友達関係
公開告白により、ざわめく教室の中、晴海は心臓が飛び跳ねているような興奮状態に陥っていた。
「なんで?・・・」
総真が立ち去った後の第一声にその言葉が晴海の口からこぼれた。
特定のことに対してその言葉を発したのではなく、意味のわからないことが多すぎて、素直にその言葉がもれた。
クラス中が騒いでいる。
「他人の告白なんて初めて見たー」
「すげえ。ドラマみたいだな」
いろいろな感想が教室を飛び交っている。
晴海の横にいた翔子が驚いた様子で聞いてきた。
「晴海、あの子と面識あるの?」
「ううん、全然知らない。あんなイケメン、話したこともない・・・」
「マジで一目ぼれ?」
信じられないという表情の翔子。
次の瞬間、教室の前方の入り口から英語の教師が入ってきて怒鳴る。
「なに、騒いでんだ! 席につけ」
生徒たちはすぐに着席し始める。
授業が始まったが、晴海の頭にはまったく授業の内容が入ってこなかった。
晴海の頭の中は嵐のように疑問が吹き荒れている。
そもそも、なんで公開告白!?
告白って、ふつう放課後とかに呼び出してするもんじゃないの?
なんで昼休みでもない短い休み時間に教室に入ってきて、いきなりすんの?
しかも、なんで私に!?
このクラスの中だけでも明らかに私より美人な子なんて、何人もいるでしょ!?・・・私はせいぜい中間くらいの平凡な顔なのに・・・一目ぼれって・・・意味がわからない。
晴海はあまりに意味のわからないことが多すぎ、混乱していた。
しかし、うれしさも込み上げてきているのか、にやにやするのも止められない。
授業が残り半分ほどの時間になり、ようやく晴海は落ち着きを取り戻してきていた。
すると、今までとは違って別の考えが晴海の頭の中に思い浮かんできた。
罰ゲームとか!?・・・ドッキリ?・・・もしかして詐欺!?
そうか・・・それならありえる。
でも、私なんか騙して何かメリットある?
お金をもってるわけでもないし、ドッキリだとしても、学校での彼の今後の印象が悪くなるだけじゃない?
だったら罰ゲーム?・・・でも今どきそんな罰ゲームやる?
しかもあんな超イケメンが大勢の人の前でそんなことする?
まず一目ぼれっていうのが信じられない。私に一目ぼれしたというなら、クラスの女子の半数に一目ぼれしなければいけない道理だ。
一目ぼれしたというのは嘘と思っていいだろう。
嘘をついて近づくってことは、やっぱり何かしらの魂胆があるんじゃない?
でも公開告白して私に近づく魂胆って?・・・。
ますます混乱する晴海。
3限目の授業が終わり、英語の教師が教室を出ていくと、再びクラスは公開告白についての話題で持ち切りとなった。
晴海があれやこれやと考えていると、真っ先に隣の席の翔子が話しかけてくる。
「で、どうすんの? 付き合うんでしょ?」
「わかんない。どういう人なのか知らないし。まず私に一目ぼれしたっていうのが信じられない」
「ああ・・・言われてみればそうだね。晴海の顔に一目ぼれって確かにおかしいよね」
翔子は肯定的にうなずく。
おい・・・。
晴海は苦笑いを浮かべる。
自分がそんなこと一番わかってはいるけど、他人に言われると腹立つ。
でも、そうなのだ。他人の目から客観的に見ても、自分の顔は美人とは言えない、ふつうの顔なのだ。
「メアドさっき交換したんだから、メールきてんじゃない?」
翔子は気づいたように晴海の鞄を見る。
晴海は慌てて携帯を鞄から出し、画面を確認するが、メールはきていなかった。
「きてない」
次の瞬間、他の女子たちが晴海の前に押し寄せ、次々と質問を浴びせ、その対応に追われ、休み時間は終わり、4限目の授業が始まった。
4限目の授業が終わり、昼休みに入った瞬間、教室の後ろの扉がノックされ、白石総真が「失礼します」と言い、入ってきた。
教室の中の全員の目が彼に一斉に集中した。
そして、総真は晴海の前に立つ。
「お昼ご飯、一緒に外のベンチで食べませんか?」
不意打ちをくらった晴海は、焦りながらも「うん」と一言だけ答えて、席を立ち、総真の後に続いて歩いていく。
クラスの生徒たちのいじる声を聴きながら晴海は思う。
さっきメアド交換したのに、なんでメールしないで、わざわざ教室に来て誘うんだろ?
