急に自分の持ち物を渡そうとしてくる意味不明な奥様の完成
どうして良いのか解らない。どうしよう?
流石に不信感は吹き飛んだ。
というより、見ていて気付いた。睡眠時間さえ怪しい人間に不信感を抱く必要は、無い。むしろ心配になってきた。
どうしよう?
先ずはお礼をしないと。
モンテルをここまで育ててくれた、守ってくれたことは、恥ずかしい限りだけれど、私には出来なかったこと、それをしてくれた。
お陰で今はモンテルが楽しそうに学んでいる。できなかったことができるようになった。何より喜ぶべきことが、起きている。彼女のお陰で。
でも、どうやってお礼をしよう?
『不信感をずっと抱いていましたごめんなさい。』なんて、正直に言うわけにもいかない。そんなことを言ったら何を渡しても受け取ってはくれないだろう。
『息子のために頑張ってくれてありがとう。これはお礼ね。』とも言えない。これは贖罪でもある。そんなお礼だなんて、罪悪感を隠すようで卑怯に思えてしまう。
けれど、渡さないというのも、それはそれで違う。
そもそも……大問題がある。
彼女はかつてない程モンテルのために働いてくれた。ということで、依頼した夫が既に報奨金を渡そうとしたらしい……結局謝礼金は『これは学校の授業の一環で、貰ってはいけないと厳しく言われている。』と理由をつけられ、受け取ってくれなかったらしい。
『ルールを守る』それは貴族の一員として否定する訳にはいかない。
なら、そうだ。
ルールの否定はできない。けれど、貴族の一員だからこそ、ルールを守りながらルールの抜け穴を潜り抜ける方法を知っている。
例えば、儀式や祭礼の場で、そういった場に慣れている目上の者が、慣れない下の者に対して前もって身に着けるものを贈る『習慣』までは制限できない。
例えば、自分の身に着けていたものを人に与えることでその者を家族の一員やそれに準ずる関係性を一時的に持たせる『習慣』を否定はできない。
それだ。そうしよう。私の衣服と装飾を渡そう。
正直、彼女が儀式や祭礼の場に慣れていないとは全く思っていない。モンテルもカテナも短期間で文句無しの振る舞いをするようになっていたから。
正直、彼女が着る物や装飾品に困っているとは全く思っていない。カテナが身に着けていたものはどう考えても一流の職人の手によるものだったから。
けれど、彼女はどうやら貴族の系譜ではないらしい。
貴族社会において後ろ盾が全く無いと知られれば、良からぬ輩が寄って来る。
それなら、何か一つ、ヒストリオ=ゴードンというゴードン家の一員が渡した物が手元にあれば、半端な輩は寄って来なくなる。
そうだ、そうしよう。
致命的に途中式が間違っているのだが、間違いと間違いが合わさり、結果的に正解に辿り着いている。
だが、それを一言も口にしていない。
結果、急に自分の持ち物を渡そうとしてくる意味不明な奥様が出来上がった。
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