ヒストリオ=ゴードンの心の過程
最初は不信感だった。
家庭教師探しを理由に長期間も家を空け、帰ってきたかと思えば家庭教師が見つかったと報告してきた。
アールブルー学園の名を知らない訳は当然無かったが、『モリアーティー』という家名に心当たりはなかった。
無名な家の、しかも女学生。
途中で事故に遭遇して足止めを喰らい、その時助けてもらった縁でその人には来てもらうという話だったが、それを簡単に信じられるほど私は出来た人間ではない。
嫉妬深く、浅ましく、それなのに認めたくない、知られたくないという気持ちでその自分を覆い隠し、良い顔をしたいと綺麗に装う卑しい人間。
だから、本当の気持ちに蓋をして、取り繕った自分が暴かれないように距離を取り、見ていた。
不信感を募らせていた。
『初日はフィールドワークを兼ねた『かくれんぼ』の実習をいたしましょう。』
あまりにも荒唐無稽なことを言い出したかと思えば。
「身の危険から逃げる・隠れるという練習は、貴族の子息にとって、必要なことでしょう?」
鋭く核心を突く事を呟く。ゾッとした。
馬が暴走して、モンテルが蹴られたと聞いた。
最初は怒りに震えたけれど、カテナが必死に弁護をしていた。どうやら、家庭教師がモンテルと彼女を助けてくれたらしい、本当かどうかは怪しいけれど。
それから毎日。毎日モンテルに魔法を教えているらしい。
モンテルもカテナも疲れた様子を見せていたけれど、どこか楽しそうに見えた。
今まで見たことがなかった。学ぶ事を楽しいと思ってくれる。それが、嬉しかった。
誘拐事件が起きた。
生きた心地がしなかった。血の気が引いて、意識が無くなっていたらしい。
そして、気付いた時には彼女が解決していた。
お茶会の筈だった。その準備をしていた。準備万端整えて、行ったはず。それが、『決闘茶会』というものになっていた。
彼女が激怒し、モンテルが一人で闘う事になった。どうにかしてあげたいと思いつつも、けれど、何をして良いか解らず、訳が解らないまま声をかけようとして、レイバックに止められた。
彼女が、シェリー=モリアーティー先生に考えがあるらしかった。
信じて欲しいと言われた。それが自分を信じて欲しいというものだったら耳を貸さなかっただろうけれど、モンテルを信じて欲しいということだった。
そう言われてしまえば、私はもう動けない。
私は決して良い母じゃない。けれど、愛しているのは本当だから。
モンテルが勝った。
相手はダイエイト家。偶然で勝てる様な相手じゃない。
嬉しかった。本当に、涙が零れた。
モンテルの顔付きが変わっていた。
魔法に熱心になって、あの頃の夫が見えた気がした。
「ありがとう、先生!」
ありがとう。
不信感は晴れていた。




