キリキへの信頼
何度も言う。キリキは途轍もないバカだ。
真っ向から殴り付ける以外に考えない単純な馬鹿力。戦略は全く無い。相手が剣だろうが槍だろうが魔法使いだろうが人外だろうが何時だって殴って始末してきた。
ただ、馬鹿力だから組んでいる訳じゃない。力の有るだけの馬鹿なら疾うの昔に俺を道連れにして死んでいるだろう。だからそもそも組みたいとも思わない。
コイツはバカだが無能ではないし、愚かでもない。理論やら知識やらでは説明出来ない見る力がある。
そしてそれは信頼に足る。常に死神の息遣いが耳元で聞こえる世界の中で背中を任せる事が出来ると信じるに十分値するものだ。
ある時、下衆な貴族を殺して逃がそうとした事があった。
何時も通り、部屋に忍び込んで、俺の短剣で大人しくさせて状況を教えて、説得して逃がそうとしていた。
相手の貴族は青い顔をして腰を抜かしていたが、毒で大人しい間に説明したところ呆気無く納得。キリキが部屋をそれっぽく荒らし終え、後は腰を抜かした貴族を俺が引っ張り起して血を残して消えるだけ…となった時。
「これ、何ですか?」
俺が貴族の手を取ろうとした時、キリキの手が隔てるように伸びて、相手の中指を草木みたいにへし折った。
ぎゃぁぎゃあわめく貴族を気に止めずに、折った中指をじっと見て一言。
「これって、毒針じゃないですか?私達は逃がしに来たのにどうして殺そうとするんですか?」
俺が掴もうとしていた手の爪先、皮膚と爪の間、小さな針がそこにはあった。
御丁寧に色を塗って、肌と同化するように、気付かれない様にして。
それを知った俺がキレて短剣を喉笛に突きつけて白状させたところによると、俺達を仕留めて『殺し屋に屈しない』アピールをしつつ、敵対貴族の差し金ということにして潰したかったらしい。
皮肉にも名前を挙げた敵対貴族の名前をこの仕事を受けた時に聞いた気がするが、それは黙って、脅して死んだことにして無事仕事を終えられた。
その後でキリキに訊いた、『どうして針に気付いたのか?』と。
「気付いてませんでした!色が一緒だったので折ってから針は見つけました!」
頭を抱えた。気付かずにコイツは他人様の中指をこんな風にへし折ったのかと。理由も無くへし折ったのかと。
『ニタリさん、違います!私だって理由も無く他人の指は折りません!ただ、変な顔をして変な指をしてたから折ったんです!』
要領を得ない話をまとめたところ、御貴族様の顔と指の色と形が歪んで見えたらしい。
正確な事は分からないが、子どもの頃からずっとそういうことがあり、それを見たり壊したり、調べたりすると何かしらが有ったらしい。
実際に幾度も仕事をして、キリキのそれが戯言でないことは身をもって知っている。
俺一人で逃がしをやっていたら幾度も死んでいた。俺が死んでいない理由の幾つかはキリキが居たからだ。
だから、武器を持たずに割って入ったキリキの話を少し、聞くことにした。
キリキはいわゆる近距離パワー型。不器用な代わりに圧倒的パワーでごり押しします。
ただ、本人が割と常人に理解出来ない(本人もよく解っていない)天才気質で、ちょっとした搦め手やトラップはは簡単に見抜きます。
前職種自体は置いておいて、理解者のニタリに出会ったのはある種の幸運です。
ちなみに、教授とぶつかると普通に負けます。
これは単純にトラップや搦め手の数と精度で押し潰せるということと、キリキ側の有効打が無いためです。




