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エキシビジョンマッチ

 決闘は無事終わった。

 観客達は満足げな顔で席を立つ。

 見届け人は一番の難所を越えたと安堵している。

 決闘を終えた二人は満身創痍。


 皆が弛緩している。

 この時のために『幻燈』の魔法で姿を消し、ずっと動かずにいた。

 警戒心が全く無い今なら……


 背後に気配を感じた。

 何かは解らないが真っ二つに切り裂く……空を切った。

 「お初にお目にかかる……訳ではありませんね。私、パルル=タチストンと申します。」 

 声の主を見る。くすんだブロンドヘアになんの面白味もない緑色のドレスの知らない地味な顔がいた。

 「おや失礼、これではありませんね。」

 緑色のドレスに手をかけ、それが視界を塞ぐ。同時に声が変わる。

 「私、ペフィンガンと申します……ぅ。」

 緩慢なクセに慌てふためくという振る舞いをしていたメイドがそこにはいた。

 「あぁ、これでもありませんね。」

 メイド服が宙を舞う。

 「失礼、(わたくし)はエリズ。少しだけお節介焼きの執事で御座います。」

 メイド服の向こうから、燕尾服に片眼鏡(モノクル)姿の線の細い男が現れる。

 「あぁ、(わたくし)はお呼びでない?では、私もこれで失礼いたします。」

 脱ぎ捨てた燕尾服が視界を塞ぐ。

 「この姿は……あぁ、勘違いするな。あそこにいるのは本物だ。」

 解説席にいたコック姿の男がそこに現れた……違う、今もコックは解説席の直ぐ傍に立っている。よく見れば、コックとしてはあまりに骨格が華奢過ぎる、別人だ。

 「改めて、お初ではありませんが、こうして真っ向から合間見えるのは初めてですね。

 故に、私は淑女として名乗らせていただきます。」

 地味なお嬢様が消え、メイドが消え、優秀な執事も消え、コックも消え最後に現れたのは……

 「私の名はシェリー=モリアーティー。

 カテナさんの同僚で、モンテル=ゴードンの家庭教師です。

 こう名乗れば、私が誰か、私の言わんとするところが、お解りですね?」

 構える。

 会話の必要はない、戦う必要もない、そんなことをする意味はない。

 ならば適当に戦おうとするフリをして、隙を見て逃げる。

 「そこまで身構えないでください。私はこの通り……」

 手の平を見せ、頭まで上げる。

 丸腰のアピール。だが信用はしていない。

 そして案の定、指先が開ききった瞬間、両手の裏から小さな玉が2つ、こちらに飛んできた。

 速度は俊敏というほどではないが、それなりの速度で飛んでくる。

 切り裂くことは容易。だが危うい。

 牛や豚の腸詰めのような匂いがするそれ。だが、その中に何かが入っているのが見えた。

 避けるのが正解。跳躍の姿勢を見せる。

 『気流操作』

 腸詰めが空気の刃で切り裂かれ、破裂し、中身が漏出する。

 それが気化し、風と共に届いた。

 (酒?)

 匂いの正体に気づいた時には遅かった。

 気化したそれは空気の流れと混じり合い、可燃性ガスとして届けられる。

 『着火』

 淑女の指先が鳴り、火花が散る。

 火花は空気の流れに乗り、ガスと混ざり、爆発的に反応を加速させる。


 火が襲いかかった。


 「!」

 驚く間もなく直撃。火に包まれる。

 それをやった犯人はと言えば、燃える様を冷静に見ていた。


 「同僚と教え子に危害を加えられて、黙って笑っていられるほど、私は温厚ではありませんよ。」

 燃える、燃える、燃える。

 しかし心配する様子は無い。冷静に、冷酷に、容赦無く淡々と炎の塊を警戒して観察する。

 炎が割れ、中から出て来る無傷の刺客。

 「ご安心ください。

 致命傷を負っても、貴方が死ななければ、最低限虫の息程度には治療して差し上げますよ。」

 その言葉には躊躇いが無い。茶化した様子も無い。嘘が無い。

 この場で殺そうという目をしていた。

 しかし実際は違う。

 『殺した後、生き返らせて引き摺って行きましょう。即死させなければ治してあげられます。』そういう考えだった。

 「さぁ、教育の妨げを排除致しましょう、家庭教師として。」

 シェリー=モリアーティーは珍しく激怒していた。

 これより決闘茶会のエキシビジョンマッチ、開始。


 決闘茶会のエキシビジョンマッチ……何の何⁉

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