いろいろと、いきなりすぎて、心の準備もできてなく、焦ってばかりだ。
晴海は総真と外の日陰のベンチに2人で座り、お昼ご飯を食べる。
2人とも座ってから一瞬だけ沈黙したが、総真が口を開く。
「聞き忘れていたんですけど、晴海さんは彼氏とかいますか?」
「ううん、いないよ」
晴海はいきなり下の名前で呼ばれたことに驚きながら、答える。
「あ・・・晴海さんって呼んでもいいですか?」
「・・・うん。別にいいよ」
晴海は4限目の授業中、次に総真に会ったら聞こうと思っていたことを、思い切って口に出す。
「あのさ・・・。一目ぼれしたって言ってたけど、私そんな美人でもないし、信じられないんだけど、本当の理由って何?」
晴海は恐る恐る聞く。
総真は一瞬きょとんとしてから、口を開く。
「一目ぼれに美人とかって関係ないと思うんですけど。それに、俺から見れば晴海さんは美人だし、可愛く見えます」
総真は赤面して照れながら顔を下にふせて言う。
晴海は言葉を失い、総真につられて顔が赤くなり、総真から目を背ける。
昼休みになって噂になっているのか、生徒が何人か、歩きながらこちらを見たりしてくる。教室の窓からも覗かれているのだろうかと晴海は思いながら恥ずかしくなる。
晴海はさっきから弁当に口をつけていない。食べ方とかを総真に見られるのが何だか不安だからだ。
弁当を鞄から出さず、購買でパンとかにすればよかったと晴海は後悔していた。
購買で買うことはお金の出費的に避けたいので、いつもは母が作った弁当を持ってきている。晴海は料理をしない。
総真の弁当はおいしそうだった。箸の持ち方や食べ方もきれいだった。
「お弁当食べないんですか?」
総真は晴海を見る。
「うん、そうだね」
晴海は仕方なく食べ始める。
「晴海さんのお弁当おいしそうですね」
「ああ、これはお母さんが作ってくれた弁当」
「お母さん、料理上手なんですね」
特別上手というわけでもなく、ふつうだと思う・・・。
自分の弁当を見る晴海。
「白石くんのお母さんの方が料理上手そうだよ」
「これは、母ではなく、俺が作ったんですよ」
総真は笑いながら答える。
「これ、白石君が作ったの!?・・・料理すごい上手なんだね」
晴海は驚く。
「ありがとうございます。うれしいです」
総真は笑顔で言う。
晴海は驚くとともに、なんだか自分が恥ずかしくなった。
昼休みはお互いのことについて話した。
総真は一人暮らしで高校に通っており、両親は田舎にいるそうだ。
テレビ番組やドラマ・漫画のことを総真はほとんど知らなく、晴海が勧めたものを今度見てみると言った。
晴海はテニス部に所属しているので、放課後に部活に行ったが、総真もその日にテニス部へ入部してきた。
晴海はテニスを高校からなんとなくで始め、高校の大会でも1回戦か2回戦で負けるような実力だった。
しかし、総真は入部早々、実力を先輩に認められ、先輩たちと共に練習を始めた。
総真のカッコよさに女子たちは熱い視線を送る。
総真と同じ1年生の女子たちの話によると、総真は勉強も運動も抜群にできるらしい。
まさに完璧超人と言える男の子だと話しているのを晴海は耳にし、ますますこんな少女漫画のような展開が、なぜ何も特別なものを持たない自分に起こるのかがわからなかった。
部活が終わり、晴海は家に帰ろうとすると、総真が晴海のところまで来て、一緒に帰ることになる。
夕日に照らされながら2人は歩く。
最初は何を話したらいいかわからず、沈黙したが、総真が自然と話を引き出してくれて、晴海はテレビや漫画の話をして、総真はその話に気持ちよく相槌を打ってくれたり、返答してくれたりして、楽しく話しながら一緒に帰ることができた。
晴海の家であるマンションに2人で着くと、総真は晴海と向き合い、緊張した面持ちで口を開く。
「あの、俺が晴海さんを好きだという気持ちに嘘偽りは絶対にないので、それだけは信じてください」
総真は赤くなった真剣な顔だ。
「じゃあ、俺はこれで」
総真は横を向き、駆け出していく。
晴海は走っていく総真の後姿を赤面しながら見つめていた。
家に帰り、自分の部屋に入った晴海はベッドに倒れ込み、転げまわった。
何これ!?現実?・・・ありえないでしょ!?
夢でも私は見てんの!?
今まで生きてきて、こんなにいろいろと衝撃的なことが起こった1日なんてなかったと晴海は思った。
総真と話して、悪だくみするような男ではないと感じた。
むしろ、誠実で優しい男の子だと強く感じた。
晴海は総真と付き合いたいと思った。
総真が自分に対して興味がなくなる前に早く付き合いたいと思った。
総真が自分のことを本当に好きなんだということを晴海は信じようと思った。
信じたいと思った。
晴海は携帯のメールで付き合うということを総真に伝えようか迷ったが、できれば総真の方からもう一度、改めて告白してほしいと思った。
携帯を手に持ち、迷っているときに、着信音が鳴り、晴海は心臓が飛び出そうなくらい驚く。
総真からのメールが受信フォルダにあり、明日の土曜日に暇だったら一緒に遊びませんかというメール文だった。
土曜日は部活も休みだったので、晴海は即座にOKの返事のメールを送る。
すると、すぐに総真からの明日の集合時間と場所を記したメールが届く。
晴海は迷う。明日、自分から付き合いたいと総真に伝えるかどうかを・・・。