お遣いの途中で3
「ここに来たかったんだよ。
ありがとうね、ここまで手伝ってくれて。」
老婆の目的地は町の中心部にある噴水だった。
「本当に、ここで良いのですか?」
「人を探しててね。人が沢山居るところの方が、都合が良いのさ。」
嘘はないと判断した。
そして、人探しまで手伝いたいと思いつつ、流石に相手も恐縮すると堪え、割り切る。
「解りました、ではこれにて。ごきげんよう。」
退くとなったら即撤退。
そうでないと……
「ヒヒ、お嬢ちゃん、少し待ちな。」
「お礼なら不要ですよ。」
先手を打つ。
「ヒヒ、謙虚だね。
心配しないでおくれ。1つ、良い子のアンタに聞きたいことがあるのさ。
最後に教えとくれ。この老婆を手助けしてくれた良い子の名前は、一体何て言うんだい?」
身構えていたシェリー君が安堵した。
「モリアーティー。私は、シェリー=モリアーティーです。
もしよければ、貴女の名前も教えてくださいませんか?」
それを聞いた途端、老婆の表情が突然変わった。
呆気にとられた表情。
毒気を根こそぎ抜き取られた表情。
解けなかった難問の模範解答を見て、あまりの簡単さに拍子抜けした表情のそれだ。
「ヒヒ、ヒヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!イーヒヒヒヒヒヒヒヒ!そいつは良い!すごく良い!まさか、まさかね!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
老婆に似合わぬ声量と高音で壊れたおもちゃのように笑う。
一通り笑い終え、そして、ピタリと止まる。
「『レイヴン』。その名で通ってるよ。
じゃあね、良い子のシェリー=モリアーティー。
良い子の所には素敵な贈り物がやってくる。
だから心配は要らない。
今日は美味しいものを食べてすぐ帰ると良い。
そして、良い子の元にやって来るプレゼントを楽しみに眠ると良い。」
真っ黒な目を刮目し、そして…………。
「……消えた。」
瞬き一つしていないシェリー君の前から、老婆が消えた。
近くに遮蔽物は無い。
『幻燈』の魔法でもない。
しかし確実に、木箱ごと、老婆が消えた。
『良い子は報われるべきさ。
良い子は素敵であるべきさ。
そして、良い子は皆が羨む姿であるべきさ。
だから、アタシャは良い子にこれをあげよう。
それは、良い子が一番素敵になるための手伝いをする、魔法のチケット。
本当なら一人に二回の艶姿は御法度だけど、今回は特別。良い子とアタシャ、2人から良い子だと思われる良い子なら仕方無い。
今度困ったら、それに名前を書くと良い。』
羽ばたく音と共に、声が降る。
天から風に舞い、漆黒の羽と共に落ちる一枚のチケットが、シェリー君の手元にやって来た。
「あの方……『レイヴン』さんは、一体何者だったのでしょう?」
「ハハ、鴉の妖精とでも考えておくと良いさ。
さぁ、それは大事に持っておくと良い。
金銀の類いではない。ただ面白い意匠のチケットだ。そう考えれば君の親切と釣り合う。お礼を辞退する理由にならない。そうだろう?」
手の中のチケットを見て、シェリー君が笑った。
「とても良い、素敵なお礼です。
今度出会えたら、お礼を言いませんと。」
無邪気にその手の中のチケットを見て、笑った。
「さぁ、それなら今日は楽しく『買い食い』という奴でもしてみるかね?」
「教授、しかしドレスが……」
ハッとなって思い出すシェリー君。
「妖精レイヴンも言っていただろう。『プレゼントを楽しみに眠ると良い。』と。
妖精の忠告には従うべきだ。」
「……このチケット、使うことは出来ますかね?」
「止めておくんだ。それは大事に仕舞っておくと良い。それは宝物、だろう?」
「……はい。解りました。
そこまで言うなら、今日は大人しく退散いたします。」
私の考えを汲んで、懐に鴉羽のチケットを仕舞って、ドレス問題はそこまでとなった。
そして、ついにリバルツ家に向かう日となった。
『鴉羽のチケット』がどういった物かは後で詳しく本編で説明しますが、ここで一つ、例題を。
仮にイタバッサにこれを見せた場合は称賛され、他人に見せないように忠告され、評価が二段階上がる代物です。つまり特級のブツです。
誤字脱字報告、評価とリアクションを頂き、そして久々にランクインしました。
ありがとうございます。寒さで少し萎え萎えになっていましたが、お陰様で暖が取れました。




