋人同士なんだから総真でいいですよ」
「明日は暇ですか?・・・よかったらデートしませんか?」
「うん!デートしよ」
晴海も笑顔を浮かべる。
「じゃあ晴海さん、また明日!」
「また明日! 総真くん」
2人は笑顔で家に帰った。