家庭教師の勧誘
「さて、反省会はここまでにして……これからどうする気かね?」
「どう……とは?」
「クソガキを突き放したままだろう。
茶会は終わった。同時に君の休暇も終わった。」
もっとも、この2週間が休暇として機能していたかと問われれば、肯定はできないがね。
「関係の修復はどうする?
それが一番の問題だ。」
あの家に厄介になれている理由はシェリー=モリアーティーが家庭教師であるから。
それを放棄したらシェリー君は……淑女の零失敗。
学園の人間は間違いなく嬉々としてシェリー君を叩く。
「……どうしましょう?」
ここに来てのノープラン。思慮はあるのにそれ以上に情動や義理人情で考える。まったく素晴らしいことだよ。
本当に反省すべき反省会の開始を宣言しようとしたところで、ノック音が聞こえた。
「どうぞ。」
「加減はどうか?」
ご当主様直々のご登場だった。
「お陰様で落ち着きました。リバルツ家のご厚意に感謝を。」
「礼には及ばぬ。お陰で愚息は無事茶会を終えることが出来た。
奴の倅とダイエイト家の倅も当然評価は上がっただろうが、これだけの茶会を成功で終えた……というのは、中々箔がつく。」
ご貴族様らしい考え方……と言いたいところだが、親バカが隠し切れていない。
今回の茶会では当主の倅が音頭を取った。それは事実だが、変装して潜入し、気付いたことがあった。
あちこちに根回しがされていた。
それはもう、優秀な人材がその辺に丁度転がっていて、困った時に何故か物資が生えてきて……ということが何度もあった。
それに対して周囲の反応は、呆れたような、微笑ましいとでも言いたげな、慣れたものだった。
この男は貴族である以上に人の親だ。
となれば、次に何を言うかは目に見える。
「……ところで、話を聞いた。
モリアーティー嬢は現在、学び舎の教育の一環で奴の倅の家庭教師をしていると。相違無いか?」
「ありません。お世話になっています。」
「ただ、かのコックから話を聞いた。今、その倅の家庭教師は理由あって表向きは出来なかったと。」
「それは、そうですね……」
「どうだろうか、今から奴の家に戻り、荷物を持ってリバルツ家の門扉を叩くというのは。
料理の手伝いや給仕の手伝いをしていたと聞いたが、その時の手際は使用人一同称賛していた。
それに、愚息にも家庭教師をつける時期だと思っていた。
奴の倅がダイエイトの倅を降す様に育て上げるほどの指導力があれば誰も文句は言わんだろう。
この私、クロージン=リバルツは評価されるべき者を蔑ろにしないと保証しよう。」
急に不器用になった。
要は、ゴードン家からシェリー君を引き抜きたいと、そう言っている。
アールブルー学園の特待生で、今回の件で教育・指導力は証明された。
家柄という点に固執しない者からすれば歓迎したい人材だ。
「自分の息子が今日の二人の姿を見て、己の未熟さを知った。
であれば、親として成長の機会を作りたいと、そういうことでしょうかね?」
シェリー君の指摘に対して、黙った。
「残念ながら、私に教育と指導の能力はありません。
元々価値ある宝石がそこにあった。私はそれの磨き方を伝えただけ。
宝石は元から有り、磨いたのは本人。私が居らずとも、遅かれ早かれ彼は輝いていました。」
宝石に宝石としての価値を見出さなければそれは無価値な石。
磨き方を知らねば輝きは十全にならず、価値は大きく減衰する。
あのまま放し飼いしていたら、あのクソガキはクソガキのままだった。
魔力があるだけのクソガキ。シソーデ=ダイエイトに匹敵・凌駕する力は持たずに終わった。
「謙虚は美徳だが、行き過ぎれば物の価値を知らぬ愚鈍と変わらない。当家に来る気は無いのか?」
「……そうですね。彼が最低限、自分で自分を磨き、自分の輝きを見出せる様になるまでは、そのための方法を伝えるまでは、難しいかもしれません。
勿論、それが許されれば……の話ですが。」
「そうか……私は惜しい人材を見落としていたな。先を越された。
今の話は忘れて……いや、そうだな。もし奴の家を追い出されたら、その時はこの私の元へと来るといい。歓迎しよう。」
露骨にガッカリするパパ当主。
「しかし、私が今回彼に教えた練習方法をお伝えすることなら出来ます。
今の私は家庭教師。教えを乞う者があれば、尽力するのは務めです。」
「そうか……そうか。ありがとう。」
少しだけパパ当主が持ち直した。
ブックマークとリアクションありがとうございます。
パパ、割と本気で引き抜きに来てました。




