餌を山盛り盛られ続ける猫の様な気分
赤、青、黄色、緑、黒、白、灰色……
様々な色彩、様々な様式のドレスが並んでいた。
どれもこれも新品ではないことは明らかだが、同時に手入れが行き届いていた。まるで、誰かがそれに袖を通すことを期待していたかのように。
ネックレス、イヤリング、ピアス、指輪、帽子、ポシェット……手入れがされたそれらが次々と、次々と、次々と……
「ま、お待ち、お待ちください。」
「……気に入らなかったかしら、ごめんあそばせ。」
「いえ、いいえ、そんなことはありません、決して。どれもこれも素晴らしいものです。大事に手入れされてきたことが素人目でも伝わります。」
「そう……ありがとう。」
現在、ヒストリオ=ゴードンの衣裳部屋に来ていた。
ヒストリオとは誰か?現ゴードン家当主の夫人で、あのクソガキの母親だ。
「お暇だったら、私の部屋に来てくれないかしら?」
シェリー君の部屋に一人でやって来た当主夫人から投げかけられたセリフだった。
「かしこまりました。」
雇い主側。シェリー君が断わる訳もなく、そのままついていった先がここだった。
「サイズは……大丈夫そうね。ねぇ、どの服が貴女は好きかしら?」
1着のドレスをシェリー君の体に当てて確かめ、他のドレスを広げ始めた。
「……はい?」
「今度、モンテルと一緒に行って下さるのでしょう?
もし、ドレスの用意がないなら、ここにあるドレスと装飾を好きに着ていくと良いわ。」
ということだった。
「これかしら……少し色が暗いかしらね。これは……そうね、今のデザインと並べると古臭い感じがするわね……。」
独り言を呟きながらシェリー君と衣裳部屋のドレスを見比べてあれこれ引っ掻き回していった。
ヒストリオ=ゴードンと一対一の交流の機会は、今まで全くと言って良いほど無かった。というより、実質初めてと言っても過言ではない。
当主とはスバテラ村で立場は違えど交流の機会があった。
クソガキとは恐らく最も交流の機会が多い。特にこのところ、クソガキはシェリー君に従順になり、一応は真面目な生徒だったので更に交流が増した。
使用人、特にオドメイドはクソガキとセットなので二番手。
コックとは茶会をして、時に夕食について話をする仲。
だが、無い。全く無い。
ヒストリオ=ゴードンとあいさつくらいなら交わしたが、それ以上は今まで無かった。
どう思うかね、交流の無い人間から高価なドレスや装飾を好きにして良いと言われる気分は?
シェリー君は若干怯えている。何を考えているのか解らない。そしてそれ以上に並べられる品々が高価で貴重なものであることが解り、手入れがされている大切なものだと解るお陰ですっかり怯えてしまった。
この当主夫人のやりたいことが解らない訳ではないが、いくら何でも急過ぎる。




