五重装を奏でる1
『五重装』
モラン商会の抱える自称そこそこ天才発明家、ジーニアス=インベンターが急拵えで作った魔道具。
2週間という限られた時間で彼が発明したこの魔道具は、運用において致命的な問題が多分に有るが、しかし、十二分に高性能と呼べる代物だった。
「ダンスなんぞ嫌いだよ!」
「そうですか、では是非覚えて帰って下さい。」
重厚な刃の片手斧が振り下ろされる。
それを腕で止めると斧の後ろから伸びる槍の穂先。
身を捩って回避すると横薙ぎに大鎌が胴を刈り取りに来る。
これをなんとか躱して距離を取ろうとした途端、大太刀が死角から轟音と共に飛来。もろに喰らって吹き飛ぶ。
「うぜぇ!」
頑強なボディーと高い魔法適正を持ってなお苦戦させられる。
うぜぇ。
斧、槍、太刀、鎌。それら性質の違う武器の達人が合わさる様なものだ。
五人の達人が力を合わせる訳ではない。5つの武器の達人が5つの武器を同時に、十全に扱えるのだ。
作戦や合図を考える必要は無い。自分一人で済むのだから。
同士討ちを考える必要も無い。自分ひとりだけなのだから。
五つの武器に魔道具としての機構を組み込んでいる。
最も重要な術式は無線発動に関するものだ。
奏者に武器に動きを伝えるための『指揮棒』という魔道具を装着させる。
奏者のイメージを魔力の波に変換、送信。それを感知した『五重装』は奏者のイメージ通りに動く。
刀を振るう動きを頭でイメージすれば、それは刀に伝わり、宙で刀は自ずから自分を振るう。
この魔道具の主たる機能に関する説明は以上。それでおしまい。
いや、問題がある。大き過ぎる問題がある。
武器の動きをイメージすればその通りに武器が動く。だが武器の動きをイメージする際、武器の始点から終点まで、如何動くかを明確にイメージし続けなければならない。
それこそ、常に複雑な魔法を使っているようなもの。それを4本同時に起動するということはどういう意味か?
常に自分以外の体を4つ動かし続けるようなものだ。
しかも、武器から奏者にフィードバックがないため、奏者が五感で認識して操作し続けなくてはならない。
まともに1本同時に動かせれば上出来。2本目を操作出来れば拍手。3本なら天才的な魔法のセンスがある。4本は……
「イカれてんのか?」
互いが互いの攻撃を邪魔することはない。互いが互いの攻撃の起点となり、相手を圧倒し続けている。
そして、4本の武器が飛来する中、奏者もH.T.を手に参戦していた。
「『五重装』ですからね。」
その動きは洗練されていた。




