五重装を奏でる3
奥の手を使った。というより、使わざるを得なくなった。
『五重装』が行使できる魔法は単純なものばかり。火や水、電気をばら撒くくらいしか出来ない。
しかもそれは『五重装』の稼働時間を大幅に削る。
使わずに拘束するのがベストだった。
何故なら……
「魔法の武器かよ……。」
頭が無いが舌打ちの音が聞こえる。
そして、喉の奥で笑う音が聞こえた。
「今までなんでそれを使わなかった?
それを初っ端から使ってハチの巣にしてりゃ、勝てただろ?」
奥の手や隠し弾を使う場合、必ず仕留めなければならない。何故か?
「出来ないんだよな?使える数は限られてて、だから隙を突いて殺すしかなかった。
けど、焦ってんだろ、奥の手使ってアタシを殺し切れなかったんだから!」
構える。最大出力を叩き付けたというのに、もう元気一杯だ。
「お前、魔法そんなに得意じゃないだろ?」
「どうでしょうね?」
「とぼけんなよ、面白い玩具まで持ち出して、とっておきで隠してた魔法がこんなもん。
ザコ魔法使いだって教えてるんだぜ⁉」
こちらの最大出力がバレた。
シェリー君は長期戦に致命的に弱い。
正々堂々なんて捨て置いて、不意討ちで塵も残さず焼き殺すなり狙撃で脳幹を撃ち抜くなりするのがベストだ。ただ……ね。
『彼らを利己的な理由で不和に陥れ、悲しませた罪は、許されるものではありません。
正面から徹底的に、完膚なきまでに、倒さなくてはなりません。』
信じられるかね?これがシェリー君の口から飛び出したんだ。
ここまで言ったんだ。ここまでやったんだ。それなら、私は見届けるしかあるまい?
それに、最大出力とこちらの魔力量が解ったからと言って、勝てる訳じゃない。
「この程度の豆鉄砲、食らうのが解ってりゃな……」
クラウチングスタートの構えを取る。同時に、背中や腕が内側から沸き立つ様に変形していく。
人なら殺せる攻撃で殺せない、先程殴った際の妙な感触、デュラハン擬き、魔法による破壊は確実に起こっているのにそれが無かったような振る舞い……
「貴女は、生き物ですらないのですか?」
当初、首から上の無い人の形をしていた。
だが今は、か細い2手2足が倍の太さの4足に変わり、首から先に鋭利な角が生えていた。
明らかに突き殺す気満々な形状の異形のユニコーンに変わっていた。
「お前らと一緒にするなよ。弱く生まれてそこそこ弱い止まりで終わって直ぐ死んでく奴らとは、違ぇ!」
「弱い……ですか。」
「あぁそうだ。あのクソガキ達も、お前も、ママゴトして喜んでるだけの出来損ないだよ、欠陥品共がよ!」
シェリー君が『五重装』を展開する。
デュラハン擬き改め、異形ユニコーンが4足を地面に沈みこませながら突進を開始する。
「一人では立つこともままならず生まれ。
たった百年生きられるかも解らぬ儚い生き物。
死して残る物は、僅かな骨ばかり。
確かに、生き物は欠陥だらけ。」
突進に向かって最大出力の魔法が4つ、撃ち込まれる。
それぞれが4足に直撃。だが速度が殺されただけで止まらない。たとえ今止まったとしても一度加速した質量は直ぐには止まらない。
一角はシェリー君の心臓を狙っている。
「幼く儚い自分を生かした先人の慈愛を受け取り。
限られているからこそ、その時を輝く宝石と尊ぶ。
死するまで後に続く者達の為に何かを成し、遺す。
生き物は、一つの生き物としてはあまりに短いですが、繋げ、連ね、続く強さを持っています。」
角に向かって手を伸ばす。
『身体強化』・『強度強化』不使用。
「その程度じゃアタシらには勝てねえんだよ!だからお前は負けるんだよ!」
嗤う。
「それは、結果を見て、判断して下さい。」
『犯罪術式』
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