アンコールは無く、勝者への喝采も無し
完全な消滅を確認した。
壊した、徹底的に。
糸の切れた人形の様に膝から崩れ落ちそうになる。
『五重装』の使用、その上で本人も全力戦闘を行い、『犯罪術式』まで使った。
それだけではない。ここに来るまでに何人もの人間に変装し、振る舞い、それだけの人数分のタスクをこなして来た。
魔力以上に体力の枯渇。何より、脳の酷使。
自分とは全く違う構造のものを同時に行使して自分も動く。そしてこの間、命の危険が常に付きまとっていた。
不整脈、手足の震え、頭痛、吐き気、眩暈……病人と大差無い。
「話を、聞きたかったのですがね。」
「それは贅沢というものだ、現状君に出来たのは撃退まで、それだって間一髪の辛勝だったんだ。それ以上は今後の目標にするといい。」
「そう……ですね。気付かれて、しまったようですし。」
寒気がする。
それは疲労と極限状態が生み出した幻覚や文学的な比喩ではなく、物理現象に伴ったものだ。
「この私の城の内に、本当にネズミが入り込んでいたとはな。」
クロージン=リバルツ、リバルツ家の当主。今回の決闘の見届け人、ヤヤーナの父親だ。
険しい顔をしていた。
「勝手に入って、挙句にこの様に庭を荒らしてしまい、大変、申し訳御座いませんでした。
私の名前は、シェリー=モリアーティー。ご無礼を、いたしました。」
会釈をするが、もう立てる体力が尽きてきた。
『決闘茶会』などという珍妙な催しは初耳で、そのエキシビジョンマッチというのは当然聞いたこともない。
なので、エキシビジョンマッチの二回戦、などという素っ頓狂な単語も聞いたことが無い。
激怒した当主を相手に……というのは、厳しいな。
「ネズミは、片付けたのか。」
「以前の茶会を妨害し、今回の決闘茶会で企みをしていた何ものかは、勝手ですが排除しました。」
「そうか……残念だが、まぁ良いだろう。
庭はそのままにしておけ。ここは最近雇った尻軽老い耄れ執事に後でやらせる。
貴様には休息が必要だろう、部屋を用意してある。案内させる。」
「かしこまりました。不肖この尻軽老い耄れ執事のジー=ヤーンが、ヤヤーナ様の晴れ舞台を支えて下さったゴードン家の賓客を、ご案内いたします。」
それはもうニコニコ笑顔で己が主人をからかっていた。
「それでは、どうぞ。」
「……良いのですか、私も、広義では、『招かれざる客』だと、思いますよ。」
「……手紙があった。」
「手紙?」
「『茶会に際して当家の優秀な家庭教師がそちらに行くから、よろしく頼む。』とあった。
破り捨ててやろうとも思ったが、この私は寛大故、今回は見逃してやることにした。
アイツは目障りで鬱陶しくて存在を許し難い者ではあるが、だからと言ってその倅や家庭教師まで冷遇する理由は無い。
この私はどこぞの誰かと違い、寛大だ。」
そう言ってその場から去っていった。
「さぁ、主人もああ言っていることですし、是非。
よければ、こちらをお使いください。」
そう言って出されたのは車輪付きの椅子だった。
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