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1832/1833

漆黒の虹霓が月夜に輝く

 シェリー君は注目されるのが大の苦手だ。

 本人曰く『嫌いではない』という話だが、『注目されるとトラブルが起きるので苦手』・『注目はしがらみを生むので得意ではない』・『注目されて何かを言われるくらいなら、目立たない方が良い』・『一度注目されて少し大変なことがあったので、出来れば……目立ちたくはありません』。とのことだった。

 話を聞けば聞くほどオブラートに包んだ過去の歓迎出来ない経験が透けて見える。

 だが、教え子に乞われてそれを断れる程の拒絶能力も無いので出る必要もある。

 板挟みにされた結果、何をしたかといえば、何を血迷ったのか正装(・・)に身を包みH.T.を展開して周囲の風景を映し、周囲からは見えないように、ゴードン家からは見えるように隠れるという奇行に走った。

 自分は見えなければ注目されないとでも思っていたな。残念、君は嵐の中心だ、隠れれば探される。


 ちなみに、私はそれを敢えて止めなかった。

 シェリー君は他者の頼みに背を向けない。逃げられない。だからこんな苦し紛れな方法を取っている。抵抗は時間の問題になる、だが無駄だ。

 それに、最高の晴れ着を披露するなら、舞台装置は必須だろう?

 『気流操作』

 『H.T. 展開&映写』

 シェリー君の予想外の魔法の発動。

 H.T.が急な強風を受け、周囲の風景が歪み、そのまま上空へと舞い上がる。

 音と異様な光景をその場の誰もが目にし、奪われ、そのまま上へ。

 H.T.が天井に届く頃には完全に展開が終わり、同時に風景が変化する。

 映し出したのは夜空。星が瞬き、月が輝く夜空だ。

 あっと驚きの声が小さく上がる中、夜空の月が地上に降り注ぐ。

 ゆっくり、優しく、だが力強く闇夜を否定するその光を受け、その姿はより一層輝く。

 上から下へ、視線が降りて行く。

 月光を浴びて、その黒はより美しく艶やかに映る。しかし、視線が吸い寄せられると、不思議なことに夜闇の奥に虹が見える。

 黒一色。しかし、その奥に全ての色を内包している。それが一挙手一投足で変わり、虹の様に映るのだ。

 『ヒヒ、衣服はあくまで着られるもので、着る者の一挙動を飾るものさね。』

 作り手の信条を織り込んだかの様に、その動きを飾り、贈った相手を更に美しい者へと変える。

 「こんな形で失礼いたします。初めまして、私はシェリー=モリアーティー。

 モンテル=ゴードン君の家庭教師です。」

 黒一色のフォーマルドレスに身を包んだシェリー君がお辞儀をした。

 たったそれだけで、その場にいる全てのものが視線を奪われる。

 今、この場の主役は間違いなくシェリー君だ。



 この一連のシーン、絵で見たい、もっと贅沢を言えば映像で見たい!

 絶対に映えるので、映えるので!

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