夜供鴉の羽服
箱を背負った老婆を助けた日の翌朝。
「これは……なんでしょう?もしかして、教授が用意したものですか?」
シェリー君の枕元には真っ黒な箱が置いてあった。
「いいや、ただ、見る限り危険性は無いな、開けて中を見てみると良い。」
私が用意したものではない。ただ、中身が何かは知っている。
「解りました…………!」
箱を開けた途端、息を呑んで固まる。
「これは……いったい、だれが?」
箱の中、手にしたのは一着のドレス。
黒一色でありながら光の加減で虹霓を見せる、それはまるで鴉の羽の様な美しいドレスだった。
「きれい……」
ここで、ちょっとしたおとぎ話をしよう。
魔界には『夜供鴉』という鴉がいる。
その鴉は夜と共にやって来る夜行性の鴉ではない。夜を供にしてやって来る鴉だ。
あまりに巨大な躯体と、それを飛ばす黒い翼が上空を飛ぶと、昼間でも陽光が遮られて地を這う生き物の世界が夜の様になることから『夜供鴉』と呼ばれている。
稀に、そんな鴉の羽が地面に落ちてくることがあった。
羽と言っても、人が数人くるまれるほど大きく、鎧のように頑丈で、しかし手にしている感覚が無いほど軽い羽だ。
とある村の長は拾ったそれを飾って村の名物にした。
とある鍛冶職人は拾ったそれを鍛えて武器にした。
そして、とある仕立て屋は、拾ったそれを織って黒い反物にした。
仕立て屋は腕が良く、人々から信頼されていた。
しかし、貧しく、食べるものにも困る有り様。工房に眩いドレスは数あれど、己の者は一つもない。
だから、仕立て屋は黒い反物を自分のために使った。
自分のための一張羅。
自分のための晴れ着。
仕立て屋の腕と素材が合わさり、それはそれは素晴らしいものになった。
それがいけなかった。
『その素晴らしい服を売って欲しい!』
どこからともなく服の噂を聞いた者が大金を手に仕立て屋に交渉を持ちかけた。
仕立て屋は断ったが、相手は諦めない。
そんなやり取りが続いてしまい、方々から人がやって来るようになり、連日大金を手に『売って欲しい』だの『ウチに来て欲しい』だのという連中に対して仕立て屋はうんざりした。
仕立て屋はある日突然、煙のように消えた。
工房から道具一式と自分のための服を持ち出し、きれいさっぱりと。跡形も足跡もなく消えた。
言い寄っていた皆は怒りと不満を口にして、その場を去った。
以上が『夜供鴉の羽服』というおとぎ話だ。所々おとぎ話になっているが、事実も多い。
例えば『夜供鴉』、これは実在する。
巨大な山の頂上を熔かし潰してネズミ返しを作り、その上に安全な巣を作るという驚くべき生態を持ってね。
その羽が高価な素材として扱われるのも事実。それを服に仕立てる者もいる。
そして、ここに出て来た仕立て屋も実在すると言われている。あくまで噂や都市伝説として、だがね。
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